表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

「観測者は、揺らぎを観る。」

こんにちは。


夏休みらしく、少しだけイベント回です。

でも、ただ楽しいだけでは終わりません。

夏休み。



日曜は部活オフだ。





ベッドの上。


 


天井を見る。


 


 


……退屈だ。


 


 


大学生活を一度経験した俺にとって、


高校生の夏休みは


正直、不自由でしかない。


 


金がない。


 


行動範囲も狭い。


 


 


この不自由さを


「青春」とか言ってありがたがる連中の気が知れない。


 


 


自由は、


金でできている。


 


 


スマホを見る。


 


 


高一の頃に登録した


派遣のイベントバイト。


しばらく、シフト入れてなかったはずだ。


 


 


【紹介ボーナス 一万円】


 


 


……一万円?


 


 


 


俺は少し考える。


 


 


誘えるやつは、


 


 


あいつしかいないな。


 


 


 


 



 


部活の日。


 


 


体育館。


 


 


つむぎがシャトルを片付けている。


 


 


俺は声をかける。


 


 


「つむぎ」


 


 


「日曜暇か?」


 


 


つむぎが振り向く。


 


 


「誘ってるんですか?」


 


 


「違う」


 


 


「バイトだ」


 


 


「紹介ボーナス」


 


 


「半分やる」


 


 


つむぎ


 


 


「やります」


 


 


即答。


 


 


単純なやつだ。


 


 


つむぎがニヤニヤする。


 


 


「先輩」


 


 


「莉央さんいるのに」


 


 


「つむぎ誘うとかサイテーですね」


 


 


「だから」


 


 


「バイトだ」


 


 


「この前のも」


 


 


「デートじゃない」


 


 


つむぎ


 


 


「莉央さん言ってましたよ」


 


 


「デートだって」


 


 


 


……あれは莉央が勝手に言っただけだ。


 


 


 


「冗談だ」


 


 


「そういうのじゃない」


 


 


つむぎ


 


 


「ふーん」


 


 


疑いは晴れていないみたいだ。





まぁ、いいか。


こいつに本当のこと話しても通じない気がする…


 

 







バイト当日。


 


球場。


 


 


屋台。


 


 


鉄板の音。


 


油の匂い。


 


 


「よっ」


 


 


振り向く。


 


 


りょーさん。


 


 


接客がやたらうまい。


 


 


明るい。


 


 


みんなに慕われている。


 




ベテランの風格。




 


「久しぶりじゃん」


 


 


俺のことを覚えているらしい。


 


 


いいやつだな。


 


 


 


つむぎを紹介する。


 


 


「よろしくです!」





早速、注文が入る。


 


「ホットドッグ2つください!」


 


 


つむぎ


 


「ポテト2つですね!」


 


 


 


ポテトを揚げる。


 


 


しばらくして。


 


 


カップにポテトを盛る。


 


 


つむぎ


 


「お待たせしました!」


 


 


客に差し出す。


 


 



 


「……あの」


 


 


「ホットドッグなんですけど」


 


 


つむぎ


 


「えっ」


 


 


固まる。


 


 


「あっ」


 


 


「す、すみません!」


 


 


その瞬間。


 


 


横から


 


りょーさんがすっと出る。


 


 


「申し訳ないです!」


 


 


「今すぐお作りします」


 


 


にこっと笑う。


 


 


「ポテトはサービスでどうぞ」


 


 



 


「え、いいんですか?」


 


 


りょーさん


 


「揚げたてなんで」


 


 


「ぜひ」


 


 


客は少し笑う。


 


 


「じゃあいただきます」


 


 


 


つむぎは


 


完全に縮こまっている。


 


 


りょーさんは


 


何事もなかったように


 


ホットドッグを作り始めた。





つむぎ


 


「す、すみません……」




 


小声で。


 


 


「大丈夫」


 


 


「屋台は勢いだ」


 


りょーさんは


 


手を止めずに言う。


 


 


「最初はみんなやる」


 


 


「気にすんな」


 


 


 


客にホットドッグを渡す。


 


 


「お待たせしました!」


 


 



 


「ありがとう」


 


 


 


客が去る。






それから


 


 


りょーさんは


 


 


自然に


 


 


つむぎに仕事を教える。


 


 


「袋先並べとくと楽」


 


 


 


つむぎ


 


 


「なるほど!」


 


 


 


いつの間にか


 


 


普通に仲良くなっている。


 


 


 


相変わらず2人ともコミュ力高いな。


 


 



 


バイト終わり。


 


球場の外。


 


 


つむぎ


 


 


「先輩!」


 


 


「今日七夕祭りですよ!」


 


 


綾瀬


 


 


「混んでるだろ」


 


 


つむぎ


 


 


「実は」


 


 


「行ったことないんです」


 


 


綾瀬


 


 


「は?」


 


 


「仙台人だろ」


 


 


つむぎ


 


 


「テレビでは見たことあります!」


 


 


「でも」


 


 


「本物見たことないんです!」


 


 


少し間。


 


 


 


「……行きたいです」


上目遣い。


 


 


俺は


 


ため息をつく。


仕方ないな。


 


 


「少しだけだぞ」


 


 


つむぎ


 


 


「やった!」


 


 


 


 


 


アーケード。


 


 


七夕飾り。


 


 


吹き流しが揺れる。


 


 


 


つむぎ


 


 


「うわぁ!!」


 


 


「すごい!!」


 


 


 


完全に観光客。


 


 


 


そのとき。


 


向こうから


 


見覚えのある二人が歩いてくる。


 


……りょーさん。


 


その隣。


 


 


影山透花。


 


どういうことだ?




 


つむぎが気づく。


 


 


「りょーさーーん!!」


 


 


手をぶんぶん振る。


 


 


「おーーい!!」


 


 


 


……声でかい。


 


 


 


りょーさんが気づく。


 


 


「あれ?」


 


 


透花もこちらを見る。


 


 


 


少しして四人が合流する。


 


 


 


綾瀬


 


 


「りょーさん、なんで影山といるんですか?」


 


 


透花


 


 


「弟」


「来たいって言うから」


 


 


……え?


 


 


 


りょーさんが笑う。


 


 


「そうそう」


 


 


「双子なんだよね」


 


 


「影山 瞭」


 


 


 


つむぎ


 


 


「えっ」


 

「双子!?」

 


「ってことは先輩と同い年なんですか!?」


 

 



 


「まあな」


 


「よく年上扱いされてるんだよな」





綾瀬


 


「否定しろよ」


 



 


「最初はしてた」


 


少し笑う。


 


「でも」


 


「途中でめんどくさくなってやめた」


 




つむぎ


 


 


「詐欺じゃないですか」


 


 



 



「ベテランの雰囲気出てたか」


 


 


 


少し歩く。


 


 


瞭が透花を見る。


 


 


 


「それより」


 


 


「ねぇーちゃん」


 


 


「友達いたんだ」


 


 


透花


 


 


「……」


 


 



 


 


「しかも異性の」


「ちょっと安心したよ」



 


透花


 


 


「余計なお世話」


 


 


少し間。


 


 


透花


 


 


「あと」


 


 


「ねぇちゃんって呼ばないで」


 


 



 


 


「えー」


 


 


「いいじゃん」


 


 


透花


 


 


「嫌」


 


 



 


 


「冷たいな」


 


 


つむぎ


 


 


「仲いいですね!」


 


 


透花


 


 


「違う」


 


 


瞭が笑う。


 




 

アーケードを抜けた先に、


屋台の並ぶ公園。


 


 



 


 


「屋台で何か買うかー」


 


 


つむぎ


 


 


「全部食べたいです!」


 


 


綾瀬


 


 


「金ないだろ」


 


 


つむぎ


 


 


「今日働いたし」


 


 


「ボーナスもあとでもらえます!」


 


 


綾瀬


 


 


「もう使うのかよ」


 


 


少し間。


 


 


綾瀬


 


 


「そういえば」


 


 


「みんなに奢ってくれるんですよね」


 


 


「りょーさん」


 


 


つむぎ


 


 


「りょーさん、あざっす!」


 


 



 


 


「おい」


 


 


「都合よく呼ぶな」


 


 


少し笑う。


 


 


「……まあ」


 


 


「騙したのは俺だもんな」


 


 


 


そのやり取りを見て


 


 


透花が


 


 


楽しそうに笑う。


 


 


俺は少し意外に思った。




そのとき。


 


 



 


「……あ」


 


 


「でも」


 


 


「そろそろ花火だな」


 


 


綾瀬


 


「場所取んないと」


 


 


その瞬間。


 


 


ぐぅぅ。


 


 


つむぎの腹が鳴る。


 


 


少し沈黙。


 


 


つむぎ


 


「……」


 


 


綾瀬


 


「……」


 


 



 


「腹減ってんじゃん」


 


 


つむぎ


 


「だって!」


 


 


「お腹空いたんです!」


 


 



 


「じゃあ」


 


 


「俺ら屋台で買ってくるわ」


 


 


「二人は場所取っといてー」


 


 


つむぎ


 


「先輩たち頼みます!」


 


 


つむぎと瞭は


 




 


二人は屋台の方へ歩いていく。




残されたのは


 


 


俺と透花。


 


 


七夕飾りが


 


風で揺れている。


 


 


少し沈黙。


 


 


透花が


 


ぽつりと話しかける。


 


 


「さっき」


 


 


「楽しかった」


 


 


少し間。


 


 


「みんなといると」


 


 


「普通に楽しんでる私いる」


 


 


透花は


 


吹き流しを見上げる。


 


 


「でも」


 


 


「そのたびに思う」


 


 


「一人でいる私」


 


 


「これでいいのかなって」


 


 


俺は透花を見る。


 


 


透花は


 


ずっと一人でも平気なやつだと


 


思っていた。


 


 


透花は続ける。


 


 


「ときどき」


 


 


「誰かが近づいてくれることもある」


 


 


「でも」


 


 


「私が距離取っちゃう」


 


 


少し笑う。


 


 


「どの自分が」


 


 


「本当なのか」


 


 


「よく分からない」


 


 


少し間。


 


 


「どれも」


 


 


「好きじゃない」


 


 


俺は少し考える。


 


 


七夕の吹き流しが


 


ゆっくり揺れている。


 


 


「でも」


 


 


「どっちも」


 


 


「無理してないんだろ」


 


 


透花


 


「……?」


 


 


「一人でいるときも」


 


 


「みんなといるときも」


 


 


「そのときの自分は」


 


 


「ちゃんとそこにいる」


 


 


俺は


 


揺れる吹き流しを見る。


 


 


「居場所ってさ」


 


 


「場所っていうより」


 


 


「状態なんじゃないか」


 


 


透花


 


「状態?」


 


 


「無理なくいられるとか」


 


 


「落ち着くとか」


 


 


「そういうとき」


 


 


「そこが居場所になるんじゃないか」


 


 


風が吹く。


 


 


七夕飾りが


 


大きく揺れる。


 


 


少し沈黙。


 


 


透花は


 


吹き流しを見上げたまま


 


しばらく動かない。


 


 


指先が


 


そっと


 


裾をいじる。


 


 


「……」


 


 


何か言いかけて


 


やめる。


 


 


透花は


 


小さく笑った。


 


 


「……ずるいね」


 


 


綾瀬


 


「何が」


 


 


透花


 


少し間。


 


 


「そういうこと」


 


 


「平気で言うところ」


 


 


視線を


 


ゆっくり戻す。


 


 


「綾瀬くんって」


 


 


「やっぱり」


 


 


「ズレてるよね」


 


 


そのとき。


 


 


遠くで


 


 


ドン。


 


 


夜空に


 


花火が開く。


 


 


透花は


 


少しだけ


 


困ったように笑った。


 


 


ドン。


 


 


また


 


花火が上がる。


 


 


少し離れたところで


 


つむぎの声が聞こえる。


 


 


「先輩ー!」


 


 


「焼きそば買いました!」


 


 



 


「こぼすなよー」


 


 


「ってかお前ら場所取ってねぇーじゃん」


 


 


俺は


 


空を見る。


 


 


花火。


 


 


そして


 


揺れる七夕飾り。


 


 


観測者は、


 


 


揺らぎを観る。


今回も読んでいただきありがとうございます。


賑やかな時間だからこそ、ふと自分が揺らぐ。

今回の話は、そんな感覚を書きたかった回でした。

七夕の吹き流しと一緒に、心の揺れも感じてもらえたら嬉しいです。


ここまで物語を追っていただいている方、とても嬉しいです。モチベになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ