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【完結】俺は死んだはずだよな?  作者: 破れ綴じ
8. 信者

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元後輩の仕事と会いに行く二人

寝てました……。

遅れたのはそう言うことです。


予約投稿すればいいのに……(´・ω・`)

「ん……ふう……」


 ソラナが机に向かって何か書いてやがる。特にやるべきことが無い時は基本的に通常の幹部の業務をしてるらしい。どこまで偉くなっても書類仕事からは逃げられねえんだな。

 ペンを走らせては止まって、また書いて、また止まって──集中してるみたいだ。幹部だってのに地味な仕事ばっかりだ。


 遺体を埋め直して──あれから何日か経った。

 幸いまだバレた様子はないし、あれが問題になったといううわさもまだ聞かない。

 俺はと言えば、ソラナに用意してもらった部屋で過ごす日々が続いてる。そして何故か部屋にはソラナもいる。借りた人間がいうのもなんだが──俺の部屋なのに。

 全ては部屋が準備されたあの日、「そ、そっちの、部屋で……さ、作業しても、いい、です……か?」と震えた子犬のような目で尋ねてきたソラナのせいだ。自分で準備したのに。

 あんな目をされたらこちとら断れないし、そもそも断る理由がない。で、今に至る。


 まあ、そのおかげで教会の内部についても少しずつ分かってきた。信者の管理、献金の記録、資料の整理──ソラナがやってる仕事を見てると、教会の仕組みがなんとなくだが見えてくる。

 窓の外を見れば、平和な街の光景が映ってる──でも、この街のどこかで教会が暗躍してるんだよな。信者を増やして、金を巻き上げて……なんかもう純粋な目で見れなくなってきたな……。何が純粋だ元盗賊が何言ってんだ。


「あっ……」


「あー、おいおい」


 ちらちらこっちを見てたからか、何かの拍子にソラナの手元の紙がバサバサ数枚散らばってった。よそ見してたからだぞお前。

 何枚かはこっちまで滑って来てる。なんだよ紙きれの癖に、俺に用ねえだろ。


「大丈夫か? これ拾うぞ」


「あ、ありがとう、ございます……!」


 よっこいしょ……っと。

 やけに真っ白な紙だな、文官の頃でもここまで白いの見たこと無かったが……文字がびっしり書いてある。ご丁寧なこった。こういうところの仕事は凝ってんだな。

 にしても、何が書いてあんだこれ。

 ……えっと? 名前、住所、それから……特徴。題名の欄には──


『高優先度・勧誘候補者リスト』


「……勧誘候補?」


 なんだこれ。

 まさか、教会が狙ってる人間のリストってことか? 

 名前がずらっと並んでる。十人、いや、二十人近くいるぞ。それぞれに住所と年齢、それから簡単な特徴が書いてあって……げ、資産額まで書かれてやがる。んなもんよく調べたな。


「あ、それは、教会が、ゆ、優先的に救済を、行う、ための、リストで……」


「……優先的に、救済?」


「は、はい! 今、困ってる状況で、な、なおかつ、献金が可能な、リストです……!」


 ──二番、男性、二十代、妻を亡くした、資産:二百万、優先度:低

 ──四番、女性、四十代、子供が難病、資産:三百万、優先度:中

 ──十番、男性、六十代、後継人なし、資産:千二百万、優先度:高


 ……クソ野郎共が。

 こうやって弱ってる人間を狙って、救済って名目で教会に引き込んで、金を巻き上げるつもりなんだな。リストアップまでしやがって、計画的じゃねえか、何が救済だ。

 やっぱりこの組織はろくでもねえ。この紙だって長いこと触っていたくない。さっさと返しちまって──


 ──女性、三十代、知り合いに不幸、大家業、資産:四千二百万、優先度:最高


 ……は? 


 女で、三十代で、知り合いに不幸、大家業、かなりの資産がある。この特徴……まさかだとは思いたいが、でも、この組み合わせは──

 ──いや待て、落ち着け俺。王都には大家なんて山ほどいるだろうし、身内を亡くした人間だって珍しくねえよ。たまたま状況が似てるだけかもしれねえ。そうだよな、そうに決まってる。


 だから、でも、まさか。

 まさかこの「女性」が──ロエマ……なんてことは……。


「……アシェルさん? ど、どうしましたか、固まっちゃって……」


「っ! あ、ああ! 悪い、この紙だよな!」


「は、はい……! え、えっと……その人は、今日、勧誘に、い、行く、人で……」


「なっ……」


 今日行く、だと? 

 ってことは、この「女性」のところに、今日、教会の連中が勧誘に行くってこと、なのか? 

 クソ、マズいぞ。たまたま状況が似てるだけとは言ったが、逆に言えばこれが本当にロエマの可能性だって捨てきれねえんだ。まだ確定じゃねえが、この特徴は全部ロエマに当てはまる。知り合いの不幸ってのも、写本師の俺がすぐ近くで頭から落っこちて死んだっていうアレだ。ロエマがショックを受けるのは予想できたが……そこに教会が付け込んできた──っていうシナリオの可能性がある。


「じょ、上層部は……お、お金持ちを、と、取り込みたいって。だ、だから、資産が多い人を、優先的に、救済すると……」


 ……この下種が。想像通り、やっぱりじゃねえか。

 完全な金目当て、教会の常套手段だ。ソラナみたいな盲信した信者は騙せるが、他所の人間が聞けばどう考えてもおかしいって分かる。

 でも──これが精神の弱り切ったロエマなら話は別だ。

 文官の俺が死んだ時のソラナと一緒で、呪いの力や救済の効果を聞かされて、折れることだってあるかもしれねえ。


 ……ただ、気になるのは、そこまで優先度が高いにしては行動に移すまでが遅すぎるってことだ。

 俺が死んだのは数週間前。確かにこの「女性」を中々説得できなかったってんなら分かるが、教会には力づくって手段もある。数週間経ってそれをやってねえってのは不自然だ。

 つまり、教会は格好の獲物がいるのにずっと見逃してたか、強行すればいいのにそれをできないだけの理由があったってことになるよな。


「た、ただ……今まで、その、接触できなくて……な、謎の、女性が……い、いつも、追い払ってくるって……」


「ん? 謎の女性?」


「はい……! れ、冷静で、丁寧なんですけど……ぜ、絶対に、中に、入れて、くれなくて……それで、難航してるって……!」


 な、なるほど……? 

 じゃあ、その「謎の女性」っていう連れか付き添いかが、対象の「女性」を教会の勧誘から守ってると。もし、この「女性」がロエマ本人だとしても、それがあるから現時点で教会の支配下に下ってないってんなら辻褄が通る。

 てことは、その「謎の女性」ってのは複数人で来てる男も含めた集団に対し、強行手段を取られようとも追い返すことができる女ってことだよな。で、金持ちの「女性」と一緒にいる。

 一体どこの誰なんだ……? 






 *






「──あ、レミか」


「え、え? な、なにが、ですか……?」


 そうだレミだ。

 よく考えたら謎でも何でもねえ、もしその「女性」がロエマで正しいなら──よく一緒にいて、複数人相手でも余裕で対応できて、宗教みたいなもんに一切左右されない……そんなのレミで確定じゃねえか。

 冷静で丁寧だが目的があれば絶対に譲らない。そりゃレミなら複数の男が来ようが強引に押しかけようが門前払いで済ませられる。なんであんな恐ろしいヤツのことを忘れてたんだ──いや、忘れたかっただけかもしれねえが。


「あ、あの……アシェルさん? どうか、しましたか……?」


「いや……ちょっと思い出したことがあっただけだ」


「……そう、ですか」


 ソラナが不思議そうにこっちを見てる。そりゃそうだよな、急に黙り込んで、その後急に「あ、レミか」なんて意味不明なこと言い出したんだからな。

 でも……レミか。あのレミが……多分今でもロエマの側にいるってことだよな。


 写本師の俺が死んだ後、ロエマはどうなったんだろう。妹の面影を見ていた俺が、目の前で橋から落ちて死んだんだ。しかも、俺の記憶が正しければ──頭から地面に叩きつけられて原形をとどめない状態で。

 あれを目撃したであろうロエマの心には間違いなく深い傷が残ってるはずだ。トラウマってやつになってもおかしくねえ。

 そして、そんな状態のロエマの側に──レミがいる。


 執事長の頃、レミは「安泰な誰かに死ぬまで仕えていたい」って言ってた。

 ヴェミーニ侯爵を裏切ったのもガルトンを殺そうとしたのも、二人とも仕える上で安泰じゃなくなったからだ。レミにとって理想的な主人の条件は、「生き延びる力があること」と「欲が少ないこと」と──そして多分、その上で「自分を必要としてくれること」だ。

 ロエマは金持ちで欲が少なくて性格も穏やかだ。ってことは──レミの理想に近いってことになる。多分レミは初めから、新しく仕えるに相応しい候補として──ロエマのことを見定めてたんだ。

 別に今のレミが何か悪いことをしてるわけじゃない。一応、ただロエマの友人として側にいるだけだろう。

 でも──レミだ。あのレミだ。俺を水槽に沈めて、冷たい水の感触と息ができない苦しさと溺れる恐怖を突き付けてきた、あのレミだ。しかも何の躊躇もなく、表情一つ変えずに。今でもたまに夢で見る。


 ロエマを守るためには、教会からの接触を阻止したり、妨害したり、実際に様子を見に行ったりもしなくちゃならねえ。

 ただ、そのためにはレミにも会うことが必須になっちまう。


「……いや、いつまでもレミにビビッてちゃいけねえ」


 問題はレミじゃない。

 問題は──教会だ。


 あの、優しいロエマが、今──心に穴を開けて、教会に狙われてるんだ。

 教会は心に穴の開いた人間を見逃さねえ。献金を巻き上げるために、呪いだの救済だのって嘘で騙して、金を搾り取るのをこの数日で何度も見てきた。そんな連中が、今日ロエマのところへ押しかけるんだ。

 レミがいるから多分追い払われるだろうが、でも多分、それで終わりじゃねえ。教会は諦めないから、何度でもやって来て、しつこくロエマを勧誘し続ける。そのうちロエマは折れるかもしれねえ。心が弱ってる時に、救いの手を差し伸べられて、それでも騙されないって保証はない。実際にソラナがそうだったんだから。


 レミとは会いたくねえ。できることなら、一生会いたくねえ。あの無表情な顔も、あの冷たい目も、あの何を考えてるか分からない恐怖も──全部、二度と見たくねえ。

 でも俺は、あのロエマを──見捨てることができない。放っておけない。教会の手から、ロエマを守らなきゃいけねえんだ。






 *






「──そ、それで、本当に、大丈夫……なんですか?」


 隣を歩くソラナの顔は見るからに「上手くできるか不安です!」って主張してる。

 いやまあ、無理もねえ。本来別の信者が担当する予定だった今回の勧誘を、俺が頼み込んで──ソラナの幹部権限で強引に横取りしたんだから。


「大丈夫だ。お前が幹部なんだから、誰も文句は言えねえよ」


「そ、そうじゃなくて……わ、私が、ちゃんと、で、できるか、どうか……」


 ああ、そっちの心配か。

 確かに、裏方で重宝されてたあたり、勧誘なんて今までやったことがなかったんだろう。普段は部屋に引きこもって呪いの研究ばかりしてたんだから、いきなり外部の人間と接触するなんて荷が重いに決まってる。


「心配すんな。俺がついてる。お前は俺の後ろで立ってるだけでいい」


 いや、実際はソラナの予想に反して、俺に「ロエマの救済」をしようって気は微塵も無いんだが。

 むしろ「教会には気をつけろ」ってめちゃくちゃに忠告するみたいな意図の方が強いんだが。


「ほ、本当に……?」


「ああ。むしろ、お前がいてくれるだけで助かる」


 そう言うと、ソラナの顔が少しだけ明るくなった……気がする。

 文官の頃から、ソラナは人付き合いが苦手だった。タリエみたいに堂々と喋れる訳でもなく、いつもおどおどしてて、誰かと対面する時は俺やタリエの後ろに隠れるように仕事をしてた。

 それが今じゃ幹部だ。周りからどう思われてるかは別として、立場は偉くなった。コイツだって物凄い成長を遂げてるってことだなんだ。


「あ、あの……その……わ、私……ずっと、思ってたんです……」


「ん?」


 なんだなんだ。

 どうした。


「私、特技もないし……なんとか、職に就けたのは、う、嬉しかったんですけど……」


「で、でも……ずっと、同じことの、繰り返しで……お、終わるんだろうな、って……」


「た、淡々と仕事して……それで、終わる……そういう、人生なんだろうな、って……」


 ……そうか? なんか、いかにも「それは悪いことです」みたいな言い方だけど、毎日平和に暮らせるのは結構良いもんだと思うぞ。

 いやでも、ソラナにとっては、自分含めて──何も変化が起こらないこと、変化を起こせないことが、心の中で嫌だったってことか。俺と価値観の違いとかがあるんだろうが、そういった考え方が今のソラナの性格にも繋がってるのかもしれねえ。


「で、でも私……! ア、アシェルさんに、で、出会えて……!」


「……」


「い、いえ……正確には、ア、アシェルさんが、変わって……き、急に、話しかけて、くれるように、なって……」


 ……ああ、そういえばそうだったな。

 文官の頃、俺が成り代わってから──元のアシェルとは違う、粗野な口調で話しかけるようになった。タリエもソラナも、最初は戸惑ってたな。懐かしい。


「そ、それで……な、何か、変わっていく、予感が、したんです……! わ、私の、人生が……た、淡々と、終わっていくだけじゃ、な、ないんじゃないかって……!」


 ソラナの声が震えてる。

 でも、今のそれは不安によるものじゃなさそうな──何か別の感情のような。


「そ、それで……! ア、アシェルさんが、い、命がけで、た、助けに、来てくれて……!」


「……ああ、そうだな。マジで命がけだったぜ」


 あの時は片手も怪我してたしな。なんでか分からねえがなー。

 自分でも結構無謀だと思ったが、案外上手くいって驚いたよ。ソラナとタリエと、ちょっとでも息があってなかったら失敗してただろうな。そう思えば相当ギリギリだった。


「あ、あれが……わ、私の、人生で……い、一番、大きな、思い出で……! 運命を、感じたんです……! だ、だから……! わ、私、ア、アシェルさんの、や、役に、立てるのが、嬉しくて……!」


 ソラナの目が潤んでる。涙が今にも零れ落ちそうなのを、必死に堪えてる感じだ。

 俺にとっちゃ、二人がいないと俺は文官として何もできねえし、自分の地位を守るためにもあれは必要だったし、あそこで見捨てるって判断も心地が悪かったし、あの時助けに行ったのは当たり前のことだったんだが──ソラナにとっては、人生で一番大きな出来事だったのか。


「……ありがとな、ソラナ。そう言ってくれて、嬉しいよ」


 そうか。そういうもんなのか。

 俺は何も変わらない日常を送りたいと思ってたが、ソラナは何かが変わることを望んでた。その「何か」が、俺だったってことなんだな。だから──俺を信じてくれてるんだな。


「じゃあ、一緒に頑張ろうな」


「……!  は、はい……!」






 *






「あ、あの……ところで、アシェルさん……」


「なんだ?」


「ア、アシェルさんには……わ、私の、知らない……知り合いが、い、いっぱい、いますよね……」


「……そうか?」


 何の話だ? 急に。

 別に俺の交友関係は人並みだと思うが……なんでそんな話を急に始めたんだ。


「こ、これから、行く場所って……ロエマ……っていう、人の、家のはず、ですよね」


「あ、ああ。そうだぞ?」


 ……あれ。

 さっき結構良い感じの雰囲気で会話が終わったと思ったんだが。

 なんか急に場の空気が変わったんだが。

 あれ……。




「──じゃ、じゃあ! その、『レミ』って、いうのは……誰、なんですか?」


「……」


 ……えっ。

 あっ、そうか。何回かレミって言ってたな。ソラナが確かに知らない名前だよな。


 ……え? それが──なんで? 




「た、多分! 女の人の名前……ですよね、それ」


「え」


「前世の、知り合い、ですか? その、どういうご関係なのかなって……」


「えっ」


「その……レミさんって……き、綺麗な人、なんですか……?」


「──えっ?」

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

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