表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/51

第38話 隣国の軍事国家、動く。……私の平和な日常を壊すなら、徹底的にやり返しますよ?


 その日の朝、王太子執務室には、かつてないほどの緊張感が張り詰めていた。


「……報告は以上だ」


 イグニス殿下が、一枚の緊急報告書をデスクに置いた。


 その表情は険しく、紅の瞳には鋭い光が宿っている。


「北方の軍事大国『ガルド帝国』が、国境付近に軍を集結させている。……規模は3万」


「3万……!?」


 私は息を呑んだ。


 それは単なる演習で済まされる数ではない。明確な「侵攻の意思」を持った戦力だ。


 ガルド帝国。


 圧倒的な武力と、鉄の規律で周辺国を飲み込んできた覇権国家。


 我が国とは長年、不可侵条約を結んでいたはずだが……。


「条約破りか。……舐められたものだな」


 テオ殿下が、ギリリと拳を握りしめた。


「ここのところ、我が国は内政の改革で手一杯だったからな。隙を突かれたか」


「いえ、それだけではありません」


 ウィル殿下が、広げた地図を指差した。


「彼らの狙いは、北部の『魔石鉱山』です。……最近、あそこで高純度の魔石脈が見つかったという噂があります。それを奪うつもりです」


 魔石鉱山。


 そこは、オラントとリリナが送られた場所だ。


 もしそこが戦場になれば、彼らの安否も危ういが、それ以上に国のエネルギー源を断たれることになる。


「……要求は?」


 私が尋ねると、セドリック義兄様が答えた。


「『国境線の再画定』および『魔石の独占採掘権の譲渡』だ。……実質的な領土割譲要求だよ」


 義兄様の声は冷ややかだった。


「拒否すれば、武力行使も辞さないという最後通牒だ」


 部屋に重苦しい沈黙が落ちた。


 戦争。


 その二文字が、現実味を帯びて迫ってくる。


 せっかく手に入れた、騒がしくも幸せな日常。


 3人の王子たちと笑い合い、義兄様に見守られながら仕事をする日々。


 それが、理不尽な暴力によって壊されようとしている。


 ふつふつと、怒りが湧き上がってきた。


「……許せません」


 私が呟くと、4人の男たちが一斉に私を見た。


「レイラ?」


「この国は、私が整えた(職場)です。……土足で踏み荒らすことなど、断じて認めません」


 私は立ち上がり、壁に掛かった大陸地図の前に立った。


「イグニス殿下。……外交ルートでの交渉は?」


「打診したところで、のらりくらりと躱されるのがオチだ。向こうはやる気だ」


「ならば、こちらも覚悟を決めるしかありません」


 私は振り返り、3人の王子たちを見据えた。


「皆様。……私に、指揮権をいただけますか?」


「指揮権?」


「はい。この国難を乗り越えるための、全権限を」


 普通なら、一介の補佐官が口にしていい言葉ではない。


 だが、彼らは驚かなかった。


 むしろ、待っていましたと言わんばかりに、口元を緩めた。


「愚問だな。……お前は『王室総括補佐官』だ。我々の全てを管理すると誓ったはずだろう?」


 イグニス殿下が、信頼に満ちた目で言った。


「俺の剣も、俺の命も、お前のものだ。……使い潰してくれ、レイラ」


 テオ殿下が胸を叩く。


「僕の知識も魔力も、全て貴女に捧げます。……最高の盤面を描いてください」


 ウィル殿下が微笑む。


「……やれやれ。俺も、妹のためなら何でもするよ」


 セドリック義兄様が眼鏡を押し上げる。


 最強の手駒たちが、私の前に揃った。


「ありがとうございます。……では、作戦を説明します」


「ほう? もう作戦を?」


「話を聞きながら練りました。時間が無駄ですので」


 私は指示棒を手に取り、地図を叩いた。


「相手は軍事大国。まともにぶつかれば消耗戦は避けられません。……ですので、私たちは『戦わずして勝つ』道を選びます」


 私の頭の中で、膨大なデータと予測が組み合わさり、一つの(こたえ)を導き出していく。


 オラントの尻拭いで培った「裏工作」のスキル。

 ギリアム宰相との駆け引きで得た「外交」の知見。

 そして、彼らの能力を誰よりも理解している「信頼」。


 全てをフル活用して、この理不尽な侵略を跳ね除ける。


「テオ殿下は、国境付近で大規模な『演習』を行ってください。ただし、挑発には乗らず、こちらの戦力を過大に見せるための『ハッタリ』を仕掛けます」


「ハッタリか。任せろ、得意分野だ」


「ウィル殿下は、帝国の通信網に干渉し、情報を攪乱してください。……彼らの補給線に関する『偽情報』を流し、疑心暗鬼にさせます」


「ふふっ。楽しそうですね。……派手にやりましょう」


「イグニス殿下は、周辺諸国との連携を強化し、帝国への経済制裁をちらつかせてください。……ギリアム宰相にも、助力を」


「承知した。……あの男なら、喜んで協力するだろう。お前の事がお気に入りだからな」


「そして、セドリック義兄様」


「ああ。俺は国内の物資統制と、避難民が出た場合の受け入れ準備を進めよう。……後顧の憂いなく暴れてこい」


 完璧な布陣。


 私は深呼吸をし、宣言した。


「私の計画通りに動いてください。……勝利を約束します」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ