女Aは立ち向かう
Side:純情少年
「へっ、1人なら逃げ切れるから平気だ。さっさと行け」
って言われても悩むよな。素人じゃ動けなくなっちまうのが普通か…
「う~~~…絶対帰って来てよ!」
…意外と根性あんな…こりゃ簡単には負けらんなくなっちまったな。
「ぐうぅぅぅぅ…がうっ!」
「ふぅ…そんなに脅かすなって。ビビって足振るえちまうだろ」
距離はせいぜい7メートル…構えて放つまでに詰められて終わりだな…
「ぐるるる…」
ただ突っかかってくるだけなら幾らでもやり様があったんだけどな…確実に仕留めるためにコッチの隙探ってやがる…だからガウルビーストは厄介なんだよな…
このままじゃジリ貧になるだけだな…まずは!
「がうっ」
狙い、適当に足元!これなら距離詰める時間与えねえ!今のうちに…
「がああぁぁぁぁ!」
牽制で一気に2本放つ!片方が脇腹に刺さって怒り狂ったな…てことは…
「ぐがあぁぁぁ!」
バキバキバキ…
やっぱし突進してきたな!
「これなら!」
どぉん!
木に頭打ち付けて視界がチラついてるな…今のうちに…逃げる!
「ガアぁぁぁ…」
逃げても匂いで追われてんな。まぁこの辺はよく来るからあちこちに匂い付いてて今すぐ見つかることはないだろ。なんたって今、木の上にいんだし。
結構時間稼いだな。
村に戻るか…イヤ、まだだな。もう少し離れねえと気付かれる。
さって、どうすっかな…
Side:女A
「はぁ、はぁ、はぁ…うぅ、私…シオン君、助けなきゃ…なのに…」
何で私には力が無いの…わかってる。向こうの世界ではこんなときに使う力は必要無かった…良い学校を出てて、良い資格を持ってて、実際に良い仕事ができる能力があれば、それが力になった。でもここではなんの役にも立たない。仕方ないよ。価値観も、生き方も、何もかも違い過ぎる…必要な能力が、まるで違い過ぎる…
ガサガサッ…
「っ!…シオン君?…ねえ、シオン君なんでしょっ?」
ありえないとわかっててもそんな声を出してしまった…
ガサガサッ…ピョンッ!
「……そんなわけないよね~…」
出てきたのは耳の小さいウサギみたいな黒い動物だった。可愛い…
「………」
こっちをジーっと観察してる…大丈夫、怖くないよ。そ~っと手を伸ばしてみた…
「っ!」
あっ、逃げちゃった…警戒されてるよね…なんとなく寂しくて逃げてしまった方を見てしまう。
「…そっか。警戒して当然だよね…」
ウサギ?の逃げた先では、子ウサギが巣から出ようとしている所だった。ウサギは必死に子供を巣に隠そうとしている…子供を守るのに必死なのがよく分かる…
「私にも…できるかな…」
このまま何もしないでシオン君が帰ってくるのを待つのは、嫌だ!なら、やることは1つしかないよね…
「……見つけた…」
太陽が傾き始めている中、さっきとたいして変わらない場所にガウルビーストはいた。シオン君を探してるのかな…っ!
ドォン!
いきなり木に体当たりし始めた?…もしかして!
「ちっ、なっ…うわぁ!」
シオン君!木から落ちた!?
速く起きて逃げて!
「この、くそっ!」
倒れながらも短剣振り回して抵抗してるけど体重が違い過ぎるよ!何か、何とかして、助けるには…やっぱり、これしかないよね…この弓しか…
外せない、今は、絶対に外せない…静かに、シオン君と同じように、構える…狙うのは、目…
…思い出せ、シオン君があのとき言ってた言葉…
「…風纏いて 全てを貫く槍と成らん ゲイル・ボウ!」
言い終わるのと同時に矢を放つ…シオン君よりも少ないけど、緑の軌跡を描いてガウルビーストの目に吸い込まれていく…
ドンッ!
当たった!
「があああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
吠えながら、暴れてる。あ、シオン君抜け出した…よかった、怪我とかしてなさそう…あ、シオン君コッチに気付いた。
「こっちだ!もう一発食らわせてやるよ!」
ガウルビーストが私に気付く前に挑発して自分に注意を逸らしてる。本当に…優し過ぎるよ…でも今は、ありがとう…
もう1度、静かに弓を引く…今なら分かる。シオン君の矢は、魔法の矢だ…
「…風纏いて 全てを貫く槍と成らん ゲイル・ボウッ!」
さっきよりもズット強い緑の光を纏って矢がガウルビーストのもう一つの目を貫いた。
「があぁぁぁぁぁ……」
ずぅうぅぅん!
断末魔の鳴き声を伴って、とうとう倒れた…やっと、終わった…
ドサッ…
Side:純情少年
あいつ、1人でガウルビースト倒しちまった…それにあの魔法…俺が1度見せただけで、俺よりも強い、
ドサッ…
ん?なっ、倒れた!?
「おいっ!クリス、クリス!くそっ、怪我でもしたのか!?」
くそっ!どうする?こんな状態で魔獣にでも会ったら…
「………スー、スー、スー…」
「……寝てる、だと…この状況で、どうやったら寝れんだよ!」
とりあえず、村に戻ろう…
Side:女A
…ん~、あったかい~、この抱き枕、イイ~…あれ?
「…はぁ~、もうちょいか…苦しい、」
「…シ、シオン君?」
「ん、やっと起きたか」
「…何で私オンブされてるの?」
「ガウルビースト倒したら、いきなり倒れて寝やがったからだよ」
あ、私倒せたんだ~。良かった~。
「もうちょいで村に着く。それまで寝てろ」
「え、でも」
「いきなり魔法使って疲れてんだろ。だったら休んでろよ。…それとな」
「?どうしたの?」
「…それと…その……さっきは…ぁり、がとよ…うわぁ…」
………可愛いーっ!何この子!ツンデレ!?ツンデレなの!?最後の『うわぁ』って顔赤らめるトコとか、もうスゴイよっ!!
「うふふ~♪シオンく~ん♪」
「わっ、こら暴れるな!引っ付き過ぎだ歩き辛い!」
ふふふ、実際は胸当たってて恥ずかしいんだろうな。ホント、素直じゃないな~♪
魔獣と動物の違いは説明担当がやります。
この作品の説明担当と言えばアイツだ!
と読者さんに思ってもらえてれば幸いです。
…実際アイツの役回りは説明がメインのつもりなんですけどね~
ちょっと使い易過ぎるキャラなんですよね…