第1話 Ahoy〜 こんあくあ!
こんあくあ、湊あくあです。私は宝鍾家で、ご奉仕させていただいているメイドです。
まだまだメイドとしての経験は浅いですが、このお家を支える下僕として精一杯頑張りたいと思っております。
一通りの家事を終わらせた私は、いつものように、このお家の主であるマリン様に紅茶をお持ちしました。
部屋の扉を開けると、マリン様の机の上には、書類がまるで山のように積み上げられていました。
マリン様が日々なさっているお仕事は、水産業の売上益率の確認、納税金額の確認など、大量の書類に目を通し、判を押す作業です。
本来なら、執事や多くの使用人を雇いたいところですが、赤字が続いているため、その余裕がないのです。
「お茶を持ってまいりました。マカロンもございますが、いかがですか?」
顔を上げられたマリン様は、先ほどまで曇っていた表情だったにもかかわらず、私と、手元の紅茶とマカロンをご覧になると、一気に晴れやかになられました。
私が近くまでお持ちすると、
「あくた〜〜ん、疲れたよ〜! もうやだ、このお・し・ご・と!」
マリン様はドン! と拳を机に叩きつけ、ぶつぶつと嘆いていらっしゃいました。
本当は、お友達と遊んだり、お食事したりしたいお年頃なのにも関わらず、貴族として振る舞い、市民のためにご尽力されているお姿を見ると、胸が締め付けられるような思いがいたしました。
少し休憩を挟み、次にやるべきお仕事に取り掛かられるのを見届け、部屋を出ていこうとしたその時、門番がやってきました。
「マリン様、漁師の二人からお話があるそうです。」
マリン様は手のひらを上にして手招きをされました。すぐに二人の漁師がやってきて、そのうちの一人が手紙入りの瓶を手に持っていました。
「で、話って?」
「さっき水揚げしていた時に、これを見つけまして……。」
手にしていた瓶をマリン様の机の上に置きました。
「これは……。」
マリン様が質問を投げかけようとされた途中で、隣にいた瓶を持っていない一人の青年が、それを止めようと駆け寄りました。
「やっぱりやめよう**、**親父。」
「おい! 昔受けた恩を仇で返すつもりか?! アラン!」
「すいません**!**」
青年が勢いよく頭を下げた直後、部屋に響く音とともに、げんこつが彼の頭に直撃しました。
「いて〜……」
青年は頭を抱えながら小さく呟きました。
「失礼なことをしました。どうかお許しを**。**」
マリン様は「大丈夫よ」というように、手をひらひらと振られました。
「では、これを。」
青年が机に置いたのは、一通の手紙が入った瓶でした。無色透明で特に変わったところがない瓶ですが、その中には手紙のようなものが入っており、外側には「宝鍾家」の紋章とマリン様のお母様のサインが書かれていました。
「中身は?」
「まだ見ておりません。宝鍾家のサインが見えたものですから、急いでこちらへ参りました。」
マリン様は瓶の栓を抜き、中の手紙を取り出して内容を読み始められました。
愛するマリンとお姉ちゃんへ
あなたたちに何も言わず、どこかへ行ってしまったことは許してちょうだい。
私たちには、昔からずっと追い求めていた夢があったの。あなたたちが生まれたことで、その夢は一度遠いものになってしまったけれど、あなたたちと一緒に過ごした日々は、とても楽しかったわ。
ある日、ふと私たちのやるべきことを思い出したの。だから、旅立つにはマリンが冒険に出て家を空けた今が、ちょうど良い機会だと思ったのよ。正直、家を任せるのは少し心配したけれど、きっと大丈夫だと信じているわ。
さて、この手紙を受け取った頃にはもう目的地に着いていることだし、あなた達が小さい頃に大好きだったお願い事を頼もうかしら。お姉ちゃんには家のことを頼みたい。そして、マリンは私たちのところまで来てちょうだい。
母より




