第20話 国王陛下からの呼び出し。「誰か一人を選べ。さもなくば全員に見合いをさせる」と言われました。このままではダメなのですか?
いつものように、3人の王子に振り回されつつも、充実していたある日の事だった。
「……私を、国王陛下がお呼び……ですか……?」
王宮からの使いの言葉に、私はペンを止めた。
隣にいたイグニス殿下も、怪訝な顔をする。
「父上が? レイラに何の用だ」
「分かりません。ですが、『一人で来るように』とのことです」
嫌な予感がした。
私は緊張した面持ちで、謁見の間へと向かった。
◇◆◇
私は跪いていた。
玉座には国王陛下が座っている。
イグニス殿下に似た威厳ある風貌だが、その瞳には老練な政治家の光が宿っている。
「楽にせよ、レイラ・ウェリントン」
「はっ……」
私が顔を上げると、陛下は値踏みするように私を見下ろした。
「単刀直入に言おう。……我が息子たちのことだ」
陛下はため息交じりに言った。
「イグニス、テオ、ウィル。……あいつらは優秀だが、お前に関しては見境がない。三人揃って一人の女を囲い込み、婚期を逃している現状を、父として、王として看過できん」
「……申し訳ございません」
「謝罪はいい。お前が悪いわけではないことは分かっている。……あいつらが勝手に執着しているだけだからな」
陛下は苦笑したが、すぐに真剣な表情に戻った。
「だが、国益を考えれば、王位継承権を持つ彼らが独身のままでは困るのだ。……他国からも、縁談の申し込みが殺到している」
ドキリとした。
縁談。
当然の話だ。彼らは若く、美しく、有能な王子たちなのだから。
「そこでだ、レイラ。……期限を設ける」
陛下は、冷徹に告げた。
「来月行われる『建国記念祝賀会』。……その日までに、お前は3人のうち誰か一人を選び、婚約者として発表しろ」
「え……?」
「もし選べない、あるいは選ぶ気がないと言うのであれば……」
陛下は目を細めた。
「彼らには、私が選んだ他国の姫と政略結婚をさせる。……そしてお前には、王宮を去ってもらう」
頭が真っ白になった。
王宮を去る。
それはつまり、この騒がしい日常が終わるということだ。
本来なら、喜ぶべきことのはずだ。
激務から解放され、念願のスローライフが手に入るのだから。
あの時、ギリアム宰相の誘いを断ったのは、「彼らが心配だから」という理由だった。
でも、今度は王命だ。不可抗力だ。
私が責任を感じる必要はない。
なのに。
(……嫌だ)
私の心臓が、嫌な音を立てた。
想像してしまったのだ。
イグニス殿下が、他の女性と書類を見ながら微笑む姿を。
テオ殿下が、他の女性を背負って歩く姿を。
ウィル殿下が、他の女性に甘える姿を。
胸が、締め付けられるように痛い。
彼らが、私以外の人を見るなんて。私以外の名前を呼ぶなんて。
考えただけで、呼吸ができなくなりそうだった。
「……陛下」
私は震える声で尋ねた。
「もし……もし私が、誰も選ばなかったら。彼らは……」
「王族としての義務を果たすことになるだろう。愛のない結婚かもしれんが、それが王家に生まれた者の運命だ」
愛のない結婚。
あの、情熱的で、不器用で、重すぎるほどの愛を持った彼らが?
そんなの、間違っている。
「……猶予は一ヶ月だ。よく考えろ」
陛下はそれだけ言って、謁見を切り上げた。
◇◆◇
重い足取りで執務室に戻ると、3人が待ち構えていた。
「レイラ! 父上は何と?」
「何か無理難題を言われたんじゃないか?」
彼らの顔を見た瞬間、泣き出しそうになった。
いつも通り、私を心配してくれる彼ら。
この光景が、あと一ヶ月で終わってしまうかもしれない。
「……なんでもありません。ただの業務報告です」
私は嘘をついた。
今ここで「誰か一人を選べと言われた」と言ってしまえば、彼らはどうするだろう。
きっと、なりふり構わず私を奪い合うだろう。
そうすれば、今あるこの「3人と私」のバランスは崩れてしまう。
誰か一人を選べば、あとの二人とは……もう、こんな風に笑い合えないかもしれない。
「……レイラ?」
イグニス殿下が、怪訝そうに私の顔を覗き込む。
「顔色が悪いぞ。……やはり、何かあったな」
隠し通せるはずがなかった。
彼らは、私の些細な変化も見逃さないのだから。
「……期限を、切られました」
私は観念して、ポツリと言った。
「来月の祝賀会までに、誰か一人と婚約しろと。……そうでなければ、皆様は他国の方と結婚させられると」
部屋が静まり返った。
3人の王子は、驚いたように目を見開き、そして――。
「……そうか。父上も、余計なことを」
イグニス殿下が、低く呟いた。
テオ殿下は拳を握りしめ、ウィル殿下は氷のような無表情になる。
だが、彼らは怒らなかった。
代わりに、熱のこもった瞳で、私を射抜いた。
「いい機会だ」
イグニス殿下が、私に一歩近づく。
「なぁなぁな関係は、もう終わりということだろう。……レイラ。私は、お前以外の女を娶る気など毛頭ない」
「俺もだ。お前以外の女なんて、カボチャと同じだ」
「僕もですよ。……レイラさん以外のお姉様なんて、興味ありません」
3人が、私を取り囲む。
その視線は、今まで以上に真剣で、そして切羽詰まっていた。
「一ヶ月か。……十分だ」
「覚悟しろよ、レイラ。……これからは、手加減なしだ」
「僕を選んでくれるまで、逃がしませんからね」
宣戦布告。
今までのような「共有」ではない。
彼らは本気で、私という「たった一人の伴侶」の座を勝ち取りに来るつもりだ。
私は、震える手を握りしめた。
逃げ道は塞がれた。
スローライフか、彼らとの未来か。
いや、私の心はもう決まっているのかもしれない。
ただ、この心地よい「4人の時間」を壊すのが、怖いだけで。
王国のトップ3による、最初で最後の「本気の求婚バトル」。
その火蓋が、切って落とされた。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
昨日今日と、スタートダッシュで「合計20話」を一挙投稿すると活動報告でお知らせしましたが、話数の調整を兼ねて23話まで投稿いたします。
毎日短編更新の本日1/18分はお昼から夕方頃を予定しております。




