「観測者は、踏み出さない。」
こんにちは。
投稿が遅くなりすみません、11話です。
文化祭編スタートです。
前編と後編の2部作を予定してます!
よろしくお願いします。
廊下。
人の気配が
少しだけ遠い。
開ききっていない扉。
中から
声が漏れている。
「桜庭さ」
一瞬だけ
足がゆるむ。
「仕事抱えすぎなんだよ」
「自分で回せると思ってんのかね」
「結局さ」
「回ってなかったじゃん」
「……あれはないわ」
「まとめ役とか無理だろ」
「いい顔してるだけじゃん」
近づけば
はっきり聞こえる距離。
でも
近づかない。
視線だけ向けて
そのまま通り過ぎる。
足音だけが
残る。
――――。
9月。
下駄箱。
「おはよう、十宮くん!」
振り返る。
桜庭莉央。
「あのさ、文化祭、回らない?」
「……なんで俺なんだよ」
「だって私たち、いー感じじゃん?」
「は? 誤解は解いたんだろ」
「冗談だよ」
少し笑う。
「迅くんもいるよ」
――夏休み明けのある日。
莉央
「誕生日おめでとう!迅くん」
迅
「なんで俺の欲しいものわかった?」
莉央
「実は綾瀬くんと買ったから」
迅
「……あー」
少し笑う。
「やっぱそういうことか」
綾瀬
「何が」
迅
「いや」
莉央を見る。
「じゃあさ」
「綾瀬のこと、別に好きじゃないのか?」
莉央
「え?」
少し動揺する。
「全然好きじゃないよ」
迅
「ん?」
「全然?」
莉央
「あ、いや」
「好きとか嫌いとかじゃないよ」
少し間。
迅
「……そっか」
軽く笑う。
「嫌いじゃないならよかった」
「じゃあ文化祭さ」
「三人で回らない?」
⸻
教室。
先生
「じゃあ三組はたこ焼きで決定な」
ざわつく。
「いいじゃん!」
「たこ焼きやりたかった!」
「じゃあリーダーどうする?」
「桜庭でいいじゃん」
「莉央ならできるって」
迷いはない。
莉央
「あー……うん、やるよ」
笑う。
迅
「お前、有志の機材管理もやるんだよな」
「大丈夫か?」
莉央
「あー大丈夫だよ!」
ほんの少しだけ
間。
でも
すぐに笑う。
⸻
廊下。
結城が並ぶ。
「今回はおいしい役やらないんだ、綾瀬くん」
「……雑用で悪いか?」
結城は少し笑う。
「ううん」
「むしろ綾瀬くんらしいな」
少しだけ間。
(今考えると)
(よくアンカーなんてやったな)
「この前のカンニングの件」
「普通に受け入れてくれてさ」
少し笑う。
「今、普通にやれてる」
「クラスとも」
「……あのやり方、正解だったよ」
少しだけ
綾瀬を見る。
「ありがとね、綾瀬くん」
綾瀬は目を逸らす。
「別に」
結城は
少しだけ笑う。
「そういうとこだよ」
それ以上は言わない。
そのまま歩いていく。
綾瀬は
少しだけ足を止める。
何も言わない。
また歩き出す。
⸻
文化祭前日。
校内は慌ただしい。
走る音。
呼び声。
どこも忙しい。
俺を除いて。
雑用は
本番しか仕事がない。
やることがない。
ふらつく。
図書室。
中を覗く。
ポスター。
「おすすめの本」
「しおり作り」
図書委員会の出し物。
透花がいる。
「居場所、見つかったか?」
「ずっと前から、そばにあったわ」
「それはよかった」
少し間。
透花
「そういえば、例の件はどうなったの」
綾瀬
「分からない」
「戻れるかもしれないし」
「また消えるかもしれない」
「今はこっちの生活が馴染んできてるよ」
透花は少しだけ笑う。
「無理してないなら」
「ここにいていいんじゃない?」
少し間。
「私、二日目担当だから」
「よかったら来て?」
「……暇でしょ?」
「否定はしない」
透花は少しだけ笑う。
⸻
文化祭当日。
校舎前。
屋台が並ぶ。
鉄板の音。
ソースの匂い。
人の流れ。
その中を
ゴミ袋を持って歩く。
「すみません、通ります」
雑用。
視線の先。
たこ焼きの看板
近くに
桜庭莉央。
「ごめん、今そっち行けない!」
「え、実行委員呼ばれてるんじゃないの?」
「あとで行くから大丈夫!」
鉄板の前に立つ。
透花やクラスメイトも
屋台の中にいる。
「莉央ちゃん!」
「この時間のシフト人足りてなくない!?」
「え、マジ……ちょっと待って」
「容器足りなそうなんだけど!」
「それ後ろにあるはず!」
「どこ!?」
「えっと……」
「これどうする!?」
「一回止めて!」
「焼きすぎてる!」
「返す人いない!」
「……やる」
ピックを取る。
声が重なる。
途切れない。
「大丈夫、大丈夫」
莉央が笑う。
手は止まっていない。
次の声が飛ぶ。
莉央は
そっちを見る。
また
別の声がかかる。
振り向く。
透花が
一瞬だけ
その様子を見る。
何も言わない。
――抱えてる。
綾瀬は
少しだけ目を細める。
透花の方へ向かう。
透花
「回ってない」
「人足りない」
少し間。
綾瀬
「呼べるか」
透花
「綾瀬くんが手伝ってくれればいいじゃない」
「暇でしょ?」
綾瀬
「俺はやらない」
「直接関与するつもりはない」
透花はため息。
スマホを取り出す。
「……今、暇?」
「来て」
数分後。
「ねーちゃん、急に呼ぶなよ」
瞭。
「だ、誰?」
「弟」
「は?」
「双子」
「ええ!?」
クラスメイト
「双子!?」
「似てなくない!?」
瞭
「失礼だな」
「で、なに手伝えばいいんだ?」
中を見る。
「……あー、なるほど」
「任せとけ」
そのまま入る。
「俺バイトでこういうのやってるし」
手際がいい。
流れが戻る。
「回ってきた!」
「助かったー!」
莉央が止まる。
透花を見る。
「……ありがと」
透花
「別に」
莉央はすぐに切り替える。
「ごめん、ちょっと抜ける!」
「実行委員の方呼ばれてるから!」
走って出ていく。
――これでいい。
綾瀬は視線を外す。
再び、雑用に戻る
少しして仕事が尽きた。
「……暇だな」
そういえば。
つむぎ、
バンド出るって言ってたな。
体育館の方へ向かう。
⸻
体育館前。
音が近づく。
ドラム。
ギター。
人の出入りが多い。
そのとき。
視界の端に
動く影。
つむぎ。
体育館の外で
行ったり来たりしている。
落ち着きがない。
一瞬だけ
足を止める。
「……どうした」
声をかける。
つむぎが振り返る。
「先輩……!」
息が荒い。
「機材が……」
言葉が詰まる。
「足りないんです……!」
「予備あるって聞いたんですけど」
「機材管理の担当が来なくて……」
「どこにあるか分からないんです!」
言葉が途切れる。
つむぎの視線が
何度も体育館の方へ向く。
綾瀬は
少しだけ黙る。
――機材。
頭の中で
単語だけが残る。
「お前、有志の機材管理もやるんだよな」
迅の声。
「大丈夫か?」
……桜庭。
屋台。
呼ばれて。
離れられていなかった。
焼いていた。
「莉央ちゃん、これどうする!?」
「後ろにあるはず!」
「どこ!?」
「ちょっと待って、今――」
別の声。
「実行委員、呼ばれてるって!」
「あとで行くから!」
また声。
「これ、誰が返すの!?」
「……やる」
――手が回ってなかった。
(機材の指示……桜庭か)
たぶん、それで合ってる。
綾瀬は
つむぎを見る。
「何が足りない」
つむぎが答える。
「アンプと……ケーブル……」
――足りてない数が、多い。
綾瀬は目を細める。
(……間に合うか?)
できる。
動けば。
つむぎも。
桜庭も。
――助けられる。
……本当に?
一瞬、
思考が止まる。
自分が動けば、
全部うまくいくのか。
屋台も。
機材も。
――そんな都合のいい話か。
ひとつ変えれば、
どこかがズレる。
見えていないだけで、
別の何かが崩れるかもしれない。
(……分からない)
だから。
余計なことは、しない。
綾瀬は
小さく息を吐く。
踏み出せば、
間に合うかもしれない。
――でも踏み出さない。
そう、決めている。
観測者は、踏み出さない。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
「直接関わらないで助ける」綾瀬のスタンス、
そしてその限界の入り口です。
後編もお楽しみに。
引き続きよろしくお願いします




