力vs技
衝撃音が、地面を叩き割る。
空気が震え、爆ぜた熱が頬を掠めるたび、ルナは反射的に地を蹴った。
――近い。
――速い。
マルメリと呼ばれる少女は、ひたすら前へ出てくる。
距離を詰め、逃げ場を潰し、近接で爆発を叩き込む。それだけを疑わず、何度も何度も。
「……っ!」
轟音。
衝撃波に弾かれながら、ルナは必死に身を翻す。
(所詮、私は“扉を開ける”だけ……)
胸の奥で、冷たい現実が囁く。
ドアを開ける。それだけの魔法。
こんな戦闘で、正面からやり合えば――命はない。
だが。
見ていれば、分かる。
マルメリの動きは荒い。
魔法の威力と、身体能力に頼りきっている。
(……嫌なこと、思い出しちゃうわね)
脳裏に浮かぶのは、白く閉ざされた屋敷。
メイビス家。
武も魔法も一流。
英才教育。
勉学は常に頂点、武術も魔法も競技として扱われる世界。
私は格闘技担当だった。
それが“役割”だった。
屋敷の廊下で、魔法士たちが魔法を放つたび――
光は美しく、洗練され、誇らしげだった。
「わぁ……きれい……かっこいい……」
幼い私は、心から憧れた。
魔法士になりたい。
あんなふうに、魔法を使いたい。
――疑いもしなかった。
あの日までは。
私に与えられた魔法は、
“ドアを開ける魔法”。それは、魔法と呼ぶのも躊躇われるほど些細なものだった。
だが。
私は、強かった。
武の才能があった。
当然のように、有段者たちと試合を重ねた。
当然のように、勝ち続けた。
――だからこそ。
(素人の動きなんて……)
「――見える!!!」
マルメリの腕が爆ぜる瞬間、
ルナは一歩踏み込み、右腕でその軌道を払い除けた。
爆発の衝撃を“受ける”のではなく、
相手の体重と勢いを利用して、流す。
ただ、いなす。
魔力が尽きるまで、ひたすら。
「あわわわわ……!なんで当たらないんですかぁ!?」
焦り。
それは、何よりも分かりやすい隙だった。
マルメリは苛立ち、爆発の火力を上げる。
(……狙い通り)
火力を上げれば、消耗も早い。
「さぁ!どんどん撃ってきなさい!
有段者、なめちゃ痛い目見るわよ!」
言った瞬間、後悔した。
自分でも驚くほど、自信満々だったからだ。
「うぅー!こうなったらぁ……こうですぅ!!」
次の瞬間、爆音が連続する。
狙いも何もない、無差別爆撃。
「……っ!?」
余裕だと思ったのは、最初だけだった。
煙が、視界を覆う。
息を吸うたび、喉が焼ける。
(……息が……!?)
気づいた時には、遅かった。
(爆発の煙……!
窒息……!?)
「ゲホッ……ゲホッ……っ……!」
肺が拒絶する。
視界が揺らぐ。
「わぁぁ!何も見えないですぅ!!!」
「……あんた、バカじゃないの!?」
思わず怒鳴った。
――どうやら、マルメリ自身は窒息を狙っていない。偶然の賜物だ。
爆発魔法使い特有の耐性が、無意識に身についているのだろう。
(……生粋のアホな子ね)
「わぁぁあ!もうめちゃくちゃですぅー!」
「あんたがよ!!」
その瞬間、爆風が直撃した。
「――っ!!」
身体が宙を舞う。
地面が遠ざかる。
だが、視界の端に――
「……魔力供給場の、非常地下口……!」
歯を食いしばり、魔法を発動する。
開いて!!!
扉は、音もなく開いた。
転がり込むように地下へ滑り込み、
ルナは爆撃の嵐から完全に姿を消した。
――そして。
「も、もう……だめでしゅ……」
煙の向こうで、マルメリが目を回し、
そのまま地面に倒れ込む音がした。
戦闘終了。
ルナは、初めて――
戦闘で、勝利した。
けれど。
胸に湧いたのは、達成感でも、歓喜でもなかった。
ただ、静かな疲労と――
「…………ごめんね」
誰にも聞こえない声で、そう呟くだけだった。




