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【完結】俺は死んだはずだよな?  作者: 破れ綴じ
7. 盗賊

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62/111

兄の教えと兄弟の再会

 よっこいしょっと、中々重てえな。

 この荷物、何入ってんだ? 石でも詰まってんのか? 


 港から村まで荷物を運ぶだけの仕事だが……この距離だと結構大変だな。まあでも兵士の時はもっと重い荷物を担いでたし、酒家の時も樽を運んでたし、探検家の時も荷物を背負って歩いてた。だからこれくらいなら大丈夫だ。過去の人生に感謝だな。逆にネルにはちっとばかしキツイかもしれねえ。


「うわ、重っ! 何これ、何入ってんの!?」


「知らねえよ。とにかく運べ」


「無理無理! なんで馬車で運ばないのさ!?」


「文句言うな。そういう仕事なんだ」


 今日は、真っ当に金を稼ぐ日だ。

 近くのとこでひたすら日雇いの募集を探して──今こうしてるって訳だ。


 いずれ計画が完了したら、ネルを遠くの街まで逃がすための資金が必要になってくる。そのためにかかる移動の費用とか、しばらく生活できるだけの金を今のうちに準備しておかなくちゃならねえ。

 それに併せて、外の世界を知らないコイツにまともな生き方ってのがどんなものかを教えておく必要がある。コイツはボスの元で盗賊生活しかしてこなかったから、金の稼ぎ方ってなると盗みしか知らねえんだが……それだといずれネルが逃げた後に困るだろう。俺だって兵士になって初めて給金貰ったときはよく理解できてなかったし。コイツが盗賊以外の方法で生きていけるように、こういう風に働くことで金が稼げるんだぞってことを今のうちから理解させておかねえと。

 だから当然だが、盗みで稼ぐってやり方は厳禁だ。ネルに「やっぱり稼ぐには盗みだね」って再認識させちまうし、そもそも今は目立ちたくねえ。リアンとマドリーが犯人を探してるから、下手な盗みは怪しまれること必須だ。


「はあ……でも、何でこんなことしてんの? これ、盗んだ方が早いじゃん」


「今は目立ちたくねえんだよ。捜査が本格化してるからな」


「……それもそっか」


「それに今の目的は『情報収集』だからな。これはそのついでだ」


 ……まあ、納得してねえって顔だが──元々は「捜査や隠し財産についての情報収集」って体で仕事を始めるってことにしたから、一応必要なことだって理解してくれてはいる。

 最初は散々文句言ってたが、とりあえず荷物を運んでくれるようになった。


「ねえ、アンタ。何でそんなに平気なの?」


「慣れてるからだ」


「慣れてるって、何に?」


「色々だよ。気にすんな」


 俺の過去について話しても理解できねえだろって。

 とかなんとかいってる間に……あそこだな。荷物下ろして、商人に渡して、賃金を受け取って──と。


「え、なにこれ? なんでお金が貰えたの?」


「働いてくれた礼って考えろ」


「……? 働いたら貰えるのは食べ物と殴られなくなる権利でしょ?」


「ボスは死んだんだからその考え方は忘れとけ」


「ふーん……」


 これでネルが盗み以外の稼ぎ方を理解してくれればいいんだが。コイツは本当は悪いヤツじゃねえ。ただ、盗賊団にいたから、盗み以外の生き方を知らなかっただけだ。

 そのまま徐々に、俺の言ってた「隠し財産」についても忘れてくれて、真っ当に生きることが一番とか考えを変えてくれたらいいんだけどな。まあ、無理だろうな。


「ねえ、次は何するの?」


「また荷運びだ」


「えー、また?」


「でも金が貰えるって分かったろ?」


「まー……そうだね。なら運んでやってもいいかも」


 ネルは不満そうだが、それでもついてきてくれる。後は次の現場に向かうだけ。

 他にも、畑仕事とか、建築作業とか、日雇いで人を探してるとこは少なくない。大体が屋外の力仕事だな。

 屋外の仕事は屋内の仕事と違って、学や資格や技術が無くてもその日の内にすぐできるのがいい。ただ、俺たちの顔を知ってるマドリーに見つかるかもしれねえって問題があるんだよな。

 そうなったら逃げるしかねえんだが……そんなことばっかり繰り返してたらいずれ雇ってもらえなくなりそうだ。






 *






 材木を持ち上げて、運んで、下ろして、また持ち上げて。

 同じことの繰り返しだが、まあ悪くねえな。体動かしてりゃ余計なことを考えずに済むし、何より終わった後に金が貰えるってのは盗みと違って後腐れがなくてやっぱりいい。

 ネルは相変わらず文句ばっか言ってるが、それでも手は動かしてる。最初の頃に比べりゃだいぶマシになってきたな。まあ、盗賊団にいた頃から狂犬として言われるガッツはあったから、慣れりゃこんなもんだろ。


「──バレク家とグロス家が手ェ組んだって話、聞いたか?」


 ふと、木陰の方から声が聞こえてきた。休憩中の連中が話し込んでるな。

 手が止まりそうになったが……危ない危ない。聞き耳を立てるのはバレねえようにしねえと。元々この仕事は「情報収集」って口実で来てるんだし。


『マジかよ。あの二つの家がか? 犬猿の仲だったじゃねえか』


『マジだマジだ。昨日の夜、酒場で大騒ぎだったぜ』


『信じらんねえな。あの二つの家、お互いのこと見下し合ってたんだろ?』


『そうそう。薬家と酒家でよ。ここ最近は特に酷くて、次男と長女が顔合わせたら喧嘩になるとか、そういう話まであったんだ』


 ああ、やっぱりそういう噂になってたのか。

 リアンとマドリーの対立は地域全体に知れ渡ってたってことだな。それだけ目立ってたってことは、逆に言えば和解した時のインパクトもデカそうだが。


『それがなんで急に手ェ組んだんだ?』


『盗難があったらしいぜ。しかも両方の家で。死んだ跡取り息子の遺品だとよ』


 お、俺だ。

 俺の話だ。


『ああ、あの火事で死んだ長男か。下戸でも飲める酒作ったとかいう』


『そうそれ。で、その遺品が盗まれて、しかも燃やされた状態で見つかったんだと』


『燃やされた? どういうこった』


『広場の隅に焼け焦げた布切れとか紙切れとかが放置されててよ。調べたら両方の家のが混ざってたらしい』


『ってことは犯人は同一人物か』


『そういうこった。だから二つの家も嫌々だが協力することにしたってよ』


 おお! 計画通りだ! 

 焼却した遺品が見つかって、両家が手を組むきっかけになった。ここまでは俺が予想した通りの展開。

 へー、他にも色々予備の策を考えてたんだが、上手く行ったのか。あの遺品を燃やして証拠として残した甲斐があったってもんだ。


『酒場で聞いた話だと、二人とも顔合わせる時はまだぎこちねえらしい。会話も必要最低限で、目も合わせねえって』


『まあそりゃそうだろ。あれだけ仲悪かったんだ。いきなり仲良くなれる訳ねえ』


『でも犯人捕まえるためには協力するしかねえってことで、無理やり手組んでるって感じか』


 まだ完全な和解には至ってない。

 それは想定の範囲内だ。いきなり仲良くなれる訳がねえ。でも、協力し始めたってことは一歩前進だ。あとは、もう一押し。


『バレク家の次男坊の方は相当キレてるらしいぜ。兄貴の遺品盗まれて、しかも燃やされたんだからな。見つけたら殺す勢いだって話だ』


『グロス家の長女の方もヤベえって話だ。表向きは冷静そうに見えるが、内心じゃ煮えくり返ってて、やべえ組織にも手を出したとか』


『まあ命の恩人の遺品だもんな、そりゃ怒るわ。例の噂もあからさまに嘘だったし』


 ……やっぱ、俺がマドリーを助けた話も広まってんだな。

 両家以外の人間もあの噂は信じてねえらしい。まあ、両家に余計なちょっかいをかけようとする人間がいねえってのはいいことだが。


『犯人もバカだよな。よりにもよってあの二つの家敵に回すとか』


『しかも遺品燃やすとか。完全に挑発してるだろそれ』


『頭おかしいんじゃねえか』


 おかしいのは俺の頭じゃなくて今の俺の状況なんだが。

 実際、俺がやったことは常識的に考えりゃ理解できねえ行動だろう。でも、両家を怒らせて、協力させることが狙いだったし。計画は順調に進んでるってことだな。


「……ねえ、さっきの会話って。アタシたち、結構やばいんじゃ……」


「大丈夫だ。まだバレてねえし証拠もねえだろ。焦り始めるのは森の奥まで捜査の手が入ってからだ」


「そ、そう。そうだか、そうだね! きっとアタシたち、大丈夫だよね……!」


「ああ」


 両家は協力し始めた。まだ完全な和解には至ってねえが、それでも一歩前進だ。焼却した遺品が決定打になったのは間違いねえ。完全に和解させるには、もう一押しが必要だ。そして、そのためには、俺が犯人として捕まる必要がある。それが、この計画の最終段階だ。

 どんな目に遭うか分からねえし、正直あの二人にやられるってのは悲しいとこがあるが……それでも構わねえ。俺が死んだせいで二人が対立したんだ。だったら俺が責任を取る。それで二人が和解するなら安いもんだろ。






 *






「なあ、ちょっといいか!」


 現場の入り口の方から、ガキの声が響いてきた。

 作業してた連中が一斉に手を止めて、声の方を見る。


 あの声、聞き覚えがある。

 いや、聞き覚えがあるなんてもんじゃねえ。忘れるはずがねえ。


 リアンだ。

 マジか。何でここに来やがった。顔を知ってるマドリーじゃないだけまだマシだが……まさかこんな場所まで聞き込みに来るとは思ってなかったぞ。


「みんな、手ぇ止めてくれ! ちょっと聞きたいことがあるんだ!」


「(ネル。変に視線逸らすなよ。まだリアンに顔は割れてねえはずだ。キョロキョロしてたら余計怪しい)」


「(おっけー……)」


 声が近づいてくる。


「すまねえな、仕事の邪魔して。でも、これは大事なことなんだ」


 リアンの声が、すぐ近くで聞こえる。背中に冷や汗が流れてる気がする。

 近え、近えよリアン。お前酒家の時から思ってたけど距離感近えんだよ。このまま振り向かれたら、顔が完全に見られちまう。犯人だとはバレなくても、顔見られちまったらマズいかもしれねえ。


「怪しいヤツを探してるんだ。見なかったか?」


「怪しいヤツ? どんなヤツだ?」


 現場の親方が訊き返す。正直聞き返してほしくなかった。

 リアンに久しぶりに会えたのは嬉しいが、こういう形では会いたくないから、「仕事の邪魔」だとかなんとか言って追い返してほしかった。


 無理か。無理だよな。

 バレク家とグロス家はこの辺り一番の名家だもんな。下手なことしてこの地域から居場所が無くなったら困るもんな。多分そんなことしねえだろうけど……いや、今の二人ならやりかねないか。


「二人組ってことは突き止めてる。うち一人は『眠らずの狼』ってクソ盗賊団の構成員だってことも分かった。多分もう一人もそうだろ。絶対に許さねえ!!」


 えっ。

 うわ、そこまでバレてんの。


 えっなんでバレてんの。

 いつ見られてたんだ。


「お、おお。落ち着きなって……」


「これが……落ち着けだぁ!? 俺の兄貴の! 兄貴の持ち物を盗んで、しかも燃やしやがったんだぞ!? ふざけんなって話だろ! ………………いや、ごめん。確かにそうだ。アンタに八つ当たりしても意味はねえんだ。ごめん」


 お、おお。

 怒りが抑えきれてねえ。声が震えてる。


「でも、兄貴は必ず戻ってくるんだ。俺にそう約束したんだから。だから、兄貴が戻って来た時に元のままにしておかなきゃいけねえのに……! なのに、クソ、あんなあっさり盗まれて、俺は、俺は……!」


 ……胸が痛い。顔が青くなってきた気がする。

 ネルを見ろよ。バレたらやべえって気持ちで顔が真っ青になってる。

 やっぱり俺たち兄妹だな。

 リアンも弟だから、リアンとネルも姉弟になんのかな。


「……気の毒だが、二人組ってだけじゃうちには分からない。ただ、もし見かけたら教えるよ」


「頼む! もし情報があったら、バレク家まで知らせてくれ! 謝礼は弾むから!」


「分かった」


 ……ああ、良かった。会話が終わりそうだ。

 リアンが来たときはどうしようかと思ったが──なんとか怪しまれず、顔も見られることもなく、乗り越えられそうだな。


 良かった、良かった──




「あっ。それこそ、普段つるんでる二人組だとか──日雇いで入った新人二人だとか……。そういうのならいるんだが、別にアンタの探してるのはそういうヤツじゃねえよな?」


 えっ。

 ちょっおま、何言って──


「──いや、頼んでいいか。謝礼は出す。今はどんな情報でも見つけてえから」


 えっ。

 ちょっ。


「(えっ? ねえ、ちょっと。なにこれ、ヤバくない?)」


「(ヤバイ)」






 *






「アンタらで最後だよな。日雇いで入った新人二人っていう」


「そうだ」


「じゃあ聞くが。十五日前の夜、何してた?」


 ……十五日前の夜。


 丁度その頃バレク家に忍び込んで、俺の遺品を盗んでたなあ……。

 なんで俺たちが盗みに入った時間帯まで特定できてんのかなあ……。


 んなもん正直に言える訳がねえだろ。


「……さあな。覚えてねえよ」


「そうか。じゃあお前らが犯人って可能性も──」


「いやいや、待て待て。早計だろ。十数日前の出来事が思い出せねえなんてよくあることじゃねえか」


「なら、アンタの知り合いにでも聞く。アンタが覚えてなくても、知り合いの一人ぐらいが覚えてる可能性はあんだろ」


 そんなこと言うのかよ。

 ああもう、なんで他の二人組はそんなもん証拠付きでスラスラ証明できるんだよ。俺たち以外どうして全員アリバイ準備できてるんだ。何か少しぐらい疚しい事情の一つや二つでもあれよ他の二人組はよ。


 リアンの後ろには酒家の若い衆が何人か控えてて、こっちに敵意を向けてやがるし。全員、リアンと同じように怒ってる顔だ。遺品を盗まれたことに対する怒りが、そのまま俺たちに向けられてる。

 おい! お前の前に立ってるのはバレク家長男だぞ! 言わねえけど! 


「十五日前の夜だぞ? 変なことしてた訳でもないなら、アンタの無実は晴らせるから堂々とすればいい」


「それは……そうだ……そうだが……」


「お前ら二人組で行動してるよな? 最近この辺りに来たって話だが……」


「……そんなヤツ、別に珍しくねえだろ」


 ああ、目の疑いが強くなってる。そりゃそうだろ、こんな答えするヤツ俺だって疑うさ。

 ネルも下手なこと言わねえように黙らせてるけど……そろそろ我慢の限界が近そうだ。

 かつては狂犬って呼ばれてただけはある。コイツは分かり切った答えを前に何も行動できないって状況を極端に嫌いやがるんだ。このままじゃ咄嗟に何を言い出すかも分からねえし──




「──兄。その日は王都で仕事だったじゃん」


 ……えっ? 


 えっ、兄? 仕事? 王都? っていうか、兄?

 えっ?




「兄? 兄妹なのか? というか、それならそうとすぐ言えば──」


「だから覚えてなかったんだって。兄はただでさえ私のために沢山働いてるんだし」


「……そうか。証明できる手段は?」


「王都まで行けばいいんじゃない? 確認が取れるのは最低でも数日後だろうけどさ」


 お、おお! お前、急に何を言い出すかと思えば……! 

 自分なりに考えて、アリバイ証明する方法を考えたのか! 


 確かに、前まで王都で働いてたって設定なら、最近こっちに来たばっかりって背景の理由付けにもなるし。確認を取ろうと思ったら数日かかるから、今すぐ確認して嘘と断罪ってこともできねえ。ネルからすれば、その数日でここを離れればいいって認識になってるから──一応、この場を乗り切ることはできる。

 まさか、ネルの機転で助かることになるとは……。


「そうか、時間取らせて悪かった。一応家の衆に確認させるが、とりあえず今はいい」


「ま、いいよ。兄を無実の罪で差し出すなんてゴメンだし」


「……そうか。兄貴と仲良いんだな。羨ましいよ」


「い、いや……別に仲良しってほどじゃないけど……」


 ……その、リアンは兄への執着を他所でも見せるのを止めてくれないか。罪悪感で死にそうになるから。今回の死因がお前になっちまう。

 あとネルは自分で言ったんだから照れるなよ。


「とにかく、怪しい奴見たら教えろよ。報酬は出すからよ」


「いいよ、報酬は弾んでね?」


「ああ。じゃあ、その……コイツの兄貴のアンタも。よろしく頼むから」


 ああでも、よかった。

 何とか誤魔化せたか。危なかった。あと一歩で気づかれるところだった。リアンの目は俺を疑ってた。完全に疑ってた。ただ、証拠がねえから決めつけられなかっただけだ。


「なあ、リアン」


「ん、何だ?」


 でも、このまま何も言わねえままなのも可哀想だし、せめて何か一言ぐらい……。


「……まあ、俺が何様って感じだが、元気出してくれ。アンタの兄貴はきっと帰ってくるし、愚痴でもなんでも聞いて、元気に三回『うるせえ』って返してくれるさ」


「……え? あ、ああ、うん」


「急に何言ってんの兄。……じゃあね、バレクの次男クン」


 ああ、じゃあな。俺は仕事に戻るから。

 いつか、お前のとこにも戻って来てやるから。お前の方も仕事頑張ってくれよ。




「──兄、貴?」


「えっ、いや、でも、そんなはずねえよな。兄貴は、本当は」


「………………疲れてんだな、俺」

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