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第47話 「前例がない」と騒ぐ貴族院の古狸たちを、物理と論理と裏情報で黙らせました


 王位継承の儀での私の「爆弾発言」から数日。


 案の定、王宮は蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。


 問題となっているのは、私が提案し、国王陛下が承認した「事実婚(特別配偶者)」という制度だ。


 これに猛反発したのが、伝統と形式を重んじる「貴族院」の長老たちである。


 そして今日、私は彼らを説得──いえ、鎮圧するために、貴族院の円卓会議場に来ていた。


「認めん! 断じて認めんぞ!」


 入室するなり、議長席のガメル公爵が机を叩いて怒鳴った。


 白髭を蓄えた、いかにも頑固そうな老人だ。


「王妃を置かぬなど、国の恥だ! それに、一人の女が3人の殿下を侍らせるなど、不貞極まりない!」


 円卓を囲む20人の有力貴族たちも、口々に同調する。


 私はため息をつき、静かに席に着いた。


 私の後ろには、イグニス殿下、テオ殿下、ウィル殿下。そして、セドリック義兄様が控えている。


「……ガメル公爵。不貞とは聞き捨てなりませんね」


 私は書類を広げた。


「私はすでに『王室総括補佐官』として、王家全体に仕える身です。法的には独身であり、特定の誰かと婚姻を結んでいるわけではありません」


「それが問題だと言っている! 実質的な妻として振る舞うつもりだろう! ……一番の問題は『血統』だ!」


 公爵が叫ぶ。


「正式な婚姻関係がない状態で子ができた時、誰の種か分からぬようでは、王位継承権を与えられん! 王家の血筋を濁すつもりか!」


 なるほど。そこが一番の懸念点か。


 私はウィル殿下に目配せをした。


「ご安心ください、公爵閣下」


 ウィル殿下が、にこやかに進み出た。手には水晶のような魔道具を持っている。


「僕が開発した新型の『血統鑑定器』です。……わずか一滴の血液で、父親の魔力波形を99.9%の精度で特定できます」


「なっ……」


「すでに王立研究所での臨床試験も済んでいます。……科学的、魔術的に、血統の証明は可能です。文句ありますか?」


 ウィル殿下の冷ややかな笑顔に、老人たちがたじろぐ。


 論理の壁が一つ崩れた。


「だ、だが! 対外的な面子はどうする! 正式な王妃がいないなど、他国に示しがつかん!」


「それについても手配済みだ」


 今度は、イグニス殿下が口を開いた。


「先日、東方諸国のギリアム宰相、および周辺3カ国の王から親書が届いている」


 イグニス殿下は、外交文書の束をテーブルに放り投げた。


「『レイラ・ウェリントン嬢の特別配偶者としての地位を歓迎する。彼女こそが、我が国との友好の架け橋である』とな」


「な……!?」


「彼らは『王妃』という肩書きではなく、レイラという『個』を評価しているのだ。……形式だけの王妃など、外交の邪魔になるだけだ」


 王太子としての圧倒的な威圧感。


 外交カードを切られ、老人たちはぐうの音も出ない。


「し、しかし……! 前例がない! 伝統が……!」


 最後は感情論だ。


 ガメル公爵が顔を真っ赤にして喚く。


「こんなふしだらな女に、国母の資格などない! 即刻、王宮から追放すべきだ!」


 その言葉が、引き金になった。


 ダンッ!!


 凄まじい音がして、円卓にヒビが入った。


 テオ殿下が、拳を叩きつけたのだ。


「……おい、ジジイ」


 テオ殿下の目が据わっている。琥珀色の瞳が、獰猛な獣のように細められた。


「今、俺たちのレイラを何と呼んだ?」


「ひっ……!」


「ふしだら? ……あいつがどれだけ身を削ってこの国を支えているか、お前らの節穴の目には見えんのか?」


 彼は剣の柄に手をかけた。抜いてはいないが、それだけで部屋の温度が下がる。


「レイラを侮辱するなら、ここがお前らの墓場になるぞ。……覚悟はいいか?」


 物理的な死の恐怖。


 老人たちは震え上がり、椅子から転げ落ちそうになった。


「ま、待て! 話し合おう!」


「気に入りませんね。妹を悪く言われたままなのは」


 最後に、セドリック義兄様が静かに一歩踏み出した。


 手には、分厚い黒革のファイルを持っている。


「ガメル公爵。……貴方の領地で昨年行われた『河川工事』の入札記録ですが、随分と不透明な金の流れがありますね」


「なっ……!?」


「こちらの伯爵もです。……息子の賭博の借金を、公金で補填していませんか?」


 義兄様は、淡々と、まるで今日の天気を読み上げるように、その場にいる貴族たちの「裏の顔」を暴露し始めた。


 監査役としての権限をフル活用した、完璧な身辺調査。


「この資料、司法省に提出してもよろしいのですが……。レイラの方針に賛同していただけるなら、私の胸にしまっておきましょう」


 彼は眼鏡の奥で、氷のように冷たく微笑んだ。


「……さあ、どうされますか?」


 全方位からの集中砲火を受け、貴族院の長老たちは白旗を上げた。


「……み、認めよう! 特例措置として、レイラ嬢の地位を承認する!」


 ガメル公爵が絞り出すように宣言した瞬間、会議は終了した。


「お疲れ様です、皆様」


 私は席を立ち、4人の男たちに微笑みかけた。


「鮮やかな連携でした。……これで、私の立場は盤石ですね」


「ああ。もう誰にも文句は言わせない」


 イグニス殿下が満足げに頷く。


 こうして、私たちは最大の政治的障壁を乗り越えた。


 あとは、私たちが誓いを立てるだけだ。


 法にも、常識にも縛られない、私たちだけの結婚式で。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


本編は残り3話、明日で完結となります。


朝7時台に1話、9時以降に本編残り2話+短めのとある1話を投稿いたします。


最後までお付き合いいただければ幸いです!

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