第2話 サメとタコその3
ビーチへの急行両者はにらみ合い、互いの出方を探っていた。突然ビーチの方角から、敵の船長よりも強い威圧が放たれた。アクアは瞬時にその意図を理解し、戦闘の構えを解いた。威圧はしばらくして止み、敵の船長は一瞬たじろぎ、額に汗を浮かべながらビーチの方を睨んだ。
「あんたらの船長か? 威圧はすごかったが、過大評価ではないだろうな?」アクアは目を逸らした。敵の船長は笑みを浮かべた。「ふっ、図星だな。なら真っ先にあんたらの船長を潰す。」彼女はビーチの方へ向きを変えては力強く地を蹴り、一瞬で空高く舞い上がった。それを見届けた沙花叉がアクアに質問をした。
「威圧そのものは船長の方が勝っていたと思うが、実際の強さは敵の方が上という印象だぞ。いいのか?」
「大丈夫よ、うちの船長は最強だから。不安なら見に行ってくれば? 私は、船の状態を見ておくから。」アクアは言った。
(アクアはそう言ったが、その言葉が本当か疑わしかった。あの敵は、下手するとルイより強いかもしれない。しかし、そこまで言うのなら...)
不安が胸に募る中、クロヱは走り出した。アクアは彼女を見届けると、威圧の最中に鳴っていた携帯をポケットから取り出し、折り返し電話をかけた。
「スバル、何の用? あなたあっちでケイサツ? だっけ、その仕事じゃないの? うん、うん、分かった。少し時間できたからそっちへ向かう。」
【ビーチ】
クロヱはあとを追いかけるようにビーチに着いた。敵の船長とマリン船長がにらみ合っている。横にはアラン、そしてその隣にサメのオーバーサイズのパーカーを着た謎の少女が立っていた。少女に一瞬気を取られたが、クロヱはすぐに目の前の状況に意識を戻した。敵の船長はため息をついて、質問をした。
「私の名前はイザベラ。あんたつよいのか? 威圧は凄く貫禄があったが、近くで見るとがっかりしたよ。強者特有のオーラがまるで感じられない。まあ、こういう事だろうねえ、強いパーティに入れてもらってたまたまユニークモンスターと遭遇し、たまたま倒せた、ってところかな。」
イザベラの声には明らかな侮蔑が含まれていた。彼女の深紅の外套は海風になびき、その下に隠された武具が時折光を反射していた。彼女の瞳は冷たく、相手を値踏みするように見つめていた。マリンは敵の挑発に乗ることもなく、ただ黙って聞いていた。腰に手を当て、余裕のある姿勢で立ったまま。彼女の表情からは何も読み取れない。閉じていた口がようやく開いた。
「あなたの演技とても素晴らしかったわ。もうチップ払うからどっか行ってくくれる?」その言葉にイザベラの顔に一瞬苛立ちが走った。マリンの冷静さが彼女の怒りを掻き立てたようだ。タイミングをうかがっていたのか、遠慮気味に隣の青いパーカーを着た少女が船長の袖を引っ張っていた。少女の顔は不安と希望が入り混じったような表情を浮かべている。
「その前に一つお願いがあるの。友達を助けてほしいの。あの海賊たちに連れ去られているの。呪いの魔道具がついていて、私じゃないと解くことができないの。お願い。」
少女の声は震えていたが、その目は真剣だった。マリンは少女の顔を少し見つめ、クロヱの方に向かって振り返った。クロヱは向こう側に立ち、状況を注視していた。彼女の長い黒髪は風に揺れ、鋭い目が周囲を警戒している。
「少し任せていい? 必ず戻ると約束する。」マリンの声は静かだったが、確信に満ちていた。クロヱは疑いもせず頷いた。普通の人なら短時間しか会ってない相手を信じられるほどお人よしではない。だが、マリン船長の眼はとてもまっすぐにクロヱを見ており、それはクロヱがラプラスとしての覚悟を決めたときと重なって見えた。それを確認したマリンは少女を海に連れて敵の船に向かった。敵の船長を挟んで向こうにいるアランは、クロヱに向かって攻撃の合図として頷いた。アランは筋肉質な体格で、その動きには無駄がなかった。彼の目は敵の動きを一瞬たりとも見逃さないよう集中していた。
イザベラの圧倒的な力二人は挟み撃ちの形で攻撃を繰り出した。クロヱは低い姿勢から素早く接近し、鋭い蹴りをイザベラの脇腹に叩き込んだ。同時にアランは反対側から強烈な右ストレートを放った。しかし、敵の船長はもろともしなかった。クロヱの蹴りは当たったはずなのに、まるで岩を蹴ったかのように反動が自分に返ってくる。アランの拳も同様だった。イザベラは微動だにせず、むしろ退屈そうな表情を浮かべている。
クロヱとアランは何度か蹴りや殴るといった攻撃を打ち込んだ。クロヱは素早い連続攻撃で隙を探り、アランは全力の一撃を何度も繰り出す。しかし全く効いている気がしない。イザベラの体は不自然なほど硬く、何か特殊な防御術を使っているようだった。攻撃を受けるのに飽きたのか、イザベラは突如として反撃に転じた。彼女の動きは予想外に速かった。一瞬でクロヱとアランの間に割って入り、まずはアランに向かって拳を振るった。その一撃は風を切る音を立て、アランの防御をいとも簡単に突き破った。彼の胸にイザベラの拳が突き刺さる。衝撃は想像以上だった。アランの体が宙に浮き、砂浜を滑るように後方に吹き飛ばされた。彼は砂浜に激しく叩きつけられ、一瞬息が止まり、そのまま動かなくなった。軽傷では済まないだろう。




