女Bと男Aの一晩
Side:女B
結局、夕ご飯は家主2人で作ってくれた。ジルがメインでロザリーちゃんがサラダ。
リリーが『これぞ秘蔵の高級肉じゃ!』って馬車に積んでたお土産をジルが『良い肉なら塩胡椒だけでも充分だったか?』ってステーキにしてくれて、お好みでデミグラスソースみたいなのも作ってくれた。
「ジル、1度わらわの城に来ぬか?このソースの製法、ぜひウチのシェフに伝授して欲しいのじゃ。肉と相性抜群の濃厚なトロミと味。これは毎日食してもイイと思える程じゃ!」
「イヤ、そのソースはハンバーグ用だからな?ステーキには実は向かないんだ。それに味付け変えたらライスやパンでも美味いよ?」
「すごいですね~。これはロザリー様が食べ過ぎてしまうのも分かります」
「やっぱりジルの料理美味し~♪」
「こうゆうソースって家で作れたのね」
どう見てもデミグラスソースだけどこの世界に無いわけじゃないらしい。ただ作り方を受け継いでるのが少なすぎて、どの最高級料理店でも食べられない珍味にして美味になってるみたいなのよね。昔の勇者もうちょっと広めなさいよ。
でも…やっぱりコイツ私と同じ世界のヤツなんじゃ…ヤメヤメ!そうだったとしても何の意味もないわ。結局向こうでは死んだんだし、コッチで楽しく暮した方がよっぽどイイわ。
「別にレシピ書いてあげるけど?城のシェフならレシピさえあれば再現できるだろうし……てか、城?」
「うむ、城じゃ。なんせわらわは魔王じゃからな!」
あっ、バカッ、そんな簡単に…
「は?魔王?」
「そうじゃ」
「リリー様は私達魔族の王なのでございます」
「ふ~ん。その歳で集団のトップか…俺なら面倒でやらないだろうな」
「あはは~、ジルはそんな感じだよね♪」
あれ?もうちょっと、こう…『えっ!魔王!?』みたいな反応が普通なんじゃ…
「全く軟弱な。あれだけの力が有るならば人の上に立つ事を目指し、誇ってみんか」
「イヤだよ。人の事にまで責任持てない。あ、そろそろ風呂沸くな」
「あ、じゃあ入りた~い。リリー、一緒に入ろ?」
「うむ、イトハも共に参れ」
「いや3人もいっぺんに入れんの?」
「デカいから大丈夫だよ。5、6人は入れるんじゃないかな」
軽い温泉じゃない…あ、でもモリッシュが…
「私はここで待っていますから、皆さんで行って来てください」
「うん、ゴメンね。ジル、覗かないでよ!」
「はぁ。しないよ」
さ、お風呂お風呂♪
「わぁ~、イトハの肌キレ~」
「うむ、流石わらわの嫁!日々肌の手入れは欠かしておらんな!」
「誰が嫁よ!」
脱衣所でなんてお約束な…と言うか…
「ロザリーちゃんだってかなり肌綺麗じゃない?なんかツヤツヤしてるわよ?」
「う~む。以前共に入った時はあんなに…」
「うふふ~。今日はエネルギー補充が出来たからね~♪」
何か…ジルのコトでいいのかしら…
話しながら扉を開けてみると…
「ここって…銭湯だっけ?」
なんと言うか…ヒノキ風呂だった。旅館のパンフに出てくるようなヒノキ風呂…しかも露天あるっぽいドアが…
「セントウ?」
「お風呂屋さんのコト」
「ちがうよ~」
「ふむ、いつ来てもデカイのう。城の硬質な感じも好きなんじゃが、ここの木張りの柔らかい感じも趣があっていいものじゃ。風呂に入りながら夜空を堪能出来るのも此処だけじゃしの」
本当に露天あるのね…覗かれそうでイヤね…
「速く入ろ~♪」
あ、もう体洗い始めてる。お風呂好きなのかしら?
「ロザリーちゃんって、お風呂好きなの?」
「え?え~とね、お風呂入った後だとジルが抱き付いても何も言わないから楽しみなんだ♪」
スッゴイ良い笑顔。穢れが無さ過ぎて心が痛いっ!
「…アヤツも大変じゃの」
「ええ、これはスゴイ生殺しでしょうね…」
ロザリーちゃんの天然悪女振りに呆れつつお風呂を、いや温泉を堪能した。露天風呂は敷居がしっかりあって覗かれる心配の無い作りになっててビックリしたくらいだ。
さて、そろそろ出ようかしら。あんまり長いとのぼせちゃうわね…
「ふ~、上がったわよ~」
珍しくリリーが大人しかったわ。ロザリーいたからかしら?
「ジル~♪」
「ハイハイ…」
「もはや諦めとるの」
なんと言うか…ラブラブ?いやジルの方は疲れた顔してるから違うんだけど。
「リリー様、髪はちゃんと拭きませんと痛んでしまいますよ」
「うむ、頼むのじゃ」
何か手持無沙汰ね…
「ジル、モリッシュさんと何してたの?」
「ん?コレ」
どれよ…ああ、トランプか。
「ジル様ったら、全然手加減してくれないんですよ。弱い者苛めして楽しんでるんです」
「ちょっと!男が女泣かしてんじゃないわよっ!」
「いや、勝率大体5分なんだけど…」
「面白そ~。皆でやれるのやろ~♪」
「マイペースじゃな。しかしその体勢で出来るのか?」
「ジル~」
「わかったよ。俺とロザリーはペアでやるよ。いいよね?」
こうして夜は更けていった…
「イトハ!わらわ達も…」
「1人でやるわ」
「酷いのじゃ~」
翌日、帰りを見送ってくれる2人と離れるのを残念に思ってる自分がいたけど、それは今は関係無くて…ジルには言っておかなきゃいけないコトがある。
「ジル、昨日戦ってる時に言ったコトは、私の本心よ。アレだけは、覚えときなさい。アンタの覚悟は、私とは絶対に相容れないわ」
「ああ。俺も昨日言った事は本気だ。俺はこの覚悟を持って人に関わる」
「じゃあイイわ。またね」
「うん、また」
「あ、そうじゃ。わらわもジルに話が有るのじゃ。近う寄れ」
ん?内緒話しかしら?
「ジル、もしロザリーを裏切ったら、その時はわらわがお主を地獄に叩き落とす。そのつもりでおれ。ロザリーが泣いたらお主のせい、ロザリーが傷つくのもお主のせい、ロザリーの顔が苦痛に歪むのは全てお主の責任。ロザリーに仇成すのならば、お主はわらわの敵じゃ。わらわは敵には情けは掛けん」
「…肝に銘じておくよ」
「何話してたの~?」
「ちょっと、城に誘われたんだよ。まだシェフを諦めてくれないみたい」
「リリー、ダメだよ。ジルはココにいるんだから」
「取ったりはせんよ。では、またな」
「うん♪またね~♪」
「新しい料理、考えておくよ」
ふぅ~。楽しかったわね…
帰りの馬車の中、リリーに聞いておきたかったコトがあった。
「魔王だって、教えちゃって良かったの?」
「構わん。ロザリーと共に有るなら、アヤツはいずれ戦わねばならん」
「何とよ?」
「国と、或いは全ての人間と」
「…ロザリーちゃんに原因があるの?」
「うむ。ロザリーは神祖じゃ。人間どころか、その他の種族にも神祖を恨む者は居る。どうやら人間達は戦争を望んで居る様じゃしの。それに乗じて神祖狩が始まるはずじゃ。その時が、アヤツがロザリーと共に有る資格を試す時じゃ」
「…いいのね?ロザリーちゃん、傷つくかもしれないわよ」
「恨まれる覚悟は出来ておる。わらわは王として、友として、ロザリーを守る。どんな手段を使おうとも、どんな風に思われようとも」
覚悟、か……
男Aは料理が趣味なのではなく、自分が美味いモノ食べたいから料理しているタイプです。
シリアス展開苦手なのにシリアス展開好きな自分がいます。
シリアス好きでも鬱はイヤですが…