第36話 サザンクロスの海でご褒美バカンス。……王子たちの水着姿が眩しすぎて、直視できません!
領主バルカスを断罪した翌日。
サザンクロスの空は、昨日の不穏な空気が嘘のように晴れ渡っていた。
事件解決のご褒美として、私たちは王家が所有するプライベートビーチに来ていた。
白い砂浜。エメラルドグリーンの海。
そして、照りつける太陽の下、私の目の前には、この世のものとは思えないほど眩しい光景が広がっていた。
「……刺激が強すぎる」
私はビーチパラソルの下で、サングラス越しに呟いた。
そこにいるのは、水着姿の3人の王子たちだ。
まず目を引くのは、波打ち際で準備運動をしているテオ殿下だ。
彼は上半身裸の、ワイルドなトランクスタイプの水着姿。
日焼けした肌、岩のように隆起した大胸筋、そして腹筋は彫刻刀で彫り込んだように深く割れている。
彼が腕を伸ばすたびに、背中の広背筋が生き物のように動き、汗と海水が滴り落ちる。
まさに「戦神」の肉体美だ。
「おーい、レイラ! 来ないのか? 水が冷たくて気持ちいいぞ」
彼が振り返って手を振る。
その笑顔は少年のようなのに、首から下の破壊力が凄まじい。
……あんな体で抱きしめられたら……いや、この辺でやめておこう。
「はしゃぎすぎだ、テオ。子供か」
パラソルの隣で呆れたように言ったのは、イグニス殿下だ。
彼は落ち着いた色合いのリネンシャツを羽織っているが、前ボタンは無造作に開け放たれており、そこからは程よく鍛えられた胸板と、意外なほど引き締まった腹筋が覗いている。
普段の堅苦しい王太子服の下に、こんなにしなやかで美しい筋肉を隠していたなんて。
海風に揺れる銀髪をかき上げる仕草が、絵画のように様になっている。
知的な色気とは、まさにこのことだ。
「レイラさん。……僕の日焼け止め、塗ってくれませんか?」
不意に、ウィル殿下が上目遣いで私の隣に座り込んだ。
彼は露出控えめのラッシュガードを着ているが、濡れて体に張り付いた薄い布地が、華奢な肩のラインや薄い腰、そして少年から青年へと移り変わる独特の骨格を強調している。
兄たちとは違う、中性的な色気。
……ダメだ。
どこを見ても眼福すぎて、処理が追いつかない。
私は手元のトロピカルジュースの入ったグラスを震える手で持ち、一気に飲み干して、平静を装った。
普段見慣れているはずの彼らが、一枚布を脱いだだけで、こうも破壊力を増すとは。
「……レイラ。さっきから黙っているが、どうかしたか?」
イグニス殿下が、私の顔を覗き込んできた。
近い。シャツの隙間から見える鎖骨が眩しい。
「い、いえ! なんでもありません! ただ、皆様があまりにも……その、目の保養すぎて」
「保養?」
彼はきょとんとした後、ニヤリと笑った。
「そうか。私の体に見惚れていたのか」
「ち、違います!」
「否定しなくていい。……お前のために仕上げてきた体だ。存分に見るといい」
彼はわざとらしく髪をかき上げ、ポーズを取ってみせた。
……悔しいけれど、様になっているのが腹立たしい。
「兄上、ヒョロいな。レイラ、これが本当の肉体美だ」
テオ殿下が私の元へ駆け寄ってきて私の前で仁王立ちをした。
その肉体美たるや、間近で見ると凄まじい破壊力だ。
神々しさすら感じるほどに。
「どうだ? 中々いいもんだろ?」
「そ、そうですね……。素晴らしい胸筋と腹筋です」
「だろ? いつでも頼ってくれていいんだからな。なんなら、また俺の背中でおんぶしてやるぞ?」
「え、遠慮します! 水着で背負われるのは恥ずかしすぎます!」
私が拒否すると、彼はしょんぼりと肩を落とした。大型犬みたいで可愛い。
「筋肉ダルマは見苦しいですよ。……そうだ、レイラさん、あっちで貝殻拾いましょう? 綺麗な貝があるんです」
ウィル殿下が私の手を引き、波打ち際へと誘う。
彼の指先はいつもより冷たくて、濡れているせいか吸い付くようだ。
冷たい海水が足元を洗う。
開放的な空気の中で、私たちは子供のようにはしゃいだ。
テオ殿下が準備運動と言って本気で泳いで沖まで行ってしまったり、イグニス殿下が砂浜で「理想の王都」を建築し始めたり(城壁の角度にこだわりすぎて完成しなかった)、ウィル殿下がヤドカリを大量に集めて怪しい魔法陣を作ったり。
仕事の時とは違う、無邪気な彼らの姿。
重責や立場を忘れ、ただの青年として笑い合う彼らを見ているだけで、私の心も洗われていくようだった。
「ほら!」
不意に、テオ殿下が海水をかけてきた。
「きゃっ! つ、冷たい! このっ!」
私も負けじと水をかけ返す。
それを見ていたイグニス殿下とウィル殿下も参戦し、いつしか4人で本気の水かけ合戦になった。
王太子も、騎士団長も、天才少年も関係ない。
ただ楽しくて、おかしくて、お腹が痛くなるほど笑った。
ただ、とても幸せな時間だった。
◇◆◇
遊び疲れた私たちは、夕暮れの砂浜に並んで座り、沈みゆく夕日を眺めていた。
空と海が茜色に染まり、波の音だけが静かに響く。
「……楽しかったな」
テオ殿下が、満足そうに息を吐いた。
その横顔は、戦場の鬼神ではなく、穏やかな青年のものだった。
「ああ。たまにはこういうのも悪くない。……お前が笑っている顔も見られたしな」
イグニス殿下が、私を見て優しく微笑む。
その瞳に映っているのは、夕日ではなく私だ。
「また来ましょうね、レイラさん。……次は、もっと深いところまで行きましょう」
ウィル殿下が、私の肩に頭を預けてくる。甘えるような仕草だが、その言葉には「もっと深く知りたい」という別の意味が含まれている気がした。
私は3人の顔を見渡した。
ここへ来てよかった。
前よりかなり、距離が縮まった気がする。
共に笑い、共に同じ景色を見る「家族」のような、あるいはそれ以上の存在。
「……はい。また来ましょう」
私が答えると、3人は同時に私を見て、眩しそうに目を細めた。
その笑顔は、夕日よりも輝いていて、私の胸を温かく満たした。
明日からはまた、王宮での忙しい日々が待っている。
山積みの書類、厄介な貴族たち、そして彼らの重すぎる愛。
でも、この思い出があれば、きっと頑張れる。
そう思えるほどに、このバカンスは私にとって最高のご褒美だった。
私は3人に寄り添い、完全に日が沈むまで、寄せては返す波の音を聞いていた。




