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第12話 天才策士は「法」で私を守り、報酬として「録音データ」の再生権を要求する

 

 ウィル殿下との「狂気の禁書庫デート」から一夜が明けた。


 王太子執務室は、今日も今日とて書類の山と、3人の王子の視線に満ちていた。


「……失礼いたします」


 部屋の空気を破るように、青ざめた顔の事務官が入ってきた。


 手には一通の封書を持っている。


「レイラ・ウェリントン様に、オラント元殿下の『債権者組合』から通達が届いております」


「債権者?」


 私が眉をひそめると、事務官は恐縮しながら封書を差し出した。


「は、はい。オラント氏が鉱山送りになったことで、貸した金が回収できなくなった金貸したちが、『元婚約者であるレイラ様にも連帯責任がある』として、公爵家の資産差し押さえを申し立ててきたのです」


「なっ……」


 私は絶句した。


 確かに、私は彼の元婚約者だ。だが、彼の借金はすべて個人的な浪費によるもの。私に支払い義務はないはずだ。


 しかし、封書の中身を見ると、巧妙な屁理屈で「監督責任」を問い、莫大な慰謝料を請求してきていた。


 法的で争えば勝てるだろうが、時間はかかる。


 その間に公爵家の評判は傷つき、私の資産も凍結されるかもしれない。


 面倒なことになった。


 私が頭を抱えようとした、その時だった。


「――貸してください」


 横から、白く華奢な手が伸びてきて、封書をさらりと奪い取った。


 ウィル殿下だ。


 彼は書類に一通り目を通すと、鼻で笑った。


「くだらない。三流の脅しですね」


「ウィル殿下……」


「レイラさん。これ、僕に任せてくれませんか?」


 彼は天使のような笑顔を向けた。


「5分で解決して差し上げます」


「5分? 相手は法廷闘争をちらつかせていますよ?」


「だからこそ、です。法で殴り合いたいなら、相手をしてあげましょう」


 ウィル殿下は羽根ペンを取り出し、さらさらと何かを書き始めた。


 そして、事務官に向かって指示を飛ばす。


「これを持って法務局へ。『王室典範 第48条』に基づき、レイラ・ウェリントン嬢は現在『王太子の管理下にある国家公務員』として登録済みだと伝えてください」


「は、はい!」


「それから、債権者たちにはこれを。『虚偽申告による王室への侮辱罪』および『公務執行妨害』で、逆にこちらから損害賠償を請求すると。……金額は、彼らの請求額の倍で」


「えっ」


 事務官が目を剥いた。


「さらに、彼らの帳簿を洗い直すよう国税局に手配しました。高利貸しの違法金利、脱税の証拠……埃ならいくらでも出てくるでしょうね」


 ウィル殿下は、にっこりと微笑んだ。


「彼らには二つの選択肢を与えます。『大人しく引き下がって廃業するか』、それとも『王家を敵に回して投獄されるか』。……どちらを選ぶか、楽しみですね」


 冷徹で、完璧なカウンター。


 相手の弱点を的確に突き、反撃の隙すら与えない。


 私が数ヶ月かけて戦うつもりだった案件を、彼はたった数分の書類仕事で消滅させてしまったのだ。


「す、すごい……」


 私が呆然と呟くと、ウィル殿下は満足そうに頷いた。


「当然です。貴女の平和を脅かす害虫は、僕が駆除しますから」


 彼は私の手を取り、そっと口付けた。……一瞬の湿り気とともに。


「さて、レイラさん。……役に立ちましたか?」


「は、はい。とても。感謝いたします」


「ふふっ。それはよかった」


 ウィル殿下の碧眼が、妖しく光った。


「では、報酬をいただけますよね?」


「……報酬?」


 嫌な予感がした。


 金貨や宝石を欲しがるような方ではない。彼が望むものといえば……。


「昨日の『アレ』です。……この執務室で、皆の前で再生する許可をください」


 彼は懐から、昨日のデートで使った魔道具(録音機)を取り出した。


「なっ!?」


「ダメですか? 僕は貴女を守りましたよ? これくらいのご褒美、バチは当たらないと思いますが」


 ずるい。


 圧倒的な正論と、恩を盾にした要求。


 私が反論できずにいると、彼は「沈黙は肯定ですね」と笑い、スイッチを押した。


 カチッ。


『――故に、我は汝を離さず。死が二人を分かつまで……』


 静まり返った執務室に、私の朗読する声が響き渡った。


 それも、一番重い、愛の誓いの部分だ。


「なっ……!?」


 書類仕事をしていたイグニス殿下が、バッと顔を上げた。


 武器の手入れをしていたテオ殿下が、剣を取り落とした。


「な、なんだそれは! レイラの声か!?」


「『離さず』だと? 誰に向かって言っている!」


 二人の兄が色めき立つ中、ウィル殿下はうっとりと目を閉じて聞き入っている。


「はぁ……。いい声でしょう? 昨日、禁書庫で僕だけに捧げてくれた『愛の誓い』です」


「貴様! 抜け駆けも大概にしろ!」


「その魔道具を寄越せ! 没収だ!」


 イグニス殿下とテオ殿下が掴みかかろうとするが、ウィル殿下はひらりと身をかわした。


「おっと。これは僕の正当な報酬です。レイラさんも許可してくれましたよね?」


「許可してません! なし崩しです!」


 私が叫ぶが、私の声は録音された自分の声にかき消されていく。


『……死してなお、魂は汝と共に在り……』


 厳かな古代語の誓いが、BGMのように部屋に流れる。


 恥ずかしい。


 穴があったら入りたい。


 けれど、私の危機を救ってくれた「天才策士」のドヤ顔を見ていると、強く叱ることもできなくて。


「……はぁ」


 私は深いため息をつき、諦めて仕事に戻ることにした。


 私の周りでは、まだ録音機を巡る兄弟喧嘩が続いていた。

ここまでご覧頂き、本当にありがとうございます!

今日は初日ということで、気合を入れて12話まで連続投稿させていただきました!


明日は20話まで投稿いたします!

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