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【完結】俺は死んだはずだよな?  作者: 破れ綴じ
8. 信者

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上手くいった賭けと懐いた元後輩

「あ、あの、アシェルさん。こ、この部屋に、ず、ずっと、いて、いいですからね……!」


 おう、ありがとよ。

 ただな、ソラナ……。


「……もうすっかり朝だぜ」


「あっ……ほ、ほんとだ。いつの間に、き、気づきませんでした……!」




「えへへ……♡」


 本当に嬉しそうだな。昨日の夜からずっと笑顔だ。

 昨日まですげえ不満そうな顔してたのに、今は全然違う。それだけ俺のこと待ってたんだろうってことが分かる。

 ただな。ずっといていいってのは「いつでも匿ってくれる」的な意味で助かるんだ。助かるんだが……その発言は夜通し人の腕にしがみついてから言うべき内容じゃねえと思うぞ。体を支えてる体勢な以上、寝る訳にもいかなかったし。      

 おかげで肩がバキバキだよ。お前が嬉しそうだったからいいけど。


 というか、今はそれより──


「なあソラナ、お前のこと聞いてもいいか?」


「わ、私の、ことですか……? は、はい! な、何でも、聞いて、ください……!」


 よし。

 長い時間かけて、偶然って形ではあるがやっとお前を見つけられたんだ。

 時間があるうちに、無理のない範囲で、ソラナの近況を聞いておかねえとな。今までどうしてたのか、何でこの地位にいるのか、犯罪に手を染めたりしちまったのか──全部確認しておかねえと。


 だから、ええと、まずは。




「──お前、教会にはいつ拾われたんだ?」


「え、えっと……ア、アシェルさんが、一度、亡くなって、から……す、すぐ、です……」


 ……ってことは、俺が死んでから数日後ってことか。


「そ、それで……教会の人が、優しくて、た、助けて、くれて。私、もう、生きていけないって、お、思って、たんですけど……」


 あー……やっぱり、想像通りだったか。

 文官の俺が死んで、精神を病んで、職を失って、そこを教会に拾われた。

 生きていけないって、俺が死んだせいでそこまで追い詰められてたのか。まあタリエでもあの調子だったんだから、よりダメージの大きいソラナならそうなってもおかしくねえが……。


「教会の、人が……手を、差し伸べて、くれて……そ、それで、私……」


「──光明の教会に、入ったのか」


「は、はい……! そ、それから……教会の教え、を……べ、勉強、して……の、呪いの、ことも……!」


 なるほど……。

 教会が呪いで人を助けられるって教えたんだろうな。で、俺を生き返らせたいソラナは、それを信じちまった。


「で、今幹部にまでなったのは──」


「は、はい! 私、お祈りも、勉強も、け、献金も、全部、真面目にしてて……! そ、それで……教会の、人が……ひょ、評価して、くれて……!」


「……」


「あ、あと……! わ、私、嘘を見抜くの、得意で。教会には……う、嘘つきの人も、いて……で、でも、私が、見抜けるから。そ、それもあって……!」


 あー……そうだったな。


 尋問の時とかに、始まる前から犯人を「クロだ」って言ってたな。結局あの時は犯人の証拠を中々引き出せなくて焦るハメになったんだが。

 そうか、元々ソラナは人の嘘を見抜くのが上手かったんだ。実際、呪いなんてものがまかり通ってる組織なんだ。理屈がどうでもちゃんと成果を成していれば、上は信用するだろう。んで、こんな怪しい組織だったら裏切りの密告なんてものは相当役に立つから、上の連中に重宝──悪く言えば目を付けられちまったと。

 逆に一般信者から嫌われがちってのは──勿論俺の死体で蘇生実験をしてたってのもあるだろうが、密告される危険性を恐れてたってのもあるかもしれねえな。


「そのタイミングで、前の幹部が死んで、お前が昇格したのか」


「は、はい……! ま、前の、幹部の人は、神の裁きを受けた、そうです……! 元々、胡散臭い人でした、から!」


 へえ、なるほど。スピード昇格だな。

 嘘を見抜く勘が鋭くて、教義を信じてて、献金もたくさんしてて、呪いにも真摯に取り組んでた。教会からすれば、使いやすい人材だもんな。

 そこに、俺によって「前任の死亡」っていうイベントが舞い込んできたから余計白羽の矢が立ったってことか。

 胡散臭いのは認めるぞ。あの男の最期を見届けた俺が言うんだから間違いない。


 にしても……そうか。そういう経緯だったのか。

 やっぱりこれ、俺が死んだのが全部の発端だよな。聞いたのは俺だが──また罪悪感の募るような事実ばっかり出てきやがって……。




「ほ、他に、知りたいことって……な、なさそうですか……?」


「ああ、いいぞ。助かった、ありがとう」


「え、えっと! 他にも、色々、教えられます! 貯金の額とか、寝るときの体勢とか……あ、あと! 胸の大きさとかも──」


「待て待て待て! いい、いいって!」






 *






「あ、あの。食事は、二人分、用意して、ください。あっ、せ、詮索は、しないで! したら、殺しますから……!」


「ひっ! わ、分かりました、ソラナ様!」


 ええ……。




 幹部になったら、作業中の場合は使いが食事を持って来てくれたりするらしい。

 今は昼だ。つまりさっきの使い……っぽいヤツは、自分の部屋から中々出てこないソラナを「仕事中」だと判断し、食事が必要かどうかの確認をしに来たってことだろう。


 そしたら何故か二人分の食事を持ってくるよう要求された。

 詮索したら殺すという脅し付きで。

 可哀想に。

 ていうかソラナってあんな脅しできたんだな。びっくりした。


 にしても──昼か。

 今日が休日じゃねえことは分かってる。つまり、今の時間帯、本来俺は──元のアシェルがしてた仕事に戻らなきゃいけねえってことだよな。

 昨日俺の机の上には献金用の金袋があった。献金ができるだけの蓄えがあったってことは別の職に就いてたってことだ。成り代わりが発生してから今現在まで信者としての状況しか見てこなかったから忘れてたが、本来俺は「教会の信者」だけじゃなくて、「表の仕事」もこなす必要があるってことになる。


「はあ……」


 ……大変だな。

 教会からソラナを連れて帰るのは勿論だが、何の知識もないまますぐ行動に移すのはダメだ。ただ、それまで俺は普通の仕事もしなきゃいけねえ訳で。これまでと違って覚える内容が二倍に増えることになっちまう。周りを見て覚えればよかったことを、これからは昼夜問わず続ける必要が出てきたってことだ。しかも今日の一日分は遅刻が確定する。どうしよう。


「そ、その……アシェルさん? ど、どうか、しましたか? た、ため息、ついてました、けど……」


「え? ああ……別に何も──」


 ──いや待てよ。


 せっかく俺は成り代わりのことをソラナに告白したんだ。

 だったら別に、ソラナに対してなら素直に相談してもいいんじゃねえか? 


 今までは成り代わりのことを話せないせいで誰にも相談できなかったが──今のソラナは俺が前のアシェルと同一人物だって状況を信じてくれてる。

 だったら、今の状況も正直に話せばいいんじゃねえか。「成り代わったばかりで元の仕事の内容が分かりません」って、そしたら一緒に考えてくれるだろ。


「なあソラナ」


「は、はい……?」


「実は、困ってることがあるんだ」


「こ、困ってること……?」


 ああ。

 正直に言うしかねえよな。ソラナなら分かってくれるはずだ。


「俺はさっき──生まれ変わったって言っただろ?」


「は、はい! そう、ですね!」


「ああ。ただ今の俺は、変わってすぐの状態だから──元の体の持ち主がどういう仕事をしてたか分からねえんだ。で、どうしようって」


「……? ……! あ、ああ! そ、そういうこと、ですか!」


 お! 分かってくれたか! 


「た、確かに! 中身が、アシェルさんでも、に、肉体は元々、存在してた、訳ですし。体を、乗っ取った以上、し、仕事とか、前の都合が、気になります、よね……!」


「そうだ! それで悩んでたんだ!」


「な、なるほど。う、うーん……」


 ソラナが考え込みはじめた。

 ここで「どうにもできない」って即答をしないってことは……何か考えがあるのか? それとも、案は無いけど俺のために悩んでくれてるだけか? 


「……あっ。だ、だったら!」


 お? 


「だったら?」


「す、住む、部屋を、か、貸します! お、お金も、あげます! し、仕事も、辞めちゃえば、いいです!」


 ……え? 


 へ、部屋を貸す? 金をあげる? 仕事を辞める? 何言ってんだ? 


「わ、私なら、全部、何とかできます! だ、だから、アシェルさんは、何も心配しなくて、いいです。私、か、幹部、ですから……!」


「あー……なるほど」


 いや待てよ。


 てことは、幹部の権限で、俺の住む場所も活動する資金もくれてやるから、仕事を辞めろってことか? 金と住む場所が準備できてれば仕事なんてしなくてよくなるから俺の悩みも解消できるって? 

 確かにそれはそうなんだが。むしろ、してくれるってんなら大歓迎なんだが。組織の幹部ってのは人一人養うぐらい訳ないってぐらい力があんのか。ちょっと俺の想像してたのとは違う、だいぶ力業な解決法を提示してきたな。へえ、すご……。




「ど、どうでしょう!? け、結構、良い案だと、思うんです、けど……?」


「確かに、助かるが……。ちょっと申し訳──」


「あ、あと……! い、今なら……! わ、私を、す、好きにする権利も、い、一緒に──」


「いやいいって! 分かった、分かったから! その案で頼むから!」






 *






「こ、これ。教会の、信者名簿とか、献金の記録とか、必要であれば、ぜ、全部、見られますよ……!」


「えっ、いや、ごめん。別にいい……」




 ソラナの机の上に分厚い本が何冊も積み重なってる。

 ……ああ。さっきからなんか書いてると思ったが、こういう資料の整理をやってたのか。多分、教会の業務なんだろうな。ソラナも幹部なんだし、こういうことするのも仕事の一部ってわけか。


 で、俺にならその機密情報全部見せてあげますよ、と。

 別にいいよ。ソラナが俺の役に立ちたいと思ってるのは痛いほど分かってるよ。


「あっ……これは、私が、や、やりますから……。アシェルさんは、み、見てるだけで、いいです……!」


「お、おお。ありがと」


「え、えへへ……♡」


 ……なんか、懐かしいな。

 それもそうか。文官の頃も、こうやって俺に教えるために、見せながら仕事してたもんな。あの頃はタリエもいたが。今はソラナと二人きりだ。


「なあソラナ、ちょっと聞きたいんだが」


「は、はい……?」


「お前、ここでずっと働いてる訳だろ。幹部だし、それなりに自由もあるんだよな」


「じ、自由……? あ、ああ……そ、そうですね……。お、お金も、もらえますし……じ、自由に、使えます……」


「でも、その自由ってのは──この教会の中だけの話だよな」


「え、えっと……そ、そうですね……」


 やっぱりな。

 教会の中では自由があるが、外に出る自由はねえってことか。予想通りろくでもねえ組織だ。


「──じゃあ、俺と一緒に、教会から逃げ出さないか?」


「に、逃げ出す……?」


「そうだ。二人で、こんなところ出ていこうぜ」


 そうだ、そもそもそれが、俺の本来の目的なんだ。お前をこんなとこに置いておきたくない。もしお前に冤罪をでっちあげられたら、今の好待遇だっていつ無くなるかも分からねえし、それでどういう目に遭わされるかも予想できねえ。そんな危ない場所にお前を置いたままなんて心臓に悪くてしょうがねえ。

 だから──早い内に、ソラナをここから連れ出したい。


 ソラナは俯いたままだ。

 呪いが実在する以上、ソラナは教会の教義を信じてるってことになる。好待遇で、それなりの権力があって、無理に逃げ出す必要性を感じられないんだろう。

 まあ、拒否されてもいいが。その時は俺が無理やりソラナを抱きかかえて、力業でここから離れるだけなんだし。


「ア、アシェルさんと、い、一緒に……に、逃げる、ってことですか……?」


「そうだ。お前と俺で、教会から逃げ出す」


「……そ、それって! か、駆け落ち……! アシェルさんと……!?」


 えっ……ああいや、そういう話じゃねえ。

 そういうつもりで誘った訳じゃ……おお、顔が真っ赤になってる。

 いや別に、それでついてきてくれるなら「駆け落ちだ」って今から言い張るけど。

 ていうかお前、一瞬めちゃくちゃ嬉しそうな顔しただろ。見逃さなかったぞ。


「はっ! い、いやいや……ダメです。に、逃げ出すのは、む、難しいんです」


「ん?」


 難しい? 何でだ。

 そりゃ「今日から辞めます」で、ハイおしまいってなる優しい組織じゃねえってのはなんとなく察しがついてるが……。


「そ、その。教会には、裏切り者を、追う……せん、専用の、暗殺部隊があって……。だ、だから……じ、自由な、脱退は、できないんです……」


「……あ、暗殺部隊?」


 ……マジで? そんなことしてんのここ? 

 眠らずの狼だって逃げ出したヤツを追いかけるのは時間の無駄だからってしなかったぞ? 代わりに残ったヤツに罰則があったが。

 でも確かに、そうか。

 逃げ出したヤツってことは教会の秘密を知ったヤツってことだからな。表向き救済を謳っている以上、内部で献金とまやかしによる集金を行ってるなんて大っぴらに口外されればお終いだし。そのために逃げ出したヤツには口封じ部隊が送られることになると。


「そ、それに……わ、私は、教会を、し、信じてますから……! 呪いだって、本当にあったし、教会に、助けられたし、アシェルさんとだって会えた……だ、だから……その……」


 ああ、クソ。なんてこと言うんだ、余計逃げ出しづらくなったじゃねえか。

 ソラナはまだ信じてるんだ。暗殺部隊なんてもんがある組織を。コイツからすれば、教会は自分を救ってくれた場所なんだよな。そこを裏切ろうって話にメリットを感じねえどころか、現状デメリットしか感じねえってことだ。

 これ以上言っても無駄だな。根本の認識が違う。

 時間をかけて、少しずつ説得していくしかねえ。




「そ、そういえば……! せっかく、本人もいるんですし……!」


「ん? ああ、なんだ」


「は、はい。あの──元の、アシェルさんの遺体は……そ、その……ど、どうしましょうか?」


「……墓に戻しとけば?」






 *






「け、結構掘れました……ね!」


「ああ。後で土をかぶせ直す作業もいるけどな」


「あ、あはは……」




 やっぱり墓荒らし(墓直し)は夜に限るな。


 朝や昼間だと人に見られる可能性もあるし、なんなら墓荒らししてるとこ見られたことあるし。

 もしこの作業をタリエやベラに見られたらどんな目に遭うか予想できたもんじゃない。ベラに至っては自分から「何をするか分からない」って言ってる始末。だから、こういう作業は夜中にやるしかねえ。


「アシェルさん……つ、疲れて、ませんか……?」


「大丈夫だ。お前こそ、休むか?」


「だ、大丈夫、です……! が、頑張ります……!」


 まあ、コイツ一回、自分で掘り返してる訳だからな。

 多分一人でもできるんだろ。そう思うとすげえな。呪いのこと教えられて、秘められてた力が開花したとか? 


「……呪い、か」


 昨日から色々考えてたんだが、やっぱり呪いは存在するんだろうな。

 ソラナが俺の体に力が入らなくなるようにしたり、胸が痛くなるようにしたり──本人の証言で、あれは全部「呪い」だったってことがはっきりした。

 そういった魔法みたいな現象やそれを扱える人間はこの世界に存在するってことだ。ウィスプみたいなもん見てきた俺がケチつけるのはどうなのかっていう今更すぎる疑問もあるが。


 ──じゃあ、俺の成り代わりも、誰かにかけられた「呪い」ってことなのか? 

 だとしたら、かけたのは誰だ? いつ、どこで、何のために? 理由が分からねえ。

 ただ、呪いが存在するなら、俺の成り代わりも呪いで説明がつく。


 もしかしたら、元凶は教会なのか? あそこがやってる怪しげな儀式が、手違いで俺にかかっちまって──その結果この成り代わり現象が発生するようになったとか。

 それとも、別の存在なのか? 呪いを使える人間がいるなら、何も教会に限定する必要だってない。それこそ他に呪い使いがいるかもしれねえし、昔、そういうヤツの恨みを買ったことがあるのかも──


「あ、あの……アシェルさん」


「ん?」


「じ、実は。教会には……の、呪いを、使える、人……ほ、ほとんど、いないんです」


「え?」


 ほとんどいない? どういうことだ? 

 教会は呪いを教義の内容に組み込んで、それで信者から金を巻き上げてるんじゃねえのか? 


「他の、幹部の方も……つ、使ってる、ところ、見たことなくて」


「……マジで?」


「は、はい……! せ、聖書に、載ってる、やり方も……実際のとは、ちが、違うんです……お、おかしいな、って……」


 ……聖書のやり方が違う? 

 ってことは、教会が教えてる呪いのやり方は、本物じゃないってことか? なんでそんな嘘を──って、ああ。そういうことか。


 本当の教会は呪いなんてもの信じてなくて、ただそれを口実にしてるだけの詐欺組織なんだ。あたかも呪いは存在しますよって体で振舞って、信者の恐怖や欲望を煽って、それを金儲けに利用してる。実際には呪いはまやかしだと思ってて、当たり前のように誰も使えない。

 ただ、俺の成り代わりみたいに──呪い自体は本当に実在してて、ソラナがそれに根性で辿り着いたってことか。すげえなおい。


「……ふう。一回休憩にするか」


「は、はい……!」


 ──いや、今の俺の考えが全部間違ってる可能性もあるよな。

 本当は他の幹部たちだって呪いが使えるかもしれねえ、ただ見せてないだけなのかもしれねえし。実際にこの宗教が誕生してた時は呪いを使えるヤツがいて、ソイツが聖書を書いたのかもしれない。俺の成り代わりの謎についても手掛かりはないままだ。

 ああ、訳分からねえ。頭痛くなってきた。これも呪いだったりしてな、ははは。




「どうしたもんかなー……っと。……ん? どうした、ソラナ?」


「……あ、あの……アシェルさん。その、ちょっとだけ、くっついてても、いいですか……?」


「……いいぞ。おいで」


「や、やったあ……♡」

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

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