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第16話 勝ち取った「完全オフ」初日。猛獣たちが反省して私を放置しようと頑張っていますが、ドアの向こうから気配がダダ漏れです

 

 ついに、私が交渉で勝ち取った本物の「週に一度の休日」がやってきた。


 業務から完全に離れ、誰とも会わずに過ごす「メンテナンス」の日。


 朝、目を覚ました私は、天蓋付きのベッドの中で大きく伸びをした。


「……静かだわ」


 いつもなら、この時間には侍女が飛び込んできて「イグニス殿下がお呼びです!」とか「テオ殿下が朝食に乱入されました!」とか報告に来るのだが、今日は静寂そのものだ。


 窓の外からは小鳥のさえずりしか聞こえない。


 私はゆったりと起き上がり、ルームウェアのまま窓辺のソファに腰掛けた。


 手元には、読みかけの小説と、私を起こさないように侍女がこっそりと用意してくれていた温かいハーブティー。


 これだ。


 私が求めていたのは、この静かで、何もしない贅沢な時間だったのだ。


「……最高ね」


 私は本を開いた。


 誰にも邪魔されず、物語の世界に没頭する。


 1ページ、2ページ。


 静かな時間が流れていく。


 ……はずなのだが。


(……なんか、視線を感じる)


 私は本から顔を上げた。


 気のせいだろうか。


 部屋の中には誰もいない。ドアも閉まっている。


 だが、どうも落ち着かない。


 まるで、見えない「何か」に包囲されているような、妙な圧迫感がある。


 私は気を取り直して本に視線を落とした。


 その時。


 ガサッ。


 窓の外、バルコニーの方から物音がした。


「……?」


 私はそっと窓に近づき、カーテンの隙間から外を覗いた。


 そこには、バルコニーの手すりに張り付くようにして、必死に気配を殺しているテオ殿下の姿があった。


(……何してるの?)


 彼は完全武装していた。


 愛用の剣を持ち、鋭い眼光で周囲を警戒している。


 口元が動いているのが見えた。


「……よし、南側クリア。不審者なし。風速異常なし。……レイラ、安心して休め。俺が蚊一匹寄せ付けんぞ」


 独り言だ。


 どうやら彼は、私の休日を守るために、勝手に「単独警備任務」に就いているらしい。


 頼もしいけれど、窓の外に騎士団長が張り付いている状況で、心安らかに休めるわけがない。


 私はため息をつき、見なかったことにして部屋の中に戻った。


 すると今度は、ドアの下の隙間から、何かが滑り込んできた。


 スッ……。


 白い封筒だ。


 私は拾い上げた。差出人の名前はないが、その几帳面すぎる筆跡は、間違いなくイグニス殿下のものだ。


『レイラへ。今日は休日ゆえ、私は決して邪魔をしない。だが、万が一退屈した場合に備え、最新の「国家予算白書(未公開版)」をドアの前に置いておく。……あくまで、暇つぶし用だ。決して仕事の催促ではない』


 ……不器用か。


 ドアを少しだけ開けて確認すると、そこには分厚い資料の束と、さらに最高級の焼き菓子の詰め合わせが山盛りに置かれていた。


 人影はない。


 おそらく、足音を消して置き配し、全力疾走で立ち去ったのだろう。


「……ふふっ」


 私は思わず笑ってしまった。


 あの冷徹な王太子殿下が、抜き足差し足で廊下を歩いている姿を想像すると、おかしくてたまらない。


 お菓子を部屋に運び入れ、一息つこうとしたその時。


 今度は、天井の通気口から、甘い香りが漂ってきた。


「ん……? ラベンダー?」


 ふわりと漂う、リラックス効果の高そうなアロマの香り。


 しかし、どこか微かに、「眠気を誘う」ような魔力を帯びている気がする。


(……ウィル殿下ね)


 姿は見せないが、私の安眠を促進しようと、どこからか魔法で香りを送ってきているのだ。


 ただ、調合が絶妙すぎて、このまま吸い続けたら二度寝どころか、丸一日昏睡してしまいそうだ。


 テオ殿下の警備。


 イグニス殿下の差し入れ。


 ウィル殿下のアロマ。


 3人は約束通り、私の部屋には入ってこない。


 私に「一人の時間」を与えるために、彼らなりに必死に我慢し、遠回しに尽くそうとしてくれているのだ。


 ギリアム宰相の一件で、「自分たちが彼女を追い詰めていた」と反省した結果が、これなのだろう。


「……不器用な人たち」


 私は本を手に取り、ソファに身を沈めた。


 ソファで寛ぎながら、ハーブティーを飲み、読書をする。


 パラパラと、ページをめくる音が響き、心地いい。


 ゆっくりとした時間が流れている。


 これこそ、『休日』だ。




 ◇◆◇




「んーっ……」


 本を2冊読み終わり、私は伸びをする。


 彼らが遠巻きに見守ってくれているおかげで、確かに物理的には一人の空間が保たれている。



 でも。


 ……なんだろう。


「なんか……寂しい、かも」


 私はポツリと呟いた。


 あれほど望んだ「静寂」なのに。


 いざ手に入ると、あの騒がしい執務室の空気が、少しだけ恋しくなっている自分がいる。


 どうやら私も、彼らに毒されてしまっているらしい。


 私は立ち上がり、ドアへと向かった。



 鍵を開け、廊下へと顔を出す。


 すると。


「……む」


「……おっ」


「……あっ!」


 ドアのすぐ脇の壁際に、3人の王子が並んで座り込んでいた。


 イグニス殿下は腕組みをして不機嫌そうに。


 テオ殿下は剣を抱いて。


 ウィル殿下は膝に本を乗せて。


 3人とも、まるで捨てられた子犬のように、私の部屋のドアを見つめていたのだ。


「……何をしているんですか、皆様」


 私が呆れて尋ねると、イグニス殿下がバツが悪そうに顔を背けた。


「……いや。お前が何か困っていないか、念のために待機していただけだ」


「そ、そうだ! 警備の一環だ。他意はない!」


「僕も、アロマの調整が必要かなって……」


 言い訳が苦しい。


 結局、彼らは私を一人にするのが不安で、片時も離れられなかったのか。


 それとも、一人になりたくなくて離れたくなかったのか。


 どっちでもいいか。


 今は、その姿があまりにも滑稽で、そして愛おしくて……。


 私は吹き出してしまった。


「ふっ……くくっ、あははは!」


「レ、レイラ?」


「もう、皆様ったら。……王族が廊下で座り込むなんて、みっともないですよ」


 私はドアを大きく開け放った。


「……入ってください。お茶くらいなら、ご一緒しますよ」


「い、いいのか? 今日は休日だぞ?」


「俺たちがいたら、休まらないんじゃないか?」


「そうですよ。僕たち、反省したんですから……」


 3人がおずおずと顔を見合わせる。


 私は微笑んで、彼らを招き入れた。


「いいんです。……皆様がドアの前でモジモジしている気配を感じる方が、よっぽど休まりませんから」


 3人の顔が、パァっと輝いた。


 彼らは競うように部屋になだれ込み、


「私がクッションを整えよう」


「俺が茶を淹れてやる!」


「僕が肩を揉みますね! ついでに匂いも」


 と、あっという間に私の休日を「騒がしい日常」へと塗り替えてしまった。


 静寂は消え去った。


 けれど、賑やかな部屋の中で、温かい紅茶を飲みながら、私は思った。


 たまには、こういう休日も悪くないかもしれない、と。

 

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