神祖は平穏を夢見る
Side:女B
「ロザリー奪還を祝して、乾杯なのじゃ!」
ロザリーちゃんを救いだしたその日の夜、ロザリーちゃんの家でパーティーを開いた。
「「「「「かんぱ~い!」」」」」
「えへへ♪」
それにしてもアダトリノ城がどんどん崩れていったのを見た時はゾッとしたわ~
流石に全員死んだかと思ったもの。ジル達が門から出てきた時はちょっと泣きそうだったわ…
「ジル、キリキリ働くのじゃっ!お前の罪はこの程度では償いきれんぞ!」
「10人分の料理は無茶だよっ!」
そう。今、宴会状態のロザリーちゃんの家にいるのは
ユビキタスの姫様と勇人とメイドさん、
魔界のリリーと私とモリッシュ、
シルフのシオンとクリス、
とロザリーちゃんにジルの10人。テッタはあまり長居出来ないからって帰ったわ。
今回はロザリーちゃんを守れなかった罰としてジルがほぼ1人で料理を作っている。
これくらいで済んでるんだから感謝しなさい!……でも小さな女の子1人に全部やらせてる感じに成っちゃったのよね……ジルの見た目どうにかなんないかしら……
「久々にジル君の料理食べるけどやっぱり美味しいね♪」
「そうだな。ジル坊のよく分かんねえ特技の1つだよな」
「あれ、シオン達もジルくんの料理食べた事有ったのか?」
「カラーズの歓迎会の時にな。今思い出しても衝撃的だったぜ?まるで見た事もねえもんが出てきたんだからな」
「確かにジルの料理は初めて見る物が多いの。あ奴の頭の中は如何なっとるんじゃ?」
「美味しそうな組み合わせ試してるんだって~♪」
それで日本食が出てきた時は驚いたわよ。マジで向こうの世界の人じゃないでしょうね?
あ、シオン達とはもう自己紹介済ませたわ。『あの2人の交友関係はどうなってんだ』って呆れてたけどね。
アダトリノの首都が崩壊したのもロザリーちゃんが救出されたのも大陸中に手紙で知らされた。各国がこの知らせにどう動くかはまだ分からない。
「む?これは……茄子と肉の揚げ物か?」
「ふむ、スライスした茄子で肉を挟み衣で揚げる……今度試してみましょう」
「はふぅ~、ジル様本当に城に来て頂けませんかね~」
「ホントよね。ロザリーちゃんも来てくれたら完璧だわ」
「待て。少女もボウヤもユビキタスだって欲しいぞ」
「欲張りね~。どっちかにしなさいよ」
「あの2人が離れる事はまず無いと思われます」
「そうですよね~。でなきゃ態々アダトリノに潜入しませんもんね~」
「もしまた同じようなコトが有ったらジル生かしておかないわよ」
仏の顔は3度かもしれないけど私とリリーはそんなに慈悲深くないわ。
「……何かあっち物騒だな」
「ロザリーちゃんは人気だからな。ジルくんも気を付けないとな」
「仲間に気を付けなきゃなんねえってどんなだよ…」
「それが魔王勢クオリティー」
「……俺、北大陸在住で良かった」
「同感」
何か男2人から納得できない空気を感じたわ。
「こんなにチッチャイのに魔王なんだ。リリーちゃんスゴイね~♪」
「えぇ~い、撫でるな!態々しゃがんで目線を合わせ様とするな~!」
「リリー、照れてる~♪」
……リリーとクリスって、相性悪いのかしら…てかロザリーちゃん、あれは本気で照れてないわ……
しっかし、これだけ人数いて男女比3:7って……まぁ原因はウチの百合ガキよね……
はぁ~、どっかに良い出会い……あるわけ無いか……
Side:男A
いくらなんでも1人で10人分(……俺食えてないから9人分だ)は辛い。せめてメイドさん手伝って欲しい……駄目だ。あの人自分の知らない料理だと聞きまくってくるから作業進まん……俺友人運無いな……あ、そもそも運が無いんだった。
「ジル、大丈夫?」
ん?
「あ、ロザリー。今日の主役がこっち来てて良いの?」
本当は来てくれて目茶苦茶嬉しいです!……まぁ、照れ隠しだよ……
「えへへ、ジル1人だから気に成っちゃって」
「……ありがと」
アダトリノ城が崩壊した後、向こうの国のお姫様は何人かの兵士とどっかの領地に向かった。何でも主要な大臣や貴族は勇者が皆殺しにしたらしい。
本当にやっちゃったな~、流石だ。俺の手間が省けた。
「何か手伝おっか?」
「じゃあサラダの盛り付けお願いしていい?」
「うん♪」
……それより、凄く新婚っぽいこの状況どうにかなんないかな…リリーとかイトハに見られたら何されるか分かったもんじゃない。ちなみにハンバーグは最初に出して無くなる度に補充してます。
だってロザリーとの約束だったんだもん!むしろリリーとクリスがガッついて食べてるけど……
あの2人には遠慮とか無いのか?……期待した俺が馬鹿ですね……
「ねぇ、ジル」
「うん?」
そろそろ〆のデザートにアイス……流石に固まってきてるよな?
「お城で言ってた秘密って……今聞いても、イイ?」
……勢いで教えるって言っちゃったんだよな~…忘れてた……まぁ良いか。
「う~んとね、俺がロザリーに会う前の記憶、実は有るんだ」
かなり曖昧だけどな。
「……そうなんだ」
元気無いな。
「……元いた場所、戻りたい?」
あ、そゆ事?俺の故郷の事とか気にしてる?
「まさか」
「へ?」
「多分俺とイトハは同じ世界から来たんだよ。ほら、魔法の無い世界」
「……イトハと一緒?」
「俺、本当はこの世界の人間じゃないんだよ。だからこっち来て魔法初めて見た時はビックリしたよ。使ってみたいとも思った」
「……じゃあ、願い叶ったね」
「まぁね」
「……なら、これからどうするの?」
ん?何かさっきから反応がおかしい……
「どうしたの?何か不安な事でも有るの?」
「……ジル、私のせいで、無理矢理この世界に来ちゃったんでしょ?」
あ~、自分のせいで俺が無理矢理元の生活捨てるはめに成ったと思ってんのかな。
「違うよ。俺、元の世界で死んだんだ」
「…………へ?」
そりゃ驚くか。目の前に居る人が実は死人だなんてそうそう信じられる話じゃない。てか普通なら精神科に連れて行かれる。この世界に有るか知らないけど。
「そしたら勇人さんとアダトリノの勇者の召喚に巻き込まれたの。多分イトハも同じだと思うよ」
神様達の事は……話せないよな~
……てか俺異世界の人全員知ってる……うわ~、知りたくなかった……
「じゃあ、アタシのせいで、無理矢理、この世界に来たんじゃないの?」
「うん」
断言しとかないとまた鬱モード入りそうで怖い……あれ?この家って今異世界人4人も居る?てか全員来た事有る?
まぁ、大陸のちょうど中央に在るから集まり易いんだろうな。
……何かリビングが静かだ……絶対聞き耳立ててるな……よーし、盗み聞きした連中には罰をっ!
「じゃあ、これからも、ここにいてくれるの?」
「……追い出されたら流石に泣くよ?」
「追い出さないよ!」
「ならこれまでと一緒だね。相変わらず俺はここで、ロザリーと一緒に居る」
「……うん♪」
……恥ずかしかった。そして今の聞いてた全員、しっかり罰を受けてもらうぞ。
この世界で見つけたハバネロより全然辛い無味無臭の林檎色のソースを8人分のデザートにかける。これならメイドさんにも気付かれない筈だ!
「あれ、この2つだけ違うの?」
「うん。俺とロザリー用」
「そうなんだ。じゃ皆のトコ行こう♪」
「うん♪」
さぁ、皆悶え苦しんでもらおうか!
デザートを運んでる時、自分でも分かるくらい、不自然に綺麗な笑顔を浮かべてた。