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REGALIA FLAME  作者: ふんころ
0章
2/15

ルナ・ウィルメイビス

それは、まだ幼かった頃の記憶。

 ぼんやりと霞がかった夢のような、けれど確かに胸の奥に残っている“はじまり”の記憶。


 私は、名門メイビス家の令嬢として育てられた。

 その家の名に恥じぬよう、姿勢、言葉遣い、微笑み方に至るまで、すべてを完璧に仕込まれた。

 でも、そんな日々は息苦しくて仕方なかった。

 わたしの言葉も、感情も、すべて“正しい令嬢”という仮面の下に押し殺されていった。


 ある日、私は限界だった。

 夜明け前の屋敷を抜け出し、行くあてもなく歩き続けた。

 冷たい風が頬を打ち、薄暗い街路の石畳が足の裏に痛いほど硬かった。

 でも、それすら自由に思えた。

 ――やっと、息ができる。そう思ったのを覚えている。


 だが、運命は残酷だった。

 行き止まりの路地で、突如響いた金属音。

 誰かの怒号。

 そして、閃光。

 気づけば私は、何らかの争いに巻き込まれていた。

 火花が散り、壁が砕け、飛び散った破片が頬を裂いた。

 痛みよりも、恐怖よりも、ただ“現実”に飲み込まれていく感覚があった。


 身体が動かない。

 息もできない。

 ――助けて。

 心の中で何度も叫んだ。けれど声は出なかった。


 期待されていた。

 まだ魔力を持たぬ身でも、メイビスの名を継ぐ者として、誰よりも強く、気高くあれと。

 だからこそ、助けを求めることが怖かった。

 プライドが、喉を塞いでいた。


 そして、意識が遠のく刹那――その声が聞こえた。


 『もう大丈夫だ』


 薄れゆく意識の中、何故かそれでいて不思議なほど優しい声だった。

 次の瞬間、熱風が吹き抜け、私の目の前を紅い光が包んだ。

 その光の中に、ひとりの背中があった。

 広くて、大きくて、まるで太陽みたいな背中だった。

 その背には、赤く燃え上がるような紋章が刻まれていた。

 それを見た瞬間、涙が溢れた。

 助かったからでも、恐怖が解けたからでもない。

 ――憧れたのだ。

 その背中に、あの光に。






 それから数年。







 私は十八になった。

 メイビス家の娘として、完璧な淑女として生きることを望まれたけれど、私の心はとっくにそこにはなかった。

 あの日見た背中の意味を、私はまだ知らない。

 けれど、あの日の光だけは、今も胸の奥で燃え続けていた。


 父と激しく言い争った。

 ――〈フレア〉に入る、と。

 太陽を取り戻すために戦う、あの人たちのようになりたい、と。

 だが父は首を振り、あの日と同じように“私の意志”を否定した。


 「メイビス家の娘が、民兵もどきに加わるな」と。


 私は笑って言い返した。

 「私をもう縛り付けないで」と。


 そして、屋敷を出た。

 今度こそ、自分の足で。


 夜明け前の空気は、あの時よりも少しだけ温かかった。

 背後で扉が閉まる音がした瞬間、私は深く息を吐いた。


 「はぁーー……すっきりしたわ!」


 誰に聞かせるでもなく、空に向かって声を上げる。

 かつての私なら、こんな大声を出すことすらできなかっただろう。

 けれど今は違う。

 私には、確かに“意志”がある。


 “意志”――英語で言うとWill。

 つまり、ウィルメイビスという名は、きっとそのためにあったのだ。


 「私は"ルナ・ウィルメイビス!"これが私の名前よ!」


 空に向かって叫んだ。

 誰もいない街の空に、私の声が吸い込まれていく。

 人工太陽〈レイ・ソル〉の光が、遠くの空を淡く染めていた。


 私は歩き出す。

 目指すのは――〈フレア〉。

 かつて私を救った、その背中の光の名。


 あの日の憧れが、いま私の道標になる。

 たとえこの世界が闇に沈もうとも、私の意志ウィルは、決して消えはしない。




これは私の家族、メイビス家の決別を告げる

ほんの少しだけを映し出した欠片に過ぎないことなんだけどね。

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