女勇者と男Aの契約
Side:男A
ロザリーが連れて行かれた。
でもまだ死んでない。連れて行かれただけでまだ生きてる。
ならやり様は幾らでも有る。
「勇者、今平気?」
「ジル!起きててイイの?」
イトハ達まだいたんだ。まぁ子供が大怪我してたら普通心配するか。リリーは帰るってモリッシュが教えてくれたから皆帰ったと思った。
「俺は刃に触れても切れないほどに頑丈なんだよ?これくらい平気だよ。それより、勇者に聞きたい事が有るんだけど」
「何だ?」
「アダトリノ城の間取り」
「……乗り込む気か?」
「当然」
何を聞いてるんだ?
「1人でか?」
「数の問題じゃないよ」
問題は俺が行きたいか行きたくないかだ。
「……そんなにあの少女が大事か?彼女と居ても良い事等1つも無い様だぞ?」
「勇那!」
イトハが声を上げて勇者を睨みつけてる。
「イトハ、良いよ。
良いか悪いかは俺の主観でしょ?他の人の意見なんてちょっとした参考にしかならないよ。俺の行動を決定するには弱い」
「それをあの少女は望むのか?助けなど求めてないかもしれないぞ?」
「だから?」
別にロザリーの意思なんて知らない。ただ俺がそうしたいだけだ。
「……彼女に拒絶されたらどうする?君の行動が全て無意味に成るかもしれないんだぞ」
「それならそれで良いんだよ。俺にとって大事なのはそこじゃない」
拒絶されたらそん時考えればいい。聞かない事には拒絶されるかも分からない。大事なのは俺がロザリーに会いたいって事だ。
「……そんなに彼女が大事か?」
「大事だよ。だから会いに行く為の方法を考えてる」
アンタは大事じゃない人の為に動くのか?それはまた損な人生だね御愁傷さま。
「……敢えて茨の道を行くのか?」
「意地が有るんだよ。男の子には、ね」
「……恥ずかしい台詞だ」
「本心だからね」
「誰にも祝福されないだろうに」
「愛とは見返りを求めない物らしいよ?」
「その歳で愛を語るか」
「俺の言葉じゃないけどね」
「なら君にとってあの少女はなんだ?」
「大事な人。これさっきも言わなかったっけ?」
「確認しただけだ…………良いだろう。協力しよう」
「裏切り者だ~」
「茶化す様なら教えん」
「ごめんごめん。紙とペン持ってくるから待ってて」
これで城への侵入経路とか見つかると良いんだけど……難しいだろうな~……はぁ……
Side:女勇者
行ったか。今の内に間取りを思い出そう。半年も住んでいたから流石に覚えた。
……大事な人の為に動く、か。
私の大事な人とは誰なのだろうな……特に思い付かないな。
ただまぁ、変態巫女と団長に愛着は有るのだろう。
今回の仕事、気乗りしなかったが王は暗に変態巫女と団長を人質にすると言っていた。
『巫女が国を長期離れるな。自覚が足りん。
最近、第1騎士団の仕事が滞っておると聞く。少しは進めておけ。
勇者、今1度私にお前の力を示せ。無力な勇者に用は無い。それだけは覚えておけ』
最後の部分で変態巫女と団長に視線をやった所を見るとあの2人は私の教育係。私が使い物にならなければ用済みとされる、と言った所だったな。
……私にとってあの2人は大事だったのだろうか?良く分からんな。
「何で教える気になったの?」
イトハ?
「ロザリーちゃんを攫ったのはアンタじゃない。今更償いのつもり?」
怒っているのだな。
神祖と呼ばれ忌み嫌われている割にあの少女は多くの者から好かれている。やはり種族など個人を測る材料にはならないのだな。
「私も私の大事な事の為に動こうかと思った。その為には少年に動いて貰うのが最良だと思っただけだ」
「利用する気?ジルは子供よ」
「だが私や君よりは良い覚悟を持っている。他者に与えられた『神祖は悪』とゆう考え方はただの情報でしかないと分かっている。
あの少年は本物と偽物の差をよく知っているよ。私達より年下に見えるが、まるで年下だと思えなかった」
もしかしたら呪いに掛かって幼児退行した冒険者、なんて可能性も有るな。
「持ってきたよ。覚えてるだけ書いてね」
「ああ……あの少女は、幸せだな」
書きながら思わず呟いた。
「どうかな」
「違うのか?これだけ多くの人に心配して貰えるのは、怒って貰えるのは、幸せだと思うが?」
私には分からない感覚だ。だがこの少年なら答えを言ってくれる気がした。
「ロザリーがそれを望んでるかは分からない。さっきアンタが言った事だよ?覚えてないの?」
「……そうだったな」
答えては貰えなかったか。
「自分の幸せなんて自分で決めればいいよ。どうせ正解なんて誰にも決められないでしょ?」
「……そうだな。幸せの定義は、人それぞれだ」
向こうで見た幼児虐待の新聞記事を思い出した。
ある児童が遠足のお弁当の時間に担任と話していた時、母親の話に成った。
その時児童が凄く嬉しそうにお弁当が嬉しいと言っていた。
久しぶりの母親の料理なのだと。学校が休みの日にだけ料理を作ってくれるのだと。
聞いてみると、その児童の平日の食事は学校の給食だけだった。それでも児童は休みの日にしか食事をくれない母親を優しいと嬉しそうに担任に語ったそうだ。
この記事を読んだ時、私はあまりに価値観が違い過ぎて少し気持ち悪くなった。
自分と違い過ぎる価値観。
幾つか書き終わった間取りの絵を見てブツブツと何かを思案しているこの少年の価値観は、きっと私には気持ちの悪いモノなのだろうなと思った。
「……ロザリーは地下牢に閉じ込められてると思う?」
「ああ。それ以外は拘束するには向かない部屋ばかりだ」
「城の人間に何かされる可能性は?」
「私の使い魔を側に付けている。不埒な輩は殺していいと言っておいたから心配は無い」
「じゃ、明日でも大丈夫そうだね。う~ん……ねえ、一緒に城に行ってくれる?」
「ジル!?」
それまで黙っていたイトハが流石に声を上げたが少年は無視している。
「寧ろ私も城でやりたい事が出来たから一緒に来て欲しいくらいだ」
「利害の一致ってヤツだね」
「ああ、同士と言うヤツだ」
「明日、アダトリノに行って」
「それぞれの目的を果たす」
「お互いの計画には」
「干渉しない」
「そうと決まれば怪我速く治さなきゃね」
「どうせ打撲と掠り傷だ。直ぐに動ける」
少年は少女を奪還する為。私は私の目的の為。互いを利用し、目的を果たす。
「私も行くわよ」
「某は魔王様から2人の監視を命じられています」
「そう。なら、ちょっとは計画練らなきゃね」
勝負は明日。直ぐに始めるか、下準備をするか、そんなものはその場で決めれば良い。
自分の目的を果たしたければ、動けばいい。その為に、私と少年はお互いを利用するだけだ。