女勇者の目的
Side:女勇者
「……あの少年は、どうなるのです?」
牢屋を出て鍵を返したら変態巫女が聞いてきた。
「少女を連れて逃げるんだろう。大穴で反撃してくる、なんて可能性も有る」
「反撃、ですか?」
「ああ。このまま逃げてもまた兵を派遣されたら同じ事だ。だったら2度と少女を狙わない様に国の中枢にダメージを与えておくのは間違いじゃない」
あの少年ならやりかねない。騎士の1人や2人ならその場で瞬殺出来るだけの戦闘能力を持っているから城内で不意打ちをしていればそれなりに城の戦力を削げる。
そうして隠密行動に徹して上層部の何人か、或いは王を殺せば少年の反撃は成功だ。
今回は、私の目的の為にそうしてもらいたい所だ。
「そうかもしれませんが……ロザリーちゃんがそれを許すのでしょうか?」
「さぁな。私は少女と話した事も無いから分からないが……案外懐柔済みかもしれないぞ」
「……何故王は、ロザリーちゃんを……」
「分からん。そして分かる必要も無い」
「え?」
「私はこれから国を崩す」
「勇那様?」
「王と腐った大臣を討つ。国の重役は一掃されるだろうな。国を保てない程に」
「……何を考えているのです」
恐ろしいモノを見る様な目で聞いてきた。
それはそうだ。信頼してた者が反逆者に成ると言い出したら誰だって戸惑う。
「つまり、こういう事だ」
変態巫女の鳩尾を殴り気絶させる。
最後に私の名前を呼んでいたが、これ以上変態巫女を私の側に置いておく訳にはいかない。
「クロ、大臣連中は会議場か?」
「にゃっ」
「そうか。では、始めようか」
「にゃっ!」
これで私も犯罪者。少年と少女は騒ぎに乗じて逃げるだろうな。
私の邪魔だけはしてくれるなよ。
「失礼する」
無駄に大きな扉を開け放つ。扉の前に居た騎士達に止められたが五月蝿かったので寝てもらった。此処に来るまでも何人かの騎士に寝てもらい、腐った貴族共は消えてもらった。
「なっ!勇者様!?」
私の乱入に椅子に深く腰掛け紫煙を垂れ流していたデブ共が浮足立つ。机の上には国の予算計画表。
近づいて資料を取り見る。不正や汚職のオンパレードだった。いっそ清々しい程に自分達の懐に入れている。
「これがこの国の実態とは、嘆かわしいな」
「お、お待ち下さい!これは」
「これは?」
「しょ、書類上の不備を治そうと皆で検討して……」
「普通の予算案を強引に変更しようと書いて有る。もう駄目だな、貴様達は」
元から生かしておく気など無い。力の無い騎士は適当に気絶させれば良いが、こいつ等は生きていた所で何の意味も無い。私にとっては害悪だ。
「消えろ」
腰の無白を抜き一閃、闇が大臣達の首を一斉に刎ねる。首無し大臣達が血を噴き出しバタバタと倒れていく。
返り血を浴びない程度に離れていたので不快な思いをしなくて済んだ。
血臭のする部屋の扉を閉めて王の間に向かう。
途中、会議室や通路の死体を見つけたのか兵が集まり過ぎて囲まれたが全員殺しておいた。おそらく少年も脱出しただろう。それにしても速く見つかった。些か騒ぎが大き過ぎだが……私には関係ないな。
帰って来たら真っ先に王に顔を見せるのが普通なのだろうが、出来るだけあの顔を見る回数は減らしたい。反吐が出そうに成る。
「勇那、帰って来ていたのですね!お父様にはもうお会いになって?」
姫か。この人は生きていても良いだろう。民を守る為に自分すら犠牲にする覚悟が有る。
「捕虜を牢に連れて行っていましたから。これから王の間に向かいます」
「ご一緒しても?」
探る様に、断られるのを恐れる様に聞いてくる。何か有ったな。
「喜んで」
そのまま誰にもすれ違わずに王の間に着く。
中に居たのは王と数名の家臣、王の近衛兵10人だった。全員私の殺害対象だ。
「勇者か。神祖捕獲の件、大義であった」
捕獲。あの少女は動物か魔獣か。
「だが、たかが子供1人に手間取るとは、それでもアダトリノの勇者か!」
「お父様!勇那は務めを果たしたではありませんかっ!」
「黙れ!我が娘とて口応えは許さん!」
「っ!」
潮時だな。
「アダトリノ王」
「何だ」
「第1騎士団団長は如何されました?」
「ふん、貴様を想定以下にしか育てられぬ者等、不要!」
左遷か死刑か。牢屋には誰も居なかった。恐らく左遷か。
「丁度良い。ここに団長が居るか居ないかだけが不確定要素だった」
団長が相手だと骨が折れる。
床に付けていた膝を離し、立ち上がる。
「何を言っている」
「これで心置きなく目的を果たせる」
「貴様、王の質問に答えろ!」
近衛兵が騒いでいる。五月蝿いな。
無白を抜く。
「勇那!?」
「なっ!王の御前で抜剣!?貴様、何を考えている!!」
無能だな。王の間で刀を抜いたら、やる事は1つだろう。
「王よ。貴様にその椅子は相応しくない」
「貴様!不敬だぞ!」
近衛兵達が槍を構える。
「よい、止めよ。理由を聞こう。話せ」
ほう、肝が座っている。器はそれなりらしい。
「貴様は民を顧み無さ過ぎた」
「ほう」
「貴族達が民を苦しめているのを知っていながら何もしなかった」
私の言葉をただ聞いている。
「戦争がしたいなら民の士気を上げるのも王の役割の1つだ。民の為に身を斬れとは言わん。だが、民を苦しめ戦争を起こした所でこの国は滅ぶぞ」
「くっくっく、王の役割だと?笑わせる。貴様が語る王等、所詮は紛い物!」
そうだろう。私は王の何たるかを知らない。
「王については知らないが、統治者の有り方なら多少の覚えが有る。貴様はそれにも当て嵌まらん、紛い物だ」
「貴様とて勇者としては紛い物よ」
「結構。私を無理矢理召喚したのは貴様らだ。元から勇者に成る気も無い」
「何?」
ここで怒るのか。ポイントが分からんな。
「アダトリノ王!緊急事態です!」
玉座の横から近衛兵が1人出てきた。
「何だ」
「はっ!予算案を練っていた大臣達が首を刎ねられ死亡しています!他にも通路に貴族達の死体が有りました。また、その騒ぎに乗じてユビキタスの者が数名城内に侵入しました!」
「大臣と貴族を殺したのは私だ」
全員の視線が私に集まる。
姫は困惑、家臣は戦慄、近衛兵は驚愕、王は怒り。
それぞれ妥当な反応と言える。
「貴様、狂ったか」
「元からだ。元々私はこの国が気にくわなかった。エルと姫と団長の立場を考えて何もしないでいたが、もう限界だ。これ以上は自分を偽れん」
「……勇那」
姫には悪いが王は殺す。
「小娘が!近衛兵、逆族を捕えよ!」
玉座の裏からも兵が出てきて私を包囲する。私の横にいた姫も必然的に包囲された。
「お父様っ!」
「黙れっ!こ奴は討たねばならん!今、此処で!!」
む?廊下が騒がしいな。
『これか?』『そのようだね』『突入します。気を抜かないで下さい』『うん!』
この声だと4人か?少年と少女ではなさそうだ。
予想通り、扉を開けたのはあの少年達ではなかったが、知らない顔でもなかった。
「ユビキタス公国公女、フレイヤ・ユビキタスだ!アダトリノ王に話が有る!」
それは、つい最近知り合った連中だった。