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第26話 「婚約者は選びません」 期限当日、私が提示した前代未聞の「第4の選択肢」

 

 運命の日。


 国王陛下が定めた「婚約者選定」の期限日である「建国記念祝賀会」の朝を迎えた。


 私は自室の鏡の前で、深紅のイブニングドレスを身に纏っていた。


 これは、イグニス殿下が「今夜のために」と用意してくれたものだ。


 昨夜は一睡もできなかった。


 でも、迷いはない。


 机の上には、一枚の羊皮紙が置かれている。


 昨夜、私が徹夜で書き上げた「答え」だ。


 それは、誰か一人を選ぶものではない。かといって、王宮を去るための辞表でもない。


 常識外れで、前代未聞の「第4の選択肢」。


 もし陛下に却下されれば、私は不敬罪で投獄されるかもしれない。


 それでも、私はこれに賭けることにした。


「……行きましょう」


 私は羊皮紙をバッグに収め、部屋を出た。




 ◇◆◇




 夜会は、煌びやかな光と熱気に包まれていた。


 国内外の貴族たちが集う大広間。


 その最奥の玉座には、国王陛下が鎮座している。


 そして、その傍らには、正装した3人の王子が並んで立っていた。


 イグニス殿下は、緊張した面持ちで私を見つめている。


 テオ殿下は、祈るように拳を握りしめている。


 ウィル殿下は、静かに、しかし熱っぽい瞳で私を追っている。


 彼らは何も言わない。


 ただ、私の決断を待っている。


「……レイラ・ウェリントン」


 国王陛下の厳かな声が響いた。


 会場のざわめきが消え、視線が一斉に私に集まる。


「約束の期限だ。……答えを聞かせてもらおうか」


 陛下は問いかけた。


「我が息子たち、イグニス、テオ、ウィル。……この中から、誰を伴侶として選ぶ?」


 緊張が走る。


 3人の王子が、息を呑んだのが分かった。


 私はゆっくりと進み出た。


 そして、陛下の前で深く礼をし、顔を上げた。


「……陛下。恐れながら、申し上げます」


 私の声は、震えていなかった。


「私は、どなたとも婚約いたしません」


「……なっ!?」


 会場がどよめいた。


 3人の王子の顔色が、一瞬で蒼白になる。


「選ばない、だと……?」


 イグニス殿下が、信じられないものを見る目で私を見た。


「レイラ……。お前……」


 テオ殿下の声が震えている。


「レイラさん……」


 ウィル殿下が、縋るように一歩踏み出した。


 彼らの絶望した顔を見て、胸が痛んだ。


 でも、私は言葉を続けた。


「婚約はいたしません。……ですが、ここを去るつもりもございません」


「……どういう意味だ?」


 国王陛下が眉をひそめた。


「こういう意味でございます」


 私はバッグから羊皮紙を取り出し、掲げて見せた。


「私は、ここに『新法案』の提出を申請いたします」


「法案?」


「はい。題して……『王室総括補佐官設置法案』です」


 私は朗々と読み上げた。


「本法案は、特定の王族個人ではなく、『王家全体』に直属し、国政、軍事、外交、魔導研究の全てを横断的に統括・補佐する新たな役職『王室総括補佐官』を新設するものです」


 会場が静まり返る。


「この役職に就く者は、王族と同等の特権を有し、かつ政治的・身分的中立を保つため、在任期間中の『特定の個人との婚姻』を禁じます」


「な……っ!?」


 陛下が目を見開いた。


 イグニス殿下たちが、ポカンと口を開けている。


「つまり、私は誰の婚約者にもなりません。……その代わり」


 私は3人の王子を見渡した。


「イグニス殿下の政治も、テオ殿下の軍事も、ウィル殿下の研究も。……その全てを、私が一生かけて支えます」


 誰か一人を選ぶことはできない。


 選べば、あとの二人との関係は壊れてしまう。


 だから、私は選ばない。


「全員」を選ぶために。


「……馬鹿な。そんな都合のいい話が通ると思っているのか?」


 陛下が呆れたように言った。


「一人の人間に権力が集中しすぎる。前例がない」


「前例なら作ればいいのです。それに……」


 私はニッコリと笑った。


「この法案が通れば、王子殿下方は『私を巡る争い』で国政を停滞させる必要がなくなります。……私が全員の側にいて、全員を管理するのですから」


 私は3人に問いかけた。


「いかがですか、殿下。……私を独占することはできませんが、私が他の誰かのものになることもありません。私は、貴方たち全員の『共有財産』として、この国に骨を埋める覚悟です」


 沈黙が流れた。


 そして。


「……ははっ」


 最初に笑ったのは、イグニス殿下だった。


「くっ……はははは! 傑作だ! まさか、そんな抜け道を用意してくるとは!」


 彼は愉快そうに腹を抱えた。


「共有財産、か。……悪くない。誰かに奪われるくらいなら、全員で飼い殺す方がマシだ」


「俺も賛成だ」


 テオ殿下が、ニカっと笑った。


「結婚はできないが、ずっと側にいるってことだろ? ……なら、実質俺の嫁みたいなもんだ」


「僕も異存ありません」


 ウィル殿下が、妖艶に微笑んだ。


「公的に『全員のもの』と宣言されるなんて、背徳的でゾクゾクしますね。……法案の細部は、僕が完璧に仕上げて差し上げます」


 3人の猛獣たちが、私の提案を受け入れた。


 それを見て、国王陛下は深いため息をついた。


「……やれやれ。息子たちが揃って骨抜きとはな」


 陛下は玉座から立ち上がり、宣言した。


「よかろう! レイラ・ウェリントンを、初代『王室総括補佐官』に任命する! ……その才覚で、我が国を導いてみせよ! 王子三人分の婚約を代償にするのだ。その政治的影響は計り知れんぞ。……後悔させるでないぞ」


 ワァッ! と歓声が上がった。


 私は胸を撫で下ろした。


 賭けに勝ったのだ。


 その瞬間、3人の王子が私に殺到した。


「よくやった、レイラ! 一生離さんぞ!」


「これからは公務で堂々と連れ回せるな!」


「契約成立ですね。……覚悟してくださいよ、僕たちの『共有』お姉様?」


 私は3人に揉みくちゃにされながら、苦笑いした。


 こうして、私の「婚約者選定」は、誰も選ばないというウルトラCで幕を閉じた。


 スローライフは完全に消え去り、代わりに手に入れたのは、国一番の激務と、逃げ場のない「3人分の溺愛」。


 また眠れない日々がやってくるかもしれない。


 けど、それでもいい。


 彼らを失って眠れなくなるのなら、彼らのために働いて眠れなくなる方がずっと良い。



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