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妹のようなもの、に対するは、お兄様のようなもの  作者: 六花


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本当の、ではない。

※特定の作品を貶す意図はありません。

※間違って連載に設定してしまいましたが、1話完結です。連載設定にしてしまったので、もう1本似たようなのを投稿して終わりにします。

「マーガレット様おめでとう」


「本当に良かったわ」


「ありがとうございます」


友人であるマーガレット・シュンダン伯爵令嬢が、ほんのりと頬を染め、目尻をやんわりと下げる。

本日は私リリレット・ノーイースと、他友人2名を含めての、マーガレット婚約破棄おめでとう&新婚約おめでとうパーティーだ。

まあ、パーティーとは名ばかりのただのお茶会なのだけれども。


マーガレットの前婚約者は酷い男だった。

『妹のようなものだから』と言っていた令嬢とずっと浮気をしていたのだ。

なのに、結婚だけはマーガレットとしようと思ってたのだから笑える話でもある。


マーガレットが苦しんできたのは私も目の当たりにしていたから、よおく分かっている。

婚約者以外の女と人目もはばからずイチャついている婚約者を見るのはさぞ辛かっただろう。

何度か婚約破棄やら、せめて婚約白紙にできないのか、と私達友人も訴えてはいたのだが、当の本人が中々踏ん切りがつかない状態だった。

まあ、元婚約者も中々に整った容姿を持っていたし、最初の方は女心にも敏感な優しさを持っていたので、その思い出が捨てられないというのもあったのだろう。

結局、決定的な証拠が出てきてしまったため、向こうの有責で婚約破棄となったのだろうが。


そんな酷い婚約者に元がつけれた事はめでたいし、新しい婚約者は優しく昔から知っている人という安心感があるので、お祝い事には変わりない。


「新しい婚約者様はカイドリック・エスタック侯爵令息ですものね。これからは私達も安心だわ」


友人の柔らかい声に、マーガレットも幸せを噛み締めるようにゆっくりと頷く。


カイドリック・エスタック侯爵令息はマーガレットの兄の友人だ。

5つ年上で、兄が学生時代から仲が良かったので、しょっちゅうマーガレットの住んでいる屋敷に遊びに来てくれていたらしい。

向こうも友人の妹という事で最初から好意はあったし、良いな、くらいには思っていたが、マーガレットには既に婚約者がいたので、諦めていた、という背景もあったのだとか。


「ええ。カイお兄様は素敵な方だから、本当に嬉しくて……」


もちろん政略結婚として前の婚約者様を愛していたのだけれどもね、とマーガレットは少し儚く見えるように笑う。

友人2人は、素敵ね!とはしゃいでいる。

カイお兄様はね、と、私は耳たこレベルに聞き飽きたエスタック侯爵令息の話をマーガレットが話し出す。

手持ち無沙汰を感じつつ、黙々とお菓子を食べていると、リリレット?と友人の1人が私の名前を呼んだ。


「何?どうしたの?」


「リリレットがぼんやりしているように見えたから……」


せっかくのお祝い事なのにボーッとするなんて、と、友人からの無言の訴えを感じる。

友人2人よりも付き合いの長いマーガレットも、何で祝ってくれないの?という、悲しみと拗ねが混じったような視線を向けられた。


仕方ないじゃない。

だって。


「なんだかなあ、って」


「?どういう意味?」


私の言葉に、友人の1人が怪訝な表情を浮かべる。

もう1人の友人は少し怒っているようにも見えたし、マーガレットも戸惑いの表情の中に、悲しみと怒りが混じっているように見えた。


「マーガレットさ、『妹のようなもの』だから、って元婚約者がそれを言う度に悲しんでたじゃない?」


「え、ええ。……だって、そう言って私よりも『妹のような』っていう令嬢を優先し続けてこられたんですもの」


マーガレットが目を伏せる。

フルリ、と睫毛が揺れ、じんわりと涙が光った。

それを見て、マーガレット、と他友人が慰めるように声をかけ、それから私をキッと睨んだ。


「それがどうしたって言うの?」


「もうそんな事、思い出させる必要は無いんじゃなくて?」


私はマーガレットと友人2人を見る。

学園生活を3人と過ごせて楽しかった。

マーガレットの事で奔走させられたり翻弄させられたりとあったけれど、それでも楽しい学生生活だったと思う。


ああ、私はこれで友人をいっぺんに3人もなくすんだろうなあ、と苦笑を浮かべながらも、この気持ち悪い、という感情を吐き出すという選択をした。


「『妹のような』、って言ってた元婚約者さんを、妹でもないのに妹扱いしてて、尚且つ浮気なんて気持ち悪い、って言ってた口で、マーガレットは今の婚約者を、『お兄様』って呼ぶんだな、って」


「「「…………え?」」」


「向こうにも『妹のようなもの』がいたけど、マーガレットにも『お兄様みたいな人』がいたのにね」


マーガレットも目を見開く。

友人2人は今更気付いたのか、あ、と小さな声をあげた。


「確かに一線を越えた向こうが圧倒的に悪いよ?でもね、知ってた?マーガレット、あなた、元婚約者の前でもしょっちゅうエスタック侯爵令息の話をしていたの」


カイお兄様がね、カイお兄様はね、と。

エスタック侯爵令息に出会った日から、急に彼の話題が増えた。

私との会話ではもちろん、婚約者との会話にもエスタック侯爵令息の名前は上がっていた。

マーガレットは頭は悪くないが、考え無しなところがある。

気弱でふんわりとした外見で隠されているが、割と無遠慮だし、思ったままの事をすぐに口にする。

だから悪気は無かったのだろう。

遠慮も気遣いも無かっただけで。


友人2人は、マーガレットの大人しい性格と、元婚約者の酷い態度に腹を立てていたからあまり気付かなかったのだろう。

婚約者の『妹のようなもの』に対する悲しみを訴える同じ口で、恋情が滲み出る『お兄様のようなもの』への言葉を発している事に。


私もマーガレットの元婚約者とは顔見知りだ。

マーガレットがエスタック侯爵令息に会うまでは普通の婚約者関係だったと思う。

むしろ良好だったとも言える。

マーガレットがエスタック侯爵令息の話題を出す度に、徐々に婚約者の顔は曇り、引き攣り、気が付けばその婚約者に寄り添うように、『妹のような』幼馴染が出現したというところだろう。


「当てつけとか引け目もあったんじゃないかなあ?マーガレットがお兄様、お兄様って言って『お兄様のようなもの』として慕う相手がいるなら、自分にも『妹のようなもの』がいても、ってさ。それに、爵位も向こうが上だしねえ」


伯爵家の嫡男と、侯爵家の嫡男。

爵位も財産も比べようがないほどに、エスタック侯爵家は格上の存在だった。

エスタック侯爵令息自身も、才能のあるよくできた人物だ。

ついでに、元婚約者さんとは系統は違うが、顔はやっぱり良い。


そんな男と比べ続けられ、心が摩耗してしまった事自体を、私は責められないと思う。

いや、思うようになった、が正しいのか。


こんな事になる前に、元婚約者さんも何とかしてればと言えるのは、きっと私が部外者だからだ。

家同士の政略結婚だとか、男のプライドだとかもあって、白紙に戻したいという要望を元婚約者も言えなかったのだろう。


そんな時に慰めてくれた『妹のような』幼馴染の令嬢は、彼にとって救いで癒しだったに違いない。


マーガレットも友人2人も、無言で私を見てくる。

友人2人は戸惑いの表情を浮かべ、マーガレットは戸惑いの中に怒りが混ざっているようにも見えた。

その怒りはきっと、あんな最低な元婚約者と、愛する『お兄様のよう』現婚約者を比べるな、といったところだろうか。


「ねえ、知ってる?確かにマーガレットの婚約破棄をおめでとう、って思ってる人は多いわ。でもね、一部には、そりゃそうなるだろうなあ、って言う人もいるのよ」


私の婚約者とかね、とそれは心の中にとどめておいて、私は驚いた表情を浮かべているマーガレット達に向かって話を続ける。


「確かに元婚約者さんは、マーガレットの代わりに『妹のような』令嬢ばかりをエスコートしてたわ。でもさ、代わりにマーガレットは、『お兄様のような』エスタック侯爵令息にエスコートされてたじゃない」


マーガレットが小さく息を飲んだ。

今更気付いた、という風にもとれたし、バレてしまった?と狼狽えているようにも見えた。

それを見て私は笑いそうになる。


確かに、先にエスコートの約束を破ったのは元婚約者さんだ。

毎度毎度『妹のような』令嬢をエスコートしてたのも、元婚約者さんだ。

それは悪い事だと私も思っている。

エスコート無しでどうしよう、と困ってホロホロと泣くマーガレットを助けるために、エスタック侯爵令息が手を差し伸べた事を、私も喜んでいた。


でも、それが何度も続けば、マーガレットと元婚約者が婚約白紙にして、それぞれのパートナーとくっつくんだろうなあ、と周囲が思っても仕方ない。

なのに、ズルズルと婚約関係だけは続けて、それでも違うパートナーとパーティーなどに出席し続けるのを見れば、元婚約者さんだけではなく、マーガレットにも冷たい視線を向けても仕方ないだろう。


浮気は悪い。

でも、浮気をされたからした浮気だって、浮気に違いないのだ。

肉体的な浮気も、精神的な浮気も、浮気は浮気に違いないのだ。


一部の人間には、エスタック侯爵令息が酷い元婚約者さんからマーガレットを助け出すヒーローに見えただろう。

けれども、一部の人間からは、浮気をしたから浮気をし返したマーガレットとその浮気相手のエスタック侯爵令息にしか見えなかった。

それだけだ。


元婚約者さんが悪い!の方に軍配が上がったのは、エスタック侯爵令息相手という爵位の関係もあるし、マーガレットがよく人前で泣いていたというのが大きいのではないか。

泣くマーガレット相手に何度か人前で怒鳴った元婚約者さんが、悪手を打ったと言える。


「……リリレットは、私の味方じゃなくて、元婚約者様の肩を持つの……?」


悲しみよりも怒りが強い視線をマーガレットが送る。

元婚約者さんとの婚約期間の7年間。

エスタック侯爵令息との付き合いの5年間。

それを上回る私とマーガレットの幼馴染という名の友情の13年間は、今日幕を閉じるのだろう。


「私ね、1週間前まではマーガレットとエスタック侯爵令息の婚約を喜んでいたの。ほら、先週3人でお茶会したでしょう?2人にお揃いの万年筆を、婚約祝いに贈るくらいには喜んでいたの」


マーガレットもエスタック侯爵令息も喜んでくれていた。

私も幸せそうな2人を見て、嬉しかった。

何より、ずっと悲しんでばかりいた幼馴染のマーガレットの幸せが、自分の事のように嬉しかった。


でも。


お茶会の途中、所用でマーガレットが席を立ち、私とエスタック侯爵令息が2人になった時だった。

まあ、2人と言えど、侍女はすぐ傍にいるし、護衛もすぐ来れる位置にはいたんだけど。


「ノーイース嬢、贈り物、本当にありがとう。改めて礼を言うよ」


「いえ。つまらないものですが、とにかく2人に何かお祝いを渡したくて」


気に入っていただけて良かったです、と笑う私に、マーガレットとお揃いが嬉しいから使うようにするよ、とエスタック侯爵令息が笑った。

話題に上がったのは他愛ないものばかりだった。

婚約できた事が嬉しい、と、婚約を結んだばかりの男が話す内容としては普通だった。


自然な流れで、マーガレットのどこが好きかを尋ねた。

これはマーガレットがいる場では聞けない事だろう。

だからと言って、これ以降、私とエスタック侯爵令息が2人きりになるなんて事は、ほぼ無いに等しい。

これが最初で最後のチャンスくらいの気持ちで尋ねたのだ。



「最初はマーガレットを妹のように思っていたが、年々美しくなるマーガレットに心を惹かれ始めてね。酷い元婚約者に渡すくらいなら、私が、と思ったんだ」



え?あれ?と私がエスタック侯爵令息の言葉にひっかかりを感じた瞬間だった。



「カイお兄様、お待たせしました」



そう言ってマーガレットが戻ってきた。

リリレットもお待たせ、とマーガレットは私にも声をかけた。


それから後の事はあんまり覚えていない。

私は辺境伯出身な事もあって、勉強や淑女教育よりも剣の腕を磨いてきた。

それを言い訳にするのもナンセンスだが、考える事が少々苦手だ。

自分の考えなのに、何故か上手くまとまらなくて、頭の良い私の婚約者に、お茶会の日からなんか思考がグルグルしてて、と相談した時だった。



「うっわ、気持ち悪」



婚約者のその言葉に、ああ、私のグルグルした思考の感情はそれか、と妙に納得した。


「マーガレット嬢の元婚約者が、『妹のようなもの』って言ってた令嬢と浮気した時は、『妹のようなもの』と肉体関係があるのかよ、ってちょっと嫌悪したんだよな。でも、マーガレット嬢とかエスタック侯爵令息も、最終的には『妹のようなもの』と『お兄様のようなもの』で肉体関係もつんだろ?」


まあ、これからは婚約者になるんだったら気持ちの持ちようも変わっていくんだろうけどさあ、と私の婚約者は苦笑しながら、更に言葉を続けた。



- でも、ベッドの中でも、マーガレット嬢は『お兄様』って呼んだりして -



私が私の婚約者が言った言葉をそのまま口にすれば、友人2人の手が、マーガレットから離れた。

瞬間、マーガレットが顔を赤くして怒り出す。


「下品だわ!カイお兄様に失礼……っ!」


そう言ってから、『お兄様』と言った事に気付いたのだろう。

マーガレットは固まり、友人2人が椅子の上でほんの少し距離を取ったのが分かった。

その様子に、マーガレットが慌てて声を荒げる。

いつでも、弱気でふんわりした雰囲気のマーガレットからは信じられない程の勢いだった。


「い、今は呼び慣れないだけで、ちゃんと名前を呼んでほしいとも言われているわ!5年間も呼び続けたから、なかなか癖が抜けないだけよ!」


そりゃそうだ。

癖とはなかなか抜けないから、癖なのだ。

ただ、癖になるほど、5年間呼び続けたという実績も同時に存在する。

お茶会の途中で席を立つなんて無作法だけど、私はさっさと立ち上がった。

見下ろすマーガレットの表情からは、混沌を感じた。

よく知った顔なのに、全然知らない人の顔にも見えた。


「私ね、『妹のような』令嬢と付き合う元婚約者さんが気持ち悪くて、余計にマーガレットの応援がしたかったの。それでね、『妹のような』令嬢と、『お兄様のような』令息と婚約関係になったあなた達が、とても気持ち悪くなってしまったの」


ごきげんよう、と。

少々不格好なカーテシーをして、私はさっさとお茶会の場を後にした。


きっと、婚約が決まった瞬間から、マーガレットが『カイお兄様』ではなく『カイドリック様』と呼んでいたら、何も思わなかったのだろう。

兄のように慕っていて、兄と敬称をつけて呼んでいたから、癖が抜けないというのも頭では分かっている。

けれども、『妹のようなもの』を認められない人間が、『お兄様のようなもの』を認めろというのは、とても傲慢に思えてしまったのだ。


同時に気持ち悪い、とも。


エスタック侯爵令息はマーガレットに甘い。

だから、結婚してからもマーガレットが『カイお兄様』と呼んでも笑い飛ばしそうな雰囲気はある。

けれども、それは、『妹のような』令嬢と肉体関係を持った元婚約者様と、何の違いがあるのか。


「気持ち悪い、と1度でも思ったら、もう友人には戻れないわよねえ」


ポツリと呟いてから、私は馬車に乗って、マーガレットの家を後にした。

「 「妹のようなもの」は、実妹ではない 」の感想をたくさんいただいて返信している中で、思い付いた話でした。

(皆さま感想等ありがとうございました!ランクインもとても嬉しかったです!)


「〇〇お兄様」→「〇〇って呼んでくれ」→「〇〇……///」みたいなイチャイチャは私も好きですw

妹のようなものさ、からのざまぁ展開も大好きです!


ただこれって、混ぜるな危険だなあ、とちょっと思いました。

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