女Aのユビキタス訪問
Side:女A
…………
「クリス、どうした?」
「え?あ、ちょっとボーっとしちゃっただけ」
「そうか。まぁ無理もねえか。俺もどうしていいか分からねえし」
私達シルフは今、人間の国ユビキタス公国に来てる。歓迎して大々的に立食パーティーにしてくれたのは嬉しい。
ただちょっと問題だったのは……
「人が多過ぎるな」
「そうなんだよね~」
人間の他の国からも人が来ていてとてもじゃないけど覚えられる数じゃない。カラーズでも覚えられたのは数人だったから最初から覚えられるとは思ってなかったんだけどさ。
声掛けられる回数が多くて多くて、もう疲れちゃった……
「慣れない場でお疲れのようだね」
腰まで届く長い金髪を無造作に垂らしてる野性的だけど物腰は高貴な矛盾した雰囲気の綺麗な女の人が話しかけてきた。後ろには私達に話しかけようとしてた人達が諦めて去っていくのが見えた。
「姫様でしたか?」
「ああ、覚えてくれたんだね。ま、改めて自己紹介だ。私はユビキタス公国公女フレイヤ・ユビキタスだよ。今後ともよろしく。それと態々敬語で話さなくても良いよ」
姫様とはユビキタス公に会った時に顔合わせだけした。なんだか意味深な表情で私達を見てたから覚えてた。それにしてもフランクな人だな~
「シルフ村長の孫、シオン・ビルラーだ」
「居候のクリス・シュタインです」
「ふふ、ボウヤと少女の言う通り中が良さそうだね」
ボウヤと少女?
「フレイヤ、それじゃ分からないと思うよ。こんにちは。俺はユビキタス公国の勇者、正名勇人、17歳だ。2人の事はジルくんとロザリーちゃんから聞いて知ってたんだ」
ジル君とロザリーちゃんの知り合い!?
話しかけてきたのはちょっと逆立ってる短めの金髪に綺麗な金目でやたら甘い顔したシオン君と同い年くらいの男の子。
この人が勇者。私を巻き込んだ人……でも私この世界気に入っちゃったから特に言うコト無いんだよね……シオン君と同い年か~
「あの2人どんな人脈持ってんだよ」
流石にシオン君が呆れてるよ。そりゃそうだよね。普通1国の姫と勇者と知り合う事なんてないもん。
「偶々南大陸に用が有ってね。その時に護衛を頼んだのさ」
「……むしろ時間掛からなかった?」
ジル君トラブルメーカーだから沢山トラブルが起きたと思うんだけど。
「本当にな。メイドさんの話じゃ予定の倍掛かったって話だったし」
ジル君、トラブル引き付け過ぎだよ。
「相変わらずみたいだな。安心したぜ」
「そこ安心する所なのか?」
「逆にジル坊が平和に暮らしてる所が想像出来ねえ」
「言われてみればそうだな」
男の子2人でジル君に言いたい放題だな~
「少年は好き勝手言われてるね」
「そうだね。でも、ジル君なら気にしなさそう」
「あ~、確かに。何かボウヤは色んな事に無関心みたいだったしね」
まだ知り合ったばかりだから私達は共通の話題で話してる。ちょっと話題が思い付かないんだよね~
「ロザリーちゃんのコトだけは無関心じゃないけどね?」
「そうだったね。意外と独占欲とか強そうだ」
「あるある♪」
あの2人の話は初対面の人とはちょうどイイみたい。自然に話せる。
あれ?入口の辺りが騒がしい。
「ん?ああ、今日注目の客がもう1人来たね」
そう言ってフレイヤが皮肉気に笑った。
何だろう?あ、誰か近づいてくる。
私と色違いの長い黒髪を高い位置で1つに結ったポニーテールに、細身だけど儚さとか弱さを感じさせない、引き締まったちょっと胸が大きめなスタイル。それに背も女の人にしてはちょっと大きめ。男の人の平均程じゃないけど、背が低くて悩んでる男の人よりは大きいかもしれない。
フレイヤ姫の野性味と高貴さの混じった雰囲気とはまた違った強さを感じさせるのは、多分あの鋭さを感じさせる目。切れ長ってわけじゃないけど、なんだか鋭くて睨まれてるように感じる。
「はじめまして、フレイヤ様。私はアダトリノ王国の勇者、結城勇那と申します。この世界に召喚されて半年、その間御挨拶に伺えなかった事を御詫びします」
騎士みたいな服だけど動きやすさ優先で飾り気が無いな~。でもスカートだ。違和感あるな~。似合ってるけど。
「丁寧な挨拶、有難う御座います。挨拶に伺えなかったのは此方も同じ事。御気になさらないで下さい」
「寛大な御心と御気遣い、感謝します。そちらの金髪の方が勇者、緑髪の御2人がシルフでしょうか?」
「そうです。我が国の勇者、正名勇人と北第2大陸よりの来訪者、シルフの御2人です」
この2人……言葉遣いとか硬過ぎて一緒に話せない……勇那さん女の人のハズなのに男の人みたいだし……女子高にいたら大人気か近寄りがたくて友達0かのどっちかになりそうだな~
「そうですか。私以外の勇者が居ると聞いて、ずっと会ってみたかったのです」
「え、どうして?」
勇人君戸惑ってて言葉遣いがタメ語。勇那さんの方が年上っぽいししょうがないのかな?
「歳は同じだと聞いていましたし、同じ世界から来たのなら同郷として話もし易いかと思ったのです」
同い年!?どう見ても勇那さんの方が年上に見える……あれ?勇人君17歳だから勇那さん私より年下?
「2人とも俺と同い年で勇者かよ。俺なんて1つの村の村長になれるかも怪しいのに……」
「私なんて2人の1つ上なのにこの差だよ?」
「とても俺と同い年とは思えないシッカリした話し方……地味にダメージ有るな」
「勇人にもこれくらい出来るように成って貰いたいですね」
さっきからフレイヤ姫の言葉遣いが硬いまま……相手を選んでるのかな?
「私は外交用の話し方やマナーを教え込まれましたから話し方は仕方ないと思います」
「それじゃ普通の喋り方は?」
「それ程差は無いが、しいて言えばこの様な硬い喋り方になる」
「……侍みたいだ」
「よく言われた。あまり気にはしなかったがな」
「良いね。そうゆう話し方の方が私も話し易い」
話し方戻った!
「外交的に先程の様な話し方を求められたが、此方の方が良いならそうするが?」
「そうだな。普段の喋り方の方が俺達も気にしなくて済むからそっちが良いな」
「勇人は元から話し方変わってないだろうに……」
「完全に勇那さんの方が年上に見えたよね♪」
「仕方ないだろ、俺はそっちの練習はしてないんだよ」
「今後の課題にしようかね……」
「え!?」
「頑張ると良い。同じ勇者として推奨する」
「いやだーっ!」
勇那さん、意外と話し易いな~