女Aは森を探索する
Side:純情少年
酷い目にあった…クリスが来てからこんなんばっかだな…まぁクリスのせいじゃないしイイんだけど。
「じゃ、いってきまーす」
「あいよ。日暮れ前には帰ってきなよ」
「ああ、そうする」
コイツ連れて夜の森は危険過ぎるしな。とりあえず弓だけでも持たしといた。
「ねぇねぇシオン君、ピックバードってどんなの?」
大陸中に生息してるはずなんだが…まぁイイや。
「80センチくらいの飛ばない鳥だよ。エルフは子供の誕生日会とか結婚式とかで必ず使うんだ。遠くから弓で攻撃するなら簡単に獲れるけど、近づいて剣で獲ろうと思うと嘴が厄介だな」
普通の剣で打ち合いしたら剣が壊れるからな…
「へ~、どんなのか楽しみだね♪」
っ!笑顔が無防備過ぎるんだよ!
昨日ジジイに言われたこと思い出しちまった…
『クリスをどうしたいかはお前次第じゃ。生涯の伴侶とするか、新たに出来た家族とするか。なぁに、まだまだ若いんじゃから焦って答えを出す必要も無いじゃろ。
それにお前にはまだまだ女1人娶る甲斐性などありゃあせんしの~』
何か最後は馬鹿にされただけな気がしたな…
とりあえず、今はピックバードに集中しよう。
Side:女A
お、赤くなった赤くなった♪朝鏡見た時から『あれ?私かなりイケてる?』って感じだっだから確かめたくてしょうがなかったんだよね~。シオン君の反応見る限りダイジョブっぽいし、これはラッキー♪神様、私はアナタのおかげで美少女に成れました…シオン君をからかい易い見た目にしてくれてありがとうございます!
宣誓!私、クリス・シュタインは、正々堂々シオン君をからかい続けることを誓います!
何か体育祭のノリで変なボケしちゃった…口に出してたら恥ずかしさで死ねたよ~。
「ピックバードってどの辺にいるの?」
気分転換にお喋りし~ましょっ♪
「ん、ああ。普段は実の生ってる木の近くにいるな。とりあえずそこまで行って様子を見るつもりだ」
おっ、それっぽい♪速く着かないかな~
「…いたな」
「うん。7羽…かな?」
鶏?でも体も嘴もちょっと大きいかな?茶色くて体と嘴の大きい鶏…ゲームに出てきそう。
「いや、木の裏に1羽いるみたいだ…狙うなら奥のヤツだな」
本当に木の実の成ってる木に集まってる。お昼時でもないのに何で?シオン君に聞いてみよ。
「あの高さじゃ落ちてくるのを待つか、体当たりして落とすかの2択だからな。まだ飯にありつけて無いんだろ」
「何か世知辛い話だね…」
鳥の世界も大変だ。でもごめんね。美味しく食べられちゃって下さい!
「じゃ、良く見てろよ。お前にもやってもらうことになんだろうしな」
「うん。大丈夫…」
「顔が青いぜ。無理なら無理って言っとけよ。そんなんで体調崩されでもしたら逆に面倒だしな」
ふふっ。シオン君は優しいな~。寄り掛かりたくなっちゃうよ…でもそんなことしたら私はず~っと寄り掛かっちゃうしな~
「甘えてるみたいで嫌だってんならお門違いだ。俺らは家族なんだろ。なら遠慮とか、甘えたくないとかで距離を作るな。お袋に怒られるぜ?」
「あはは、バレバレか~」
やっぱりカルラさんそっくりだな~。流石お母さん、ちゃんと教育がいき届いてる。
「当然だろ。俺は一家の大黒柱だぜ?で、どうする」
「うん、やるよ…無理とかじゃなくて、これは私に必要なことだと思うから」
これくらいで逃げるのは…何か悔しかった。流石に自分の目の前で動物が死ぬのは辛い。でも、向こうで私は鶏肉を食べてる。昨日だって、シオン君達と肉料理を食べてる。何の肉かは知らないけど!
家族だからこそ、依存するだけなのは嫌だ。だから、私は自分で殺す感覚を掴まなきゃ、その時の覚悟を持たなきゃいけない。これはその第1歩。
「シオン君、見せてよ。これからの私に必要な事を…」
「…わかったよ。全くお袋の手伝いならこんな思いしなくて済んだってのに…」
心配してくれてたんだ。やっさし~…ダメだ、茶化しに覇気が無いや…
「えへへ、守られるだけはヤなの…」
「はいはい。帰ったちゃんと休め。…代わりに、今はしっかり見とけ。これが、何かを殺して、自分が生きるってことだ…」
そう静かに呟いてから、シオン君は木の陰から弓を構えた。怖いくらいの無表情で静かに矢を引絞ってる…これが覚悟した人の顔…
狙ってるのは一番大きいヤツ。多分1メートルくらい。首が弱そう…
「クリス、もう少し屈んでろ…」
「…うん」
邪魔になっちゃったかな?ゴメンね。
「風纏いて 全てを貫く槍と成らん ゲイル・ボウ…」
シオン君が小さく何かを呟いて矢を放った。目にも留まらない速さで何かが通り過ぎて行ったのはわかった。どうしてか?
「キュオおぉぉぉ…」
シオン君から首を貫かれたピックバードまで、薄い緑色の粒子が続いてるからだ。
「キュア!きゅう!」
他のピックバード達が逃げていく。シオン君は1羽だけでよかったみたいで辺りを警戒しながら悶えてるピックバードに近づいて行く…私も周り警戒してよ…
「ふぅ。これで双子も喜ぶだろ」
シオン君、本当にツンデレだね。男のツンデレもどうかと思うけど…
「クリス、帰ろうぜ。こっからなら日没前に村に着く」
シオン君が戻ってきてそう言った。う~ん、やっぱり目の前で動物が死ぬのはな~…
ん?…!
「後ろっ!」
「!…くそっ、またガウルビーストかよ!」
見つからないように死角になる位置から少しずつ距離を詰めてきてたんだ。シオン君がピックバードを私に投げ渡して弓を構えた。
ヒュッ!
「ぐわぁう!」
腕で弾いた!?何それ!!
「クリス、下がれ!この距離じゃヤバい!」
「でもっ!」
この距離が弓にとって辛いのは分かってる。だからシオン君が危ないのに…
「へっ、1人なら逃げ切れるから平気だ。さっさと行け」
ピックバードを囮にしない?…双子のこと考えてるの?今は自分の事考えてよっ!!
そう思いながらも言われた通り逃げた私は、スゴク、卑怯者でイヤだった…