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第62話:神のいない世界で

空に浮かんでいた、観測者たちの巨大な宇宙船は、自らが放った主砲の反射ダメージによって、致命的な損傷を受けていた。


コントロールを失ったその巨体は、ゆっくりと、しかし確実に、地上へと落下してくる。


その墜落予測地点は―――不幸にも、俺たちの街の、すぐ目と鼻の先、広大な平原だった。


「まずい! このままじゃ、墜落の衝撃波で、街ごと吹き飛ぶぞ!」


カイエンが、絶望的な声を上げる。


せっかく勝利を掴みかけたというのに、これでは、敵と相打ちだ。


誰もが、再び、絶望に顔を歪めた。


だが、俺は、まだ、諦めてはいなかった。


俺の【次元連結収納】は、先ほどの『概念防御障壁』の生成によって、何か、新しいステージへと、覚醒しかけているのを、俺は、感じていた。


もはや、それは、アイテムを取り寄せるだけの、便利なスキルではない。


俺の『意志』そのものを、世界の法則に、直接、干渉させる、奇跡の力へと、変貌しつつあったのだ。


「……みんな! 力を、貸してくれ! もう一度だけ!」


俺は、仲間たちに向かって、叫んだ。


「この街を、俺たちの、帰る場所を、守るんだ!」


俺の、その魂からの叫びに、仲間たちが、応える。


カイエンたち『アルケミスト・ウィングス』が、俺の周りに集まり、彼らの全魔力を、俺へと、注ぎ込み始めた。


アリアたちセイレーン三姉妹は、街の民衆に呼びかけ、この国で、最大規模の、『祈りの歌』を、歌い始めた。街の人々の、「生きたい」という、純粋な願いが、歌声と共に、魔力となって、俺へと、集まってくる。


アリーシャ、セシリア、ギルベルト、アウグストゥス……。


全ての仲間たちの、想いが、一つになる。


俺は、その、膨大なエネルギーを、一身に受け止め、天に、両手を、突き出した。


俺が、イメージするのは、ただ一つ。


究極の、『緩衝材』。


俺のスキルが、再び、暴走する。


墜落してくる宇宙船と、地上の間に、半透明の、巨大な『クッション』のようなものが、出現した。


それは、地球の、高層ビル火災で使われる『救助マット』であり、リズが夢想した『超弾性スライム』であり、そして、ミリアが焼く、あの、どこまでも『柔らかいパン』の、概念そのものだった。


ズウウウウウウウウウウンッッ!!!


世界を揺るがす、凄まじい轟音。


巨大な宇宙船は、俺が作り出した、奇跡のクッションの上に、ゆっくりと、しかし、確実に、その巨体を、沈み込ませていく。


衝撃は、ほぼ完全に、吸収されていた。


街は、揺れ一つ、感じなかった。


やがて、静寂が、戻ってくる。


目の前の平原には、巨大な宇宙船が、まるで、疲れて眠りについた、古代の鯨のように、静かに、横たわっていた。


「……やった……」


「……助かったのか……? 俺たち……」


誰からともなく、歓声が上がる。


それは、やがて、街全体を、国全体を、揺るがすほどの、勝利の、雄叫びへと、変わっていった。


俺は、全ての力を使い果たし、その場に、崩れ落ちた。


薄れゆく意識の中で、俺の元へと駆け寄ってくる、ミリアと、ルナの、涙に濡れた、笑顔が、見えた。


数日後。


俺は、店のベッドの上で、目を覚ました。


傍らでは、ミリアが、付きっきりで、俺を看病してくれていたようだった。


「……店長……! よかった……!」


「……心配、かけたな」


俺が、眠っている間に、世界は、大きく、変わっていた。


墜落した宇宙船からは、生存者は、一人も、見つからなかった。観測者たちは、自らの武器によって、自滅したのだ。


だが、船内には、彼らが遺した、オーバーテクノロジーの数々が、ほぼ無傷のまま、残されていた。


それは、この世界の文明を、数千年単位で、進化させるほどの、まさに『神の遺産』だった。


アリーシャ新女王の、指揮の下、その遺産の解析と、平和利用のための、国際的な組織が、設立されることになった。


エルドラドと、グレンデルは、もはや、敵ではない。


共通の脅威を乗り越え、新しい未来を、共に、歩み始めたのだ。


アカデミーの地下牢にいた、アレクサンダーも、今回の動乱の最中、カイエンたちによって、解放されていた。


彼は、もはや、聖剣の力も、勇者の称号も失った、ただの男だった。


彼は、誰にも告げず、一人、どこかへと、旅立っていったという。


いつか、彼が、自分自身の、本当の生きる道を見つけられる日が来ることを、俺は、静かに、願った。


そして、俺は。


全ての戦いを終えた、俺は、再び、ただの『商人』に、戻った。


俺の店、『異世界商店アルス』は、今日も、元気に、営業している。


店のカウンターでは、ミリアが、優しい笑顔で、客を迎えている。


厨房では、アリアたちが、楽しそうに歌いながら、新しいパンの試作をしている。


そして、俺の隣の椅子では、ルナが、何食わぬ顔で、帳簿をつけながら、時折、俺のコーヒーカップに、そっと、ミルクを注いでくれる。


それは、俺が、全てを失ったあの日に、夢見た、何でもない、しかし、何物にも代えがたい、幸せな、日常だった。


俺の【次元連結収納】スキルは、あの日以来、少しだけ、その仕様を変えた。


もう、俺の意志を超えて、暴走することはない。


だが、その代わり、俺が、心から、誰かの『幸せ』を願った時だけ、ごく稀に、検索結果の中に、奇跡のような、『未来のアイテム』が、表示されるようになった。


俺の、商売は、まだまだ、終わらない。


この世界には、まだ、たくさんの、悲しみや、不便が、残っている。


俺は、これからも、商人として、俺の『商品』で、一人でも多くの人を、笑顔にしていくつもりだ。


これは、無能と罵られ、追放された、一人の少年が。


世界を救う、大英雄に、なった物語では、ない。


これは、彼が、最高の仲間たちと共に、たくさんの、ささやかな『幸せ』を、世界中に、届けていく、一人の、偉大な『商人』の、物語。


そして、その物語には、まだ、たくさんの、空白の、ページが、残されている。


そのページが、どんな笑顔で、埋め尽くされていくのか。


それは、また、別の、お話。

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