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【完結】俺は死んだはずだよな?  作者: 破れ綴じ
10. 王族

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98/111

意識していた呼び名と突然の襲撃

 隠れ家に顔を出すのも、すっかり日課になっちまった。


 王族としての政務をタリエとカルに丸投げするために定期的にここへ来てるんだが。最初は書類を届けるためだったが、今じゃ完全に息抜きの場所になっちまってる。

 王城にいると肩が凝って仕方ねえが、ここに来ると不思議と気が楽だ。見知った顔が多いからか? まあ、楽になるっつっても、別の意味で疲れることも多いんだが。


「兄貴ー! 今日も来てくれたのか!」


「おう、リアン」


「なあなあ、今度うちの新商品が出るんだけどさ、兄貴に一番に見せたいんだ! いいよな! いいな! よし!」


 大抵、隠れ家に来た時一番に反応するのは兄弟のどっちかだ。今日はリアンだったか。

 嬉しそうに話してくる。酒家の代理人として王都で奔走してるはずなのに、俺の顔を見るたびに子犬みてえだ。弟ってのは皆こうなのか、それともコイツが特別なのか。ネルはまたちょっと違うタイプだしな。


「アシェル兄、私のことは」


「おう、ネル。元気そうだな」


「……元気じゃないよー。マドリーに扱き使われてて……」


「それは……まあ、頑張れ」


「頑張れじゃなくて、私はアシェル兄に助けてほしいんだけど?」


 おお。目が完全に据わっちまってる。

 グロス家の店員として働かされてるってのは聞いてるが、マドリーの下ってのは確かにキツそうだ。マドリーは家業に対して強い情熱を持ってるし、仕事に関して手抜きを見逃してくれるような性格でもねえからな。墓荒らしの件もまだ根に持ってるみたいだし。


「……ほら来た」


「ネル、サボってないで戻りなさい。まだ仕事が残っているでしょう」


 噂をすればなんとやら。

 ここ最近で完全に上下関係が出来上がっちまったらしい。ご愁傷様だな、ネル。


「ところで──丁度良かったわ、アシェル。少しいいかしら」


「ん? なんだ」


「貴方に渡しておきたいものがあって。ようやく完成したの」


 ほう? 

 その口ぶりからして、結構長い時間をかけて作ってたものっぽいが……。

 ……なんだ? この小さな瓶。

 透明な液体が入ってて、微かに甘い匂いがする。バレクの酒に似てるな。


「これは?」


「解毒剤よ。アルコール……酒の成分をベースに、うちの技術で調合したもの」


「解毒剤……?」


 そういや薬家は元々、酒の持つ消毒とかの作用に注目してて、酒家との提携によって製品開発の幅を広げられるんじゃねえかって目論見なんだったっけ。それで酒家との婚約を進めてたはず。

 ──じゃあこれが? 


「王位継承に強く関連する王族である以上、暗殺の可能性もあるでしょう? 万が一の時、これを飲めばある程度の毒は解毒できるようになるわ」


 へえ、なるほど。毒殺対策か。

 確かに、王族ってのは狙われやすい立場だ。エリザベトと一緒に腐敗を暴こうとしてるんだから、尚更だろう。上層部の連中からすれば、俺は邪魔者でしかねえ。


「タリエ君が持っていた毒物を基準にしたの。あの毒ならおそらく解毒できるでしょう」


「へえ、すげえ……!」


 ……というか、タリエは結局あの毒持ったままなのかよ。

 いや、確かにあれがあればとんでもない護身になるが。


 で、これはその毒を解毒できると。

 コイツ、マジでとんでもないな。


「ただ、毒の進行を遅らせるため体の代謝を極限まで落とそうとするから、無理な服用は副作用を呼びかねない。そこだけ気を付けて」


「なるほど……ありがとな、マドリー」


「当然のことよ。お礼は指輪で頼もうかしら?」


 ……おう。

 その、ちょっと重たいものを感じた。軽いはずなのに、手の中の小瓶から妙に存在感を感じるぞ。




「先輩、こちらの書類なんですが……」


「おう、タリエ。どうした」


「この案件、僕の判断だけでは決めかねまして……ベラさんにも相談したんですが、意見が分かれてしまって」


 顔色は前よりマシになってるな。

 マドリーやベラが手伝うようになってから、だいぶ楽になったんだろう。それでもまだ余裕がある訳じゃなさそうだが。


「意見が分かれた?」


「はい。僕は慎重に進めるべきだと思うんですが、ベラさんは早めに手を打つべきだと……」


「──私の意見が間違っているとでも?」


「い、いえ……! そういう訳では……」


 ああ、まだ怖がってるな、タリエ。

 まあ、ついこの前殺し合い寸前だった相手と一緒に仕事してるんだから、気まずくない訳がねえよな。まだ慣れてねえのは当然だろう。


「冗談だ。お前の慎重さは悪くない。ただ、この件に関しては時間が惜しいと思っただけだ」


「そ、そうですか……」


 ベラの口調は素っ気ねえが、これがコイツの普通だ。仕事モードに入ると余計なことは喋らねえ、効率重視のヤツ。吏長やってた頃からそうだったし。

 二人の間にある微妙な空気は俺にも分かるが、まあ、時間が解決してくれるだろ。




「アシェルちゃん、お疲れでしょう? ほら、座って座って~」


 ロエマは……この人、相変わらず世話焼きだな。

 俺が来るたびにお茶だの菓子だの用意してくれる。写本師の時から変わってねえ。


「えーっと、ありがとう、ございます、ロエマさん」


「もう! 今は王子様なんだから、私に敬語なんて使わなくていいのに~」


 そういう訳にも。

 なんかロエマさん相手だと自然になんか態度が変わっちまうんだよ。なんでだろうな? 


「あー……カルは?」


「カルくんなら、奥で写本の仕事してるわ~。もう元のアシェルちゃんの筆跡は例が無くても書けるんですって」


 おお、流石。やっぱ文字を書くって分野に関してカルに敵うヤツはいなさそうだ。


 にしても、人間関係は相変わらずなのか。

 アイツは人と話すのが苦手だから、こうやって皆が集まってる時は奥に引っ込んでることが多い。たまに俺が一人で来た時は、ぽつぽつ話してくれるんだが。

 やっぱ、不器用なヤツだが、悪いヤツじゃねえ。そのカルがタリエと協力してヴェインを殺そうとしてたってんだから、あの時は本当に大変だったんだって思い知らされる。すぐに会えて本当に良かった。


「もう、アシェルちゃんもカルくんも頑張りすぎなのよ? たまにはゆっくり休まないとね~、よしよし~」


「ん……ぐ……」


 ロエマがまた撫でてくる。

 ……いい加減慣れたが、やっぱりちょっと気恥ずかしい。別に悪い気はしねえが……。


 まあでも、この人がいるから、この場所が殺伐としねえで済んでるんだろうな。

 そういう意味でもこの人は人を癒す力があるっていうか。


「それでは私も。ご主人様、よしよ──」


「いらねえ」


「何故、私だけ……」


 怖いからだよ。

 何度も言わせんなよ。


 あー、でも……。

 コイツ、俺の指示に従って命張ってくれてるんだよな……。




「いや、その、悪い……お前にはいつも助けられてる」


「え……」


「ちゃんと護衛してくれてるのに、ちょっと冷た過ぎるよな」


「……」


「その……迷惑かけるが、これからも、ついてきてくれると助かる」


「……はい、ご主人様……!」






 *






 で、城に帰れば色々用事をした後、エリザベトとの作戦会議が待っている訳だが。


「──つまり、光明の教会の目的は、戦争を引き起こすことにある」


「ええ……」


 戦争って。

 戦争って……。


 いや、教会が碌でもねえ連中だってのは分かってた。信者から金を巻き上げて、洗脳して、邪魔になったヤツは消す。内部を見てきたから、そのヤバさは身に染みてる。

 だが、戦争ってのは……規模が違いすぎねえか? 一つの宗教団体が国同士の争いを引き起こそうとしてるって、そんな馬鹿げた話があるのかよ。


「……戦争って、本気で言ってるのか」


「本気だ。兄上は私が冗談を言うと思うのか」


 言わねえよな、コイツは。

 エリザベトの目は真剣そのものだ。いつもの凛とした表情の奥に、隠しきれねえ焦りが滲んでる。コイツがここまで切羽詰まった顔を見せるなんて、それだけ事態の深刻ってことじゃねえか。


「兄上が成り代わりで生成されるまでは私が王位継承権第一位だった。そして、この国の政府の一部は腐敗しており、その腐敗の中心に──教会がいる」


「それがどう繋がるんだ……?」


「つまりだな。私が汚職に反対している以上、教会にとって私は邪魔な存在だ。私が王位に就けば、奴らの利権は全て潰される。だから、その前に手を打とうとしている」


 ああ、まあ、確かに……。

 エリザベトが王になったら困る連中がいる。だから、エリザベトが王になる前に、この国をめちゃくちゃにしようとしてる。戦争なんて起こされたら、王位継承どころの話じゃなくなる……ってことか? 


 じゃあ俺が文官の時に見つけちまった、敵国の文字で書かれてた文書ってのは──戦争の引き金かなんかだったってことなのか。

 で、それを嗅ぎつけたベラは上層部、もっと言えばそれと繋がってる教会、もっと言えばヴェインによって毒を盛るよう指示された。そして、殺されかけた……と。


 ……なんでそんな重要なもんを、あんなチンピラに取りに行かせたんだろう。


「だが、戦争を起こすって……そこまでする理由があるのか。リスクが高すぎるだろ」


「ある。戦争が起これば国は疲弊し、困窮者が増える」


 ……あっ。

 うーわ……。


「困窮者が増えれば……」


「救いを求める者も増える。そして、その救いを与えるのが教会だ」


 うわあ、思ってたより胸糞悪い。戦争をわざと起こして、家や家族や生きる希望を失った人間たちを、甘い言葉で釣って信者にする。そうやって勢力を拡大して、さらに権力を握る……と。

 確かに合理的だが……あまりにも外道すぎる。ヴェインを殺した時点で教会には大打撃を与えたと思ってたが、そんな甘い話じゃなかったってことか。


「隣国との関係を煽り、戦争の火種を作ろうとしている動きがある。国境付近での小競り合いを意図的に激化させ、両国の関係を悪化させようとしている。奴らは国を動かせるうちにこれらを成し遂げたいのだ」


「それを防がねえと……」


「そうだ。腐敗は深刻であり、私一人の力では限界がある」


 珍しく弱気な響きが混じってる。

 コイツは強い。俺なんかよりずっと頭が良くて、政治のことも分かってて、王になるべき器を持ってる。そのコイツが「限界がある」なんて言うってことは、本当にヤバいってことだ。俺みてえな素人が見ても分かるくらい、追い詰められてるってことだ。


「そのため、致し方ないが……ウッド侯爵の協力を取り付けるつもりだ」


「ウッド侯爵って……あの?」


「ああ」


 前にエリザベトが名前を出してた貴族か。

 教会について独自に調査を行っているって話だったよな。敵の敵は味方、ってことで協力を持ちかけようって話は前にも出てた。


 ただ、その時は「最終手段」だって言ってたはずだ。借りを作ると後々面倒だからって。


「前は最終手段って言ってなかったか」


「状況が変わった。教会の動きが想定より早い。悠長に構えている余裕がなくなった……のだが」


「……だが?」


「やはり気が進まない……」


 問題。また問題かよ。

 この話、問題しか出てこねえじゃねえか。戦争、教会、そして今度は何だ。もうこれ以上悪い話は聞きたくねえんだが、聞かねえ訳にはいかねえよな。


「ウッド侯爵は……女性蔑視の傾向があるのだ」


「……は?」


「古い考えの持ち主でな。女が政治に口を出すことを快く思っていない」


 ええ……なんだそりゃ。

 この時代にそんな化石みてえな考え方してるヤツがいるのかよ。

 いや、いるんだろうな。貴族ってのは古い慣習を大事にするもんだし、特に年寄りの貴族なら尚更だ。そういうヤツがいるってのは、なんとなく想像がつく。


 でもなあ。

 よりにもよってウッド侯爵がそうなのかよ……。


「私が直接協力を要請すれば、借りを作ることになる。そうなれば……ああ、憂鬱だ」


「まあ、予想はできるが……」


「『女に王が務まるか』『私の助けがなければ何もできなかっただろう』──そういったことを言われかねない。最悪の場合、王位継承そのものに口を出してくる可能性もある」


 ……政治ってのは面倒くせえな。協力を頼んだら、その恩を盾に色々要求されるかもしれねえってことか。特に女性蔑視のヤツが相手なら、エリザベトが王になることそのものに反対してくる可能性がある。

 せっかく教会を潰しても、今度は別の敵ができちまう。それじゃ意味がねえ。教会を倒すために借りを作って、その借りのせいでエリザベトが王になれなくなったら、本末転倒だ。


「かといって全くの無能という訳でもない。侯爵は特に、領地での教会による被害を多く受けており、勢力の拡大を抑えるために懸命に調査を行っている。これまで侯爵がもたらす情報は非常に重要度の高いものばかりだった」


 認めたくねえが、認めざるを得ねえって顔だ。

 コイツがここまで顔歪めてるってことは、相当嫌なヤツなんだろう。

 でも、それでも認めるってことは、本当に追い詰められてるってことだ。


 じゃあ、そんな時、俺に何ができる。

 俺みてえな、政治のことなんて何も分からねえ元盗賊に、何が──


「──じゃあ、俺が手紙を書く」


「……兄上?」


「協力要請の手紙、俺が書こう。王子である俺からの依頼なら、お前に借りは生じねえだろ」


 そうだそうだ。その役目を俺が引き受ければいいじゃねえか。

 政治的な駆け引きはさっぱり分からねえが、手紙を書くくらいなら何とかなる。皆に助けてもらってばかりで、自分一人じゃ何もできねえ俺だが、これくらいなら。


「……いいのか、兄上。貴方の名前を使うことになるが」


「構わねえよ。ていうか、分かってんだろ。俺はお前こそ王になるべきだと思ってるし、俺みたいな素人が王になっても仕方ないって」


「しかし……」


「お前のために俺の名前が使えるなら、いくらでも使え。むしろ俺の方からも頼む」


 本心だ。

 俺は王なんて柄じゃねえ。政治のことは分からねえし、貴族の駆け引きなんてもっと分からねえ。でも、手紙を書くくらいなら俺にもできる。それでエリザベトの助けになるなら、安いもんだ。


「……ありがとう──お兄様」


「礼を言われるほどのことじゃねえよ……って、ん?」


「え? ……あっ」




「その、違うんだ。お兄様というのは、その、えっと……いずれ王になるのだから、威厳を出さねばと思い──『兄上』と呼ぶよう意識していて……今のは、気が緩んだからで……」


「ああいいっていいって! 恥ずかしいなら無理して言わなくていいから!」


「す、すまない……」


 コイツ、こんな真っ赤な顔することあんのかよ。弱気なレミぐらい珍しいぞ。

 ……まあでも、どんな完璧な人間にも、そういうとこはあるよな。むしろコイツがそんな普通の悩みを持ってたって知って安心した。


「じゃあ、二人の時なら、呼びやすい方で呼んでくれていいぞ……?」


「呼ぶかぁっ!」






 *






 手紙ってのは、書き慣れねえと本当に面倒くせえもんだな。


「えーっと、『拝啓、ウッド侯爵閣下』……っと」


 ウッド侯爵への協力要請。

 公的な書類の書き方は文官の時に覚えたし、いけると思ってたが……意外と面倒だな。引き受けたはいいが……これで合ってるのか、さっぱり自信がねえ。内容が内容だから他人にも見せられねえし。


 エリザベトからは手紙を書く上で色々と注意点を言われた。

 侯爵は女性蔑視だから、エリザベトの名前は出すなってこと。

 協力を「要請」するんじゃなくて、あくまで「提案」って形にしろってこと。

 借りを作らないように、対等な立場での協力関係を匂わせろってこと。

 誤解を防ぐため、明確に「教会は倒すべき敵である意思」を表明すること。


 それと──教会の幹部の話もされたな。


「あと十四人って何の冗談だよ……」


 なんでも、教会には教祖を含めて十六人の幹部がいるらしい。ソラナは敵じゃねえから除外して、ヴェインは殺したから残り十四人。

 ソイツらが各地に散らばってて、それぞれが権力を持ってる。教会を完全に潰すには、この全員をどうにかしなきゃいけねえんだと。ヴェインをやった時のように、一人や二人倒したところで、残りが動けば組織として機能し続けるから意味がねえ。


 ……てことは多分、ヴェインの時みたく、幹部が死んだら火災が発生するよう組み込まれてる建物が十六あったってことか。へえ物騒。

 何かのはずみで誤発動したらどうするつもりなんだろう。


「数年、か……」


 十四人。十四人の幹部を、一人ずつ追い詰めていく。

 数か月、あるいは数年以上かかるかもしれねえってのがエリザベトの見解だ。


 俺、数年後も、この国の王子としての生活を続けてんだろうか。

 政務を丸投げして、会議をサボって、エリザベトに協力して。そんな生活を、数年も。

 いや、数年で済むかどうかも分からない。もっとかかるかもしれねえ。


「……俺、向いてねえよな、こういうの」


 俺は政治のことなんて何も分からねえ。王族の仕事は畑違いだ。元は盗賊で、文官や兵士の経験はあるが、それだって成り代わりで偶然なっただけだ。自分で選んだ訳じゃねえ。今だって、タリエやマドリーやベラに助けてもらってばかりだ。

 しかも俺が存在してるだけでエリザベトにも色々面倒が降りかかる。アイツは間違いなく王の器だってのに、本来存在しないものにリソースを割かなきゃいけなくなってるんだ。


「エリザベトが王になった後は……俺、何すればいいんだろうか」


 アイツは王にしてやる。それは確定だ。それだけは成し遂げてやる。

 ただ、教会を潰して、腐敗を正して、エリザベトを王にして。それが全部終わってその後、まだこの立場居座ることができるんなら──それ以降も王子やってくれって、言われるよな、絶対。


 元々俺は規則とかに縛られず自由に生きていたかったんだ。

 これまで拗れに拗れた人間関係のせいでそうはいかなかったけど、そういった問題は徐々に解決できてる。

 後しなきゃならねえのはソラナを教会から解放することと、ノエリスにもう一度会いに行くこと。そのために、王子って立場はあまりにも自由が無さすぎる。

 目的達成後、即座に隠居生活ってなれれば助かるんだが。


 王位継承権をぽいっと放棄できれば話は早いんだが……まあそんな訳にもいかねえだろうし。

 ノエリスの解析結果を聞けなかった手前、条件も分からないのに死んで「はいリセット」ってのもリスクがデカいし……。




「ふう……」


 とかなんとか考えてるうちに、なんとか手紙を書き終えたぞ……。

 さ。さっさと手紙に封をして。時間があるうちに、馬車でウッド侯爵の元へ届けてもらって。俺はエリザベトと一緒に返事を待つ、とりあえず今することはそれだな。


「……にしても」


 侯爵はなんでそんなに領地に信者が増えちまったんだろう。誰か手引きでもしてるヤツがいるのか? 

 もしかして、意外とウッド侯爵本人が教会の人間だったりするのかもな。なーんて……。






 *






『は、はい皆さん! 馬車の襲撃、お、お疲れ様です! じゅ、重要そうなものは、見つかり、ました?』


「は、はい。政務書類や機密の文書を運んでいる馬車だったようで。こちらです、ソラナ様」


『……あ、ありがとう、ございます! えーっと、どれどれ……』




『──あっこれ、アシェルさんの字だ……♡ 一緒に働いてた時と同じ……!』


『じゃあ、反応を出してたのは──アシュレム王子……ってことになる、のかな?』


『えっと……? 「教会を」、「倒さないと」、「いけない」……?』


『宛先は……ウッド侯爵? 確かこの人、か、幹部の一人……だった、よね』


『なるほど、なるほど……』


「あの、ソラナ様? 何が書いてあったのですか?」




『か、幹部でよかった……おかげで、全員分の、拠点も、予定も分かるし……』


「ソラナ様? あの?」


『今日の予定は……確か全員、無し、だよね。じゃあ、皆拠点にいるはず……』


「ソラナ様? 我々はあと何を……」


『呪いは……うん、使える。位置さえ、分かれば、あとはすぐ……!』


「ソラナ様? 嫌な予感がするのですが……」




 ──「(アシェルさんの言葉なら……私は何だって信じるし、納得するのに……)」




『分かりました! 私は、アシェルさんの言葉なら、何だって信じられるので……!』


「ソラナ様!? 何を……ソラナ様ーっ!?」









 ……ん? 

 なんか物凄いスピードで足音が聞こえてきたような……。


「──アシュレム殿下! エリザベト王女殿下! 緊急の報告です!」


「うわっ!?」


「ふぇっ!?」


 な、なんだなんだ!? 伝令か!? 

 おい驚くじゃねえか! ノックはどうした、エリザベトが一瞬縮み上がっちまったぞ。


「さ、騒がしいぞ! 兄上との会議中は人を通さないよう言ったはずだ!」


「も、申し訳ありません! しかし、緊急事態につき……!」


「落ち着けよ、深呼吸しな。とりあえず言ってみろ」


「は、はい! えほっ、げほっ!」


 深呼吸しろって。

 何をそんなに焦ってここまで来たんだ。誰か要人でも死んだのか? 




「王国内各地において、『ウッド侯爵の邸宅含む十四件の家屋』が『全て同時に』、突如謎の『発火』! 全焼したとのことです!」




「……は?」


 え、ウッド侯爵の邸宅含む? なんで? 

 それに家屋が全焼って、それって幹部の拠点ってことじゃ……。

 ていうか、つまり幹部が死んだってことで──全て同時ってことは、遠く離れた全員を同じタイミングで……。


 ……は?

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