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REGALIA FLAME  作者: ふんころ
アルメリア編
6/15

ラース・トライズン

「あんたは……さっきの……!」


 思わず声が途切れた。

 喉が驚きに詰まり、息すらうまく吸えない。さっきまで地面に倒れ、やつれ果て、どこか影の薄い青年だったはずなのに――今はまるで別人だ。軽快な笑みを浮かべ、背筋を伸ばし、空気まで明るくするような気さくさで私に話しかけてくる。


 本当に同一人物なのか?

 いや、あの紋章――燃え上がる炎の意匠フレアは、たしかにさっきと同じものだ。それでも、あまりの変貌に私の脳が認めることを拒んでいた。


「おう! さっきの食料、ありがとな! なんかお礼してーんだけど……」


 屈託のない笑顔で、彼は頭をかきながら言った。その様子は、助けられた側とは思えないほど飄々としている。

 いや、むしろ――助けたのは私の方なのだけれど。


「お礼なんかいらないわよ。助けてもらったことには、あたしのほうこそ感謝してるし」


 少しだけ胸を張るような言い方になってしまったのは、たぶん癖だった。誰かの役に立てたと示すとき、私はどうしてもこうなる。お嬢様として育てられた矜持の名残かもしれない。


「いーからいーから!」


 彼は手をひらひらと振る。まるで幼馴染にでも向けるような気安さだ。


 ――ならこっちも本題に踏み込むしかない。


 私は深呼吸し、満面の笑顔をつくる。これでもかというほどの押しの強さで、手を突き出した。


「じゃあ…わかった! あたし、この首都に入りたいんだけど証明書が無いから、証人になってくれるよね! はい!」


 すでに了承されたかのように、当然の顔で言い放つ。

 彼は目を見開き、唖然とした顔で叫んだ。


「礼するとは言ったけど、態度が厚かましっ!?」


「はぁ!? 礼するって言い出したのそっちじゃない!」


「いや、そうだけどよ! おまえ、その押しの強さなんなんだよ!? 渡さねーぞ!」


「渡さなくても、あたしの魔法でトビラ開けられるしー!」


「侵入は罪重いぞ!? かなり!」


「申し訳ありません! 証人になってはくれませんか!!」


 私は勢いのまま、地面に手をつき――超高速土下座。

 人生でやることになるとは思ってもみなかったが、これも生きるため、そして〈フレア〉に近づくため。


「素直だなおい……」


 呆れたような、だけどどこか和んだような声が上から降ってきた。


 その夜、二人で野宿をすることにした。門はとうに閉ざされ、首都の明かりは遠い。虫の鳴き声が響く草地で、私たちは荷物を下ろし、少し距離をとって腰を下ろす。


 焚き火の赤が彼の顔を照らす。さっきの軽薄な雰囲気とは違い、穏やかな横顔だった。


「……あたし、ルナ・ウィルメイビス。あんたは?」


「てかもう馴れ馴れしいなお前(笑) ……俺は、ラース・トライズン。”フレア”の一員だ」


 やっぱり。

 胸のどこかが熱くなる。なんせ憧れの人が諸族してたんだから。あのとき救ってくれた赤い背中。その象徴を、彼は確かに背負っている。


「あんた、やっぱりフレアだったのね」


「なんだ、フレア知ってたのか」


「あたしは昔、フレアに助けられたんだ」


 ラースは火の粉のように視線を彷徨わせ、少し間を置いて言った。


「……他もそうだが、フレアが今どうなってるか知ってるか?」


「今直面している“太陽消失問題”を終わらせることでしょ? あたし、フレアに入りたいの」


 その瞬間、ラースの瞳に一瞬だけ影が差した。

 言葉にしない複雑さ――誇りか、苦悩か、それとも別の何かか。


「………………そ、そうか!」


 笑ってみせたが、明らかな強がりだと分かった。


 焚き火の火がぱちりとはじけ、私は横になりながら夜空を見上げた。星を隠すように人工太陽が照りつける、奇妙な世界の夜。それでも私は明日を思った。


 ――明日の昼前、門前に着く。

 ラースが証人になる。

 そして私は首都へ入り、フレアのもとへ進む。


 その全ては、もう決まった未来のように思えた。


「ひとまず今日は寝よう。明日は……私にとって人生の、一歩踏み出す日だから」


 まぶたが重くなり、思考が柔らかく沈んでゆく。

 土の匂い、焚き火の温度、虫の羽音。

 どれも慣れないけれど、不思議と怖さはなかった。


 隣に、ラースがいるからだ。

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