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【完結】俺は死んだはずだよな?  作者: 破れ綴じ
6. 写本師

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調査の動向と喋り方の秘密

 仕事の休憩時間に──つってもあの受付は基本暇だが、タリエに呼び出されて、現状の把握とかのために近くの飲食店で話し合いをすることになった。

 なったんだが……


「──ですから、ベラ元吏長が一番怪しいと僕は考えているんです」


「そ、そうか。そうなのか……」


 ……ええ? 


 全然違うぞ? 何言ってんだコイツ……。

 ベラを疑うタリエの目は至って真剣だ。「まさか元上司が犯人だなんてあり得ない」って感情と「でもどう考えても一番怪しい」って感情と「事実なら例え元上司であれど容赦はしない」っていう熱い感情がそれぞれ滲み出てる。方向性がずれまくってるぞタリエ、って言いたいんだが……。


「アシェル先輩が亡くなった現場は、ベラ元吏長の自宅でした」


「いや、まあ、それは、うん……」


「そして、確認された遺体はアシェル先輩のみ。これは偶然でしょうか?」


 偶然なんだよなあ。


 タリエが俺の顔を見てくる。答えを求めてるんじゃねえ、同意を求めてる顔。

 そりゃそうだよな、状況だけ見れば怪しいに決まってる。現場がベラの家で、ベラだけが生き延びた。それだけ聞けば誰だって疑うだろう。タリエの推理は筋が通ってる。

 でもなあ、偶然クビにされたベラが俺を見つけて、偶然借りがあったから酒に誘う口実ができて、偶然ベラが上層部に命を狙われてて、偶然俺がその毒を飲み過ぎて、偶然ベラだけは助けが間に合った。事実はこうだ。


 だから完全に偶然なんだよなあ……。

 生憎それを指摘できるのは俺に文官アシェルの知識があるからであって、俺≠文官アシェルって認識のタリエには説明しても意味が無いってのが厄介なんだが……。


「僕たちには過度な飲みすぎによる中毒症状が死因と職場で知らされましたが……先輩の酒の強さは僕が知っています。そんなことはあり得ません。実際に毒物は見つかった訳ですから」


「まあ、確かに……」


 そうだよな。お前とソラナをしょっちゅう飯に連れてったもんな俺。かなり飲んでたもんな俺。

 結局事態の隠蔽のためにベラの命を狙った上層部は俺の死を本来のシナリオ通り、「飲み過ぎによる死亡」って形で片付けようとしたんだろう。でもそれがタリエにとっては上を疑う要因になっちまったと。酒好きでよかったなんてあり得るんだな。


「事実、ベラ元吏長はその後行方不明になり、連絡も取れなくなったために政院でも事実上の解雇という形で通知されていました。病院にもいなかったため、自分も毒を飲んだという線は薄いでしょう」


「そりゃ怪しいかあ……」


 無実なんだけどなあ。怪しいけども。


 ベラは確かに病院に行ってるが、追手を恐れて早急に逃げ出してるんだよ。行方不明なのはマドリーことグロス家で療養中だったからだし。そもそも解雇になったのは行方不明になったからじゃなくて、その前からだ。

 まあでも早々に逃げ出したベラと違って、残ってるはずのベラの記録とかは件の上層部にもみ消されてるだろうからな。タリエがいくら調べたところで「ベラは病院に来ていない」って結果しか見つからねえってことか。


 だから、傍から見ると俺に毒を盛ってそのまま逃げたように見えると。

 ベラも不憫だな。完全な被害者にもかかわらず、自分の身を守るため決死の覚悟で逃げの手を打って出たのに、おかげで今は元部下から真犯人としての容疑をかけられてる……いやちょっと不憫すぎるな。

 だけど、これを指摘できるのも俺に酒家アシェルの知識があるからであって、当然そんなもの信じられないタリエに話しても意味がない。


「以上から、毒を盛ったのは、ベラ元吏長である可能性が高い──」


「そっかあ……俺は違うと思うけどなあ……」


 違うぞー。完全に違うぞー。

 ベラの名誉のためにも、タリエの努力の方向性を正すためにも、あんな毒を仕込みやがった上層部への恨みのためにも。決してタリエの推理を肯定する気はない。ただ、声を上げて否定することができないのも事実。

 話を聞いて、「確かに、そうに違いない!」とも「いや、それはあり得ない」とも胸を張って言えず、曖昧な返事で相槌を打って場を濁すことしかできねえのが歯がゆいが。


「勿論。他の人間も調査しています。ただ、一番の容疑者が彼女というだけです」


「そう、か……」


「はい。どちらにせよ、もし犯人でなくとも聞きたいことは山ほどあるので。決して逃がす気はありませんが」


「なるほどなあ……」


 ……まあ、ベラは王都からずっと離れた場所にいるし、タリエに見つかる心配はいらねえ、よな? 

 そこだけは安心だ……。






 *






「──わりい。そろそろ休憩時間終わりだ」


「そうですか。今日はありがとうございました。建設的な話ができて」


「いいって」


 建設的……か。

 俺にとっちゃ全然建設的じゃなかったけどな。むしろ破壊的だ。ベラが疑われてて、タリエは本気で復讐しようとしてて、俺は何も言えねえ。これのどこが建設的なんだ。


 ……あっ、そうだ。

 タリエに聞きたいことがあったんだった。


「──なあ、タリエ」


「はい、何ですか?」


 席を立ちかけたタリエが振り返る。


「その、親父……じゃなくて、叔父さんに聞いたんだが──その、ソラナって人は今、どうしてるんだ……?」


 前に王都月報を読んだ時から気になってた、名前ははっきり覚えてねえが「ナントカの教会」とやらにソラナが巻き込まれてるんじゃねえかって。

 俺が死ぬ前の記憶じゃ、ソラナと一緒にいたのはタリエだ。職場で俺の死因を聞かされたって言ってたから、逆に言えば出勤するまで俺の死を知らなかったのはタリエもソラナも一緒のはず。

 なら、ソラナがどうなったのか。「本当にクビになったのか」とか。「今どうしてるのか」とかをタリエは知ってる可能性がある。


 そんな俺の淡い期待とは裏腹に、席に座り直したタリエの顔色は暗く、空気が重くなった。


「ソラナさんは、その………………仕事を辞めました」


「辞め、た……」


「ええ。アシェル先輩が亡くなってから、数日後のことです」


 ……まあ、でも──やっぱりか。

 俺が死んだのが原因で、ソラナは文官を辞めた。タリエと同じで、ソラナも俺の死にショックを受けたんだろう。


 なんだろう、この。想定してた通りだったが……。

 俺が意図してやった訳じゃねえのに、結果他の人に良くない影響が出てるの……ちょっと罪悪感が……。


「先輩が亡くなった後、ソラナさんの様子が明らかにおかしくなったんです。仕事中もぼんやりしていて、話しかけても上の空で。元々活発な方ではなかったんですが、どんどん痩せて、顔色も悪くて……」


 ……結構重症じゃねえか。


「──それで、今は行方不明です」


「……!」


「文官を辞めてから、誰とも連絡が取れなくなりました。家には戻っていなくて、知り合いも行方を知らないと。どこにいるのか、生きているのかさえ……」


 まずいな……。

 ソラナは思ってたよりずっと危険な状況だぞ……。

 本当にあの「ナントカの教会」の一員になってるかもしれねえし、自棄になって何かやらかして牢屋にいるかもしれねえし、なんなら誰にも気づかれないような場所で一人死んでるかもしれねえ。

 ただ、タリエがこれ以上分からないって言ってる以上、俺が情報を探れる道が無くなっちまった。


「……すまねえ、変なこと聞いちまって」


「いえ、こちらこそ。もしアシェルさんも、ソラナさんを見つけたら……」


「ああ……」


 タリエが言葉を切る。

 何を言おうとしてるのか、なんとなく分かる。教えてほしい、連絡してほしい、そういうことだろうな。

 ああ、クソ。ダメだ、変な空気になっちまった。

 責任を取るべきは俺で、タリエが気に病むことじゃねえのに。せめてコイツが鬱屈な気分で仕事することにならないよう、帰る前に話題を変えてやろう。


「なあ、話は変わるんだが──その、アシェルさんって呼び方、なんか変じゃねえか?」


「?」


「いやだって、その……叔父さんと名前が被るし。ややこしいだろ?」


 タリエも多分心の中では、「アシェル先輩(文官)の話をアシェルさん(写本屋)にしている。しかし二人は別人である」みたいなこと考えてるだろうし、面倒だろ。

 まあ二人のアシェルは別人でありながら、同じ人間なんだが。相変わらず自分で言っててどういうことか分からねえな。


「確かに……そうですね。じゃあ、何と呼べば……」


「適当にあだ名でいいぞ。好きに呼んでくれ」


「あだ名、ですか……何かいいのあります?」


 タリエが困ったような顔をする。

 あだ名とか、考えたことねえんだろうな。真面目だから。

 何がいいかって言われても、俺も困るんだが。

 ああまあ、もう、いつものでいいか。


「じゃあ、シェラでいいぞ」






 *






 相変わらず客は来ねえ、静かだ。カルは奥で作業してるが、音もほとんど聞こえねえ。羽ペンが紙を撫でる音だけだ。

 ──俺もこの受付嬢姿がサマになってきたな。


 自分が女の体って自覚はまだ薄いが、タリエとかからすればもう俺がこの受付で暇そうにしてるのがいつものことになってるんだろう。

 難しい仕事とかをする必要も無い。そういうのはカルが全部やってるし、むしろ仕事を忘れちまった俺をカルは作業場に近づけたがらない。おかげで俺は本当にただここで寛いでるだけ。一応受付のやり方も自分なりに頭ん中で色々考えたから、今更あたふたテンパることもない。

 住む場所と食べるものはちゃんと準備されてるし、少なくはあるが一応給金もあって、しかも休憩時間や休息日が存在する。今までの待遇を考えたら今が一番かもしれない。

 もし今後余生を過ごすってなりゃ、俺は間違いなく七回目の人生を選ぶだろう。つくづく体が女になってることが惜しい。……いやでも女じゃないと看板娘はできねえのか。成り代わりのシステムも良い感じにバランスとってんだな、畜生め。


「……ソラナ」


 ──いけねえ、気い抜けばすぐソラナのこと考えちまう。

 行方不明、か。どこにいるんだ。生きてるのか。あの「ナントカの教会」に捕まってるのか。それとも、別の場所にいるのか。少なくとももう無職になったのは確定してる。

 確かめたい。でも、どうやって? タリエですら見つけられてねえんだから、情報を得る手段の無い俺にはマジでやりようがねえ。


 ……あの王都月報を読み漁れば、多少の情報は見つかるか? 

 せめてそれぐらいはしねえとな。そうと決まれば、時間も物もあるんだし、暇なときは過去の分も含めて王都月報を読み漁って──


「──なあ、お前」


「ん?」


 なんだ、カルか。気づいたらすぐそばに来てやがった。

 珍しいな。カルから話しかけてくるなんて。何だ、何か用か? 


「なんか、変わったな」


「……は?」


 は? 変わった? 

 ん? 


「……い、今更かよ!? 遅すぎるだろ!?」


 何だコイツ!? 

 急に前髪切って、性別とか聞いてきて、口調が変わって、仕事の内容忘れてて、それでも何も言わなかったのに。今になって「変わった」だ!? 

 それは基本成り代わり初日で指摘するヤツだろ!? 何も言われなかったから変だと思ってたのに!? 


「……いや、前から気づいてた」


「じゃあ言えよ!」


「別に、いいか……って」


「ええ……?」


 別にって、お前……。

 無関心すぎるだろ。気づいてたなら、もっと早く言えよ。

 店員が急に別人みたいになったのに、「別に」で済ませるのか。カルらしいっちゃらしいが……。

 俺やっぱお前がよく分かんねえよ。


「でも、最近は……急に、喋るようになった」


「え? ああ、うん」


 それは、まあそうだ。

 元のアシェルは例に漏れず真面目で静かだったんだろうが、俺は違う。敬語なんてかたっ苦しいもん使えねえし、喋るときは普通に喋るし、態度だって違う。カルにとっちゃ、急に店員が饒舌になったように見えるだろうな。


「だからなんだよ?」


「いや。俺は静かな方が、いいから。困る」


「こ、困るだあ……?」


 な、何で困るんだ? 喋る店員が困るのか? それとも、静かだった奴が急に喋り出したのが困るのか? マジで言ってんのか? 静かな方がいいって、つまり俺に喋るなって? それとも、元のアシェルみたいに静かにしてろってことか? 

 いやまあ、無口で無関心なカルにとっちゃ、喋る店員より静かな店員の方がいいのか。会話しなくて済むし、気を遣わなくて済むし。

 いやでもお前、それ店を経営する人間が言っていい言葉じゃねえだろ。


「──元々……」


 ん? 


「俺は親父と、二人掛かりだった。俺は、この仕事が好きだし、誇りもある。だから雇う必要は無いと、そう思ってた」


 おお、急に喋るじゃねえか。 

 親父か……カルに親父がいたのか。いや、いて当たり前だが。でも、「二人掛かり」って過去形で言ってるってことは……。


「ただ、親父は三年前に死んだ」


 ……! 

 急に何を言い出すんだと思ったが。


 カルの口調がいつもより少しだけ重い気がする。一応感情があるんだな、コイツにも。

 俺は親の顔なんてもん覚えてねえし、親を亡くす悲しみってのは分からねえが……。


「それで、店を継いだ、ただ、一人だとどうしてもできないことがあるし、それで人を雇うことにした」


 ああ、そういうことか。

 カルは人と喋るのが苦手だから、受付ができねえ。親父が生きてた頃は、親父が受付をやってたのか。でも、親父が死んで、一人になって、受付ができなくなった。だから、誰かを雇う必要があった。


「それで……真面目で、口を挟まない奴を探して、お前を雇った」


 なるほど、納得だ。ロエマの時も、レミの時も、カルはしどろもどろだった。あれじゃ受付なんて無理だ。客が来るたびにあんな感じじゃ、店が成り立たねえ。

 だから、受付をやってくれる店員が必要だった。それが元のアシェルだったってことだな。真面目で、自分の私情を持ち込んだりしないで、へえそういうこと。


 コイツなりに色々考えて、なんとか親から受け継いだ仕事を続けていこうって努力してたんだな。

 なんだよ、ちょっと良い奴じゃねえか。見直したぞ──


 ……ん? 

 そういやなんでこんな話になったんだっけ? 


「だから、お前が急に喋るようになって、俺は困ってる」


「──あっ」


「お前、なんで変わったんだ」


 やべ……。


 そうじゃねえか、元々はどうして俺が急に変わったのかって話だった。

 今カルが普通に喋れてるのは、元のアシェルとの共同生活で徐々に、俺限定で会話に慣れてきてたってことなんだ。なのに、今俺が急にべらべら喋るようになったから、今まで無関心貫いてきたけど流石に気になって問い詰めようとしてる──それが今の状況じゃねえか。


 いやだが、どうやって誤魔化す? 

 正直に言えるわけがねえ。「成り代わった」なんて言えるわけがねえぞ。言ってもどうせ信じねえだろうし……。


「あ、いや、その……」


「……アシェル」


「……待て、待てよカル。その、だな」


「その、なんだ」


 ……ク、クソ! 

 いつもは黙ってるのがカルの方なのに、今は俺が追い詰められてやがる! 

 これ、どう答えるのが正解だ? カルのことだから変な真似はしねえだろうが、役に立たない店員だと思われれば、ここを追い出されるかもしれねえぞ……!? 

 それだけは困る。今の俺はかなり安定した立場を保ててるし、この環境をみすみす手放したくはない! 


 だから、俺は、何を言えば──


「……その、ちょっとだけ考える時間もらっていいか」


「いいぞ」







 *






「……あっそうだ! 俺、お前の会話の練習相手になろうと思って!」


「……練習、相手?」


「ほ、ほら! お前人と喋るの苦手だろ? ただ、俺とは喋れるんだから練習相手に……」


「……ははは。なんだそれ」


 !?


 わ、笑った!? 

 カルが笑った!? 


 初めて見たぞ。ちょっとだけだったが、今確かに笑ったよな! 見たぞ俺! 

 あれ? じゃあ結構好感触ってことなんじゃ──




「──いや、いい。結構だ」


「引っ張っといてなんだてめえその答え!!」

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

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