ズレた者vsズレた者
「……こいつは、なかなか強いな……」
そう呟いたのは、
“月光”の異名を持つ男――ラースだった。
相対するのは、ドラードの新人、ソー。
新人という肩書きがまるで信用できないほど、その魔力は洗練され、無駄がない。
ラースは現在、防戦一方――
と言いたいところだが、正確には違う。
彼は、非常に気分屋なのだ。
フレア内でのラースの評価は、奇妙なものだった。
――「あいつが諦めた時は、みんなが期待する男」。
意味が分からないだろう。
だが、それは事実だった。
ラースは、やる気を失った時ほど強い。
そして――
(さっさと倒して、ルナにイタズラしてやろう。クックック……)
こんなしょうもない理由でやる気を出している今は、
一番期待できない状態でもある。
「………………………………涼しい」
唐突に、ソーがそう呟いた。
次の瞬間。
大気が唸りを上げ、地面の砂礫を巻き上げる。
竜巻。
人工的に作られた魔力の奔流が、無慈悲に吹き荒れる。
ソー。
風を操る戦闘員。
そして、おそらく――魔法特化型戦闘員。
通称、魔法士。
「どこが涼しいんだよ!!」
ラースは叫びながら、刀を抜いた。
――《名月・水無ノ太刀》。
月魔法の一つ。
武を主とする魔闘士であるラースの得意技。
魔法そのものを“斬る”ための一閃。
だが――
この技は、人には効かない。
竜巻は断ち切られたが、その隙を突かれた。
「――っ!」
暴風が横から叩きつけられ、ラースの身体が宙を舞う。
「……………………プライム・ジェット……」
ソーが、ぽつりと技名を口にした。
「なんで毎回、出した後に言うんだよ!!
時差ありすぎだろ!!」
砂煙の中で、ラースは悪態をつく。
「……………………君、強い……」
「嘘つけ。
絶対、そう思ってないだろ。嫌味なヤツめ」
ラースが言い返すと、
ソーは答えず、ただ静かに魔力を高めた。
「…………………………」
無言。
そして、再び風がうねる。
ラースは即座に察し、地を蹴って回避する。
姿勢を立て直しながら、思う。
(どうせまた、後で技名言うんだろ……)
だが。
「……………………………強いって……
ホントのこと、言ってるのに……」
その声は、驚くほど感情がこもっていた。
「そっちかよ!?」
「てか、詠唱がなんで後なんだよ!?」
思わず突っ込む。
だが、次の瞬間、ラースの目が鋭くなる。
(……もういい)
距離を、詰める。
少しずつ。
確実に。
魔法士の弱点は、決まっている。
近接戦闘ができないこと。
どれほど強力な魔法を持とうと、
懐に潜り込まれれば、それで終わりだ。
(峰打ちで……気絶させる)
殺す必要はない。
仕事は、無力化だ。
風の合間を縫い、
ラースは月光のように滑り込む。
その刹那、
ソーの視線が、初めてはっきりとラースを捉えた。
――静かで、澄んだ目。
そこには、侮りも、慢心もなかった。
ただ、純粋な――
戦闘員としての集中だけがあった。
そのことに、ラースは気づいてしまった。
(……あー、やべ)
本当に、強い新人だ。
そんな予感が、
月光の胸を、わずかにざわつかせた。
「あ。でもそういや俺も組織入って1年目だから、あんま変わんねーか。」




