「観測者は、一人ずつ観る。」
こんにちは。
前回に引き続きテスト回です。
優等生って、
みんな一度はクラスにいた気がします。
今回の話は、
そんな「優等生の苦悩」の話です。
テスト返却の日。
教室。
担任が答案を配り終える。
「今回の定期テストだが」
「五組は総合トップだ」
教室がざわつく。
担任は続ける。
「特に日本史」
「点数がずば抜けていた」
誰かが言う。
「結城のおかげだなー」
「それな」
「結城ノート神」
教室の視線が集まる。
結城理人。
成績優秀者。
そして、
誰にでも優しい。
結城は困ったように笑う。
「いやいや」
「みんな頑張ったからだよ」
……いや。
裏ページに気づかせたのは
俺だけどな。
後日。
廊下。
成績優秀者の張り出し。
一位。
結城理人。
やっぱりな。
そんな空気が流れる。
そのとき。
「綾瀬くん」
振り向く。
結城だった。
「ちょっといい?」
少し離れた廊下の端。
結城が言う。
「覚えてるよね」
「テストのとき」
「僕がスマホいじってたこと」
綾瀬は少しだけ目を細める。
「……ああ」
結城は少し笑う。
「カンニングしたんだ」
沈黙。
結城は続ける。
「僕は」
「天才でもなんでもない」
「ただ」
「そう思われてるだけだ」
少し間。
「みんなにとっての」
「頭いいキャラ」
「それを」
「崩したくなかった」
結城は視線を落とす。
「だから」
「必死に勉強した」
「でも」
「追いつかなかった」
少し笑う。
「だから」
「カンニングした」
沈黙。
綾瀬は目を細める。
あの日の教室。
――テスト当日。
鉛筆の音。
残り五分。
教室のドアが開く。
テストを作った先生。
「何か質問ある人?」
綾瀬は手を挙げる。
「先生」
先生が近づく。
「どうした」
綾瀬は声を落とす。
「最後のページ」
「誤字あります」
先生が問題用紙をめくる。
裏。
「……誤字なんてどこにもないぞ」
少し間。
先生が教室を見渡す。
「裏もあるからな」
ざわつく教室。
綾瀬は問題に戻る。
そのとき。
後ろで、
微かな物音。
視線を動かさず、
気配だけを読む。
誰かが、
机の下で何かを見ている。
……カンニングか。
でも、
誰かまでは分からない。
テスト終了後。
「綾瀬」
先生に呼び止められる。
「ちょっと来い」
誤字の件について、
軽く注意されただけだった。
そのときは、
それで終わった。
廊下。
「さっきのテストさ」
「誰かスマホ触ってたらしい」
「マジ?」
「結城が先生に注意されてたって」
「え?」
少し沈黙。
「でも結城だよ?」
「カンニングするわけないじゃん」
「多分スマホ見ただけでしょ」
「それ怒られただけだろ」
「だよな」
話はそれで終わった。
まるで
何も無かったかのように。
――数日後。
再び呼び出された。
職員室。
担任と、学年主任。
主任が言う。
「今回の件だが」
「テスト中にスマホを触っていたのは」
「結城理人だ」
綾瀬は黙る。
主任は続ける。
「結城は言っている」
「スマホは」
「綾瀬に答えを送るためだったと」
一瞬。
綾瀬は黙る。
「脅された、と」
担任が言う。
「結城は成績優秀者だ」
「推薦枠もある」
主任が続ける。
「お前」
「邪魔するつもりか?」
沈黙。
未来を知っている。
でも。
それを説明する方法はない。
綾瀬は言う。
「……俺がやりました」
担任が小さく息を吐く。
「結城は推薦候補だ」
「分かるな」
「問題を大きくするな」
職員室の空気が
少しだけ重くなる。
……。
結城の声が戻ってくる。
「なんで」
「反論しなかったの?」
綾瀬は肩をすくめる。
「面倒だから」
結城は少し笑う
「正直」
「困惑した」
「でも」
「ホッとしたよ」
「……最低だけど」
「あのとき」
「全部綾瀬くんのせいにできたから」
少し間。
「でも」
「段々怖くなった」
「嘘をつき続けるのが」
沈黙。
綾瀬が言う。
「こっちもこっちで」
「面倒になるからな」
結城が言う。
「もう」
「本当のこと言いに行こう」
「綾瀬くんも一緒に」
綾瀬は即答する。
「やめとけ」
「推薦消されるぞ」
「それに」
「俺も」
「わざわざ本当のこと言う気ない」
結城は少し笑う。
「推薦はもういい」
「…でも」
「みんなに嫌われたくない」
綾瀬は少し考える。
「お前は優しいんじゃない」
「断れないだけだろ」
結城が顔を上げる。
綾瀬は続ける。
「意志が弱い」
「それだけだ」
少し間。
「まぁ」
「優しさなんて」
「だいたい自分のためだけどな」
結城は黙る。
綾瀬が続ける。
「でも」
「その弱さが」
「嫌われるとは限らないだろ」
結城
「……?」
綾瀬
「本当のこと言って」
「嫌われるのが怖いんだろ」
少し間。
「だったら」
「全員の前で言うな」
結城
「え?」
綾瀬
「お前のノート」
結城ノート。
「みんな読むだろ」
「一人ずつ」
「観る」
結城は黙る。
綾瀬は続ける。
「一人ずつなら」
「受け止め方も違う」
「一人ずつ伝わる」
沈黙。
結城が小さく笑う。
「……怖いな」
綾瀬
「だろうな」
結城
「でも」
「逃げるよりマシか」
綾瀬は肩をすくめる。
「さあな」
「それは」
「観る側が決める」
数日後。
英語の小テストの日。
「ノート回してー」
「結城ノート!」
いつものようにノートが回る。
でも。
最後のページ。
誰かが止まる。
「……え?」
また一人。
ページをめくる。
また止まる。
教室の空気が少し変わる。
綾瀬の机にもノートが置かれる。
迅が言う。
「読まねえの?」
綾瀬。
「書いたのはあいつだろ」
少し間。
「俺は」
「そんなの見なくても解ける」
迅が笑う。
「自信あんな」
綾瀬は肩をすくめる。
「観るのは」
「いつも借りてるやつらだけでいい」
ノートはまた回る。
一人。
また一人。
ページを開く。
綾瀬はノートを開かない。
観測者は、
関与しない。
そして、
ノートは静かに、
教室を一周した。
今回も読んでいただきありがとうございます。
人は誰かに観られることで、
役割を持つことがあります。
でも、その役割が重くなることもある。
それでも、
それが自分にとって必要な要素なら、
人は必死になって維持しようとするのかもしれません。




