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【完結】俺は死んだはずだよな?  作者: 破れ綴じ
6. 写本師

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48/111

再来する知り合いと王都の動向

また投稿時間間違えてる……(´・ω・`)

「あ……あ……?」


 心の中で絶叫してるが、声は出ねえ。ってか出せねえ。喉が引きつって、息が詰まってきた。カウンターの下で勝手に指が震えてやがる。

 レミだ。目の前にいる。レミがいる。あのレミが、ここに、目の前に立ってる。


「最近、こちらに引っ越してきました。今後ともよろしくお願い致します」


 服装はメイド服じゃねえが、それ以外は何もかもが、あの時のままだ。執事長だった頃、毎日のように見てたレミと、何一つ変わってねえ。

 ──いや、違う。かすかに貼り付けたみてえな笑みを浮かべてやがる。「人当たりの良さそうな」笑みを……。


「レミちゃん、こちらがさっき言ってたアシェルちゃんよ~」


 ロエマの声が聞こえるけど、頭に入ってこねえ。耳が遠いっていうか、心臓がうるさすぎるっていうか。

 動けねえ。体が、動かねえ。足が震えてる。膝がガクガクして、立ってるのがやっとだ。


「……アシェルちゃん? 大丈夫~? 顔色悪いわよ~?」


「あ……だ、大丈夫……です……」


 ロエマが、心配そうにこっちを見てる。それでやっと声が出た。震えてるし掠れてるが、何とか出た。

 いやいや、それどころじゃない。問題は、レミだ。レミが、ここにいることだ。


「でね、レミちゃん。ここが写本工房よ~」


「ええ。とても静かで、落ち着いた場所ですね」


「でしょう? この辺りは本当にいいところなのよ~」


 ロエマもそんなに和やかに会話してんじゃねえよ……! 目の前にいるのは、人の首ぐらい指一本でへし折れるかもしれねえ化け物だってのに……! 

 ──いや、レミならできる。あのとにかく何でもこなす女なら、本性を知らない人間の前で、あくまで普通の女として振舞うのなんて朝飯前だ。建物の大家をやってるロエマにとっちゃ、レミは自分の物件を借りてくれる最適な相手、しかもめちゃくちゃ金を持ってるときてるんだ、そりゃ嬉しい悲鳴だろう。おかげで俺は今にも悲鳴を上げそうだぞ。


 ていうか、なんでこの女ここにいるんだ。なんで、よりにもよって、この店の近くに引っ越してきやがったんだ。

 やっぱりあれか、もう『最後の仕事』は終わらせてきたのか? 冗談だろ? まだ執事長の俺がお前に殺されたのは数日前だぞ? 移動時間だって考慮しないといけねえのに、コイツはやっぱり異常すぎるぞ……!? 


 会話の節々で、レミの視線が時々こっちに向く。

 止めてくれ。否応にも体が反応しちまうだろ。こっちは目合わせないようにそっぽ向くのに忙しいんだ。頼むから、こっち向かないでくれよ……。


「この辺りは静かで良いですね」


「ええ~、王都の中心部とは違って、落ち着いてるのよ~」


「こうした工房も近くにあるのも便利ですし」


「そうなのよ~。カルくんの仕事は丁寧だから~」


 会話が続く。終わらねえ。

 なんでこんなに話すんだよ……! 誰か、客は来ねえのか! なんで来ねえんだ、こんな時に限って! 

 早く、早く終わってくれ……! 


 止めろ、見るな、こっち見るな。お前の視線が冷たくて怖い。あの時の、水槽の中から見上げた、あの目を思い出してとにかく怖い。

 早く帰ってくれ。これ以上、ここにいないでくれ。体調に問題は無いはずなのに嫌な汗が流れて止まらないんだよ。俺の心の中で、何かが削られていく。耐久値みたいなもんがどんどん下がっていくのが自分でもわかる。

 頼むから──


「ところで、レミちゃんは何のお仕事を~?」


「以前は、とある屋敷で働いておりました」


「あら、そうなの~?」


「ええ。でも、色々ありまして──」


 ──あ、ああ! 長話になってる! 

 遠慮しろよ! 人の店の中だぞ! 






 *






「じゃあ私は先に戻ってるから、じゃあね~」


 ロエマが扉を開けた。

 ……やっと、終わった。あの長いご近所付き合いの会話が。それで、やっと一人減った。ああ……助かった……。


「……」


 ──おい待て。

 なんでてめえは帰らねえんだ。こっち見るなって。もう用は済んだろ、顔合わせだけのはずだろ。終わったんだから出ていってくれねえか。なんで出ていかねえんだ──怖い怖い怖い! 

 ロ、ロエマさん! 帰らないで、戻って来てくれ! 俺とコイツを二人きりにするのは止めてくれよ! なあ──


「改めまして、アシェルさん」


「ひっ!!」


「ひ?」


「あ、ああ。いや……なんでも……」


 レミが、こっちに向き直る。

 距離が近い、近すぎるぞ。カウンター越しとはいえ、手を伸ばせば届く距離──つまり、コイツがその気になれば一秒で俺を殺せる距離……。


「レミ、と申します」


「あ……ああ……よろしく……おねがい、します……」


 声が震える。喉が引きつる。さっきの二人の会話を聞いてた時なんて目じゃない緊張感。視界が勝手に狭まってく気がする。


「つい最近、臨時収入が入りまして。こちらに引っ越してきました」


「そ、それは……よかった、です、ね……」


 臨時収入なんて、それっぽい言い方しやがって。お前が握ってるのは労働の対価として上から貰った金じゃなくて、上の人間をぶち殺して無理やり奪っていった金だろうが。内訳はどうなってる? ガルトンがどれぐらいでヴェミーニがどれぐらいだ? それだけありゃもっと良いとこ住めるだろうよ。なのに、なんで。


「何分か弱い女性なものですから、同性の知り合いができることに安心していて……」


「そ、そうなんですか……は、ははは……」


 か……か弱い……? お前が……? ついていい冗談にも限度ってものがあるだろ。

 あの、俺を水槽に沈めた女が? 荒れ狂う債務者を三秒足らずでぶちのめす女が? 睨むだけで相手の意識を吹っ飛ばしちまう女が? か弱い? 笑えねえぞ……。


 何とか、声を絞り出して、ひきつった笑顔で、何とか対応するが。顔の筋肉が思うように動いてる気がしねえ。

 柔らかく微笑む目の前のレミは、まるで本当に喜んでるみたいで──嘘だ、嘘に決まってる。この女が、そんな風に喜ぶわけがねえ。


「そういえば……お名前を、アシェルさんというのでしたね」


「は、はい……そうです、が……」


 そうだな、お前が殺した男の名前だな。

 その口ぶりだと覚えてそうだな。俺は忘れてねえぞ、忘れてえのに。


「実は私、同じ名前の友人がいたんです。彼はもう亡くなったのですが……ふとそれを思い出して、懐かしくなってしまいました」


「へ、へえ……そ、そうなん、ですか……」


 ──友人!? 友人!!? 

 びっくりしたぞ! 嘘吐きも大概にしとけよてめえ! 自分で殺した奴のこと友人呼ばわりだ!? 死んだのだってつい最近じゃねえか、「懐かしい」ってお前! いくら怪しまれたくねえからって美談にできる範囲とっくに超えてるだろこの悪魔! 

 言わねえけど! 怖えからぜってえ口には出さねえけど!! 


「──ああ、長話もいけませんね。それでは、また近いうちに伺います」


 ああ、レミが、やっと、カウンターから離れる。

 やっと、帰る。帰ってくれる。もう二度と来てほしくない。マジで、本当に、切実に──


「ああ、あともう一つ」


「!?」


 お、おわっ!? 

 なんだ!? 近い! 近すぎる! 何だ、何をする気だ! 


「隠しているつもりかもしれませんが」


 レミが、囁く。

 耳元で、小さく。


 何を、隠してるって。

 まさか……。そんな、まさか。コイツ、俺のことを──


「前髪」


「……! ……! ……?」


 ……ん? 前髪? 


「変に切ったのを無理に誤魔化していらっしゃいますね?」


「へ? ……ああ、はい」


「やはり。可愛いお顔をしていらっしゃるのだから、勿体ないと思いまして……ああ、お節介でしたね。失礼致しました」


 それだけ言って、目の前の悪魔が離れてく。何事もなかったように、扉に向かって歩いてく。


「それでは、失礼します」


 扉が閉まって、自分の浅い息だけが聞こえる。

 限界だった膝が崩れた。


「………………はぁっ! はぁっ、はあっ、げほっ…………」


 ──た、助かった…………! 






 *






 ──どれくらい経ったんだ。

 床に座り込んだまま、ずっと動けなかった。息が浅い。心臓がまだバクバク鳴ってる。全身から力が抜けて、立ち上がる気力もねえ。

 ……女の体ってのは座ったままで、ここまで膝が逆向きに開くもんなのか。知らなかった。こんなこと知らなくてよかったからレミには会いたくなかった。油断したら涙まで出てきそうだ。

 何だ、俺、こんなだったか? レミのことがどれだけ脳裏に焼き付いてんだよ……。


「でも……助かった……」


 本当に助かった。死ぬかと思った。いや、マジで死ぬかと思った。あの女に殺されるかと思った。


 前髪、だと。可愛い顔してるのに勿体ない、だと。

 気づいてねえのか? それとも、気づいててわざと泳がせてるのか? 分からねえ、あの女ならどっちでもあり得る。


「……はあ」


 ため息が止まらねえ。

 レミがこの店の近くに住むだって? 毎日顔を合わせることになるかもしれねえのか? ゾッとする。

 できることなら、二度と写本を利用しようと思い浮かばないでほしい。大人しく「仕え甲斐のある」次の貴族でもなんでも見つけてどっかに行ってほしい。

 俺はタリエとの約束があるし、アイツは俺のことをこの店の店員だと思ってるから、俺はここから逃げられない。ここを離れたらまた説明しなきゃいけねえし、タリエからの信用だって失いかねない。

 だから早急に、アイツの方から自主的に消えてほしい。そんな都合のいいことが起こってくれれば──


「お前も、苦手な奴、いるんじゃねーか……」


「──!?」


 奥から声がしたと思ったら。

 なんだ、カルか……脅かせやがって……。いつの間にそこにいやがった。


「──ていうか! カルてめえ、見てたなら助けろよ!」


 思わず愚痴が叫び声になって飛ぶ。

 床に座り込んだままじゃ迫力もねえだろうが。


「店主だろお前! 自分の店の店員がガタガタビビってたら庇うぐらいすればどうなんだ!」


「……いや、無理」


「む、無理だぁ……!?」


 そ、即答しやがって……! 


「無理じゃねえよ! お前の店だろ! 女がビビッてたのに声の一つぐらいかけられねえのか!」


「いや……お前の方が、喋れるし」


「な、なんだてめえ! それでも男か!? モテねえぞ!?」


「別に……」


「! ぐぬぬ……」


 否定しねえ。完全に否定しねえ。そりゃあのロエマ相手にも嫌々会話してるようなお前じゃモテたくねえかもしれねえが、なんて頼りがいのない。

 クソ、さっき俺にロエマの相手を押し付けられた仕返しか。陰湿な奴だな、お前。


「──それより、これ」


「あ? なんだこれ」


 紙を差し出された。

 ……何だこれ。リストか? 


「買い物。今日も、頼む……」


 ……え、この流れで? 買い物? 今から? 俺が? 

 今日もってことは、俺いつも買い物に行かされてんのか? コイツが人と全然喋らねえってか喋れねえから? ええ……。


「分かった、分かったよ。行ってやるよ、行けばいいんだろ」


 コイツ……筋金入りだな。これじゃ俺を雇うのも当然っていうか、必然というか……。

 逆に元のアシェルを雇うまではどうやって店を維持してたんだ。間違いなくコイツ一人に店任せたら一週目で崩壊するだろ。


「──その代わり、さっきのことは忘れろよ! いいな!」


「……」


「聞いてねえし!」


 もういい。あの無口で非情な店主のことは忘れてやる。元々ここに居座ってるのはタリエのためであって、仕事だってしなくていいんならアイツに何か思うことは無いんだから。

 ついでだから、さっきの「王都月報」とやらも腹いせにくすねてやる。いくつもあるみたいだし、カルは気づかねえだろ、ちょうどいい。レミのせいで俺がどんだけ怖い思いしたと思ってんだ。このぐらいの仕返しはさせてもらうぞ。


「よし……」


 買い物の途中でレミが見えたら、この王都月報で顔を隠そう。

 今日はもう……なんか疲れた。外の街をゆっくり歩くときぐらい、もっと寛いだ気持ちでいたい……。






 *






 買い物を済ませて、店へ戻る道すがら。


「へえー……」


 これが、王都月報ね。読みやすいじゃねえの。

 文字がびっしり並んではいるが、それぞれしっかり区分ごとに区切られててまとまってる。目が滑らねえ。内容は王都で起きた出来事やら貴族の動向やら市場の価格やら犯罪の報告やらが詰め込まれてた。こういうのをタリエが作ってたりするのかね。

 最初の方は、特に目を引くものはねえ。王族がどこかに行っただの、市場の価格が上がっただの、ありふれた内容ばっかりだ。正直どうでもいい。

 俺が知りたいのは──


「……これか」


『貴族間でいざこざがあり、緊張感が高まっている』


 ……貴族間のいざこざ、ね。

 もしかして、これがガルトンとヴェミーニのことじゃねえか? いや、他にもいるかもしれねえが、タイミング的には怪しいよな。

 実際に暗殺されたとは書いてねえ──つまり、曖昧な言い方でぼかしてある。ってことは、「お偉いサマが内部のスパイの大暴れで死にました」なんてことを馬鹿正直に書けないとかの事情とかがあるのかもな。後は単純に起こったのが数日前だから情報が不正確なままだから……みたいな。知らねえけど。


『ガルトン派閥とヴェミーニ派閥の対立が深刻化。影響下にある関係者から、多くの失業者が発生』


 ……だよなあ。レミの仕業だよなあ、間違いなく。これでもかってぐらい決定的な見出しが見つかっちまったよ。

 じゃあやっぱりレミの臨時収入ってのはあの二人を殺して奪った資産ってことになるのか。ちょっと仕事が早すぎるぞ。

 多分そのうち、「暗殺された」ってことは伏せつつ、なんか適当な理由付けて死亡したみたいな情報が公開されるんだろ。

 まあ、ガルトンに恨みはないが、今まで悪事を働いてきてたんだし自業自得だぜ。右腕が急に別人になっちまったことが運の尽きだったな。


『王国南の「迷いの森」調査隊。連絡途絶える』


 ……経験者から結果論に基づく忠言だから信憑性あると思うんだが、そこは止めといた方がいいぞ……。

 パラパラめくってたら変なもん見つけちまった。んなアホなことやってる調査隊なんてもんがあんのかよ。迷いの森って俺が探検家だったときにいた、あのウィスプ共が鬱陶しいあの場所のことだよな? どこが主導してるかは知らねえが、なんとかしてあの森の秘密を解き明かそうって連中がいるんだな。

 てかあれ王国の南にあったのか。


 もしかすると、探検家のアシェルもその調査隊のメンバーだったのかもしれねえな。人数は、なになに……二十人。じゃあ今頃青白い光の球が二十個増えてるってことか。

 ……ノエリスは今頃何やってんだろうか。『真の迷いの森』に入ったウィスプがどうなるかは知らねえし、かといってあの場所にわざわざ戻って確かめる気にもならねえし。


『宗教団体「光明の教会」が活動を活発化させる。困窮者への支援を名目に、信者を増加か』


 ん、こりゃ初めて見る名前だな。宗教団体「光明の教会」……? 宗教団体なんざ何も知らねえからなあ。

 困窮者への支援ね、中々上手い事考えてるじゃねえか。失業者が増えてる今、そういう団体が力を持つのは、まあ分からなくもねえ。ここで困ってる奴らとか心に穴の開いてる奴らに手を差し伸べて、徐々に自分たちの価値観に合わせさせれば、特に違和感も持たれることなく立派な信者の完成だ。で、そのうち教会とかに籠るようになって、表向きには行方不明扱いになるんだろう。

 俺に宗教はよく分からねえが、多分よくある手口なんだろう。まあ、神サマなんてもの信じてない俺には関係のない話さ──


 ──ん? 

 いや、待てよ。


「……まさか」


 失業者? 

 困窮者? 

 行方不明? 

 心に穴の開いてる? 

 支援を求めてる人間? 


 なんか、そんな奴、知り合いにいたような気が……。


「──ソラナって、ここに巻き込まれてるんじゃねえだろうな……?」


 いや、多分そんなことねえと思うけど……。

 ただ、失礼ではあるんだが、可能性としてはあり得なくねえっていうか。傷心状態で職も失って困窮して、そこで強引な勧誘を受けて断り切れずに流されてるところが目に浮かぶような……。もし違ったら本当に失礼なんだけども……。

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

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