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【完結】俺は死んだはずだよな?  作者: 破れ綴じ
7. 盗賊

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恐怖の人間関係と兄の面影

 リアンは感情を表に出しまくって問題に対する不満をぶちまけてる直情的な感じだ。実にアイツらしい。良いことではないんだが、なんだか懐かしさを感じてしまう。

 だが、マドリーは冷静かつ計算的に狂ってしまっていた。一見俺の死を受け止めて乗り越えてるようにも見えるが、あからさまに危なそうなヤツも積極的に利用して、犯人こと俺を徹底的に追い詰めてやろうとする意志をひしひしと感じさせる。

 元々の予想に反して──壊れてたのはリアンだけじゃなく、マドリーもってことだ。


「あー罪悪感……」


 それ以外にもルシア、タリエ、ベラが壊れてることも確認済みだ。

 確認はできちゃいないが、ソラナとカルとロエマもだいぶダメージ負ってるんじゃないかっていう嫌な予想がある。というか行方不明になってるソラナと、すぐそばで死んじまったロエマはほぼ確定な気がする。俺がいなくなって、無口で人見知りのカル君は一体どうしてるだろうか……。


 ノエリスは──そもそもよく分からねえ。アイツにそもそも罪悪感を感じるっていう機能があるのかどうか疑わしい。

 レミは………………大丈夫そうだな。アイツが人の死を気に病むってことはねえだろう。てか俺のこと殺したのアイツだし。そもそも俺がアイツのこと気にしてやる謂れねえし。


 まあ、何が言いたいかっていうと。

 もしかしたら俺は死に別れた人間に強い後悔を撃ちこむ天才なんじゃねえかってことだ。嫌な才能だなおい。


「ねえ、早くお宝の解読済ませようよ! 疲れてるんならアタシが代わりにやるって何回も言ってんじゃん!」


「いや、ネル。お前の兄貴は『もっと良いやり方があったんじゃないか』って後悔でちょっと立ち直れそうにないんだ」


「は? アンタはアシェル兄じゃないんだけど? 何言ってんの?」


「そうだった……」


 やっぱ疲れてんのかな俺。

 やること山ほどあるんだけどな。






 *






 ……とりあえず落ち着け。冷静になれ、俺。

 自分を憐れんでるぐらいなら次の行動する方が先だろ。


 ひとまず、あの二人が壊れてるのは問題ない──いや、問題大ありだが……今回の計画を実行する上では大した問題じゃない。要は俺への屈辱を晴らしてやりたいってのが二人の主な動機だ。後、犯人に復讐してやりたいっていうのが少し。そういやあの火災の犯人はどうなったんだろうか……じゃなくて。

 だから、犯人への怒りが目に見えて跳ね上がりやすい今の二人の精神状況は、計画においてはむしろ良い方向に進んでるともいえる。


 ただ、現状の問題は別だ。

 現時点で両家は協力するって素振りすら見せようとしねえ。今のままだと両家が手を取り合うどころか、お互いを事件の犯人として疑い出す可能性がある。


 早期にお互い同じ手口の犯行を受けたってことで同一犯の可能性に辿り着き、共通の敵を打ち倒すために協力する──これが本来のシナリオだった。

 ただ、それぞれを率いてる二人がお互いのことを嫌い合ってるから、無理に情報共有しようって話にどっちもならねえんだよな。だから、「遺品が盗まれたのはうちだけじゃない」っていう情報がそもそも入ってこない。おかげで余計に協力すべきだって事実に気づけなくなってる。


 いつになっても見つからねえからって理由で両家が手を組む可能性も考えたが……人手が足りねえって問題は、マドリーが「光明の教会」の幹部を洗脳か、あるいは脅したことで通用しなくなりそうなんだよな……。

 グロス家の屋敷を出てから教会の幹部は明らかに様子がおかしかった。薬を盛られたのはほぼ確定だとして……多分、恒久的に意識を支配するってのは無理だろうから、自白剤とかで弱みを引き出した後、それを使って脅し、犯人探しに利用するってのがマドリーの魂胆なんだろう。

 実際あれ以降、教会の連中がグロス家の言いなりになって情報収集に勤しんでるところを何回か見た。つまり、マドリーには自由に使える広い捜査網と人員が手に入ったことになる。ますますグロス家はバレク家と組む必要性が無くなっていく。


 今のところは大丈夫だが、最悪の展開はお互いが「うちの遺品を盗んだのはバレク家/グロス家なんじゃないか?」って疑い出すことだ。

 俺への執着が強い二人なら、隠し財産に関係なく俺の遺品を奪い合おうとする動機がある。両家は元々ライバル関係だったし、俺が死んでからはもっと関係が悪化してる。「共通の敵」を作るつもりだったのに、逆に「お互いが犯人」って誤解されたら本末転倒もいいとこだ。一度疑い始めたらどこで止まるかも見当がつかねえ。


「じゃあどうすべきだ……?」


 どうすれば二人が協力するようになる? どうすれば両家が「同じ敵に狙われている」って事実を認識するようになる? 

 このままじゃダメだ。このままじゃ二人は協力しねえまま時間が過ぎるだけ。二人が別々に動いてたら、俺の作戦は失敗だ。犯人は同一人物で、お互い同じ被害に遭っていて、犯人は悪意を持ってこれを行っていて──明確にそう伝わるようなヒントを与えて、両家の協力を確実なものにしておかなきゃいけねえ。


 一番簡単なのは「遺品が盗まれたのはバレク家/グロス家じゃないぞ」って噂を流すことだ。上手く行けば、両家がこれを同一犯によるものだとその場で理解してくれる。問題は何も確実性がねえことだな。噂話なんていくらでも捻じ曲がるもんだし、二人の耳に届くころにちょっとでも捻じ曲がってたら逆に両家の関係を壊しかねない。

 勿論、顔が割れてるんだから直接伝えに行くとかは意味がない。手紙で伝えるってのもダメだ。んなもん読んだところで、「誰が書いたんだ?」「なんでこんなことを知ってるんだ?」って疑われるだけだ。それに手紙なんて証拠にならねえ。誰でも書ける。時間の無駄だって思われるだけだな。

 第三者を使って教えるってのもダメだな。全く無関係の誰かが、わざわざそんなことを伝える理由がねえ。それに、ソイツが知ってるってことは犯人が情報を漏らしたってことになる。犯人が、わざわざ情報を漏らす理由がねえ。


 やっぱり物的証拠だな。

 でも警備が強化されてる以上、もう一回盗みに行くってのは悪手だし……。


「隠し財産の暗号解読はいつになったら終わるのさー」


「……待ってろ。もうすぐ何か分かるはずだから」


 ……リアンとマドリーがもっと早い段階で手を組み始めるもんだと思ってたから考えてなかったが、ネルにも「あくまで俺たちはお宝獲得まで順調に進んでますよ」って進捗を示さなきゃいけない。

 コイツは両家の確執とかにそもそも興味がねえ、端から関係ない立場だしな。で、お宝獲得に必要な遺品は既に全部揃ってるって認識してる、俺がそう教えたから。で、そんなお宝なんてものは──初めから存在しない。だからコイツにいくら頼まれても、解読方法なんて存在しないもんは教えられねえし、次の行動は起こせねえ。


 ネルが俺の嘘に気づくまでの時間稼ぎでも、俺の作戦成功をより強固にするためにも。

 とにかく何か良い案を考えなきゃいけねえんだが……どういうヒントがいいのか……。






 *






「ねえ、なんで遺品を燃やすの? 解読とか、使い終わった後でも同業に売り渡して金にするんでしょ?」


「考えてもみろ。消耗品には残さねえだろ。実際『コレ』に財宝の在処は記されてなかったし」


「え? どういうこと?」


 てことで。俺は消耗品とか、もう使えねえゴミとかに分類される遺品を燃やしに来た。

 これならあらゆる条件を満たすだろ。


 リアンもマドリーも盗まれた遺品が燃やされた状態で見つかったら、間違いなく犯人の仕業だって察するはずだ。しかも、二人とも俺のことが大事なのはお互い承知なんだから、そんな相手が遺品を燃やしたとは考えねえだろう。リアンが俺の服を嬉々として燃やしたりはしねえってマドリーは分かってるし、リアンもマドリーが俺の手記を紙屑扱いしてるなんて流石にあり得ねえって気づく。これでお互いが犯人の線から勝手に外れるってことだ。

 同じ場所で同じ時間に同じ処理方法で燃やされてたら犯人は同一人物だって察しが付くし、燃やされた遺品の中に「見覚えが無い」かつ「酒家アシェルのもの」が見つかったら、遺品が盗まれたのはうちだけじゃないって証明にもなる。そうなれば二人ともさらなる犯人の情報を求めて手を取り合うべきだって考え直してくれるかもしれない。

 ネルには「今からコイツらを燃やす、隠し財産の在処が無いかどうかは既に確認済みだ」って言っておけば、俺がちゃんと作業をしてたって主張を通せる。結果としてはお宝に何一つ近づいてねえってことだが、何も作業をしないでただ時間を稼いでたことの言い訳になるだろう。俺は真面目にやってるんだぜってポーズには十分だ。

 大事な遺品はいずれ返すつもりだが、ゴミ同然なら返したところで場所取るだけだしな。こういうのはどうせ遺品として長持ちしねえし、残してても関係ないヤツからしたら困るだけの代物だ。二人には悪いが、俺本人が俺自身の持ち物を判断してるんだから、勝手な処分も許してほしい。


「使ったら残らねえようなものにお宝の在処を書いてる訳がねえってことだ。万が一捨てでもして他の人間に見られてもマズいだろ」


「あっ。それもそっか」


「同業のヤツらも、そんな使い捨てに記録が残ってないってことは承知してるから金なんか出してこねえよ」


「なるほどね。だから証拠隠滅に燃やしちゃうと」


 嘘だけどな。実際に遺品の確認なんて一度もやってねえし、使い捨てだからって証拠が隠されてねえってのは早計だし、証拠隠滅って名目でわざと証拠を残すために燃やすんだからな。

 それでもすんなり納得してくれて助かるよ。素直ってのはいいことだぞ。


 布に包まれた遺品を広げて一つ一つ確認していく。

 燃やしてもよさそうなもの、ちゃんと証拠って分かるもの。


 これは……俺の部屋にあった紙切れだな。だいぶ昔の用事を書き留めただけの紙だ。明日の予定とか、酒造りに使う材料のリストとかが俺の字で書かれてる。リストなんて一回使ったら捨てるもんだし重要性はねえ。

 こっちはバレク家の作業場にあった俺用のボロ布だ。酒の樽を拭いたりする時に使ってたヤツでもう何度も使ってボロボロになってる。ボロ布なんていくらでも取り替えが効くし思い入れもねえだろ。

 次は、グロス家の書斎にあった手紙の下書きだな。何度も書き直した跡があって最終的にボツになったやつで紙がくしゃくしゃになってる。手紙っつってもマドリーがいない時用の書置きとかがほとんどだし。下書きなんて完成したら捨てるもんだし残しておく意味がねえ。

 これはうちの、割れた食器の破片だ。何かの皿かコップだったんだろうが割れちまってて使えねえ。実験中に酔った俺が叩きつけて割ったらしい。酔ってたから記憶はない。割れた陶器なんて誰も取っておかねえし捨てるだけだ。


 こういうのを選んで燃やす側に放り込んでいく。燃やした時に両家の遺品が混ざってるって分かるようにわざと分かりやすく。

 んで、さっさと火にくべちまって。良い感じに証拠の残った燃えカスになってから、広場でも何でも目立つところに置いておこう。


 にしても、なんでこんなもん残してるんだろうな。どれも俺の痕跡が残ってるが、それでもただの使い捨てだろうに。

 ……いや、今のは失言だな。わざわざ残してるんだから、二人とも俺の痕跡に何か思うとこがあったってことだろう。


「……燃やさないの?」


「……っ。あ、ああ、大丈夫だ。すぐやる」


 ああダメだ。なんで燃やすのが申し訳なくなってくるんだ、これは自分のもののはずなのに。俺が好きにしていいはずなのに。

 しっかりしろよ。俺は冷酷な元盗賊で、自分のことしか考えてなくて、責任を放棄して逃げ出そうとするヤツのはずだったのに。疲れてるせいか弱気なことばっかり考えちまってるような……。






 *






 ──ふう。

 この森もだいぶ見慣れてきたな。ほとんど自分の家みたいになっちまった。


 さっき焼き焦げた遺品を置いてきたし、作業もこれで一段落か。

 後は明日になって状況が動くかどうかで、次の行動考えるフェーズだな。もし別のヤツに片付けられたり持ってかれたりしても、予備の遺品でまたやり直すだけだし──また、待ちの時間か。


 ……ん、ああ。何やってるのかと思ったら、食べ物探してんのか、ネルは。

 今日は忙しくて何も準備できてなかったし、俺も手伝うか……。


「ねえ、この葉っぱって食べられるヤツだっけ?」

「ああ、食える」


「これは?」


「それはダメだ。棘が喉に刺さるぞ」


「へー。なんでそんなもん知ってんだろ」


「どうしてだろうな」


 まあ、昔。探検家の頃に、これ以上ウィスプに頼ってマズいもの掴まされる訳にはいかねえって色々探し回ってたからな。

 そんなこと繰り返してたら、変なもん拾って食べて、喉に棘が刺さって抜けなくなるなんてこともよくある話だ。あの時は死ぬかと思ったな。普通に「嫌な予感」がしてきて、自分でもよっぽど焦ってた。ウィスプ共は大喜びだったが。 


 にしても、これでリアンとマドリーは本当に協力関係になってくれるのか? 

 こんなに気を揉んで色々やってやったってのに、何の解決にもつながらないまま対立が深まったりなんかしたらもう俺は何も考えられなくなっちまうぞ。

 それに、協力することに同意したからってすぐに和解するわけじゃねえし。もっと時間がかかるかもしれねえよな。その間に俺が犯人として捕まって、進展がないままこの人生が終わったらと思うと……。


「あ、そうだアシェル兄」


「おお、なんだ……って、あれ」


「ん? どしたのアシェル兄」


 ……ん? あれ? 

 聞き間違いか? 今俺のこと──


「──! あっ違う! 今のは……じゃなくて!! アンタ!!」


「お、おお。びっくりした。でけえ声出すなよ」


 あー……驚いた。

 やっぱコイツさっき「アシェル兄」って言いやがったよな。言い間違いだったみたいだが。「バレたのか」ってなって心臓止まるかと思ったぞ。


「……間違いだよな? さっき言ったヤツ」


「何も言ってない! 何も言ってないから! 忘れて! 忘れろ!!」


 おお、顔真っ赤。とんでもない否定っぷりだな。

 でも、そこまで慌てる必要ねえだろ? ガルトン邸でレミに見つかったって訳でもねえだろうに。


「……アタシも分かんないから! 何で今そんなこと言おうとしたのか分かんないから! ただ、ちょっとアシェル兄と話してるみたいだなって──ああ、違う!!」


 叫ぶなって。

 響くだろ。


「と、とりあえず! 分かんないから聞かないで! 何も聞かないで!!」


「……り、了解」


「……何で、何で今……アタシ、アイツのこと嫌いなのに……何で、あんな呼び方……」


 あー、やっぱ相当嫌われてんな。

 そりゃそうか。俺は盗賊のアシェルとは別人だし、元のアシェルも嫌われてたんだから同じ名前で命令ばっかりしてくるアシェルなんてうざってえだけだよなあ。


 ……なんか、すげえ気まずい。

 どうすればいいんだ? 何か言った方がいいのか? でも何を言えばいい? 「気にすんな」とか言ったら余計に気まずくなりそうだし。


「あー……さっきの葉っぱ」


「……なに? トゲのヤツ?」


「そうそれ。……本当に刺さるか今から見せてやろうか?」


「……」


「……ど、どうだ?」


 ……おい。


 黙るなよ。

 気まずいだろ。

 似合わないこと言ってんのは分かってるけど。




「……何それ。逸らし方下手すぎ。あははっ」


「……悪かったな。慣れてねえんだよ。ほら、飯にするぞ」


 わ、笑った。笑ったな。

 こんなんでいい……のか

 落ち着いてきたみたいだが、それでもまだ顔が赤いような。


 ……まあ、忘れてやるか。

 言い間違いなんて誰にでもあるし、そんなに気にすることでもねえよ。

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

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