表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/51

第45話 期限前夜。悩みすぎてパンク寸前の私を救ってくれたのは、やっぱり「あの人」でした

 

 3人の王子による「本気の求愛」が終わり、運命の期限日である「王位継承の儀」が明日に迫っていた。


 イグニス殿下が正式に次期国王として指名される、国にとって最も重要な式典。


 そこで、彼の隣に立つ「未来の王妃」を発表しなければならない。




 王太子執務室。


 私は山積みの書類に向かいながら、重いため息をついた。


「……はぁ」


 ペンが進まない。


「……レイラ。手が止まっているよ」


 ハッとして顔を上げると、義兄様が心配そうに私を覗き込んでいた。


「義兄様……。申し訳ありません、すぐに片付けます」


「いいや。……今日はもう終わりにしよう」


 彼は私の手からペンを取り上げ、デスクに置いた。


「顔色が悪い。……根を詰めすぎだ」


 彼は私を立ち上がらせ、コートを羽織らせてくれた。


「少し、風に当たりに行こうか。……今の殿下たちには聞かせられない話もあるだろう?」




 ◇◆◇




 私たちは、王宮の裏手にある静かな庭園を歩いた。


 義兄様は何も聞かず、ただ黙って私の歩調に合わせて歩いてくれる。


 その沈黙が、今の私には心地よかった。


「……義兄様」


「ん?」


「私……どうすればいいのか、分からなくなってしまいました」


 私は立ち止まり、ポツリと漏らした。


「皆様のことは大切です。……でも、誰か一人なんて選べません。選んでしまったら、今ある幸せが壊れてしまいそうで」


 私は、自分が欲張りで、優柔不断な人間に思えて、自己嫌悪に陥りそうだった。


 義兄様は立ち止まり、眼鏡の位置を直しながら静かに言った。


「……お前は、優しいな」


「優しくなんてありません。……ただの臆病者です」


「臆病でいいじゃないか。……誰かを傷つけたくないと思うのは、優しい証だよ」


 彼はベンチに腰掛け、隣をポンと叩いた。


 私が座ると、彼は遠くの空を見つめながら語り始めた。


「俺から見れば……あの方々は、不器用で、重すぎる」


 彼は苦笑した。


「イグニス殿下は仕事を押し付けるし、テオ殿下は暑苦しいし、ウィル殿下は油断ならない。……正直、兄としてはお前を誰にもやりたくないのが本音だ」


「ふふっ……」


 義兄様の毒舌に、少しだけ心が軽くなる。


「だが……あの方々が、本気でお前を愛していることだけは認める」


 彼は真面目な顔で私を見た。


「誰を選んでも、お前は幸せになれるだろう。……そして、誰を選んでも、あの方々は選ばれなかったことを恨んだりしないはずだよ」


「……そうでしょうか」


「ああ。……惚れた人の幸せを願えないほど、彼らは狭量な男じゃない」


 義兄様の言葉には、確信があった。


 男同士だからこそ分かる、信頼のようなものだろうか。


「だから、レイラ。……周りのことなんて気にするな」


 彼は私の頭に手を置き、優しく撫でた。


「お前が一番『心地いい』と思う場所を選べばいい。……常識とか、体裁とか、そんなものは後からどうにでもなる」


「……どうにでも、なりますか?」


「俺がいる」


 彼は微笑んだ。


「お前がどんな選択をしても、俺が全力でサポートするよ。……たとえお前が『全員振って実家に帰る』と言い出しても、全力で守ってやるさ。俺は、お兄ちゃんだからな」


 その言葉を聞いた瞬間、張り詰めていた糸が切れた気がした。


 そうだ。私には、この人がいる。


 どんな時でも味方でいてくれる、最強の兄が。


「……ありがとうございます、義兄様」


 私は涙をこらえて微笑んだ。


「私……もう少しだけ、足掻いてみます。……誰も傷つけず、誰も不幸にならない、そんな欲張りな『正解』がないか」


「……いいね。それ」


 義兄様は、眩しそうに目を細めた。


 その瞳の奥に、ほんの一瞬だけ、切なげな色が過った気がした。


「さて……そろそろ戻ろうか」


 義兄様は立ち上がり、手を差し出した。


「はい」


 私はその手を取り、しっかりと握り返した。


 迷いはまだある。


 でも、もう怖くはなかった。


 明日の「王位継承の儀」。


 私は、私なりの「答え」を出す。


「ありがと……」


「気にするな」


 ぐしゃぐしゃと、荒々しく頭を撫でられる。


「ちょ……ちょっと……!」


「ははは」

 

 そう笑う横顔に、心の底から癒された。


 本当に、ありがとう、私の大好きなお兄ちゃん。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ