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【完結】俺は死んだはずだよな?  作者: 破れ綴じ
6. 写本師

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受付にいる姿と止まらない思考

 今日も客は来ない。

 全く来ないって訳じゃないが、大抵の日は空き時間だらけだ。考える時間が山ほどあるせいで、今なら客の対応も問題なく行えるぐらいには。

 まあ、それのおかげで俺は──受付に座って、過去の王都月報を読み漁り、「ナントカの教会」に繋がる情報が無いか調べる時間が確保できた。

 結局分かったのは、相当な数の信者がいて、教祖とか教団の幹部とかで構成されてて、不定期に集会を行ってて、怪しい儀式をやったりもする……それぐらいだが。


 あと最近は、前よりも少しだけ──本当に少しだけだが、カルが話しかけてくるようになった気がする。何でだか知らねえが、俺が喋るようになってからカルの態度が微妙に変わってきてる。前は完全に無視だったのに。


「──アシェル」


 とか考えてたらこんな風に。

 奥からカルが顔を出してきた、手には羽ペンを持ったまま。また何か用事か? 


「何だ?」


「この前、お前が……『暇だな』って、言ってたよな」


「ああ、言ったな。客来ねえし」


「……そうか」


 カルが妙に沈んだ顔をしてやがる。

 何だその反応。そんなに気にすることか? 客が来ねえのは事実だが、単価も高くて一つの仕事に時間もかかるし、儲けはちゃんと出てるんだからそういうもんなんだろ。別に悪口でも何でもねえだろ。


「どうした?」


「いや……店が暇だと、迷惑か?」


「……? 何言ってんだ?」


 迷惑? 何でそんな発想になる。

 むしろ暇な方が楽でいいぐらいなんだが。客対応ばっかりだと疲れるし、今みたいに王都月報読んだり、タリエとの約束のこと考えたりする時間もなくなっちまう。


「別に迷惑じゃねえぞ。むしろ楽でいいぐらいだ」


「……楽、か」


 正直に言った。カルは何か気にしてるみてえだが、俺にとっちゃ暇な方がありがたい。前の仕事──文官の時も執事長の時も、もっと忙しかったし、もっと気を遣わなきゃいけなかった。今の方がずっと楽だ。

 カルが少しだけ表情を緩めたような……安心したのか? よく分からん奴だな。無口で無愛想で、何考えてるか分かりにくい──ただ、最近は少しだけ表情が読めるようになってきた気がする。


 てか作業に戻らねえな。珍しい。普段はさっさと奥に引っ込むのに。


「じゃあ、アシェル」


「また何だよ」


「お前……この店で働いてて、つまらないか……?」


「つまらない? 何でそう思う」


「……客が少ないし、やることも少ない、だろ」


 ああ、そういうことか。

 カルは俺がこの店に不満を持ってるんじゃねえかって心配してんのか。無口で無愛想なくせに、意外と気にしいなんだな、こいつ。


「別につまらなくはねえぞ」


「……本当か?」


「ああ。むしろ前の仕事よりマシだ」


 いやもうそりゃ切実に。

 レミが時々見えるのが恐ろしくてたまらねえが、それを除けば今の生活は天国みてえなもんだ。受付に座ってるだけで給金もらえて、飯も食わせてもらえて、寝る場所もある。こんないい職場、そうそうねえ。暇だっつっても俺には情報収集っていう仕事が別にあるし。


「……そうか」


 カルが少しだけ安心した様子。

 本当に心配してたのか、コイツ。俺が辞めるんじゃねえかって思ってたのか? まあ、カルにとっちゃ俺が辞めたらまた一人で受付やらなきゃいけなくなるから、困るんだろうな。


「お前、俺が辞めるんじゃねえかって心配してたのか?」


「……まあ、少し」


「辞めねえよ。ここは居心地いいし」


「……居心地、いいか」


「ああ。カルも別に厳しくねえし、給金もちゃんともらえるし」


 カルが少しだけ表情を緩めた。多分喜んでるんだよな。分かりにくい奴だが、まあ悪い気はしてねえんだろう。


「お前が喋るようになって……俺も少し、変わった気がする」


「変わったって、何がだ?」


「……前は、誰かと話すのが嫌だった。客が来るのも、お前と話すのだって」


 ……正直今でも全然ダメだと思うけど。

 俺とはこうやって普通に話せてるが、客が来た途端すぐ引っ込んでるし、


「でも、最近は……少しだけ、マシになった、気がする」


「それ、俺のおかげか?」


「……そうだな。お前のせいだ」


「せいって何だよ!」


 何だコイツ。おかげじゃなくてせいかよ。

 せいって言い方はねえだろ。まるで俺が悪いみたいじゃねえか。


「じゃあ何だ。また無口で真面目で写本ができる『アシェルちゃん』に戻ってほしいって?」


「いや、それは別にいい。写本ができるのは、助かるが……俺には受付の方が無理だ」


「男のくせによお、お前は……」


 まあ、カルはそこまでガタイが良いわけでもねえし、普段からなんか腰が引けてる感じがするし。あんまり自信がないせいで人と対面する時どうしても緊張しちまうんだろうな。レミを前にしたときの俺と同じだ。

 仕事には情熱持って向き合ってるのにな。それを生かせばいいと思うんだが。


「それに、俺は、今のお前との会話も……結構楽しいと、思ってる……」


「──楽しい?」


「……ああ。お前と話すのは、少しだけ、楽しい」


 ……マジかよ。カルが、俺と話すのが楽しいって。

 コイツ、本当に変わってきてるな。このまま他の奴とも会話ができるようになれば俺無しでもやっていけるようになるんじゃねえか? 






 *






「そういえば……近所で馬車事故があった……らしい」


「……馬車事故?」


 何だ急に。事故の話か? 


「ああ。新しく入ってきた、王都月報に載ってて」


 新しく入って来た……てことは、最新版の王都月報か。今、それを写本中だから中身のことを知ってると。

 事故なんざ、別に珍しくもなさそうだが……よくそんなものまで載せてるな。


「怪我人が、何人か出たらしい。死者も一人」


「……へえ」


 ……死者、か。

 死って単語で久しぶりに思い出したが、事故ってことは扱いは「事故死」になるよな。


 前にも考えたことがある。成り代わりが起こる条件──それは、死因が関係してるんじゃねえかって。

 盗賊の時は処刑で死んだ。兵士の時は出血死。文官の時は毒死。酒家の時は多分焼死。探検家の時は餓死。執事長の時は溺死。まあ奇跡的にも、全部死因が違う。

 他にも色々条件はあるのかもしれねえし、そもそも無いのかもしれねえが──それぞれ違う死因で死ぬことが、成り代わりの条件なんじゃねえかってのを探検家のときに思いついてた気がする。

 もしかしたら因果が逆で、そもそも初めから別の死に方で死ぬように俺に運命づけられてるのかもしれねえが。


 で、それが正しいとして。

 もしかすると次は──事故死か? 


 もし俺の死に方が成り代わりの条件に関係してるなら、事故死ってのは条件達成のために必要な死に方なのかもしれない。逆にもし俺の死に方が初めから決まってるのなら、次の死は事故死に結構近い内容になるのかもしれない。これまでに事故死したことは一度も無かったはずだし。

 今の人生でもし死ぬってなったら事故死を選ぶべきなのか……? そうすれば一応の条件はこれまで通り満たせるし、次の成り代わりのときの保証にも──


 ──いやいや、何考えてるんだ、俺は。自分が死ぬときの状況を選んでるなんて、正気じゃねえぞ。

 事故で死ぬってことは、俺が事故に巻き込まれるってことだろ? ならわざわざ馬車に飛び込めってことじゃねえか。現状何も問題がないのに、死ぬときは馬車に突っ込んで死のうって考えるだなんて、普通の思考じゃねえ。


 じゃあ、事故を避けるべきか? 

 いや、そうだ。普通は避けるべきだ。それが当たり前なんだ。ただ、俺が生きるの下手なせいか、今回もそう長くないうちに死んじまうんじゃねえかって思って、ついこういうことを考えちまう。

 ──そう、「事故を避けた結果、今回の死に方が処刑・出血死・毒死・焼死・餓死・溺死のどれかになっちまったら?」「条件を違反したって理由で次の成り代わりが発生しなくなっちまったら?」みたいなことを、どうしても考えちまう。


 ……どっちが正解なんだ? 

 俺は、事故で死ぬべきなのか? それとも、事故を避けるべきなのか? 


 これまでと同じ死因で死ぬのは避けるべきだ。

 だからといって、自分から死にに行くのはちょっと話が違う。

 そもそも事故死ってのは別の死因として考えてもらえるのか? 事故に遭って、大怪我をして血が足りなくなって死んだらそれは出血死じゃないのか? 

 でも、今にも死にそうって時に事故のタイミングを逃して、これまでと同じ死因で死ぬことになったら……。


 ──ああ畜生、これじゃ堂々巡りだ。

 考えれば考えるほど、鬱屈とした気持ちになってくる。自分の死を計画してる自分が、気持ち悪い。死ぬべきなのか、避けるべきなのか、そんなこと考えてる自分が。

 俺は一体、何なんだ。何のために生きてるんだ。何のために死に続けてるんだ。成り代わりが終わる条件が分かれば、全部終わるのか? それとも、終わらないのか? もし終わるとして──俺は、どうなるんだ? 本当に死ぬのか? それとも、元の体に戻るのか? それとも、このまま『アシェル』として生き続けるのか? 

 死なないように気を付けて、でも死ぬべき時が来たら死んで……何だそれ、そんなの矛盾してるじゃねえか。

 分からねえ。何も分からねえ。


 ──一旦、考えるのをやめよう。このままじゃ頭がおかしくなっちまう。今は、一旦別の事を考えるんだ。

 例えば、「何でカルはわざわざそんな話を俺にするんだ?」……とか。


「──だから。これから、買い物に行く時は、気を付けろ。……それだけだ」


「……ん? ああ」


 そう言ったカルは買い物袋とリストが書かれた紙を手渡してきて……。

 ──ああ、なんだ。これから買い物に行ってほしいが、そういう危ない話を聞いたから、俺には気をつけろって言いたかったのか。


「分かったよ。気を付ける」


 変な思考が薄れていく。カルの気遣いというか、優しさが染みるようだぜ。まあ自分で行けばいいのにって思わなくもないが。


「──じゃあ、行ってくる」


「ああ」


 ──そうだよな。

 つい変な思考回路になってたが、俺が今すぐ死ぬような目に遭う訳がない。誰からの恨みも買ってないはずだし、追われる立場って訳でもないし。

 平和な場所にいて、その温度差でおかしくなってたんだ。変に空回りしてあんなこと考え出すより、今日やるべき仕事を片付ける方が先だよな。

 小難しいこと考えるのはその後でいいだろ。






 *






「なあおっちゃん、アシェルって男知らねえか?」


「何言ってんだい。アシェルちゃんは女の子じゃねえか」


 買い物の途中、前にやってたみたいにまた「次のアシェル」をしてみようと思って、立ち寄った店でひたすらこういうことを聞いて回ってた。

 アシェル探しをするのは別に変なことじゃないはずだ。自分が死ぬことを考えてるんじゃなくて、もし次があった時に有利にことを進められるようただ予習してるだけだからな。


 今はいつもの市場で野菜売りのおっちゃん相手。で、返ってきた答えがこれ。


「いや、そうじゃなくて。別のアシェルって男がいないかって話なんだが……」


 ──あれ、待てよ。

 今のアシェルは女じゃねえか。無理に男に限定する必要も無いのか? この前探してて見つからなかったのも、アシェルって名前の女だったからってことなのかも──


「じゃあおっちゃん。男じゃなくてもいい、アシェルって名前の奴を知らねえか?」


「今目の前にいるよ」


「知らねえってことだな。ありがとうよ」


 まあ、そんな簡単にはやっぱり見つからねえか。

 言ってもこれは絶対しなきゃいけないことって訳じゃないし、あくまで買い物のついでなんだから、今から戻って「アシェルって名前の奴知らないか? 男じゃなくてもいい」って全員に聞き直すのも違う気がするし。


 まあ、結果は前回と同じってことだな。

 どこ探しても「次のアシェル」は見つからない。本当にどこにもいないのか、それとも俺が探し方を間違えてるだけなのかは分からねえが。


 前の時も、あちこち聞いて回ったが、誰も知らなかった。「アシェル」って名前の男は知らねえって全員が答えやがった。

 今回も同じだ。ここまで聞いてきた全員は知らなかった。この後他の奴に聞いたとしても、多分同じ答えが返ってくるんだろう。


 なんでだ? なんでこうも「次のアシェル」が見つからないんだ? 

 成り代わりが起きるってことは、「次のアシェル」が存在してるってことだろ? 俺が死んだら、その「アシェル」に成り代わるんだろ? もうこの近くの人間として成り代わることは無いってことか? 


「それとも、俺が気づいてないだけで、実はもうどこかにいるのか……?」


 ……ん? 待てよ? 

 もしかしたら本当に「いない」って可能性はねえか? 


 買い物袋を抱えながら、街を歩く。人が行き交って、馬車が通って、店が並んでる。いつもと変わらない景色だが、頭の中はぐるぐる回ってる。「次のアシェル」が、本当にいないって可能性。

 俺が執事長だった頃、レミはカルの店について「若い男性が一人で切り盛りしている」って言ってた。でも、実際は違う。カルは俺を雇ってる。それも2~3年前からだ。

 これは明確に矛盾してる。レミが知ってる情報と、実際の状況が違う。

 だからつまり、こういう仮説があり得るんじゃねえか。


 レミが情報を得た時点では、カルは本当に一人だった。そして、俺が成り代わった後、状況が変わった。

 カルは「2~3年前から雇ってる」って言ってた。俺が成り代わった──つまり執事長として生きていて、明確にカルが一人だと確認できてたのはつい最近……一か月ぐらいの話だ。時間的に考えるとどう見てもおかしい。


 だから、もしかして。

 成り代わりが発生した瞬間に、「次のアシェル」が出現するんじゃねえか? それで、周囲の記憶が書き換わるんじゃねえか? 

 だから、カルは「2~3年前から雇ってる」って認識になってる。アシェルが出現したのはつい最近なのに、カルの記憶では2~3年前から俺がいたことになってる。

 だから、レミは「一人で切り盛りしている」っていう情報を持ってた。レミが情報を得た時点では、まだ俺は成り代わってなかったから、カルは本当に一人だった。でも、その後次のアシェルが生成されて、カルの記憶が書き換わった。

 だから、「次のアシェル」を探しても見つからない。何故なら、「次のアシェル」はまだ存在してないから。俺が死んだ瞬間に、突然出現するから。そして、周囲の記憶が書き換わって、「最初からそこにいた」ことになるから。

 ……そういうことか? 


「……いやいや、そんなのあり得ねえだろ。脈絡が無さすぎるぞ」


 ああダメだ。さっき気にしすぎないように、考えすぎないようにって決めてたのに結局変なこと考え出しちまってる。

 これもあの成り代わりのシステムがよく分からねえことが原因なんだが……考えたところで俺にどうにかできる訳もねえのに。


 そもそも「次のアシェル」が出現するって何だよ。どうして何もないところから新しく人間が出来上がるんだ。新しく出来上がるなら、どこから原料が準備されてどういう理屈で作り上げられるんだ。で、どうやって関連する人間全員の記憶を入れ替えられるんだ。自分で考えてておかしいって思わなかったのか、俺は。きっと他の理屈なんだろ。

 そんなのあり得ねえこと起こる訳ないのに。何の仕事もしてねえのに意外と疲れてんのか、俺……? 






 *






「いや、よく考えたら今の俺の状況の方がよっぽどあり得ねえじゃねえか」


 成り代わりなんて摩訶不思議一大イベントの真っただ中にいること忘れてたよ。

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

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