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第46話 王位継承の儀。「私は王妃にはなりません。ですが、彼らの隣に他の女性が立つことも許可しません」

 

 王都は朝から、「王位継承の儀」の祝砲で湧き立っていた。


 王宮の大広間には、国内外の貴族、王族、そして高官たちが集結している。


 その最奥の玉座の前。


 正装に身を包んだイグニス殿下、テオ殿下、ウィル殿下の3人が並び、その前に国王陛下が立っていた。


 そして、私は彼らのさらに前、広間の中央に進み出ていた。


「……レイラ・ウェリントン」


 陛下の厳かな声が響く。


「……次期国王となるイグニス、騎士団長テオ、ウィル。……この中から、誰を伴侶として選ぶ?」


 会場中の視線が、私に突き刺さる。


 3人の王子は、何も言わない。


 ただ、信じ切った瞳で、私の背中を見つめている。


 彼らは知っているのだ。私が、彼らを裏切るような選択をしないことを。


 私は深く息を吸い、顔を上げた。


「……陛下。恐れながら、申し上げます」


 私の声は、広間の隅々まで響き渡った。


「私は、どなたとも婚約いたしません」


「……なっ!?」


 会場がどよめいた。


 貴族たちが顔を見合わせ、ヒソヒソと囁き合う。


「選ばないだと?」


「王命に背く気か?」


「やはり、責任の重さに逃げ出したか」


 陛下が眉をひそめた。


「……それが答えか? ならば、イグニスには他国の姫を……」


「いいえ。それも許可いたしません」


 私は陛下の言葉を遮った。


「許可しない、だと……?」


「はい。イグニス殿下にも、テオ殿下にも、ウィル殿下にも。……私以外の女性が隣に立つことを、私は断固として認めません」


 会場のざわめきが、困惑から驚愕へと変わる。


 自分は結婚しない。でも、彼らが他の人と結婚するのも許さない。


 それは、ただの独占欲であり、常識外れの我が儘だ。


「……理由を聞こうか」


 陛下の目が鋭くなった。


 私は、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。


 昨夜、セドリック義兄様と推敲を重ねた、私の「切り札」だ。


「現在、私は『王室総括補佐官』として、国政、軍事、研究の全てに関与しております。……彼ら3人のスケジュール管理、健康管理、精神的ケアに至るまで、全て私が掌握しております」


 私は淡々と事実を並べた。


「もし、ここに新たな『王妃』や『妻』が入ればどうなるでしょう? ……公務の優先順位に私情が挟まれ、指揮系統が混乱し、彼らのパフォーマンスは著しく低下するでしょう」


 私は3人を振り返った。


「イグニス殿下は、私がいなければ仕事に集中できません。テオ殿下は、私以外の指示では前線で暴走する可能性があります。ウィル殿下は……私以外が研究室に入れば、精神的に相当不安定になるでしょう」


 3人が「その通りだ」「否定できん」と力強く頷く。


「つまり、彼らのパートナーを務められるのは、能力・適性・信頼関係において、世界で私一人です」


「……だが、王妃がいなければ国母としての務めはどうする? 外交儀礼や、夜会の主催は?」


「私がやります」


 私は即答した。


「補佐官の権限を拡大し、王妃の公務も全て私が代行します。……実務能力において、他国の姫君に劣るつもりはありません」


「……世継ぎはどうする? 未婚のままでは子は成せぬぞ」


 最大の懸念事項。


 だが、それに対する答えも用意してある。


「『事実婚』の法制化を提案します」


 私は宣言した。


「婚姻届という紙切れがなくとも、王家が認めたパートナーとの間に生まれた子は、正当な継承権を持つ。……そう法を改正すれば済む話です」


 分かっている。とんでもない暴論だ。


 けれど、私はこれを正論と信じる。


「な……っ!?」


「前例がない? ならば、今日がその最初の日です」


 私は陛下の目を真っ直ぐに見据えた。


 暴論を正論にするんだ。


「私は、彼らの『妻』という枠には収まりきれません。……私は、彼らの『心臓』であり、『頭脳』であり、そして『帰る場所』なのです」


 私は両手を広げた。


「私は誰も選びません。……その代わり、彼ら3人の人生を、私が丸ごと背負います。国ごと、彼らを愛し抜く覚悟です」


 シンと静まり返った会場。


 その沈黙を破ったのは、高らかな笑い声だった。


「くっ……はははひ!」


 イグニス殿下が、腹を抱えて笑っていた。


「聞いたか、父上。……『丸ごと背負う』だと。欲張りにも程がある」


 彼は私の隣に来て、腰を抱いた。


「だが、それがいい。……誰か一人のものになるような女なら、ここまで惚れていない」


「俺もだ。……法なんて関係ない。俺の魂は、とっくにお前のものだからな」


 テオ殿下が、反対側の手を取る。


「僕も異存ありません。……貴女が管理してくれるなら、どんな肩書きでも構いませんよ」


 ウィル殿下が、背後から寄り添う。


 3人の王子が、私の提案を――この非常識で、傲慢で、そして愛に溢れた「第4の選択」を、全面的に支持したのだ。


 国王陛下は、呆れたように天を仰いだ。


「……やれやれ。息子たちが揃ってこれでは、私が何を言っても無駄か」


 陛下は、苦笑しながら玉座から立ち上がった。


「よかろう! レイラ・ウェリントン。……お前を、王家公認の『特別配偶者パートナー』として認める! ただし、務めは必ず果たしてもらうぞ」


 陛下は宣言した。


「御意に」


 私は深く頭を下げた。


「形式などどうでもいい。……その手腕で、我が息子たちとこの国を、未来永劫支えてみせよ!」


 ワァァァッ……!!


 会場が、割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。


 私は胸を撫で下ろした。


 勝った。


 この国の常識をねじ伏せ、3人全員と一緒にいる未来を勝ち取ったのだ。


「……やったな、レイラ」


 イグニス殿下が、耳元で囁く。


「これで、お前は名実ともに俺たちのものだ」


「逆ですよ、殿下。……皆様が、私のものになったんです」


 私が言い返すと、3人は幸せそうに目を細めた。


 こうして、私の「婚約者選定」は、誰も予想しなかった「事実婚ハーレム」という形で幕を閉じた。


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