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REGALIA FLAME  作者: ふんころ
アルメリア編
8/15

フレアの現実2

「ただいまーっと」


 木製の扉が軋む音とともに、ラースが気の抜けた声を上げた。

 その後ろで、ルナは胸の鼓動を押さえるように両手を握った。初めての挨拶、初めての顔合わせ。勇者の部隊フレアと聞いて緊張していたのだ。


 だが、扉の向こうの光景を見た瞬間、彼女の意識は凍りついた。


 そこに広がっていたのは、想像していた華々しいギルドとは程遠い、重苦しい空気だった。薄暗い部屋には、ため息とくぐもったぼやきが漂い、誰も彼もが疲れ切った陰の表情を浮かべている。


 ――なにこれ。

 ――あたしの知ってる“フレア”じゃ、ない。


 「……あ、あの……?」


 勇気を振り絞って声を出した瞬間、部屋の奥で腕を組んでいた大柄な中年の男の耳がぴくりと動いた。


 「……おい。何もんだ」


 その低い一言に、空気が震えた。圧に押され、ルナは一瞬怯む。だが負けるわけにはいかない――自分にそう言い聞かせ、胸を張った。


 「あ、あたしはルナ・ウィルメイビス! フレアに加入したくて、ここに来たの!」


 沈黙。


 沈黙。


 さらに沈黙。


 (無視? 感じ悪っ……いやこれ絶対違うでしょ……)


 喉元まで「思ってたのと違う」と叫びかけた、そのときだった。


 「「「久々の加入者だあああああああ!!!!!」」」


 「「「うおおおお! 祭りだ祭りだああーーー!!!」」」


 「へっ!?!?」


 爆ぜるような雄叫びとともに、先ほどまでの重苦しさはどこへやら、彼らは椅子を蹴り立ち上がり、歓喜の渦が広がった。


 「ルナ、驚いたか? これが“サイレントトリートメント”ってやつさ。はっはっは!」


 「え? えぇ???」


 混乱が追いつかない。

 その混乱をさらにかき回すように、奥の強面の男がルナの手をがしっと握った。


 「嬢ちゃん……! 嬢ちゃんが俺たちの組織に加入してくれるのかい!? よかった、よかった……救世主だ……! ラース!」


 「なんだよ、ゾルのおっさん!」


 「よくぞ新人を連れてきたな! それに免じて朝帰りの件は見逃してやる! はっはっは! ほら嬢ちゃんも盛り上がれぇ!!」


 ……いや、盛り上がれと言われても。


 完全に置いていかれたルナは、引きつった顔のままラースを見上げた。


 「あ、あの、仕事中なんですよね……? 消えた太陽の調査するっていう……」


 ゾルと呼ばれた男は、急に真面目な顔つきに戻り、どっかと椅子に座った。


 「ほう……嬢ちゃんも、消えた太陽を追ってる口か」


 「ええ、まあ」


 ゾルは顎をさすりながら、彼らが太陽を追う理由を語り出した。


 消えた太陽の真相を突き止めた者には、国から“生涯遊んで暮らせるほどの賞金”が出る。

 その噂を聞き、腕利きの冒険者たちが集まった――のは昔のこと。

 妨害、行き詰まり、手がかりゼロ。組織は次々と人が辞め、資金は尽きかけ、残ったのは金に飢えたベテランや、ラースのような若い人がちらほらと……もはや意地で続けている者ばかりだった。


 「……賞金が、ほしいんだな?」


 「は?」


 拍子抜けした声が漏れた。


 ――憧れた“太陽を追う英雄のギルド”とは、まるっきり違う。


 けれど、彼らも彼らで事情があるのだとルナは悟った。

 理想より、現実の方がはるかに手強い。


     


 その日のうちに案内された寮――という名の社宅に入った瞬間、ルナはさらに絶句した。


 蜘蛛の巣、蜂の巣、飛び回るハエ。鼻をつく悪臭。床の染みの正体は考えたくもない。


 (……ここで、暮らすの? あたしが?)


 元お嬢様である自覚はあったが、これはその次元の話ではなかった。


 だからこそ、ルナは迷いなく街へ出て、人生初の“首都でのお買い物”を行った。

 買ったのは――消臭スプレーと殺虫スプレー。

 (……なんで首都で最初に買うのがこれなのよ)


 タオルを頭に巻き、マスクを付け、手袋をはめる。


 「さあ、掃除開始よ!」


 「おー!」


 「なんでラースもいるのよ!? プライバシー!?」


 「新人だし、俺も行けってさ」


 「プライバシーは!?!?」


 叫んでも無駄らしく、ラースはすでに腰に刀……いや、つまようじを携えていた。


 「名月・弥生ノ太刀応用――つまようじ!」


 高速で蜂を突き落としていくラース。

 効率は……微妙だが、妙に速い。うっかり感心してしまった。


 「ありがとラース! 早く終わったわ!」


「俺も入りたてのとき手伝ってもらってたからな。当たり前だろ!」


 そんなやり取りを交わしながら、二人で部屋を一掃する。

 汗まみれになりながらも、最後に残った悪臭が消え、埃が晴れ、ようやく“部屋”と呼べる空間になった。


 ベッドに倒れ込んだルナは、深く息を吐く。


(ベッドくっさ……)


 野宿の経験もある。どんな場所でも眠れるようになった自分に、皮肉でもあり、成長でもあると苦笑しながら、ゆっくりと瞼を閉じた。

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