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REGALIA FLAME  作者: ふんころ
アルメリア編
10/15

二大厄災

一章

夜気の匂いがまだ濃く残る午前二時四十五分。日輪の光など影も形もなく、世界は深い紫の帳に沈んでいた。ひやりとした空気に、眠りの残滓がようやく溶け落ちていく。


 フレアの仕事は、太陽関連だけではない。いや、本来ならもっと幅広い活動をしているはずなのだが――いまの彼らは、太陽消失という前代未聞の問題、その余波でいずれ訪れる“魔力枯渇”という終末を前に、目の前の依頼をこなすことで精一杯だった。


 それでも、二番目に重要だと言われているのが“赤マント”。

 だがこの街でその二文字を口にするのはタブーだ。代わりに呼ばれる名が“ヘイト”。フレアが受けた憎悪のすべてを象徴するような、皮肉めいた呼び名。


 そして今日の任務は――その“ヘイト”捜索とは別。人工太陽の魔力補給。

 初仕事の私は、まだ経験も浅いということでラースとアイクスの二人と組むことになった。


 アイクスが歩きながら言う。


「俺らを妨害する組織の連中だ」


「……妨害?」

「目的は、向こうも俺たちと同じだ。だが――」


 ラースが肩をすくめた。


「賞金を狙ってる。だから協力すれば取り分が減る。分かるだろ?報酬が減るくらいなら蹴落とす。人間なんてそんなもんさ」


「……意味……わかんない……」


 心がきゅっとねじれるようだった。

 他の組織と争ってまで、どうして同じ目的の者同士が手を取り合えないのか。

 けれど“常識”という言葉が、もう私の中では意味を成さないことも理解していた。


 この世界では、正しさより生存の方が優先される。

 だから――。


「わ、分かったわよ。文句はないわ」


「ところでルナ。お前、どんな魔法使えるんだ?」


「………………」


 あ。

 これ、一番聞かれたくなかったやつ。


 背筋がひやりとした。


「あ、あたしは……ドアを開け閉めする魔法……しか使えない」


 沈黙。


 世界が止まったような沈黙。


 あーもうフレア人生終わった。

 今ので寿命三年縮んだわ私。


 そのとき、ラースとアイクスがふっと笑って、私の手をそれぞれ軽く握った。


「お前の場合、扉なら開けられるんだろ?」


 ラースがニヤリとした顔で続ける。


「……国の金盗んでもバレねーじゃん」


「犯罪じゃないの!!?」


 アイクスまでもが悪い顔で肩をすくめる。


「そうだな。たとえばそれであーんなことやこーんな――」


「ナニいってんのよ!!ていうか急ぐんでしょ!?人工太陽の魔力補給!場所はどこなの!」


「まぁそんな焦るなってルナ」


「焦らせてるのはあんたでしょ!!ラースは月が見えなくなったら魔力切れるんだから急ぎなさいよ!!!」


 言い合いが続く間にも、空はじわじわと夜の黒を深めていく。


 午前三時。

 人口太陽はまだ眠っている。そのわずかな時間、誰かが魔力をためておかないといけない。


 四時までに人工太陽への魔力補給が完了すれば、報酬は発生する――そういう決まりだ。


「ほんと、人の醜い部分が出やすい仕事ね……」


 心の中で吐き捨てるようにつぶやいた。

 でも、それでも。

 この組織が生き残らなければ、誰も太陽には手が届かない。


 ふと気になり、私はアイクスに声をかけた。


「あの、アイクスさん……」


「ん?」


「どうして集合が二時半だったんですか? 隠密行動なら、日付が変わってすぐの零時でもいいんじゃ……?」


 アイクスは足を止め、短く言った。


「“ゼロの怪物”だ」


「ゼロの……怪物?」


 ラースが息をつぎ、淡々と語り出す。


「伝説の災厄。スメラに対なる存在――ゼロ


 その名が空間を震わせるような重みを帯びていた。


【この世界には“二大厄災”と呼ばれる存在がある。スメラゼロ

 古の時代、世界がまだひよわな光を灯し始めた頃――

 その二つの影が空を割り、大地を踏み鳴らしたとき、

 大陸は裂け、空は燃え、魔力の海は干上がった。

 やがてすべての文明は灰に帰し、人々は千年にわたり、その名を口にすることすら恐れ続けたという】


 闇の中を歩きながら、ラースの声はかすかに低くなっていった。


「その伝説は"今でも本気で”恐れられてる。

 だからこの国では法律で決まってるんだ。

 零時から二時までは、行動全てを禁ずる――ってな」


 その瞬間夜風がひやりと肌をなでた。

 まるで、何かが遠くの闇で目を開いたような気がした。



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