プロローグ
──聖末期二百三十年。
魔法と武が共存する世界は、ひとつの災厄によって終焉へと傾いていた。
魔を信じ、天に祈る「アルメリア帝国」。
武を尊び、力を以て秩序を守る「レギオン王国」。
二つの国家は、理と信念の違いから幾度も刃を交え、世界を血に染め続けてきた。
だが、その戦いは突然、意味を失った。
黒い空が裂け、灼熱の翼が現れた瞬間――
全ての人間が、初めて“絶対的な存在”を見た。
それが鳳であった。
万象を焼き尽くし、太陽を喰らう怪物。
空は永遠の闇に包まれ、昼は消えた。
山は崩れ、海は沸騰し、魔も武も通じぬ圧倒的な“神の怒り”が地上を覆った。
人は祈り、剣を掲げ、呪文を放ち、叫んだ。
だが、そのどれもが虚しく、凰はただ笑った。
その声は、世界の終わりの鐘のようであったという。
滅びを前にして、長きにわたり敵対していた二つの国は、ついに剣を捨てた。
一つの希望を信じて――“共に抗う”ことを選んだのだ。
だが、人の力では到底届かぬ。
魔導師たちは命を賭して封印陣を描き、武人たちは命を盾に陣を守った。
それでも凰の炎は、ひと息で千を焼き、ひと羽ばたきで万を灰に変えた。
その時だった。
ひとりの女性が、光の中から歩み出た。
その名を知る者は誰もいない。
ただ、彼女は微笑み、こう言ったという。
「"太陽"は、この私が_______」
そして――
彼女は自らの魂を代償に、凰を封じた。
その瞬間、世界を覆っていた紅蓮の光が消え、闇が静かに沈んだ。
空には二度と太陽が昇らなかったが、
それでも人々は生き延びた。
彼女を人々はこう呼んだ。
「封印の女神」と。
それから三百年。
彼女が残した“封印”と、“失われた太陽”。
それが、すべての始まりとなる。




