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【完結】俺は死んだはずだよな?  作者: 破れ綴じ
10. 王族

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97/111

王女が齎す和解と変わる王女への意識

「兄上は……積もる話がありそうだな。詳しい話は後でしよう。その、兵士長ルシアも連れてきてくれ」


「ああ、来てくれて助かった。また後でな」


「……必ずだぞ。必ず来るのだぞ」




「……で」


 二人と和解できたのは嬉しい。本当に嬉しい。

 ずっと会いたかった二人に会えて、ずっと伝えたかったことを伝えられて、信じてもらえた。それは間違いなく、今日一番の収穫だ。


 ただ──


「……なんでそんなにくっついてくるんだ」


 どうしてこうも距離が近えんだ。例に違わずこの二人も物理的に近え。

 いっつも思うんだけどお前ら他人との距離とか考えたことねえのか。そこまで近くなって役に立つのは相手を殺すときだけだと思うんだが。もしかしてまだ疑ってたりしねえよな。


「……? 私とアシェルは相棒なんだから、普通じゃない?」


「相棒ってここまで近くねえと思うんだけども……」


「いや……そうだな。私は、その……思い上がりすぎたか……」


「ああ、ベラ! 気にしてねえって、ほらくっつけ!」


 なんでこうなるんだよ。

 ルシアは右腕にぴったりくっついて離れねえし、ベラは遠慮がちだったくせに許可を出した途端に左腕の袖を握ってきやがったし。両側から挟まれて身動きが取れねえ。

 いや、嬉しいんだぞ? 二人とも俺のこと大事に思ってくれてるってのは分かるし、それ自体は本当にありがたいことだと思ってる。ただ、こう、もうちょっと加減ってもんがあるだろ。


「先輩……大丈夫ですか……?」


「あ? ああ、タリエか……」


 振り向いたら、カルに肩を借りながらタリエがこっちを見てる。

 さっきまでの緊張が解けたせいか、顔色が悪い。そりゃそうだよな、殺されかけたんだから。毒まで持ち出して、俺を守ろうとしてくれて……本当に、無茶しやがって。


「お前こそ大丈夫か、タリエ。顔色悪いぞ」


「僕は平気です……先輩が来てくれたから……」


「無理すんな。カル、タリエを頼むぞ」


「ああ……任せろ」


 カルは相変わらず口数が少ねえが、タリエをしっかり支えてくれてる。こういう時、コイツの不器用な優しさがありがたい。コイツも重たいっちゃ重たいけど、俺の負担になるようなことはしてこねえし。

 いや、別に皆のことが嫌って訳じゃねえんだが……誰に言い訳してんだ、俺は。




「……私の婚約者は、やけに女性の知り合いが多くないかしら」


「やっぱ兄貴は一番すげえな……あれ? 一番は俺でいいんだよな?」


「なんでこんなに人がいるの? 私がアシェル兄に抱き着けないんだけど」


 ……あそこの三人には後で何かしら言っておこう。

 なんか放っておいたら暴走しそうな気がする。




「──ッ、ご主人様……!」


「レミ!」


 レミだ。さっきまで倒れてたはずのレミが、壁に手をついて立ち上がってる。護衛のヤツに安全な場所まで連れて行けって言ったはずだが……ここまで戻ってきちまったのか。

 まだ顔色は悪いが、意識ははっきりしてる。手をついてはいるが、震えたりしてる訳でもない。コイツの回復力も大概だな。


「大丈夫だったか?」


「ええ……なんとか。ご心配をおかけしました」


「そ、そうか……」


 ああ、そうか。よかった。本当によかった。

 あのレミがやられた時は正直どうなることかと思ったが、こうして回復してくれて心底安心したぞ。


「あの……さっきは……」


「……ルシア?」


 ルシアが俺の腕から離れて、レミの前に立って……あれ、なんだこの不穏な雰囲気。

 えっ、何をする気だ。


「さっきは、その……まさかアシェルの護衛だとは思わなくて。敵だと思って、本気で……」


 あ、ああ。びっくりした。ただ謝ろうとしただけか。

 ここでもう一回殺り合うつもりなのかと思ったぞ。ビビらせやがって──




「──いえ、お気になさらず。私も油断していただけですから」


「そ、そう? でも、私は貴女を……」


「いえ、二度負けることはありません。私はご主人様の盾ですから」


「……は?」


 ……え? 

 ……おい、ちょっとお前ら──


「首は通りませんでしたが、目なら確実に仕留められるかと。次の機会を楽しみにしております」


「……っ! 一度負けたくせに……何を……!」


「おいおいおい、止めろ止めろ! ここで喧嘩すんな!」


 結局バチバチしてんじゃねえか! 

 せっかく和解したってのに、今度は味方同士で殺し合いだなんて。そんなこと始まっちまったらいよいよ笑えねえぞ。対抗心か知らねえが余計なこと言うんじゃねえよ、煽ってどうすんだ。


「レミ、余計なこと言うな。ルシアも落ち着け」


「……フフ、失礼致しました」


「……アシェルがそういうなら」


 ルシアはまだ不満そうだが、とりあえず武器に手を伸ばす気配はない。

 レミは相変わらず涼しい顔をしてやがる。コイツ、絶対わざとだろ。


 ああ……なんでこう、俺の周りは修羅場ばっかりになっちまうんだ……。

 俺のせいか? ああいや、十中八九俺のせいだよな……なんとかしねえと……。






 *






「……そういえば、聞いてなかったんだが──お前ら、どうして一緒に動いてたんだ?」


「えっと、それはね……」


 ずっと気になってたことだ。

 ルシアは兵士で、ベラは元吏長。シェラの名前を知ってる以上の接点があるようには思えねえし、前に王都で見かけた時は一触即発の空気だったのに。これまで一緒に協力して動いてた理由がよく分からねえ。

 というか、俺が何を聞こうが両腕の重みに一切変化が生まれねえんだが。ルシアもベラも、二人ともくっついたまま離れる気配がねえんだけど。


「私はあなたの『偉い兵士になれ』って遺言……じゃなくて、約束を果たすために──エリザベト様の近衛兵になろうとしたの」


「おう」


「でも、王族の近衛兵になるには実績だけじゃ足りなくて……有力者からの推薦が必要で」


「推薦……」


「そう。兵士としての私はそれなりに自由に動けたけど、政治的な繋がりは全然なかったから、その方面では望みが何も無くて……」


 ああ、あれだよな。エリザベトに見せてもらったヤツ。

 貴族の次男坊、三男坊たちは全部自分の家からの推薦があって……身内贔屓ではあるが、一応あの枠がねえとそもそも近衛兵にすら立候補できねえんだよな。

 じゃあ──なるほど。ルシアは実力はあるが、後ろ盾がねえ。近衛兵ってのは王族を守る立場だから、身元がしっかりしてねえと採用されにくい。


 でもお前、結構色々なヤツから推薦されてなかったか? 


「で、ベラ?」


「私は逆だな」


 左腕が重くなった。

 ベラに説明交代するらしい。説明する度にそうやって主張するのはよくないと思う。


「私は王政上層部から狙われている身だった。それは……お前がシェラなら分かるよな」


「ああ、分かるぞ。話してもらったからな」


「今思い出すと複雑だな……って、ああ。それで私はルシアとは違い表立って自由に動けない立場だった訳だ」


「おう」


「だが、吏長の頃に政治的な駆け引きは山ほどやらされてきたからな。だからある程度、力のある人間とは繋がりがあった。連絡が取れる状態だったんだ」


 お、おお……? 

 上から狙われてるベラがなんで王都に戻って普通に動けてるか俺は疑問だったんだが……じゃあ、そういうことなのか? 知り合いの偉いヤツのとこに匿ってもらってたってこと? 


 あっ。

 てことは……。


「つまり、ルシアには実力と行動力があるけどコネがなくて、ベラにはコネがあるけど表立って動けなかった」


「そういうことだ」


 へえ……! 

 お互いに足りないものを補い合える関係だったってことか。ルシアはベラのコネを使って近衛兵への道を開き、ベラはルシアの行動力を借りて情報を集める。合理的な判断だ。


「それと、私たちには──『シェラ』と『アシェル』を探すっていう共通の目的があったから」


「最初は私たちも、お互いのことを警戒していたが……話しているうちに、お互いが探している『私のアシェル』が別人だと分かって……協力した方が得だと判断した」


「シェラを見つければ、お互いの『私のアシェル』に繋がるかもしれないって。それで」


 ……二人とも、俺に会いたい一心でここまで来たってことか。あんなに諍いあってた同士なのに、手を組んでまで。

 なんか、申し訳ねえような、嬉しいような、複雑な気分。


「……ありがとな、二人とも」


「え?」


「何を言っている?」


「いや、俺を探すためにそこまでしてくれたんだろ。ありがたいって思ってさ」


 二人の視線が一瞬だけ交差して、それから揃って別の方向飛んでった。

 ……なんだ、照れてんのか? ああ待て、照れてんのは俺もじゃねえか。


 ……あ。


「そういえば……ベラ」


「ん? 何だ?」


「お前、政治的なこともある程度分かるんだよな?」


「ああ。吏長として働いていた頃に、色々と学んだからな。上層部の動きや、派閥の力関係なんかは把握している……それが、どうかしたか?」




「なあ、タリエ」


「あっ、はい! 先輩! えっと、お話は終わったんですかね?」


「ああ──紹介するぞ、これから仲間になるベラだ」


「久しぶりだな、タリエ。さっきまではすまなかった」


「へ? え、ええ。その……紹介も何も知り合いですが……すまなかったって言われても……」




「ところで。今日からベラも政務をしてもらうことになった。把握しておいてくれ」


「その通りだ。アシェルが言うなら、私は従う」


「……えっ? いや、えっ?」


「ベラは政治的な知識に長けてる。お前の作業の助けになるだろうし、困った時は頼ってくれ」


「えっ!? さっ、さっきまで、殺し合いそうな状況だったのに!?」


「じゃあ俺はルシアと王城戻らねえといけねえから、後はよろしく」


「せ、先輩!? 先輩ーっ!?」






 *






「来たか、兄上……と──ルシア、だったな」


「おう」


「は、はい……!」


 エリザベトの部屋は……俺の部屋よりも落ち着いた雰囲気だなー。

 調度品の一つ一つに品があって、窓から差し込む光も柔らかい。こういうところに住んでると、自然と気品ってもんが身につくのかもしれねえな。成り代わったばっかりの俺には関係ねえ話だが。


 で、エリザベトが俺とルシアを部屋に呼んだってことは……「そういう話」をするってことだよな……。


「貴公は、私の近衛兵として立候補をしていたが……何が言いたいかは分かるな?」


「……っ、は、はい。私は、アシェル……ではなく、アシュレム殿下に刃を向ける真似を、してしまいました……!」


 ルシアの顔から、血の気が引いていってる。


 ……そりゃそうだよな。実際に刃を向けた訳じゃねえが、憧れの王女の前で、その兄を縄で縛りつけてるとこを見られてるんだから。近衛兵を目指してるヤツがやることじゃねえ。本人が一番分かってるだろう。

 そもそもエリザベトも「問題を起こさないようなら、前向きに採用を検討しよう」って言ってたのに、ルシアがやったのは間違いなく「問題」そのものだ。本人もまさか王子が出張ってくるなんて思ってなかったんだろうが。功績を焦るあまり短絡的に動いてたことも否めないだろう。


「申し訳、ありません……」


「謝罪を求めているのではない。理由を聞いている」


「理由……」


「なぜ、兄上に刃を向けようとした」


 ルシアが俺の方をちらっと見てくる。

 正直に言えよ。ここで取り繕ったって仕方ねえぞ。エリザベトは馬鹿じゃねえんだから、嘘なんてすぐに見抜かれる。


「……っ、私は、大切な人を殺した黒幕が、王子だと思っていました。だから……仇だと。敵だと、そう思って……」


「つまり、お前は正義のため、兄上に刃を向けようとした、と」


「……はい」


 エリザベトの目が細くなってる。

 値踏みしてるのか、それとも別の何かを考えてるのか。俺には読めねえ。コイツは俺と違ってガチの王族なんだ、見た目が若くても俺の何倍も色々なことを考えてるんだろう。


「結果として、それは誤解だった訳だが」


「はい……」


「お前は、それを恥じているか」


「……え?」


「兄上に刃を向けようとしたことを、恥じているかと聞いている」


 ん? おお? 

 これ、どういう流れだ? 

 これってはいって言えばいいのか? 王族に対し、私が間違ってたって認めるべき? 

 それとも、いいえ? 私は行いは間違ってなかったって言い張るべきなのか? 


 ルシアの表情が、一瞬だけ揺れてる。

 迷ってるんだろう。何て答えればいいのか、分からないんだ。


「……いいえ」


 ……おお、そっちを取るのか。

 その選択が吉と出るか、凶と出るか。もし、悪い結果になりそうなら、俺の方から口添えしようとも思うんだけど……それがエリザベトに通用するとも思えねえし。


「私は、自分が正しいと思うことをしました。結果として誤解だったけれど……あの時の私は、あれが正しいと信じていた。だから、恥じてはいません」


「ほう」


「でも、エリザベト様の前で、殿下に刃を向けようとしたことは……申し訳なく思っています。近衛兵を目指す者として、あるまじき行為でした」


「そうか」


 エリザベトの声には、怒りの色がねえ。

 むしろ、どこか満足げにすら聞こえるような……? 


「私の近衛兵には、私に媚びへつらう者は要らない」


「え……?」




「権力者が間違った時、それを正せる者が必要だ。たとえ相手が王族であっても、自分の信念を曲げない者が」




 ん、んん? 

 あれ、これいけるか? 正解の方引いたのか? 

 ルシアの顔は「まさか、そんな評価をされるとは思ってなかった」って物語ってる。

 俺だって思ってなかった。


「お前は、兄上が黒幕だと信じた時、権力に屈して兄上を助けようとしなかった」


「エリザベト様……」


「後日、正式に手続きを行う。お前を私の近衛兵として迎え入れよう」


 ……マジか。  いや、マジなんだろうな。エリザベトは冗談を言うタイプじゃねえし。

 ルシアの顔、完全に固まってるぞ。そりゃそうだ、いきなりそんなこと言われたら誰だって固まる。ずっと追いかけてきた夢が、こんな形で叶うなんて思ってなかったはずだ。


「……本当に、よろしいのですか」


「私が冗談を言うと?」


「で、でも、私は……さっきまで、殿下に……」


「だから認めると言っている。聞こえなかったか?」


「い、いえ……! 聞こえ、ました……!」


 あー……声が震えてやがる。嬉しさと驚きがごちゃ混ぜになって、どうしていいか分からなくなってるんだ。

 俺の「偉い兵士になれ」って言葉を、ずっと胸に抱いて、ここまで走ってきたんだから。


 ……ああ、よかったな。お前の夢、叶ったじゃねえか。


「あ、ありがとう、ございます……! エリザベト様……!」


「礼には及ばない。お前の実力と信念を買っただけのこと。それよりルシア、先に下がれ。怪我の手当てが必要だろう」


「あ、はい……! 失礼します……!」


 はあー……。

 まさかこんな形で上手く落ち着くとは。正直思ってもみなかったぞ。そういうあたり、エリザベトの器がデカいっていうか、やっぱりコイツが王になるべきっていうか──


「──さて、兄上」


「ん?」


「しようか──詳しい話を」


 ……え? 


「今のが、それじゃなくて……?」


「何を言っている。今のはルシアの話だ。兄上の話ではない」


 あ、あれ……? 






 *






「兄上は、先ほどの隠れ家で、随分と興味深いことを話していたな──成り代わり、だったか」


 ……ああ、やっぱりそれか。

 成り代わりのこと、全部聞かれてたもんな。ルシアとベラに説明してる時、エリザベトもあの場にいたんだから。


 ていうか、王族に隠れ家があること自体、本来驚くべきポイントなんだろうが……まあ、今のこれに比べればそこまで大きなことじゃねえか。




「正直に聞こう。兄上は、本当に──私の兄なのか?」




 ……来たか。

 あの話が聞かれてた時点で、この話にもケリをつけなきゃいけないことは分かってた。むしろ、今まで聞かれなかったのが不思議なくらいだ。


「……いや、違う」


 嘘をついても仕方ねえ。エリザベトは馬鹿じゃねえ。ここで誤魔化したって、いずれバレる。だったら、最初から正直に言った方がいい。


「俺は、お前の知ってる『アシュレム殿下』じゃねえ。成り代わりで、この体に入っただけだ」


「……そうか。では、私が幼い頃から懐いていた兄は……」


「多分、最初からいなかったんだと思う。成り代わりの魔法は周りの記憶を書き換えてるらしいし、お前の中にあるだろう『兄貴との思い出』は……作られたもんだ」


「……そうか」


 ……重てえ。沈黙が、重てえ。

 俺は何も言えねえぞ。だって、事実だし。

 エリザベトの中にあるだろう兄との思い出ってのは、幼い頃から一緒に過ごしてきた記憶ってのは、全部作り物だって言ってるようなもんだ。それがどれだけ残酷なことか、俺にだって分かる。


「実を言えば、違和感があったのだ」


 ……違和感? 


「そうだろう。長男がいるなら王位を継ぐのは長男だ。それが当たり前のこと」


 ……そうなのか? 

 王位継承ってのは、長男が優先されるもんってことか? それは、エリザベトが俺より年下だからダメなのか、女だからダメなのか……それは分からねえけど。


「なのに私は、自分が王を継ぐものだと……ずっと確信していた」


「……」


「兄上がいるのに、なぜ私が確実に王座に座るものだと思っていたのか」


 ……なるほど、そういうことか。

 俺が成り代わったことで、エリザベトの中には「アシェルとの思い出」と「自分が王になる確信」が同時に存在してた。普通に考えりゃ矛盾してる。今の話を聞いた感じ、兄がいるなら兄が王になるはずなんだから。

 でも、成り代わりの魔法は「アシュレム王子がいた」って記憶を作り出しただけで、それ以上のことはしなかった。だから、エリザベトの中で矛盾が生じてたんだ。


「兄上の話を聞いて……その違和感の正体が分かった気がする」


「……」


「私の記憶にある兄上は、最初からいなかった。だから私は、自分が王になると確信していた……そういうことなのだろう?」


 エリザベトの声には怒りも悲しみもねえ。

 ただ、事実を受け止めようとしてる。そんな感じだ。


「……悪かったな。お前の兄貴のフリして」


「謝る必要はないさ。兄上が望んでこうなった訳ではないのだろう。それに──」


 あの凛々しい目が真っ直ぐ俺を見てる。

 さっきまでルシアと相対してた時の鋭さとは違う。もっと穏やかで、でも芯のある目。


「私の記憶にある『兄上』は、作られたものかもしれない。でも、今ここにいる兄上は本物だ」


「……」


「私は、今の兄上と向き合おうと思う。作られた記憶の中の兄ではなく、今ここにいる──貴方と」


「……!」


 ……こいつ、器がデカすぎるだろ。

 自分の兄が偽物だって知らされて、幼い頃からの思い出が全部作り物だって言われて、それでも「向き合う」って言えるのか。普通なら怒るか、泣くか、少なくとも動揺するもんだろ。


「これからも、私と共に腐敗を正してくれるのだろう?」


「……ああ、もちろんだ」


「では、それでいい。貴方が誰であろうと、私の味方であることに変わりはない」


 ……なんだよ、それ。

 俺は偽物の兄貴で、お前の思い出を全部踏みにじったようなもんなのに。それでも味方だって言ってくれんのか。


「ありがとな、エリザベト」


「礼には及ばない。私は、自分にとって正しいと思うことをしているだけだ」


 ……ルシアと同じこと言ってやがる。

 なるほど、こういうところに惚れたのかもな、ルシアは。


「それでは……いや、やはり兄上と呼ばせてもらおう。貴方が誰であれ、今の貴方は私の兄なのだから」


「……お前の好きにすればいいさ」


「では兄上、今後ともよろしく頼む」


「ああ、こちらこそ」


 握手、か。

 前にもやったな、これ。

 前やった時は、「小せえ手だ」とか「意外としっかりしてる」とか、色々思ってたけれど。今握り返すと、やっぱりコイツはすげえヤツだって分かる。この手が、王になるヤツの手なんだな。


 じゃあ俺は、なんとしてもコイツを──王にしねえと。

 エリザベトの期待に応えて、腐敗を全部潰しきって、コイツを王にすることが、俺にとっての使命なんだ。

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