魔王の怒りと義務
Side:女B
アダトリノ王国がユビキタスのシルフ歓迎会の翌日とんでもない発表をした。
『ギグの森で神祖の存在を確認。人間の世の為に此れを捕え、処刑する』
これって完全にロザリーちゃんのコトじゃない!
その知らせを受けて直ぐに私とリリー、モリッシュに切り込み隊長のテッタ、保健室長のヘレシアの5人でロザリーちゃんの家に来た。
でも遅かったみたいで、ジルと黒髪の女の人とグレゴリウスが倒れてた。
グレゴリウスは意識ないけどジルはまだ気を失ってないみたい。だけど速く手当てしないと!
「……ジル、この状況、今すぐ説明せい」
「リリー!まずは手当てしなきゃダメよ!ヘレシア!」
「大丈夫!直ぐに始めるから家に運んで。テッタちゃんは皆をベットに運んで。モリッシュちゃんは清潔なタオル。イトハちゃんとリリーちゃんはお湯の準備」
テキパキと指示を出して行動開始。
「行くわよリリー」
「…………」
「ジルが早く喋れるようにならなきゃロザリーちゃんのコトも聞けなくなるのよ?」
「……分かっておる」
渋々動き出した。手がかかるんだから!
……ジルと一緒に倒れてた人って、勇那じゃない!?
じゃあ勇那がロザリーちゃんを捕えに来たってコトよね?
勇那のせいでこの世界に来たのはイイ。でも、ロザリーちゃんを傷つけるのまで許した覚えはないわ。
「ジル、平気?」
「ああ…………動けるように成ったら勇者に色々聞く。その後アダトリノに行く」
「……1人で行く気?」
「魔族が行ってみなよ。人間と魔族の戦争が起きるよ」
思ったよりシッカリ考えてるわね。
「その通りじゃ」
「リリー?」
「ジル。わらわが前に言った事、覚えておるな」
「ああ……でも俺に地獄を見せるのはロザリーを連れ戻してからにしてくれない?」
「……其れまで待てと?」
「そうだ」
「……わらわは、お主を許す気は無い」
「覚えておくよ」
「リリー!?」
「イトハ、リリーの怒りは正当なものだよ。ロザリーが連れてかれたのは俺の落ち度だ」
「でも!」
「イトハちゃん退いて。ジルくんだっけ?病人が長話で無理しないの。リリーちゃんも、話は後にしてあげて」
「……分かっておる」
「ヘレシア、ジルのコトお願いね?」
「大丈夫よ。動くだけなら明日からでも平気」
「そう」
……ジルは平気そう。問題は、勇那の方ね。
勇那の側にはテッタについてもらってた。怪我してる勇者くらいならどうにでも出来るからってテッタになった。
そりゃ、魔王の側に勇者は置いておけないわよね。
「君が魔王だったんだな。前に会った時から気に成ってたんだが、結局先送りにしてしまった」
「此の様な事が無ければ永遠に明かす気は無かったがの」
「それは無理だろう。私がこの世界に呼ばれたのは君を殺す為だ」
「「なっ!?」」
「2人共止めい。勇者とは本来、魔王を討つ為に呼ばれるのじゃ。呼ばれる者の意思に関係無くな」
そうよね。
危うくガ・ジャルグ出すトコだったわ。テッタも刀抜きそうに成ってるし。
「君は慕われているんだな」
「……わらわは貴様を許さん」
「少年を傷つけた事は素直に謝罪しよう」
「ジルの事はどうでも良い。だが、お主はロザリーの正体をジルに教えたと聞いた。それも、ロザリーの前で」
「ああ。教えたな」
「何故じゃ!?」
急にリリーが勇那に掴みかかった。
「リリー!相手は怪我人よ!」
「こ奴はっ!……ロザリーの最も恐れてた事をしたのじゃ。友として、それはとても許せる事では無い!」
「何言ってるか分かんないわよ!分かるように話して!」
「魔王様、落ち着いて下さい!」
体小さいくせに2人がかりでも止めるのに苦労するなんてどんな力してんのよ?
「……もう暴れん。離せ」
ようやく落ち着いたわね……
「彼女にとって自分の種族はそんなに重要な話だったのだな」
「当然じゃ。ロザリーは……神祖とゆうだけで……」
スゴイ目で勇那を睨んでる。そんなに酷かったの?
「神祖でさえなければ、人の国か魔界で暮せたものを……人間が迫害さえしなければ、危険因子だと決め付けさえしなければ、ロザリーはこの様な危険な森で1人で生きなくても良かったのじゃ!」
「……魔界にも住めないの?」
「……神祖は皆、産まれ付き膨大な魔力を持っていますから、魔族と敵対している人間からすれば、敵の戦力を増やさない為にも神祖を魔界に行かせるわけにはいかないのです」
テッタが私の疑問に答えてくれた……だからロザリーちゃんはいつもリリーの誘いを断ってたんだ……
「じゃから、ロザリーはジルに神祖だと知られるのを恐れた。ようやく1人でなくなったのじゃ、共に居れる者を見つけたのじゃ。知られなければ、恐らく共に居れただろう……じゃが、貴様が教えた!」
「……危険人物と共に居よう等と思う物好きは少ない、か」
「そうじゃ!ロザリーは今頃、ジルに嫌われたと、恐れられたと思っておる!」
孤独から解放されたと思ったら、隠してた大事な秘密が知られる……確かに嫌な話ね。
「……魔王様、今後如何されますか?」
「~っ!ジルの治療が済み次第、わらわは城に戻る!ロザリーを処刑させはせん!お主はジルと勇者を見張れ」
「見張れば宜しいのですね?」
「そうじゃ。見張れ」
「必ずやご期待に沿ってみせます」
「うむ、任せた」
ん?わざわざ聞き直す必要あったのかしら?
「ではわらわは城に戻る。数日でモリッシュを迎えに寄こす。その折には手紙を出す。グレゴリウスの元に届く筈じゃ」
「待て」
勇那?
「何じゃ」
「あの少女は恐らく2週間は無事だ」
「勇者の言う事を魔王に信じろと?」
「信じられないのならそれでも良い。だが話だけでも聞いて損は無い筈だ。
アダトリノの処刑は必ず首都の大広場で月始めに行われる。その日までは死刑囚には何が有っても手を出してはならないとゆう法が有る」
「じゃあそれまでにロザリーちゃんの死刑を止められればイイのね!?」
「……話はそう簡単ではないと思います」
「わらわも同意見じゃ」
「何でよ?」
「まず死刑が早まる可能性が有る。死刑囚の死刑執行は月始めかもしれんがロザリーは死刑囚とゆう扱いになるとは限らん。
そして、もし死刑を免れてもアダトリノに拘束される可能性も有る。
神祖の魔力は人間には魅力的な筈じゃ。特に、戦争を考えてる人間にはな」
……ロザリーちゃんは兵器じゃないわ。
「従わなければジル殿を殺すと脅される事も有るかもしれませんね」
「そうじゃ。じゃから、死刑を止めるだけでは足りん。
ロザリーに2度と関わらない。そう約束させる必要が有る」
……思った以上に厳しい状況みたいね……