第48話 誓いの儀式の準備。……3人が内緒で作っていた「最高傑作」のドレスに、言葉を失いました
貴族院との戦いを制し、私たちの「特別配偶者」としての地位は公認された。
あとは、誓いを立てるだけだ。
法的な結婚式ではない。王家の地下聖堂で行う、私たち4人だけの「魂の契約」。
その準備のために、私はセドリック義兄様に連れられ、王室御用達の衣装部屋を訪れていた。
「……義兄様。今日は殿下たちは?」
「彼らは公務で忙しいそうだよ」
義兄様は涼しい顔で答えたが、どこか楽しげだ。
3人の王子が、一生に一度のドレス選びに来ないなんて珍しい。以前の夜会でのドレス選びの時のように、また「俺の色を着ろ」と揉めると思っていたのだが。
「さあ、レイラ様。こちらへ」
王都随一のデザイナーであるマダムが、恭しく奥の部屋へと案内してくれた。
重厚なカーテンが開かれる。
そこにあったのは、一着のドレスだった。
「……え?」
私は息を呑んだ。
それは、純白のドレスだった。
だが、ただの白ではない。
シルクの生地には、光の加減で色を変える特殊な糸で刺繍が施されていた。
胸元には、イグニス殿下を象徴する深紅のルビー。
腰には、テオ殿下の瞳の色に良く似た金色のトパーズ。
そして裾には、ウィル殿下を思わせる深い碧のサファイア。
3つの色が、互いに主張しすぎることなく、絶妙なバランスで調和し、純白のドレスを彩っている。
まるで、夜明けの空のように美しく、そして力強い。
「……綺麗」
「でしょう? これは、3人の殿下方が共同でデザインされたものです」
マダムが誇らしげに言った。
「デザイン……彼らが?」
「ええ。極秘に進めておられました。『レイラに一番似合う色』を巡って、最初は喧嘩ばかりでしたが……」
マダムは苦笑した。
「ある日、ウィル殿下が仰ったのです。『僕たちの色は、混ぜ合わせれば光になる』と。……そこからは早かったですよ。イグニス殿下が最高級の素材を集め、テオ殿下が動きやすさを監修し、ウィル殿下が魔術的な装飾を施して……」
私は、ドレスにそっと触れた。
ただ綺麗なだけじゃない。
袖口は柔らかく、長時間着ても疲れないように軽量化されている。
私のことを一番に考え、3人が知恵と技術を持ち寄って作り上げた、世界に一つだけの「ウェディングドレス」だ。
「……彼ららしいな」
義兄様が、目を細めて言った。
「独占欲の塊のような殿下たちが、お前のために手を取り合ったんだ。……このドレスは、とんでもない輝きを放っているよ」
「義兄様……」
「着てみなさい。……きっと、似合う」
試着室でドレスを身に纏い、鏡の前に立つ。
そこに映っていたのは、かつて「地味でつまらない」と言われた公爵令嬢ではなかった。
3人の愛を一身に受け、自信に満ちた一人の女性の姿だった。
◇◆◇
その夜。
私は王宮の自室で、最後の一人の時間を過ごしていた。
ドレスを見た時の感動が、まだ胸に残っている。
明日になれば、私は彼らと誓いを立て、名実ともに「パートナー」となる。
もう、後戻りはできない。
不安がないと言えば嘘になる。
でも、それ以上に……。
コンコン。
窓ガラスが叩かれる音がした。
驚いてカーテンを開けると、バルコニーに3人の人影があった。
「……皆様? こんな夜更けに……しかも何故バルコニー?」
「いくら俺らでも、女子寮の正面玄関からこの時間に入るのはちょっとな」
テオ殿下が、バツが悪そうに頭をかいた。
「明日のことを考えたら、じっとしていられなくて。……顔を見に来た」
イグニス殿下も、ウィル殿下も、どこかそわそわしている。
国のトップたちが、夜這い同然に忍んでくるなんて。
私は吹き出してしまった。
「……ふふっ。私もです」
私は窓を開け、彼らを招き入れた。
「どうぞ。……お礼も言いたかったので」
私の部屋に、大の男が3人。なんだか、笑える光景だ。
「ドレス、見ました。……素敵でした」
私が言うと、3人はパァっと顔を輝かせた。
「そうか。サイズは合ったか?」
「動きにくくはなかったか? 精一杯調整はしたんだが」
「魔術付与も完璧ですよ。着ているだけで肌がツヤツヤになります」
口々に尋ねてくる彼らの顔は、まるで褒められるのを待つ子供のようだ。
「はい。……最高でした。皆様の想いが、伝わってきました」
私は3人を見渡した。
赤、金、青。
バラバラだった色が、私という存在を通して一つに繋がった。
それが、あのドレスの意味なのだ。
「……レイラ」
イグニス殿下が、真剣な表情で私の手を取った。
「明日の儀式が終われば、お前はもう逃げられない。……私たち3人の重すぎる愛を、一生背負うことになる」
「そうだぞ。覚悟はできてるか?」
テオ殿下が問う。
「後悔しても、離しませんよ?」
ウィル殿下が囁く。
私は、彼らの手を握り返した。
「……望むところです」
「私が逃げ出すような弱い女なら、とっくに皆様の補佐官なんて辞めています」
3人が、嬉しそうに笑った。
日付が変わる頃。
イグニス殿下が立ち上がった。
「……そろそろ行こう。明日に響く。顔を見たら安心した」
「だな。おやすみ、レイラ」
「また明日。……祭壇の前で会いましょう。レイラさん」
彼らは私の額や頬に、おやすみのキスを落として帰っていった。
部屋に残ったのは、微かな温もりと、静寂。
でも、もう寂しくはなかった。
明日、私は永遠の愛を誓うから。




