悩める兄と見えてきた終わり
また投稿忘れてる……(´・ω・`)
やべえなあ……。
ここ数日、マドリーの指示で動いてる教会の連中が森の近くまで嗅ぎつけてきやがった。最初は地域の中心部だけだったが、どんどん範囲を拡大して今は街の外れまで来てる。ここまで来たら次は森だ。ってなったら、いずれこの拠点も見つかっちまうぞ。
だんだん今の計画も佳境に入って来た。
ただ、それと同時に杜撰な計画立ててた反動も返ってきてる。
まず一つ、『リアンとマドリーは協力関係に落ち着いたが、未だ完全に和解した訳ではないこと』。
これがこの計画の一番の目的だった。なんとか、これまでのいがみ合い状態から現状に持ってくることはできたが、それでも二人の間にはまだ結構な断絶がある。今のままじゃ、犯人の俺を捕まえたとしても罰を与えただけで終わって解散──で、また元のいがみ合い状態に戻る……この計画が初めから無意味だったっていうかなり悪い結果で終わっちまう。
次に一つ、『ネルが誤魔化してくれた、嘘のアリバイがバレるまであんまり時間がないってこと』。
リアンからの一時的な疑いは晴らすことができた、できたが……それはあのアリバイが事実じゃなかったってバレるまでの話だ。ここから王都までは全力で馬車を走らせて三日~五日ぐらい。往復なら倍だな。使いが帰ってきた時点であのアリバイは嘘だって分かるから、その瞬間俺は「二人に捕まる犯人」として動かざるを得なくなる。要は制限時間ができちまったってことだ。
そして一つ──『マドリーが今も光明の教会と関係を持っていること』。加えて、『マドリー支配下の光明の教会が思っていたより優秀だったってこと』。
これは単純に、マドリーにあの胡散臭い組織とこれ以上絡まないでほしいっていう俺の願望も含んでる。それに、所詮怪しい宗教に飲み込まれた一般人の集団、そう思ってたコイツらは──想像以上に厄介な存在だった。
少し前にも街で見たが、あの幹部はずっと洗脳され続けてるって訳じゃないらしい。そりゃそうだ、そんなに長時間相手の意識を自由自在にさせるなんて、もう薬じゃなくて魔法とかの類だ。
そんなあの幹部が今でもマドリーの言うことを聞いて情報収集と犯人捜索に力を入れてるのは──間違いなく「教会の重要な情報を握られた」からだろう。自白剤でもなんでも飲まされて、自分の首を絞めかねないような機密情報をボロボロ吐かされたに違いねえ。
今のアイツは、情報を握るマドリーの口止めを約束するため、俺の捜索に必死になってるってことだ。あの幹部が必死である以上、事情を知ろうが知るまいが教会のメンバーも全員必死で動かざるを得なくなる。で、そうなった大人数の組織ってのは──とてつもなく手強い。
ヤツらはその人数にものを言わせて捜索範囲をどんどん広げていってる。今の勢いだと、俺たちを見つけちまうのも時間の問題だ。そうなったら二人とも捕まって、リアンとマドリーに引き渡され、それで計画が台無しになっちまう。胡散臭い集団だってのに使い方さえ正しければ相当の力を発揮するってのが癪に障る。
今でこそ完璧に支配下に置けているが、もしコントロールできなくなった時に、マドリーに被害が及ぶ展開だけは絶対に避けておきたい。
だから、マドリーへの心配と俺の保身を理由に──一刻も早くあの怪しい組織と縁を切ってほしいってのが俺の今一番の望みだ。
ただ、どうすればマドリーと教会の関係を断ち切ってくれるだろう。
今のマドリーは教会が危険な組織だと把握した上で、自分で引き寄せて支配下に置いてる。アレが危険な組織だといくら訴えたところで、アイツが耳を貸す理由にはならない。
その上、組織の有用性も既に確認済みだ。教会を支配下に置いたことで、マドリーの捜査状況は一気に進展した。今はリアンがいるからあんな連中と手を組まなくてもいいはずだが……マドリーからすれば動かせる手数が多いに越したことは無いだろうな。
外部からの介入も効果が薄そうだ。あの幹部は今や完全にマドリーへの恐怖で支配されていて、例え本部からの招集があろうと、例え王国兵のガサ入れがあろうと、独断でここを離れるってことができなくなっちまってる。外部圧力はまず役に立たないって考えてもいい。
「そうだな……偽の証拠でも作って教会に掴ませてみるか……?」
分かりやすく犯行に一切関係のないものをばらまくんだ。そうすれば教会は偽物を追いかけて俺たちから離れていくし、結果空振りだったと分かればマドリーからの信用も失う。
……いや、ダメだ。そんなもん作るには時間がかかる、間に合わねえ。偽証拠を作るってことは、リアンとマドリーが持ってる情報と矛盾しない内容にしなきゃいけねえってことだが、そんな細かい調整をしてる時間もねえし。
じゃあ別の方法は? 教会が自主的に去る理由を作るのは……いや、無理だな。アイツらはマドリーへの恐怖で支配されてる。今から何やったって、マドリーを無視して王都に帰るまで追い込むってのは無理な行動だ。だからやるなら、マドリーの方から切らせるか──切らざるを得ない状況に持ち込まねえといけねえってことになる。
俺たちは両家に顔が割れてるし、しかもマドリーには墓荒らしの犯罪者として覚えられてる。俺たちが直接介入するのは不可能だ。だからやるとなったら、俺たちが間接的にリアンやマドリーと接触し、それを通じて間接的に教会へダメージを与えねえと……んなこと、この短い時間でできる訳ねえだろ。
……ああ、堂々巡りだ。何も思いつかねえ。
とりあえずはネルが食糧探しから戻ってくるのを待つか……。
*
「……ん?」
……何だ、今の音。なんか、音したよな、さっき、確かに。
森の入口の方から、人の気配がする。ネルが森の外まで行ってたのか──いや違う、気配が複数だ。ネルじゃない。
てことは……まさか……。
「いいか貴様ら! どんな痕跡も見逃すなよ! ここで見つからなければどんな目に遭わされるか!」
「(げ……!)」
うわあ……やっぱり──教会の連中だ。幹部の声が聞こえる。あのクソ野郎が何人か連れて森に入ってきやがった。マジかよ。
周りのは教会の連中か? ローブを着てないから分からねえが……指示に従ってるってことは多分──そういうことか。
もう森の中まで入ってくるなんて、早すぎだろ。もう少し時間があると思ってたのに、タイミング悪すぎる。今近くネルがいねえってのに。何で今日なんだ。何で今なんだよ。
あの幹部が何か指示を出してやがる。
「この辺りだ! 怪しい二人組が森に潜んでるって情報がある! 徹底的に探せ!」
……もう俺たちの居場所が特定されてやがんのか。
森に潜んでるって情報まで掴まれてるってことは、近くに住んでる誰かに見られちまってたか、それとも前に教会の連中が調査に来た時痕跡を見られちまってたか。畜生、もっと警戒すべきだった。
不幸中の幸いなのは、コイツらがズブの素人だってことか。
獲物を探すときはそんな大声出すもんじゃねえぜ。見てなくても場所がバレバレだ。
「見つけたらすぐに拘束しろ! マドリーに差し出してさっさと解放されるんだ!」
マドリーに差し出す……ね。
てことは、コイツの目的はマドリーからの解放だな。犯人を捕まえてマドリーに差し出せば、あの脅しから逃れられる。そう考えてるから必死な訳だ。
この調子だったら、薬でずっと言うこと聞かせてるっていうより、やっぱ弱みを握られて嫌々従ってるって仮説が正しかったみたいだな。だから何だって話なんだが。
「いるはずだ! 絶対にいるはずだ! 情報は確かだ! 森に潜んでる二人組がいるはずだ!」
……自棄になってんのか? 声が震えて焦ってる。
マドリーの脅しがどんだけ効いてるんだ。あのクソ野郎、完全にビビってるじゃねえか。
「見つけたら、すぐに拘束しろ! 逃がすな! 絶対に逃がすな! これが最後のチャンスなんだ! これを逃したら、俺は……俺は……!」
何だ今の。俺は……って、何だ? 最後のチャンス? これを逃したら何だ? マドリーに何をされるんだ? 殺されるのか? それとも、もっと酷いことをされるのか?
……いや、考えてる場合じゃねえな。今重要なのはコイツらが必死になって俺たちを探してるってことだ。さっさとネルと証拠を回収して離れねえと。
「お前たちは東側を探せ! 俺たちは西側を探す! どこかにいるはずだ! 絶対に見つけろよ!」
げ……東側って。それって拠点の方向じゃねえか。
いよいよチンタラしてる場合じゃねえぞ、さっさと行動に移さねえと本当に終わっちまう。拠点には盗んだ遺品が全部あるんだから、あれを見つけられたら俺たちが犯人だってのは一発でバレる。そうなったら計画も何もかも台無しだ。リアンとマドリーに犯人として捕まるのは最終段階でやるつもりで、こんな中途半端なタイミングで捕まる訳にはいかねえのに。
それに、教会の連中に捕まるってのは最悪の展開だ。あのクソ野郎はマドリーから解放されたい一心で動いてる。犯人を捕まえて差し出せば自由になれるって信じ込んでやがる。俺たちを見つけたら容赦なく拘束してくるだろう。下手すりゃその場で殺されるかもしれねえ。
──じゃあ、戦うか?
幹部と部下を全員倒せば、ここに来たことを誰にも知られずに済む。
盗賊の頃、俺は何度も人を殺してきた。ボスの命令で、生き延びるために仕方なく。今回も同じだ。生き延びるために、計画を守るためだ。
それに、相手は教会の連中だ。実戦経験なんてほとんどねえだろう。もし武器を持ってたとしても、使い方を知らなきゃ意味がねえ。一方俺にはこれまでの色々な経験がある。森の地理も把握してる。有利なのは俺の方だ。
「あった! あったぞ、見つけたぞ! 焚き火の跡だ! ここに人がいた証拠だ! 近くに拠点があるはずだ! 探せ!」
……もう迷ってる時間はねえ。拠点を守るためには、ここでコイツらを止めるしかねえ。
全員──一人残らず、倒すんだ。
*
足音が近づいてくる。あと少しだ。
一番近くの部下が背中を向けてやがる。槍を持ってるが、構え方が素人丸出しだ。握りが浅い。重心が前に傾きすぎてる。あんな持ち方じゃ、いざって時に振り回せねえ。
……今だ!
木の陰から飛び出して、部下の顎に拳を叩き込んで。慣れた動きだ。
骨が軋む感触がして。相手の体が糸の切れた人形みたいに崩れ落ちる。
よし──一人目!
「何だ!? 誰だ!?」
別の部下の声だ。慌てて武器を構えようとしてるみたいだが──もう遅い。ここで相手に差を付けねえと、この人数差は覆せねえ!
手首を掴んで捻り上げて。武器が落ちるのと同時に肘を鳩尾に叩き込めば、呼吸が止まったみたいに相手が硬直した。
二人目!
「貴様……!!」
気づきやがったか。
残りの部下もようやく俺の存在を認識したらしい。腰が引けてる。ほっとけば勝手に逃げ出すだろ。問題は目の前の、武器を抜いたコイツ──
「……って、おっと!」
容赦ねえな! 当たり前か!
とりあえず一旦距離を取らねえと。アイツ、剣を構えてやがる──長剣だ。リーチが違う。迂闊に近づけば斬られちまう。ていうか、剣を横に薙ぐスピードが素人じゃねえ。少なくとも、さっきの部下たちよりは動きがマシだ。
後ろに跳んで間合いを外して……っ、危ねえ!
刃が空を切った、あと一歩遅れてたら斬られてたぞ!
「逃げるな……逃げるなぁ!!」
逃げねえワケねえだろ馬鹿が!
剣の振り下ろしは横に転がって躱して、刃が地面に突き刺さった瞬間に懐へ潜り込んで……!
「うわっと! 読まれてたか!」
「小癪な!」
まさかあの体勢から一気に引き抜いて勢いのまま切りつけてくるとは思わなかった。
クソ、太った図体の割に相当やり手じゃねえかコイツ、宗教になんざハマらなくても生きてけただろうに!
「貴様が件の犯人か! そうだな! お前を……お前を捕まえれば……俺は自由になれるんだ……!!」
おお、完全に追い詰められてやがる。マドリーの脅しがどれだけ効いてるんだ。もうここまでくるとマドリーが何したのか気になって来た。
でも、必死な相手ほど厄介なもんはねえ。予測不能な動きをしてくる。油断はできねえぞ。
「お前さえ……お前さえいなければ……!!」
「……!」
逆恨みも良いところだろ!
噂を聞いて来たのはてめえじゃねえか!
また振り下ろしか! 芸がねえな!
頭に血が上って同じ攻撃しかできねえのか。隙だらけだぞ……うおっ!
「マジかよ!? 今の弾けんのか!?」
手元狙って間違いなくぶっ刺したと思ったのに。
クソ、やっぱりリーチが違いすぎる。このままじゃ勝てねえぞ。
どうする、どうすればいい。ぶちのめした相手の武器を拾うか。
でも、そんな隙を見せていいのか? これまでも結構危なかったってのに。
……また剣を構えやがった。
息も荒いし、汗が滴ってるのに。生き延びたい一心で、マドリーから逃げたい一心で、俺を呪い殺すぐらいに睨みつけてきやがる。
クソ、埒が明かねえ。このまま消耗戦になったら、体力で負ける可能性だってある。どうにかして決着をつけねえと……って──あれ?
向こう側に、誰かいる。木々の間から、人影が見える。
灰色の髪。オレンジ色の目。手には木の実か何かを持ってやがる。
──ネルだ。
「あれ? 何で知らない人が──」
「──ネル! 今だ! やれ!」
「!」
幹部の視線が一瞬だけネルに向いて、剣先が俺から外れて──
「な、何!? 伏兵だと……!?」
「えっ何々!? やれって、何を!?」
何にもねえよ。そんな取り決めなんて初めっからしてねえし。
ただ、こう言えば──挟み撃ちになったと思って、コイツは後ろを向くだろ。
「違う! これは気を引くための……!!」
なんとかなった。なんとかなったぞ。
かなり肝を冷やしたが、普通に死ぬかと思ったが。
それでもなんとかなったぞ。
剣捌きは中々だったが、それでもやっぱりコイツは素人だな。戦いの最中に敵から目を逸らすんじゃねえよ。
「──この、手こずらせやがってえ!」
「や、やめ……!」
*
「え、結局何なのこいつ。なんでここにいるの」
……なんて言おうか。
勢いで殺しちまったが……まあ当然、困惑してやがる。
だよなあ。自分が飯探してる間に拠点に知らねえヤツがいて、ソイツが俺に刺し殺されてるんだから。普通驚くよなあ……。
「……教会の幹部だ」
「教会? ああ、あの怪しい連中の……でも、何でここに?」
「俺たちを探しに、偶然ここに来たみたいだった。で、興奮してたからこう」
「ああ、殺しちゃったんだ。ふーん、そっか」
逆に、知らねえヤツがいたことに困惑してるだけで、人を殺したことには特に何とも思ってなさそうだ。コイツだってあの盗賊団にいたんだし、人が死ぬ現場なんて何度も見てる。殺すことにも殺されることにも慣れてる。
……いや、殺されることに慣れてるのは世界で俺だけか。そういや普通の人間は何回も死んだりしないんだった。
「コイツって殺したら何か問題あるヤツだっけ」
「分からねえ。念のため拠点はもっと森の奥にしておこう」
嘘だ。
いや、別にコイツが死ぬことでデメリットしかないって訳じゃねえ。コイツが死ねば、光明の教会の捜索団を統率するヤツがいなくなるし、マドリーとの縁も切れる。どうやって引き離そうかとうんうん唸ってたが……一番単純な解決策は頭を潰すことだったんだ。
幹部の死体を見下ろせば、血が地面に広がって、土に染み込んでいくのが見える。首筋に開いた穴から、もう血は出てねえ。心臓が止まったからだ。
人を殺すこと自体に葛藤はねえ。これまでの人生でも殺しはやってきてるし、今の人生だってボスを殺した。生き延びるために、仕方なく──今回も同じだ。コイツを生かしておく訳にはいかなかった。だから殺した、それだけだ。
でも、殺したことで別の問題が発生するんだよな……。
コイツがいなくなれば、教会からのマドリーへの報告が途絶えることになっちまう。
そうなればマドリーは必ず気づく。幹部が最後に向かった場所を調べて、森の中を捜索するだろう。
そうなったらもうこの森には隠れていられない。ただ、街に戻れば普通に見つかっちまう訳で……。
あー……どうすっかなー……。
「あっ! ねえねえ、コイツ結構金持ってるよ! ラッキー!」
「おい」
さっきまでの困惑はどこに行ったんだ。切り替えが早すぎるだろ。
「おお、これ金貨じゃん! しかも結構な枚数! やったー!」
「……お前、それ盗むのか」
「だって死んでるし。死んだヤツには金なんて要らないでしょ」
まあ、確かにそうだが。
ああ……嬉しそうに銀貨を数えてやがる。一枚、二枚、三枚。顔がどんどん明るくなっていく。止めるに止められない……。
「ねえ、他にも何か持ってないかな? 宝石とか、高そうなやつとか」
「こんなこと普通はしちゃいけねえんだぞ」
「……まあ、そっか。働けばお金は貰えるからね。殺して奪うのはちょっと危ないかもだし」
「おー偉いぞー」
「あ、おい! な、撫でるな!」
殺したことに後悔はねえ。別にコイツに同情したりもしねえ。どうせ極悪人だし。
いずれにしても、時間の問題だ。このままだと、マドリーは必ず調査に来る。使える幹部が消えたことを知れば、必ず動く。
──そして、俺は捕まる。
ああ……計画の最終段階が、予定より早く来ちまったな。
でも、いいか。マドリーを危険な組織から遠ざけることができたし。ネルの逃走資金も思わぬ形で手に入っちまったし。次は、犯人として捕まる準備をするだけだ。
リアンとマドリーが、完全に和解するための、最後の一押し。それが、俺の役目だから。
感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)
ブックマーク・評価・リアクション等も、可能であればぜひお願いします。大喜びしますので。




