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第30話 社交シーズン開幕。「パートナーは俺だ」と主張する猛獣たちと、静かに解決策を提示する義兄様


 王宮に、再び喧騒の季節がやってきた。


 社交シーズン。


 国内外の貴族たちが集い、夜会やパーティーが連日開催される、華やかで、そして胃の痛くなる時期だ。


 特に今年は、私が「王室総括補佐官」に就任してから初めてのシーズンとなる。


 注目度は計り知れない。


「レイラ。来週の夜会だが、当然、私のパートナーを務めるな?」


 朝一番、イグニス殿下が私のデスクにやってきて宣言した。


 手には、深紅の豪奢なドレスのカタログを持っている。


「衣装は手配済みだ。……背中が大きく開いたデザインだが、お前の白い肌なら映えるはずだ」


「待て待て、兄上。レイラは俺の『女神』だぞ?」


 横からテオ殿下が割り込んでくる。


「夜会の警備責任者は俺だ。つまり、レイラを一番近くで守れるのは俺しかいない。……ちなみに、俺の部隊カラーに合わせた黄金のドレスを用意した」


「お二人とも、センスが古いですよ」


 ウィル殿下が、呆れたように口を挟む。


「今シーズンの流行は『知的でミステリアス』です。……僕が開発した発光する魔石をあしらった、夜空に星を散らしたようなドレスこそ、レイラさんに相応しい」


 三者三様の主張。


 赤、金、黒。


 派手すぎるドレスのカタログを突きつけられ、私は頭を抱えた。


「……あの、皆様。私は補佐官として裏方に徹するつもりなのですが」


「却下だ。お前は主役だ」


「そうだぞ。お前のような美しい女性が輝かない社交会なんて終わってる」


「僕たちの『共有財産』としての美しさを、世界に見せつけるチャンスですよ?」


 聞く耳を持たない。


 彼らは完全に、私を着せ替え人形にして、自分の隣に侍らせる気満々だ。


 しかも、誰のパートナーになるかで、今にも決闘が始まりそうな雰囲気だ。


「……はぁ」


 私は深いため息をつき、書類を持って席を立った。


「少し、頭を冷やしてまいります」




 ◇◆◇




 私が向かったのは、執務室の奥にある小さな小部屋だった。


 そこは現在、「外部特別顧問室」として使われている。


 コンコン。


「どうぞ」


 落ち着いた声に招かれて入ると、書類の山に囲まれたセドリック義兄様がいた。


 彼は眼鏡の位置を直し、私を見て微かに微笑んだ。


「どうした、レイラ。……眉間に皺が寄っているよ」


「義兄様……。もう、限界です」


 私はソファにへたり込み、これまでの経緯を訴えた。


 3人の王子からの過剰なアプローチ。派手すぎるドレスの押し付け合い。そして、収拾のつかないパートナー争い。


「……なるほど。相変わらず、あの猛獣たちは加減というものを知らないね」


 義兄様は苦笑し、手元のポットから紅茶を淹れてくれた。


「飲んで落ち着きなさい。……それで、お前はどうしたいんだい?」


「私は……ただ、平穏に仕事をしたいだけです。誰か一人を選べば角が立ちますし、かといって全員断れば、彼らが暴走するのは目に見えています」


 私はカップを両手で包み込んだ。


「どうすれば、波風を立てずにこの場を収められるでしょうか」


 義兄様は少し考え込み、そして静かに言った。


「……なら、答えは一つだね」


「え?」


「『誰も選ばず、全員を選ぶ』。……お前が補佐官に就任した時と同じ論法を使うんだ」


 義兄様は指を一本立てた。


「パートナーは『リレー方式』にする。……一曲ごとに相手を変えれば、誰の顔も潰さずに済む」


「リレー……ですか?」


「ああ。これなら、『王室総括補佐官として、全ての王族に公平に仕えている』というポーズも取れる。……対外的にも、お前が誰か個人のものではないとアピールできる」


 なるほど。


 確かに、それなら角が立たない。


「ドレスについては……俺に任せてくれないか」


 義兄様は、少し言い淀んでから続けた。


「あの方々の選ぶドレスは、少し……露出が多すぎる。お前のイメージとは少し違う。もっと品のある、清楚な装いの方が似合うはずだ」


 彼は、まるで過保護な父親のような顔をした。


「俺が、公爵家の名に恥じないものを用意させよう。……それなら、彼らも文句は言えないはずだ」


「義兄様……」


 完璧だ。


 私の悩みを見抜き、全ての利害関係を調整する最適解を提示してくれる。


 しかも、私の「慎ましくありたい」という気持ちまで汲んでくれている。


「……ありがとうございます。やっぱり、義兄様が一番頼りになります」


 私が心から感謝を伝えると、彼は照れくさそうに視線を逸らした。


「……兄として、当然のことをしたまでだよ」


 彼の耳が少しだけ赤くなっていた。




 ◇◆◇




 執務室に戻った私は、義兄様の助言通りに提案をした。


 パートナーはリレー方式。


 ドレスは義兄様が用意する。


 最初は不満げだった3人も、渋々ながらも納得してくれた。


 こうして、私の社交シーズン最初の夜会は、義兄様という「影のフィクサー」のおかげで、なんとか平穏に(?)幕を開けることになった。


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