女勇者VS男A
Side:男A
氷の館から少し経った。この世界に来てからはもう半年以上経ったと思うと不思議な気分だ。
向こうの世界の名前も自分の名前も友達の顔も思い出せないんじゃ本当に自分が異世界の住人なのか分からなくなる。
元からこの世界の住人だったんだけど記憶障害でロザリーに呼び出されたって思った方がまだ現実味がある。
まぁ女神様(フリッグです!)……フリッグに呼び出しくらってる時点で異世界の住人なのは分かってるんだけどさ。
さ~て、狩も終わったしそろそろ家に着く。今日の晩飯何にしよ?その前にお昼だな~。眼帯付けてるから料理も一苦労なんだよな~
……家の前に……デカい馬車3台?
軽く20人は移動できるな。
「離してよ!」
「ロザリーッ!?」
ロザリーが鎧を着た騎士達に連れて行かれそうになってる!?
「何奴!?」
走りよるが騎士達に阻まれる。数が多いんだよ!
「テメエ等!ロザリーに手え出すとは何事だっ!!!」
なっ、赤ヒゲ!?
すでにハルバート構えて臨戦態勢。
いや、当然だ。ロザリーの家と赤ヒゲの家はかなり近い。あの悲鳴なら聞こえる距離だ。
「……この少女がロザリー……するとあの子供はジルとか言う少年か」
誘拐犯の中にいるキツそうな女が俺とロザリーを知ってる風な事を言う。
「ロザリーを離せ」
「断る。私は仕事は最後まで詰めるタイプだ。馬車に乗せろ」
「待て!この、邪魔すんな!!」
「何処に連れてく気だ!!」
この騎士達、最初から攻撃する気が無い?防御に専念してひたすら俺と赤ヒゲの体力を削ってくる。
馬車の中に檻が有る?
「やだっ!離してよ!出して!行きたくないっ!うぅ……炎よ 全てを焼き尽くせ フレア!」
魔法で馬車を破壊する気か。それなら連中もロザリーを上手く運べない。
……ん?
「なんで、なんで魔法が出ないの?フレア!フレアフレアフレア!」
「はっ!無駄だよ。この檻の中じゃ魔法は使えないんだよ」
どんな仕組みだよ!?
それより、この騎士達しつこい!
常に5人で俺と馬車の間に割り込んでくるし、1人吹き飛ばしても後ろから違う騎士がそこに入って休憩するから全然数が減らない。
赤ヒゲも同じ状況みたいだ。これじゃロザリーに近づけない!
「鍛冶屋の方はあのまま体力を削れ。少年の方は……騎士の体力が持たないな。私が変わろう」
「え!?ゆ、勇者の手を煩わせる程の事も無いです!」
「よく見ろ。交代しているから目に見えた疲れは無いだろうが、確実に此方に近づいて来ている。そろそろ押し切られるぞ」
「なっ!8人をたった1人で……」
「此処はギグの森だ。それくらいの猛者が居ても不思議は無いのだろう?鍛冶屋の方はもう限界だな。立てなく成る程度に体力を削ったら騎士達は馬車で帰れ……クロ、あの少女の側に居ろ。不埒な事をする輩は首ごと跳ねていい」
「にゃっ!」
「よし、鍛冶屋はもう動けないな。少年に着いてる方、私と変われ」
何だよ、高みの見物じゃ物足りなく成ったか?猫をロザリーの側にやってたけど何考えてんだ?
「少年、悪いが此処は通さない」
「喋るな。耳が腐る」
コイツの言葉なんか聞くだけで不快だ!
Side::女勇者
ふっ、耳が腐る、か。何時も私が王や大臣、貴族に思ってる事を言われるとはな。
「邪魔を、するなっ!」
「無理な相談だ!」
ダガーを弾く。
速いな。あと少し遅れていたら左手首を斬り落とされる所だった。
王の下らない命令で神祖の少女を捕えに来たらとんでもないのに会ったな。
「くそっ!馬車が」
ようやく出発か。思った以上に体力を削られたな。
……なっ!
「ちっ!反応良過ぎる!」
油断も隙もないな。足に付けたベルトに投擲用の杭を仕込んでた。その杭を躊躇無く馬車の御者目掛けて投擲するのだから質が悪い。眼帯付きの片目の割に良い狙いだ。
「ジルッ!」
「神祖を速く連れて行け。殿は私が務める」
「……神祖?」
「ジルッ!聞いちゃダメ!」
ふむ、もしや?
「知らないのか?その少女は神祖と呼ばれる、忌み嫌われた種族の者だ」
「やめてっ!言わないでっ!」
「その中でも希少な貴族級の生き残り。つまり、100年前の戦争の大量虐殺犯の孫だよ」
「ジル、聞かないで…お願いだから……」
静かに成ったか。それに馬車はもう杭が届かない程度には離れた。
「……いいからそこを退け」
「ほう。ここまで聞いてまだあの少女に拘るのか?」
「俺、歴史は苦手なんだ。アンタが何言ってるのかさっぱりだよ」
その割に凄い殺気を放つ。薄々は気付いていたか?
「それに、ロザリーが隠してた事を了解も無しに暴露するなんて、俺は好きじゃない」
「ならどうする?私にも退けない理由が有る」
「アンタはロザリーを傷つけたんだ」
「貴様は私の仕事の邪魔だ」
「だから!」
「故に!」
「アンタは俺の敵だ!」
「貴様が私の敵だ!」
地面を爆発させながら凄い速さで距離を詰めてくる。そしてその速さに振り回されずコントロールしている。
これは厄介だな。速さに振り回されてくれれば簡単に倒せるのだが……
私も前に出て振るわれるダガーを弾き、間合いを取る。
「間合いは取らせない!風牙!」
ダガーを振った軌道に沿って風の刃が振るわれた。
あんなに短い呪文で魔法が発動したのか?
「初めて見る魔法だ。是非教えてもらいたいな!」
「ロザリーを返してくれたら教えてやる!雷甲!」
懐に入られ回し蹴りを喰らいそうに成る。
寸での所で無白で防ぐ。刃の部分で受けたので切れると思ったが逆に弾かれ、電撃を浴びてしまった。
「まさか刃に触れても切れないとは。可笑しな体だ!」
鞘に納めてる闇を無白に纏わせ、切り掛かる
「影じゃなくて闇か?アンタこそ可笑しな能力だろ!」
片手のダガーで無白を防ぎ、逆のダガーと足で闇を防ぎカウンターを放ってきた。
「まさか闇が切りに来るなんてな!」
「貴様の雷も似たような物だ!」
腹立たしい事に雷に阻まれて闇の斬撃が霧散してしまう。此れでは闇の制御に使う神経は無駄だ。
「闇じゃ俺に届かないって諦めたか?」
「そうだな。ならば闇の使い方など一つしかあるまい?」
「俺は知らん」
「そうだったな。では、アダトリノ王国勇者、結城勇那、参る!」
「古臭い名乗りだ!」
まだ距離が有るが無白に闇を纏わせ振るう。闇の斬撃が飛ばし距離を詰めるが、斬撃は弾かれ打ち込みはステップでかわされカウンター気味にダガーを振るわれる。
雷甲とか言う魔法、ダガーにも纏わせられるのか。
それにしても私の殺意を受けても平然としているな。
「器用な能力だ!」
「貴様の魔法は異常に速い!」
蹴りを腹に喰らったが頭を無白の柄で殴っておいた。
「痛いだろうが!」
「貴様だって蹴っただろうが!」
ダガーに付いているナックルガード越しに殴られたので無白で右肩を斬り付けた。
切れはしないがダメージは入るだろう。
「このロリコン誘拐犯が!」
「私にそっちの趣味は無い!」
飛び蹴りを喰らい押し倒されるが勢いをつけて巴投げしてやった。
「その上子供に剣振るうのかよ!」
「刃物振り回す子供には教育が必要だろ!」
生意気な子供だ。そろそろ終わらせてやろう。
「さっさと退け!」
「貴様は寝てろ!」
無白を頭に打ち付けたが、顎にアッパーを喰らう。
ようやく右手のダガーを落としたか。
腹に爪先を叩き込んだら、腹を雷槍とか言う掌底で撃ち抜かれた。
無白を持つ力が入らず落としてしまう。
髪を掴んで振り回そうとしたが、振りきられ咬み付かれた。
もうお互い武器は持っていない。
膝蹴りを顔に放ったら、咬むのを止めて頭突きで膝を打ちにきた。
右膝が動かないが相手もフラフラしている。
お返しに顔を殴ってやるが、また顎を打ち上げられた。
頭一つ分小さい相手を殴るのは難しいな。
「……アンタ、しつこい」
「……貴様も、同じだ」
いい加減頭が朦朧として上手く働かない。私は何でこの少年と殴り合ってるんだ?
理由はどうでも良いな。どうせ殴り倒す事に変わりは無い。
「いい加減、墜ちろ!」
「子供は、寝てろ!」
私の拳が少年の頭を捉え上から地面に叩き付け、少年の拳が私の顎を捉え地面に仰け反らせる。
……困った。立てん。
「くっそ…立てない」
「私もだ。女の様な顔をして随分凶悪な事だ」
「誘拐犯に凶悪だなんて言われて堪るか」
立てないながらも何処かに向かおうとしている。
「何処に行く気だ?」
「家で怪我の治療。その後ロザリー追う」
「……そうか」
特に言う事は無いな……
「……ジル、この状況、今すぐ説明せい」
ん?子供の声?
男Aと言うよりも眼帯少年に成ったジルくんでした