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【完結】俺は死んだはずだよな?  作者: 破れ綴じ
10. 王族

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99/111

突然の変化と眠る王子

「兄上、先日の火災についてなんだが……件の家屋は全て教会の拠点だったようだ」


「だとは思ってたが……じゃあ、ウッド侯爵も教会員だったってことだよな」


「おかげで後ろ盾を失った上層部たちの悪事が次々明るみになっている」


「お、おう。その、予想外の出来事だったな。まあ、良いことだけど」


「兄上が再調査を要求していた、件の罪人二人も訴えが取り下げられたらしい」


「えっ……?」


 えっそんなあっさり解決するものなのか? 

 それでいいのか……? 




 あの一件以降、エリザベトはとにかく忙しそうだ。

 どうやらあの火災で光明の教会は一気に統率力を失ったらしく、それは王国の腐敗についても同じことのようで。それまで隠されてた黒いところが隠しきれなくなり、少し叩くだけで埃がボロボロ出てきたらしい。

 芋づる式ってやつだな。幹部が生きてる間は上手く隠してたんだろうが、死んじまったら庇う人間がいなくなる。そうなりゃ保身のために仲間を売るヤツも出てくるし、証拠を隠滅する前に押さえられることもあるだろ。中には自棄になって特攻かますヤツもいるかもしれねえ。


 でも、そのおかげでタリエとカルも突如として無実が認められたんだと。

 ちょっと急すぎる気もするが……考えてみりゃ当然か。二人が捕まった理由は、ヴェインとの癒着を隠すための口封じだった。その癒着の元締めが全員死んで、隠す意味がなくなったんだから、訴えを維持する理由もねえ。むしろ訴えを続けてたら、自分たちも癒着に関わってたって認めるようなもんだ。


「おかげで連日政務に追われている。正直、ここまで事態が急変するとは思わなかった」


「……ちゃんと寝れてるのか? お前に倒れられたら国の一大事だぞ?」


「大丈夫よアシェル。エリザベト様を倒す相手は私が全て返り討ちにするわ」


「ルシア、兄上が言いたいのはそういうことではないと思う」


 ルシアはもう正式に近衛として採用されたらしい。自棄になったヤツらが報復に来る可能性もあるから、確実に信頼できて、かつめちゃくちゃ強いルシアが近くにいるだけでかなり安心材料になるんだろう。

 ニコニコしながら、エリザベトの座る椅子の斜め後ろで控えてる。時々向かいの俺に目線をくれるので上機嫌なんだなってことが目に見えて分かりやすい。

 というかお前、夢が叶ってからちょっと浮かれてないか? 実力に問題は無いんだろうけど……なんか元の頃にあった微かなポンコツさがまた顔を出してるような気がするんだが。


「この後、ウッド侯爵の領地へ視察に行く必要もある。あまり睡眠はとれないだろうな」


 おお、激務……。

 あれか。侯爵が死んで領地は混乱してるし、後継者の問題とか、領民への対応とか、残された事業の処理とか、それの確認に行く必要があると。侯爵は教会と繋がってたらしいし、そういう意味でも問題は山積みだろう。


 それなら──


「──俺が行って来ようか? お前のおかげで今は時間が取れそうだし、王族の俺ならお前とも同じ決定権があるだろ?」


「……いいのか? ……まあ、そうだな。可能であればお願いしたい」


「よし、引き受けた」


 そもそも、エリザベトは俺が成り代わりで突然この立場になっただけ、「本来の王族じゃない」ってことを知ってる。それもあってか、俺に負担がかかりすぎないように色々と手を回してくれてる。俺が政務漬けになってないのはそれが原因だ。

 その結果、エリザベトの方にしわ寄せが行ってる訳だが。




「それと兄上。本来王族でない兄上に、ここまで負担をかけてしまっている。何か報酬を用意したいのだが」


「いや? 別にいらねえぞ。俺は好きでやってるんだし」


「そのような訳にはいかない。兄上の働きに対して、何も返さないというのは筋が通らない。金が欲しいか? 兄上の望む額を用意するぞ」


「ふむ……」


 金か……。

 ボスなら喜んで飛びついただろうし、盗賊の頃の俺なら同じように喜んで受け入れただろうが……今の俺には具体的な使い道も欲しいものもねえしな。


「では、地位の方がいいか? 兄上の性格と能力は信用している。望むなら、相応の役職を用意できるが」


「うーん……」


 地位も面倒が増えるだけだろ。

 今でさえ持て余してるってのに、これ以上責任を負わされてもなあ。


「では……そ、それとも……女を、用意しようか……?」


「は?」


「エ、エリザベト様!? その、アシェルは、私の……!」


 ん? 女? なんで? 

 おい、お前もなんで顔赤くしてんだ。言い出しっぺだろ。ルシアまで何を……。


「兄上の周りには女性が多いようだし、その、そういった方面での報酬も考慮すべきかと……」


 ああ、そういう……。

 なんか俺のこと女好きかなんかかと思い込んでんのか。女の知り合いが多いから。

 へえ……。

 俺ってそう思われてたんだ……。


「いや、そういうのはいいよ」


「そ、そうか……? なら、何を望む?」


 何を望む、か。

 金も地位も女もとりあえず今は興味ねえ。じゃあ俺は何が欲しいんだろうか。


 ……って、ああ。

 そういやあったぞ、答え。ずっと欲しいのがあったじゃねえか、俺。




「お前を王にできたら──俺を隠居させてくれ」


「……え、隠居?」






 *






 王都を出てから数日が経ったが、道中は拍子抜けするほど順調だ。

 困惑するエリザベトからも隠居の言質を勝ち取って俺としちゃかなり気が楽になってるし。馬車に揺られるのにも慣れてきて、窓から入ってくる風も心地いい。護衛の連中は相変わらずピリピリしてるが、今のところ何の問題も起きてねえ。


「殿下、そろそろ休憩になさいますか?」


「ああ、そうだな。次の街までまだあるし、少し休むか」


 まあ、問題なんて起きるはずがねえと思ってたけどな。教会の幹部は全滅したし、腐敗の残党だって混乱の真っ只中、何か分かりやすい狙いでもない限り組織的な動きなんてできる訳がねえ。俺を狙うような余裕があるヤツなんて、今この国にはいねえだろ。

 ああ、にしてもこういうのどかな場所はいいな。隠居したらこういう場所でのんびり暮らすのも悪くねえかも。誰にも邪魔されず、良い感じの時間に起きて、適度に仕事をしながら、夜は仲間たちと飯を食って、良い感じの時間に寝て……そんな生活が送れるようになれれば文句なしなんだが……。




「っ……ん?」




 ……なんだ今の音。なんか変な音したな。

 風切り音? 虫の羽音か? いや、違う。もっと鋭くて、冷たい感じのするような──


「ッ、殿下! 伏せてください!」


「!? おおっと!」


 うおおおお危ねえ! 

 なんだなんだ!? 


 てか、さっきの音──矢じゃねえか……! 

 それも一本や二本じゃねえ、次々と飛んできてやがる。


『神の裁きだ! 悪魔め!』


『教会の敵に死を!』


「敵襲! 敵襲だ! 殿下をお守りしろ!」


「おいおいマジかよ……!」


 こんな場所で襲撃だと? 誰だ、山賊か? 

 いや、山賊にしちゃあタイミングが良すぎるし、叫んでる内容が物騒すぎる。


「毒矢を使え! 弱らせろ! くれぐれも殺すなよ!」


 森の中からぞろぞろ武器を持った連中が飛び出して来やが……ちょっと人数が多すぎねえか!? なんだあの人数!? 冗談だろ、うちの護衛の十倍近くはいるぞ!? 


 それに後ろの方から指示を出す声が聞こえる。

 指揮官がいるってことは……ただの暴徒じゃなくて組織的な襲撃だってことか? 俺たちが休憩するのを待ってたみてえだし、完全に狙い撃ちされてるぞ。

 でも、あんな混乱があってすぐにここまでの人数をどうやってまとめあげられたんだ? 私兵団にしちゃ大規模すぎるし、かといって寄せ集めの集団を王族襲撃なんて命知らずの目的のために従えるなんてあり得る訳が……。


「……ああ、そうか!」


 コイツらは光明の教会の元信者たちか! で、指揮官は教会と繋がってた没落貴族ってことじゃねえか! それなら全部の辻褄が合う! 

 幹部がいなくなって行き場を失った信者たちを、自棄になった貴族が私兵として寄せ集めたってことだ。信者たちなら、ナントカの思し召しだとか言えば統率が取れるだろうし、教会と繋がってた貴族ならかつての有力者ってことで猶更扇動し易いだろう。


 で、俺らにとっちゃそのシナリオは最悪だ……! 

 敵の人数はうちの護衛より遥かに多いってのに、大多数が罪のない一般人で構成されてるからこっちとしちゃ強く出るにも出られねえ……! 

 畜生が、教会幹部のウッド侯爵の領地なら、他にも教会の息がかかった貴族がいることを考えるべきだった。本来ここに来るのがエリザベトだったから、それが俺に代わったってのは不幸中の幸いだが──


「──! ぐっ!」


「殿下! 大丈夫ですか!」


 熱っ! クソ、掠ったか……! 

 傷は浅いが……なんだか焼けるように痛え。毒か、毒矢を使ってきやがったか。「殺すなよ」って聞こえたから死ぬような毒じゃねえとは思うが……。

 とりあえず、マドリーが薬を渡してくれてて助かった。さっさと飲んでおこう。


「問題ねえ! それよりお前ら、殺すなよ! 相手は洗脳された一般人の可能性がある!」


「しかし!」


「命令だ! やるなら殺さずに無力化だ! とりあえず今は逃げるぞ!」


 戸惑ってるところ悪いが、コイツらは自分が何をしてるのか分かってねえんだ。

 教会に騙されて、利用されてるだけの被害者だ。だからって殺していい理由にはならねえ。


 ッ、クソ、また掠っちまった。もう一錠……! 

 にしても、まずいな……このままじゃジリ貧だ。殺さずに戦うなんて縛りじゃ長くは持たねえ。このまま全滅するのを待つだけなんて御免だぞ。


 でも──だからって逃げ回ってばっかりって訳にもいかねえ。もし逃走が長引いたり、俺たちが逃げ切れたとしても、俺を探して数百人の暴徒が動き回ることになっちまうんだ。近くにも町や村はあるし、巻き込まれると死人が出かねない。

 やるなら、上を潰すか、この集団よりも強い集団を連れてきて無理やり抑え込むかだ。


「おい、お前!」


 おい、そこの若いヤツ! 手が震えてるそこの護衛! 


「は、はい!」


「お前はここを抜けろ! 王都に戻ってエリザベトにこの状況を伝えろ!」


「っ! で、でも、殿下を置いて……!」


「命令だ! 今すぐ行って、増援を呼んで来い! じゃなきゃ俺たちが死ぬか、一般人が死ぬかだ!」


「は、はい……!」


「よし! お前ら、アイツを抜けさせるぞ! 二手に分かれて注意を引かせろ!」


 とりあえず今は距離を取ることだ。

 なんかさっきからだんだん瞼が重たくなってる気がするし、呼吸も浅くなってるように感じるが、今はそんなこと気にしていられねえ……! 






 *






「はぁっ……はぁっ……」


 クソ……完全に囲まれちまったか。

 結構逃げ回ったと思うが、町や村みたいに人のいる場所には逃げられねえし──何より、伝令を逃がすために無理やり突出したのが裏目に出た。あの判断は間違ってないと思うが、おかげで護衛たちとも分断されちまって。

 俺の周りには今、何十人もの信者が壁を作ってやがる。こりゃもう逃げ場はねえな。


「そこまでだ、アシュレム王子」


 ……道が開いたかと思えば、随分と派手なのが出てきたな。コイツが指揮官か。

 服はあちこち綻びてて薄汚れてるが、顔に張り付いた焦りと欲望は隠せてねえぞ。

 今から飛びかかってコイツだけ殺せればいいんだが……どうにも周囲の信者たちがそうさせてくれないらしい。俺にコイツらを説得させられればいいんだが、それをするには敵意を持たれ過ぎてるみたいだ。


「抵抗はやめろ。大人しく投降すれば、命までは取らん」


「へえ、随分と優しいんだな。俺を殺すつもりじゃなかったのか?」


「殺してどうする。お前は貴重な交渉材料だ」


 交渉材料、ね。

 やっぱりか。こいつらの狙いは俺の命じゃなくて、俺を使って何かを要求することだ。所謂「人質」って立場に俺は置かれちまった訳だと。


「要求は何だ。金か? それとも領地か?」


「全てだ! 没落した我が家の復興、この一件での不正の免責、そして安泰な地位の保証! 王と王女は長男可愛さに、こちらの要求を飲まざるを得ん!」


 おお……。

 随分と大きく出たもんだ。


 まあ、分からなくもねえぞ。後ろ盾だった教会が潰れて、自分たちの悪事がバレるのは時間の問題。そうなれば破滅しかねえんだから、一発逆転を狙って王族を人質に取るってのは、こいつらにとっちゃ唯一の希望なんだろう。

 しかも偶然の巡り合わせとはいえ、自分の手元には大量の信者がいて、しかも自分の近くに王子が訪問すると来たもんだ。もう今しかないと思って、行動に移したのか。


 ていうか、王っていたんだな。いや、いて当然なんだろうけど。

 俺、今の今まで遂に王を見ることは無かったから、いないのかと。いるのか、へえ。


「そういう訳だ。大人しく投降して頂こう」


「……」


 ただ、その希望が俺にとっちゃ最悪の足枷だ。

 もし俺が捕まれば、王とエリザベトは要求を飲まざるを得なくなる。王がどうなるかはともかく──兄貴を見捨てた王女なんてレッテルを貼られれば、エリザベトの求心力はガタ落ちだ。

 かといって要求を飲めば、腐敗した貴族をのさばらせることになる。どっちに転んでも、エリザベトの治世は傷つくことになる。


 そんなの、冗談じゃねえぞ。

 俺はアイツを王にするって決めたんだ。アイツが作る新しい国を見るために、ここまで走り続けてきたって言っても過言じゃねえかもしれねえ。こんな三流貴族の保身のために、あいつの未来を閉ざされてたまるかよ。


「……っ」


 ──なのに、視界が歪んでく。足に力が入らねえ。剣を持ってるのもやっとだ。

 疲れもあるんだろうが……マドリーの薬が効いてきてるんだ。毒の回りは遅くなってるはずだが、その代償として体が全身からけだるさを主張してる。「代謝を極限まで落とす」ってのは、要するに死んだように眠らせるってことなのか? 詳しいことは分からねえけど、多分そうなんだろうな。


 このまま戦っても、勝てる見込みはねえ。

 護衛たちは遠くで奮戦してるが、こっちに来るまでには時間がかかる。その前に俺は捕まるだろう。捕まれば終わりだ。そうなりゃ護衛も無抵抗で投降せざるを得ないし、俺はエリザベトの弱点になり、あいつの足を引っ張るだけの存在になっちまう。


「どうした、王子。慣れない戦場で、もう立っているのも辛いか?」


 なんだその勝ち誇った顔は。ムカつく顔しやがって。

 生憎と体が動かねえだけだ。できるなら今すぐその顔を切り刻んでやったっていいんだぞ。


「大人しくこっちに来い。そうすれば楽になれるぞ」


 楽になれる、か。

 確かに、投降すればこの緊張感からは解放されるかもしれねえ。人質の価値を落とすような真似もしねえだろうし、投降すれば自分の命も守れるっていう安心感も手に入るだろう。


 でも、その後に待ってるのは、エリザベトが苦しむ未来だ。


「……ふざけんなよ」


 俺は自分とアイツに約束したんだ。

 エリザベトを王にしてやるって。

 アイツが王になったら、俺は隠居させてもらうって。

 その約束を、こんなところで反故にされてたまるか。


 それに俺には──まだ手がある。

 イチかバチかの賭けにはなっちまうが、この状況をひっくり返す唯一の方法が。


「……あと何錠か、いや、これだけあれば十分か」


 懐の小瓶。中にはまだマドリーから貰った薬が残ってる。

 マドリーは言ってたな、「無理な服用は副作用を呼びかねない」って。

 少量でこれだけ眠くなるんだ。全部飲んだらどうなる? 代謝が極限まで落ちて、心臓が止まるぐらいまで遅くなって──死んだように眠るんじゃねえか? 


 もし俺がここで「死んだこと」になれば。

 そうなりゃ俺の人質としての価値はゼロになる。死体を使って交渉なんてできねえ。

 信者たちは復讐の対象を失って勢いを削がれ、この暴徒も収まるだろう。それと同時にこの貴族は切り札を失う。それどころか「王子を盾にした」って罪が「王子を追い詰めて自死させた」って罪に置き換わっちまう。

 そしてエリザベトは──『兄を失った悲劇の王女』として、弔い合戦という大義名分を得て、こいつらを堂々と一掃できるワケだ。そうすれば、この集団を殺さずに抑え込めるだけの人員を準備できるだろう。

 面倒な敵を倒したことをアピールできれば、絶大な支持を手に入れられるし、世論だって味方につけられる。ついでに王位継承問題だって、俺という対抗馬がいなくなれば即座に解決するはずだ。


 完璧じゃねえか。

 俺が死んだことになるだけで、今の状況を全部丸く収めることができる。


「……おい、何を持っている!」


 なんだよ、そんなに怪訝な顔して。

 残念だったな。お前の思い通りにはさせねえよ。


「なっ、まさか毒を……! やめろ! 早まるな!」


 薬なんだな、これが。


 あばよ。エリザベトによろしくな。

 覚悟は決まった。一気にいくぞ。






 *






 ……ま、別にマジで死んでやるつもりはねえんだが。


「き、貴様ぁ! 何を……何をしたぁ!」


 舌が痺れるし、喉が焼けるように熱い。胃袋が縮み上がるような感覚だ。一気に飲み込むとここまでえづきそうになるもんなのか。

 だが、これでいい。飲み込んじまったもんは戻せねえ。俺の賭けは成立した。賽は投げられたってヤツだな。


「吐け、吐き出せぇ!!」


 はは、絶叫が聞こえるぞ。随分と焦ってやがるな。

 そりゃそうだ、切り札が目の前で自害したんだからな。お前の描いた完璧な計画は、これで全部パーだ。俺を追い詰めた時点で、お前の負けなんだよ。

 人質が死んじまったら、お前には何の価値も残らねえ。ただの王族殺しの逆賊として、惨めに処刑される未来しか待ってねえぞ。


「……あ? おえ」


 おお、なんだこれ、すげえな。

 マドリーの薬、効きが早すぎるだろ。飲んだ瞬間から、強烈な睡魔に直接殴りつけられてるみてえだ。

 視界が歪んでるし、色が混ざり合って、形が崩れていって……。

 世界が回ってる、空と地面の区別がつかねえ。足から力が抜ける。立っていられねえ。膝が笑うどころか、感覚がねえ。


「おお……っと」


 今のは……ああ、俺が倒れた音か。

 頬に伝わる冷たさ。土の匂い。草の感触。地面が近いな。いや、俺が地面に張り付いてんのか。


「おい! どうした! 何をした!」


「脈が……弱い! ほとんど息をしていない!」


「死んだらどうするんだ! 人質の価値がなくなるぞ! 医者を呼べ! いや、解毒剤だ! 誰か持っていないか!」


 飲んだのが解毒剤なんだがな。

 元々、安静にした状態で飲むことを想定してる代物だったんだろうが、俺は毒矢を受けながら走り回りつつ飲んでたし、回りがちょっと早いのかもしれねえ。副作用も強いっていうし、一気に飲む代物じゃないのも確かだ。

 悪いなマドリー、用法に全力で歯向かってるが、緊急だからちょっと許してくれ。


 ……にしてもこれ、思ってた以上に強いな。

 眠い、とにかく眠い。瞼が鉛みてえに重い、開けてられねえ。指先一つ動かせねえ。呼吸をするのさえ億劫だ。胸の奥が、ドクン、ドクンと、やけにゆっくり聞こえてる。

 ……あれ、これが仮死状態ってやつか? それとも、行き過ぎて本当に死にかけてるのか? 


「あー……」


 元々、ここで死んだ風に見せることで、増援を呼びに行かせたあの護衛が戻ってくるまでの時間を稼ぐつもりだったんだが……。


 死体になった人質に価値はねえし、そうなりゃ集団は俺を置いていくか、どこかに隠そうとするか、仕方なく連れて行こうとするかの三択のはずだ。もし増援と一緒にアイツが戻ってくれば俺の身柄を取り返すことができるだろうし、例え隠されたとしても近くでまだ護衛が戦ってるんだから聞けば場所も分かるだろう。

 増援が来るまで時間を稼ぎつつ、戻って来たヤツらに俺の身柄を回収してもらって、その後に秘密裏に回復させてもらえればなんとか一命を取り留められるかと思ったんだが。

 公的には「王子は死んだ」って周知してから秘密裏に生き返れれば、俺は王子としての立場を放棄しつつ、他の要件も全部クリアできる想定だった。助けさえ間に合えばどうとでもなる想定だったんだ。


 だけど……あれ? 

 これ本当に生きて帰れるか? マジで死んじまわねえか? 


 多分、この状態で死ねば、俺は……中毒死ってことになるのかな。

 既に毒死は経験してるからちょっと不安があるんだけど……。

 できるだけ成り代わりがある前提で次を考えることはしたくないんだよな。

 だって、俺の仲間たちは俺に死んでほしくないって思ってる訳で……。


 ……おっと、マジで眠くなってきたな。これ間に合うのかな。

 毒で死んだ時と比べて違うのは、そこまで苦しくねえって、ことぐら……い……。






「えっと、反応は、この辺り……から、だよね……?」


「じゃ、邪魔……あの! 皆さん、通してくださーい……!」


「……え、私? か、幹部様……? い、生き残り……? 導いてくれ……?」


「い、いや、そういうの、どうでもよくて。今は、通してもらえると……!」


「……あぁっ! やっと、見つけま……どういう状況ですか?」

ここまで読んでくださってありがとうございます。

可能であれば、感想や意見や評価やリアクションを頂けると嬉しいです。大喜びします。

次が最終話です。


みんなもにオーバードーズは気を付けよう!(´・ω・`)

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