女勇者はアダトリノ国王を嫌う
Side:女勇者
「では、そろそろ王の元に参りましょう」
クロを愛でていたら急に変態巫女が不機嫌に提案してきた。邪魔だな。
「勇者様の御名前も聞かねばなりませんし」
そういえばいまだに私は名乗って無かったんだな。これは反省すべきか…
「では、勇者様。御名前を」
「結城勇那だ。勇那が名前で結城が…ファミリーネームと言って通じるか?」
「はい。先代の勇者様の名前も、家名が先でございましたから大丈夫ですよ。それにしても勇那様…綺麗な御名前ですね!」
変な褒め方だな。
「そうか。では、行くか」
「はい…」
「にゃ~」
変態巫女が気乗りしない表情で、クロがのんびりとした声で賛同した。王に会いに行こうと言ったのは巫女だろうに…何か問題のある王のようだな。
「アダトリノ王が御来場なさいます。勇那様、御無礼の無い様にお願いします」
謁見の間とやらに入り壁際の椅子に座って待つこと5分、ようやくお出ましと言った所か。さて、何が出てくるか…
「来ました」
巫女の声が緊張している。心なしか周りの貴族達も同じような顔だ。あれが王…偉そうに歩いて玉座に向かっている。ただの中年オヤジにしか見えん。
「勇者・勇那よ、前へ」
そう呼ばれて王とやらがふんぞり返っている玉座の前で膝をつき王を見据える。こっちを値踏みするような、舐め回すような視線に不快感と嫌悪感を湧きたてられる。
「貴様が勇者か。女が勇者とは…珍しいな…」
異世界から呼びつけておいて貴様呼ばわりとは良い度胸だ。
「俺が25代アダトリノ王だ。名は無い。さっそくだが貴様には明日から武器を選び、それを使いこなすための訓練に入ってもらう。そこそこ使えるようになったら忌々しい魔王の討伐に出てもらう。…何か質問は?」
こんな中身の無い説明…いや、命令に質問などした所でまともな答えが返ってくるとは思えない。後でメイド達か変態に聞いてみるとしよう。
「いえ、今の所はありません」
ここは無難に流して機会を待つ。いつかコイツは締めるがな。
「ではこれにて謁見を終了する。各人これからも職務に励むように」
そう言ってお付きの兵を引き連れ去って行った。何様のつもりだ、胸糞悪い。
「お疲れ様です、勇那様」
「にゃお~」
王が居なくなってから変態巫女とクロが近寄ってきた。遠巻きに貴族達がクロをゴミでも見るような視線を向けているな。「お前達とは比べるまでもなくクロは優秀だ」と言ってやりたい。…ん?貴族共の顔が青くなっていくな。
クロは言葉こそ話せないが人の言ってることは分かるようで、王が居る間は身動ぎせずに大人しくしていた。やはりクロは可愛いな。無能な糞ジジイの視線に曝すことが腹立たしい。さっさとこの場を離れるとしよう。これ以上ここにいても気分が悪くなるだけだ。
「巫女、私の部屋があるなら案内してくれ。速くここから離れたい」
「っ!」「…っ、…!」
「はっ、はい!では此方へ」
貴族共がザワザワ騒いでいる。意識したつもりはないが声が大きかったか?どの道知った事ではないが。巫女もこれには焦ったようだな。面白いぐらいに声が上擦っている。
「…にゃ~…」
ん、クロが呆れたように溜息をついている。幸せが逃げるぞ。まぁ、私はあんな迷信どうでもいいので溜息ぐらいつくがな。
謁見の間から出て部屋へ案内してもらっているとき、ふと気が付いた。この世界に照明などの道具はなさそうだ。日没が活動終了の合図になっているだろう。そして、もう日が傾いているのか城内が薄暗くなってきている。「今日はこれ以上何かすることはあるのか?」と変態巫女に聞いた所、
「いえ、今日は御部屋に着いた後は御自由にしてくださって大丈夫です。私は明日は朝食の前に起こしに参りますので、それまでは御部屋にいて頂かないと大変なことになります」
「例えば」
「勇那様の名前を大声で何度も何度も呼ぶことになります」
「…微妙なことをするな」
「正確には『勇者・勇那様、どこですか!』を繰り返す予定です」
「わかった、巫女が来るまでは部屋で大人しくしているとしよう」
「その…私が一緒に御部屋にいれば、勇那様も自由に、」
「却下だ。身の危険を感じる」
「そうですか…グズッ…あ、こちらが勇那様の御部屋になります。浴場は付いておりますし、皆で入れる大浴場もありますよ。大浴場に行くなら呼んでください。あと、何か困った事があったら専属のメイドが待機しておりますので、ベルで御呼び下さい」
「わかった、案内ありがとう。では、また明日、な」
「はい。御休みなさいませ」
やっと休める。ん?クロが労わる様に体を預けてきたな。可愛いヤツだ。よし、今日はクロを抱いて寝よう。
ぶっちゃけ女勇者は皆嫌いです