男Aの神祖救出
Side:男A
「……本当に1人で行くの?」
アダトリノ王国首都の城壁が見える丘で作戦会議をしてたらイトハが心配そうに話しかけてきた。
「侵入経路が無いんだからしょうがいないよ。勇者に連れて行ってもらえるならそれが1番でしょ?」
ちなみに女神様から夢に呼び出されなかった。流石に空気読んでくれたみたいだ。申し訳ない。
「……脱出の算段も無いのにどうするのです?貴方はロザリー殿を連れ出す事が出来るのですか?」
テッタだっけか?痛い所突いてくるな。
「でも勇者が騒ぎ起こすだろうからね。どうせ神祖1人にそこまで戦力充てられないよ」
「ほう、バレてたか」
「どうせ王様狙いなんでしょ?ならパーっとやっちゃってよ」
「そうだな。最後にデカい花火を上げよう。少年の魔法を見て思い付いた事も有る」
「じゃ、行こうか?上手くロザリーの所まで連れてってね」
「任せろ」
さて、犯罪者として牢屋にぶち込まれよう。
「……ちゃんと戻って来なさい。ロザリーちゃんを助けたいのはアンタだけじゃないのよ」
昨日の夜にアダトリノが北の国で作られたカメラで撮ったロザリーの写真を全国にばら撒いた。赤ヒゲは人間の国には武器を作らないと手紙を飛ばした。
多分ユビキタスの人達も動くだろうな。ロザリー人気者だ♪
そんな事考えながら勇者に縄を引かれて歩く。
捕虜に見えるように俺は手縛られてるんだよね。歩き辛いな。あ、門番見つけた。
「神祖の仲間の相手をしていたら遅れた。コイツも神祖と同じ牢に入れるが、構わないな?」
「勇者様!?御無事でしたか。捕虜なら我らが」
「いや、この者は魔力は低いが危険だ。私が牢に入れる」
「……分かりました。どうぞお入り下さい」
あっさり入れたな。勇者サマサマだ。
くたびれた人ばかりの城下町を抜けて城に入ると街と城の差に目眩がする。無意味に豪華過ぎる。
俺達の姿を見て遠巻きに偉そうなオッサン達が「良くぞ御無事で」「神祖の仲間を捕えるとは流石です」「王に御顔を」とか言ってる。
あとすれ違った貴族達がユビキタスの使者が神祖の開放を直談判しに来るとも聞いた。
私情入ってるのか?それなら統治者失格だと思うぞ姫様。
「ふっ、ユビキタスの勇者なら乗り込んで来るだろうな。脱出が容易に成るかもしれないぞ」
勇人と知り合いだったのには……同じ勇者同士だし面識有っても可笑しくないのか?
看守にロザリーの居場所を聞いた後、地下への階段を降りながら声をかけてきた。
誰かいるって言ってたな。
「どうかな」
実際、ユビキタスの使者を門前払いにすれば済む話だ。
「近くに居るなら私が問題を起こして入る為の大義名分を作ってやれば良いだけだ」
手を縛ってた縄を切ってもらう。もう誰もいないって事か?誰かいるみたいな事言ってたぞ?
「わ~、悪だね。さっすが闇の勇者」
「……その呼び方は止めろ」
「そうする」
本気で嫌そうだ。一応女子だし気にしてるのかな?あっ!
「ロザリー!」
突き当りの牢屋にロザリーがいた!
思わず走り寄るが牢屋の鍵は閉まってる。
「……ジル?」
乱暴された様子は無い。暗い顔で、牢屋の中のベットに腰掛けてる。
「勇那様っ!?」
「にゃっ♪」
「クロ、エル、ご苦労だった。此処からはこの少年が少女を守る。私と来い」
そう言って牢屋の鍵を開けた。閉める時鍵要らないみたいだ。
「にゃっ!」
「えっ?……でも…」
「無粋だな。これからの事を決めるのは当人達だ。私達が干渉する事じゃない。行くぞ」
「……はい!お供します!」
……行ったかな。
じゃ、感動の御対面だね。
「ロザリー、元気だった?」
まずはジャブ。さて、どうくるかな?
「……ジルも、捕まっちゃったの?」
牢屋に入ってロザリーの隣に座る。
「ダガーも取られてないのにそれはないよ」
牢屋は開けっぱなしだしここの警備はザルだな。勇者が信頼され過ぎなのか?
「……じゃあ、どうしたの?」
「ロザリーに会いに来た」
「……そう、なんだ」
声震えてるぞ?
「……アタシね、ジルに、隠してたコト、あるんだ」
「うん」
「アタシね、ホントはね……」
「うん」
「神祖なんだ……皆から、嫌われてる」
「うん」
「アタシといるとね、ジルも、嫌われちゃうよ…」
「うん」
「だからね、ジル、もう、アタシと、いちゃ、ダメ、だよ」
涙溜めて無理矢理の無表情で言われてもな。
「……ヤダ」
「え?」
「ヤダ。俺はロザリーと一緒にいたい」
「嫌われ、ちゃうよ?」
「俺が嫌いな人にまで好かれなくてもいいよ」
「ドコにも、いられないよ?」
「ならいられる場所作るよ」
「アタシは、世界中に顔知られちゃったんだよ?」
とうとう泣き出してしまった。
「髪型でも変える?」
「変装、なんて、意味、無いよ」
「なら世界を変えるよ」
「どう、やって?」
「これから考える」
「……やっぱり、無理だよ…ジルが、嫌われちゃうよ」
「俺が嫌いな世界に価値なんて無い。無くなっちゃっても何も思わないよ」
「ダメ、だよ…ジルが、生きて、いく世界だよ?」
「……はぁ……ロザリー、1つ聞きたいんだ」
面倒に成ってきた。
「何?」
「ロザリーは、どこに居たいの?」
ロザリーが自分の事話さないから話が進まないよ。
「……分かんない」
「俺はロザリーの隣に居たい」
とりあえず、涙流しっぱなしだと痕ついちゃうから拭く。
「……知ってるよ」
「じゃ、選んで」
「何を?」
「ロザリーの居たい場所。選んでくれたら俺がいさせてあげる。選ぶまではずっとロザリーの隣に居るよ」
クサい台詞で顔が真っ赤に成りそうだけど頑張って素面保つ!
「……ズルイ」
ふっふっふ、これぞ大人の知恵だ!
どこに居ようが俺はロザリーの隣に居られる!……我ながらセコイな。
「……ハンバーグ」
「うん?」
「今日の晩ご飯、ハンバーグ、食べたい」
「うん。じゃあ、今日は帰ったらハンバーグだね♪」
「……うん♪」
やっと帰る気に成ってくれたか。意地っ張りだったな。
「じゃ、もうちょっと待ってようか。勇者が騒ぎを起こすだろうからね」
「勇者さんって、勇人さん?」
「さっきの黒髪の女の人の事。アダトリノの勇者なんだって」
「そうなんだ……でも、騒ぎ起こすの?」
「王様狙ってるんだってさ。アグレッシブだよね」
「……止めなかったの?」
「ロザリーに会う為に協力してただけだからね。この後は関わらないって約束なんだ」
「……女の人だよ?」
目が細くなった?はっ、しまった!
「男10人くらいなら素手で倒せるなら気にする必要無いと思いました!」
このままでは!
「ジル、久しぶりにオハナシがあるの。ちゃんと聞いてね?」
「い、いやほら!ここで大きな声出したらマズいって!」
「大丈夫、ジルは声を出さなくても大丈夫」
それは声も出せないとゆう事でしょうか?
マズい!どうにかして逃げ切らなければ!幸い牢屋の鍵は開いてるしここの地下牢は若干入り組んでるし行き止まりも少ないっぽかった!これならイケるか!?
「……ジル、やっぱりアタシの側にいたくないんだ…」
くっ、分かってる!あれは嘘泣きだ!嘘泣きなんだ!
逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ……
「……オハナシ、聞きます」
あんな泣き顔で放置なんて無理。泣きて~……