女勇者への依頼
Side:女勇者
だから私はもう勇者ではないと何度……また妙な電波を受信してしまったな。
クロスのギルドでそれなりに依頼をこなしていると受付嬢から呼び止められた。
「ユウナさん。ご指名の依頼が来ていますよ」
「私に指名?」
「はい。内容はギグの森までの護衛ですね。ギグの森に着いたら、追加されるかもしれないとの事です」
「依頼人は?」
「カラーズの自警団です。ギグの森に入るまでの護衛が欲しいようですね。森に入ってからの護衛は一応他にも居るようです」
「……何日くらいだと思う?」
「ギグの森に行くだけでしたら1週間程だと思います。その後の依頼はどれ程掛かるか読めませんね」
さて、倍で済むのかどうか……
「報酬はこちらに成っております」
……凄いな。私にもエルにも同じだけの金額が出される。それに1週間毎日依頼をこなしてもこれだけの金額には1歩及ばない。
つまりそれだけ怪しい依頼だとも考えられる。受けるべきか、受けないべきか……
「自警団からの依頼ですからそれ程危険ではないと思います。彼等は死者を出さないために安全マージンを高く取りますから」
……ギルドとしてもご指名の依頼は無下にして欲しくない、か。
「良いだろう。ただし、道中の食料などは向こうに負担させてくれ」
これを飲むなら相当だ。
「元々そのつもりの様です。用意する物に食料が書いてありませんね」
……一気にきな臭さが増したが、仕方が無い。腹を括ろう。
「おかしな依頼ですね、勇那様」
「ああ、だが受けてしまった以上達成するしかないだろう。準備はしておけ」
「はいっ♪」
依頼当日、早朝、
「勇那、ひっさしぶり~♪」
「…………」
私はこの依頼を受けた事を後悔した。
何故シルフのバカップルが居るんだ?
「私達ユビキタスと魔界の和平交渉を見届ける役に成ったんだ♪私達って言うかカラーズの王様がなんだけどね」
聞いてもいないのに良くもまぁペラペラと喋る奴だ。御蔭で何も聞かなくて済んだが。
「今回は護衛を引き受けてくれて感謝する。俺が色彩国家カラーズの王、色彩王だ」
金髪黒目で犬耳……男の犬耳とはまた面妖な。
しかしこの世界の王や長は皆名前が無いな。この世界の習慣だろうか?
「色彩王、参りましょう」
青龍刀を腰に差した体中に傷の有る男が色彩王に出発を促している。
確かにここでグダグダ話しても何にも成らないな。
「ギルドの御2人は馬車の右側をお願いします」
「了解した」
「分かりました」
「では、ギグの森へ向け出発!」
兵士に担当の指示を貰い仕事を始める。旅の供は全部で10人か……多いな。
と言っても索敵はクロが出来るのであまり気にする必要は無い。
思ったよりも楽な仕事に成ると良いのだがな……
クロスを出て3日、ここまでは特にトラブルも無く進んでいる。
が、その晩にクリスに呼び出された。
「何だ。明日の事も考えると速く休むべきだぞ」
「そうなんだけどね、皆に聞いてもらいたい事があったんだよ」
シオンは知らない様だ。戸惑っている。私は興味が無い。変態も同様だ。
「帰ったらお母さんと村長さんにも言うつもりなんだけどね……私は多分勇那と同じ世界から来んだ」
「……ジル坊と同じって事か?」
「ちょっと待ってくれ。何の話だ?」
私と同じ世界と言う事はあの不愉快な金髪を知っていると言う事か?
「勇那とエルーダは知らないだろうけど、私とジル君とイトハちゃんは勇者召喚の儀式に巻き込まれてこの世界に来んだ」
「勇那様に、巻き込まれて……」
変態は何か思う所が有るらしいな。無ければ可笑しい。間接的か直接的かは分からないがクリス達を巻き込んだのは変態も同罪なのだからな。根本的な原因はあの不愉快金髪だが。
「つまり私と勇人が召喚されなければクリス達はこの世界に居なかったんだな?」
「うん。でも恨んでるわけじゃないよ?向こうでは事故で死んで成仏みたいな事をするだけのはずだったしね」
そこを巻き込まれたと言う訳か。難儀だな。
「ただ知っておいて欲しかったんだ。私達巻き込まれた組は向こうの世界の事、殆ど覚えてないんだ。覚えてても再現してるのはジル君だけだしね」
「ああ、あの浴衣か」
「あの特殊な服の事ですか?」
「うん。きっと昔の勇者も再現できたのはハンバーグとかアイスくらいだったんだと思う。あと持ち込んだスーツとかね」
この世界の正装で偶にスーツの様な物が有ったが、あれは2代目勇者が持っていたとメイドさんの過去を調べた時に知った。
「だから、もし覚えてる技術とか文化があるなら出来る限り再現してみて欲しいの。私達が、この世界に居た証になるから」
……自分が居た証、か。
私の証はアダトリノを崩壊させた裏切りの勇者だろうな。
「私は、勇那様の育った世界の文化に興味が有ります!教えて、頂けませんか?」
変態が懇願する様に尋ねてくる。
そう言われても精々剣術くらいしか人に示せる物が無いんだが……
「直ぐに考えてくれなくても大丈夫だよ。私の体は、本当にシルフの体だから人間よりはちょっと長生きだしね」
そうだったな……シオンが考え込む様な表情だな。
「シオン、どうした?」
「……クリスは、俺達が信用出来なかったのか?」
「ううん、怖かったの。自分が、シオン君達と違うかもしれないって事が。だけどロザリーちゃんの種族を気にしないで、お互いに秘密を抱えてても一緒にいる事を選んだジル君達を見てたら、ね?
分かってたけど、私の悩みってバカバカしいなぁ~って思っちゃったの」
大概の悩みとはそう言う物だ。悩みの価値は本人にしか判断出来ない。他者の悩みは大抵は自分には関係無い物ばかりだ。
クリスの悩みは、本人の言う通り周りから見たら馬鹿馬鹿しく写るだろう。恐らく少年と少女の悩みも馬鹿馬鹿しいと言う輩は居る。
だから悩みとは内に抱える物なのかもしれないな。私の抱えている物は悩みではなく柵だが。
「……悩みとは、結局の所主観でしかないだろう。ならば、他者の目など気にするな。悩みが有るならば悩み、無いならば悩む者に手を差し伸べればいい。私の主観では、クリスはそう見える」
「……そうだな。そんな秘密抱えられてたのはショックだけどよ、話してくれたならそれで良いぜ。ジル坊達にも教えてやんねえとな」
「良かったですね♪」
「……少年達に会うのか?」
「おう。ギグの森を目指すって言ってるけど、正確にはギグの森のジル坊達の家目指してんだ」
……私は聞いてないぞ?
「依頼書には何も書かれていなかったんだが?」
「書かなかったな。その方が面白そうだって話だったしな」
「…………もしかしなくても、ユビキタスの者達も?」
「今回の和平歓談はユビキタスと魔界の間で開かれるんだぜ?勇人達が居なくてどうすんだよ?」
「……和平階段の場所は?」
「魔王城だな。ジル坊達の家で1拍する予定だ」
「勇那様とお泊り勇那様とお泊り勇那様とお泊り勇那様とお泊りっ!!!」
……変態が超変態にランクアップしたか?と言うか鼻血を拭け。服に付くぞ。
仕方が無い。諦めて護衛の仕事を果たそう。