表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/51

最終話 無能な婚約者の尻拭いから始まった、私の最高に幸せな人生

 

 地下聖堂での誓いの儀式を終え、私たちは専用寝室へと移動していた。


 重厚な扉が開かれると、そこには今夜のために用意された、特注のキングサイズベッドが鎮座している。


 大人4人が並んで寝ても余裕があるほどの、規格外の大きさだ。


 天蓋からは薄絹のカーテンが垂れ下がり、部屋の四隅には甘い香りの香油が焚かれている。


 バタン、と扉が閉まる音がやけに大きく響いた。


 4人きりになった瞬間、部屋の空気が変わる。

 甘く、重く、そして少し危険な熱を帯びた空気に。


「……さて」


 イグニス殿下が、首元のクラバットを緩めながら私を見た。


 その紅の瞳は、理知的な光を消し、獲物を狙う肉食獣のように妖しく輝いている。


「誓いは済ませた。……ここからは、夫婦の時間だ」


「ああ。待ちくたびれたぞ」


 テオ殿下もジャケットを脱ぎ捨て、野性的な笑みを浮かべて近づいてくる。


 シャツ越しでも分かる鍛え上げられた筋肉が、熱を孕んでいるのが伝わってくるようだ。


「レイラさん。……覚悟はできていますよね?」


 ウィル殿下が、音もなく背後に回り込み、私の腰に腕を回した。

 耳元で甘く囁かれる声に、背筋がゾクリとする。


 逃げ場はない。

 私はゴクリと唾を飲み込んだ。


「……あの、皆様」


「「「俺が一番だ」」」


 3人の声が、綺麗に重なった。


 ……やっぱり、そうなりますよね。


 一瞬の沈黙の後、火花散る舌戦が始まった。


「兄上、長幼の序は恋愛には適用されませんよ。レディファーストならぬ、弟ファーストです。……僕の研究では、女性は年下に甘えられると母性本能が刺激されてリラックスできるというデータがあります」


「寝言は寝て言え。体力勝負なら俺が一番だ。レイラは疲れているんだぞ? 俺の腕枕なら一瞬で熟睡できる。……朝まで満足させられるのも俺しかいない」


「黙れ。王統の維持という意味でも、私が最初であるべきだ。……それに、レイラが一番落ち着くのは、私の論理的な会話と適度なスキンシップだ」


 睨み合う3人。


 今にも決闘が始まりそうな殺伐とした空気だが、その原因が「誰が最初に私の隣で寝るか」だというのだから、頭が痛い。


 このままでは、初夜どころか徹夜で議論になりかねない。


「……静粛に!」


 私がパンッ! と手を叩いて声を上げると、3人はピタリと止まり、私を見た。


「今日は、特別な日です。誰か一人を選んで、他の二人を悲しませるようなことはしたくありません」


「……では、どうするのだ?」


 イグニス殿下が怪訝そうに眉を寄せる。


 私は深呼吸をして、広大なベッドを指差した。


「全員で寝ます」


「……は?」


「私が真ん中です。……右にイグニス殿下、左にテオ殿下。そしてウィル殿下は……」


 私はウィル殿下の手を取った。


「私の抱き枕になってください」


 私の提案に、3人は目を丸くした。

 しばらくの沈黙の後、彼らは顔を見合わせ、そして同時に吹き出した。


「……ふっ、くくっ! 強欲だな、私の補佐官は」


「全員まとめて愛してやるってことか。……望むところだ」


「ふふっ。抱き枕ですか……心音まで独占できる、最高の特等席ですねぇ」


 こうして、奇妙で、そして世界一幸せな「初夜」が始まった。


 広いはずのベッドなのに、私たちは中央に身を寄せ合った。


 右からはイグニス殿下の知的な香り。


 繋がれた指先から、彼の不器用な優しさが伝わってくる。


 左からはテオ殿下の逞しい体温。


 たくましい腕が私の背中を支え、絶対的な安心感で包み込んでくれる。


 そして胸元には、ウィル殿下の柔らかい髪の感触。


 彼が私の服をギュッと掴んで、猫のように甘えてくるのが愛おしい。


 狭苦しいはずなのに、不思議と落ち着く。


「……愛しているぞ、レイラ」


「俺もだ。一生守り抜く」


「大好きですよ。……永遠に離しません」


 四方八方から降ってくる愛の言葉と、熱い口付け。


 イグニス殿下が、所有権を主張するように私の唇を塞ぐ。


 テオ殿下も負けじと、反対側から深く、情熱的なキスを落とす。


 そしてウィル殿下は、二人の隙をついて私の首筋に、甘く吸い付くような独占欲の痕を残す。


「んっ……!」


 雨のように降り注ぐ3人分の愛情に、私は溺れそうになる。


「……私も、愛しています」


 私が呟くと、3人は満足げに微笑み、私をさらに強く抱きしめた。


 私は3人の体温に包まれながら、泥のように深い、幸せな眠りに落ちていった。





 ◇◆◇





 ――それから、2年の月日が流れた。


 王国は今、かつてないほどの黄金期を迎えていた。


 国王となったイグニスの元、国政は盤石となり、経済は飛躍的に発展した。


 軍事はテオ将軍が鉄壁の守りを敷き、技術開発はウィル魔導長官が次々と新発明を生み出し、周辺諸国も手出しできない強国となっている。


 そして、そのすべてを統括するのが、私だ。


「レイラ様! 財務省から決済の催促です!」


「総括! 南部の開拓事業についてトラブルが!」


「隣国の大使が面会を求めています!」


「レイラ様、本日のスケジュール確認を!」


 王宮の廊下を、私は風のように歩いていた。


 すれ違う文官たちが、敬意と畏怖を込めて頭を下げ、道を譲る。


「国を動かしているのは国王だが、国王を動かしているのは彼女だ」


 今の私は、まことしやかにそう囁かれ、実質的な「女帝」と呼ばれているらしい。……不本意だけれど。


「……まったく。みんな、私を頼りすぎです」


 ため息をつきながら執務室の扉を開けると、そこには見慣れた、しかし私にとって一番安らぐ光景があった。


 書類の山と格闘するイグニス。


 演習計画を練りながら剣を磨くテオ。


 新しい魔道具をいじりながらブツブツ言っているウィル。


 国のトップ3が、それぞれの執務室があるにも関わらず、相変わらず私の執務室に入り浸っているのだ。


「おかえり、レイラ。……遅かったな」


 イグニスが顔を上げ、甘い笑みを浮かべた。


「寂しくて死ぬところだったぞ。……補給(キス)が必要だ」


「仕事してください。……それと、テオ。机の上に足を乗せないでください」


「おう、悪い悪い。……お前が帰ってきたらマッサージしてもらうために、足を休めていたんだよ」


「ウィル、実験は研究棟でやってくださいと何度言えば……」


「えー。レイラさんの近くじゃないと、インスピレーションが湧かないんです。……ほら、これ新作の『遠隔ハグ魔道具』ですよ」


 成長しない人たちだ。


 でも、その表情は2年前よりもずっと穏やかで、自信と幸せに満ちている。


 コンコン。


 控えめなノックの後、扉が開かれた。


 入ってきたのは、この国の宰相に就任した、セドリック()()()()()だ。


「……失礼します。陛下、および皆様。そろそろ御前会議の時間ですが」


 お兄ちゃんは部屋の惨状(主に3人が私に群がろうとしている様子)を見て、やれやれと肩をすくめた。


「相変わらずですね。……公務中にイチャつくのは禁止だと、何度申し上げれば分かるのですか。国民の手本となるべき方々が」


「固いことを言うな、宰相。……これは『エネルギー補給』だ」


「セド兄、少しくらい見逃してくれ! レイラは忙しくて中々甘えられないんだ」


「そうです。お義兄さん。レイラさん成分が足りないと、国政に支障が出ます」


 3人が悪びれもせずに言い返す。


 お兄ちゃんはこめかみを押さえ、懐から小瓶を取り出した。


「……レイラ。お前も、あまり彼らを甘やかさないように」


「善処します。……その手にあるのは胃薬ですか?」


「……ああ。最近、消費量が増えてね」


 お兄ちゃんは苦笑し、薬を飲み込んだ。


 宰相として、この奔放な王族たちの尻拭い……いえ、サポートを一手に引き受けてくれている。


 私にとっては、変わらず最強の味方であり、頼れる家族だ。


「さあ、行きますよ皆様。……世界が私たちを待っています」


 私が手を叩くと、3人の男たちが一斉に立ち上がった。


 その背中は大きく、頼もしく、そして私のことが大好きだと言わんばかりに輝いている。


 私は、窓の外を見た。


 澄み渡る青空が、私の心を表しているかのようだった。


 無能な婚約者の尻拭いに追われ、絶望していた私。


「スローライフを送りたい」と願って、実家に帰ろうとしたあの日。


 もし、あの時。


 彼らに捕まらずに、本当に帰っていたら。


 きっと私は、静かで、穏やかで……そして、退屈な人生を送っていただろう。


 でも、私はここにいる。


 世界で一番忙しくて、世界で一番騒がしくて。


 そして、世界で一番愛されている、この場所で。


「レイラ、行くぞ」


 イグニスが、私に手を差し出した。


 テオとウィルも、両脇を固める。


 お兄ちゃんが、扉を開けて待っている。


 私は満面の笑みで、彼の手を取った。


「はい! ……喜んで!」


 私の新しい人生は、まだ始まったばかりだ。


 これからもきっと、彼らの尻拭いをし、彼らに愛され、この国を動かしていくのだろう。


 これは、私が選んだ、最高に幸せな「ハッピーエンド」だ。


これにて、完結となります!

(ですが、もう1話だけ書きたい話がありますので後述します)


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

ブクマ、星評価、リアクションなどの応援も非常に励みになりました!

2週間という短い期間ではありましたが、お付き合いいただき、感謝しかありません。


この作品は元々短編で、2名の方から連載版が読みたいとリクエストをいただき、早くお届けしたい!と血眼(半ば狂気w)になって書き上げたものです。


当初は、そのリクエストを下さった方々に満足いくようにお届け出来れば良いな〜という軽い気持ちで連載を開始したのですが、

予想を上回り、多くの方に応援、お読みいただき、本当に嬉しい限りです(^^)!


リクエストをして下さったお二方も、本当にありがとうございました!

お陰で、この物語が誕生しました。



この物語が少しでも皆様の記憶に残れば、作者としてこれほど嬉しいことはありません。


ラストについては皆様、それぞれ思うところがあるとは思いますが、これが彼女(彼ら)の選んだ道なんだな、と思っていただければと思います!

(感想欄を閉じて、考察や議論の場を奪ってしまい、ごめんなさい)


ここまでご覧いただき、本当にありがとうございました!


皆様とともに駆け抜けたこの2週間は、私にとっての誇りです!

これで、明日からも頑張れそうです。

──────────────────


さて、もう1話だけ〜のくだりですが。

これは正直、公開するか、やめるか、め〜っちゃくちゃ!迷いました!


本編ではノイズになると判断し、ごっそり削りました。

悩みに悩んだ末、この最終話の後に短くまとめて公開することに決めました。


内容としては、セドリックの「独白」です。


本当にセドリックが大好きで、彼のことなら何でもいいから、もう少しだけ深く知りたい!

という方のみ、お読みいただければと思います。


短いですし、物語の根幹を揺るがすような話では全くありませんので、読まずにここで終わらせても、なんの影響もございません。


セドリックに対して、【聖人】のようなイメージを持っていて、それを崩したくない方は、

どうか【この最終話】で、この物語は完結ということにしてそっと閉じていただければと思います。


勢いでページをめくってしまった、という事故を防ぐため、このあと、少し時間を置いてその話を公開し、本当に完結、とさせていただきます。


ご興味のある方は、ブクマは『まだ』外さずにいていただけると、更新通知が飛ぶかと思います!(^-^)

──────────────────


それと、私の今後の活動について、少しお話がございますので、フォロワー様はこの後(1/31中)更新する活動報告をご覧になっていただけると嬉しく思います!(о´∀`о)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ