第60話:人類の、反撃
天から降り注ぐ、無数の、機械の兵士。
その光景は、悪夢以外の、何物でもなかった。
街の人々は、空に浮かぶ巨大な宇宙船と、降下してくる未知の軍勢を前に、ただ怯え、逃げ惑うことしかできない。
「……なんてこと……」
ミリアが、店の前で、腰を抜かして座り込んでいる。
アリアたちセイレーンも、顔を真っ青にさせ、震える妹たちを、必死に庇っていた。
だが、俺たちの絶望をよそに、機械兵士たちは、次々と、地上へと着陸していく。
その動きには、一切の無駄がない。感情のない、ただの殺戮機械だ。
彼らは、手にした、未知のエネルギー兵器を構えると、街の建物や、逃げ惑う人々に向かって、無差別に、その引き金を、引こうとした。
その、瞬間だった。
「―――させるかぁっ!!」
一声の、雷鳴のような、咆哮。
街の上空を、一体の、巨大な飛行物体が、凄まじい速度で、駆け抜けた。
それは、アカデミーで、カイエンたちが作り上げた、『魔導飛行機』の、最新改良型だった。
そして、その翼の上には、炎の剣を構えた、カイエンの姿があった。
「遅くなって、悪かったな、先生!」
カイエンは、不敵に笑うと、眼下の機械兵士たちに向かって、最大級の炎魔法を、叩きつけた。
「―――喰らいやがれ! 俺たちの、知恵の結晶をな! フレイム・テンペスト!」
灼熱の嵐が、地上を薙ぎ払う。
機械兵士たちは、その超高温の炎に焼かれ、次々と、溶けた鉄塊へと変わっていった。
「カイエン! お前たち、なぜ……!」
「当たり前だろ、先生! あんたの故郷が、大変だって聞いてな!」
魔導飛行機は、俺たちの店の前に、見事に着陸する。
中からは、リズ、ガルム、シルフィ、ファントムが、それぞれの武器を手に、飛び出してきた。
王都での異変を、いち早く察知した彼らが、救援に、駆けつけてくれたのだ。
「へへっ、面白そうな祭りじゃねえか!」
「……敵の材質は、未知の合金ね。私の錬金術の、良い実験台になりそうだわ」
彼らの登場は、絶望に包まれていた街の人々に、一筋の、希望の光を与えた。
だが、敵の数は、まだ、桁違いに多い。
その時、今度は、街の城門の方角から、地響きを立てて、屈強な軍勢が、駆けつけてきた。
先頭に立つのは、黒い鎧に身を包んだ、グレンデル王国騎士団長、ギルベルト。
そして、その隣には、エルドラド王国の、第一王子、アウグストゥスが、魔剣を手に、並んで走っていた。
「商人アルス! 遅くなったが、助太刀に来たぞ!」
ギルベルトが、力強く叫ぶ。
「貴様との約束、果たす時が来たようだな! 我がグレンデルの騎士の力、存分に見せてやろう!」
アウグストゥスもまた、かつての敵であった俺に向かって、力強く頷いてみせた。
「……アルス! 貴様が作り上げた、この国を、こんな鉄クズどもに、好きにはさせん! 俺の罪は、この国を守ることで、償う!」
二つの国の、かつて敵対していた軍勢が、今、共通の敵を前に、肩を並べている。
俺が蒔いた、平和の種が、今、確かに、芽吹いていた。
そして、極めつけは。
王都の方角から飛来した、一羽の、巨大な、白銀のグリフォン。
その背中には、凛とした表情で、剣を構える、第三王女アリーシャと、クリムゾン商会の会頭、セシリアの姿があった。
「アルス! 皆! 遅くなって、ごめんなさい!」
アリーシャが叫ぶ。
「わたくしたちの国を、わたくしたちの手で、守り抜きましょう!」
セシリアもまた、優雅に微笑む。
「ふふ、とんでもない相手に、喧嘩を売ってしまったようね、私たち。だけど、こういう、割に合わない商売も、嫌いじゃないわよ!」
俺の仲間たちが、全員、この場所に、集結した。
王族、貴族、商人、学者、騎士、冒-者、そして、亜人。
身分も、種族も、国籍も違う、バラバラだったはずの彼らが、今、俺を中心に、一つになっている。
俺は、込み上げてくる、熱いものを、ぐっと、こらえた。
そして、隣で、呆然と、その光景を見つめている、ルナの、手を、強く、握った。
「……ルナ。お前の言う通りだったな。あんたの一族は、歴史の『観測者』だったのかもしれない」
「……アルス……」
「だがな、これからは、違う。俺たちは、もう、ただ見ているだけの、存在じゃない。俺たちは、俺たちの未来を、この手で、作り上げる、『当事者』だ!」
俺は、ルナの手を引いて、仲間たちの、前へと進み出た。
空には、銀色の宇宙船。
地上には、絶望的な数の、機械兵団。
だが、俺たちの心には、もはや、一片の、恐怖もなかった。
俺は、天に向かって、中指を、高々と、突き立てた。
そして、ありったけの声で、叫んだ。
「―――おい、聞こえるか、観測者とやらの、神様ども! あんたたちの、くだらない『実験』は、今日で、終わりだ!」
「―――俺たち、人類の、本当の力を、その目に、焼き付けやがれ!!!」
その言葉を、合図に。
魔法と、科学。
剣と、銃。
歌声と、怒号。
ありとあらゆる、人類の『力』が、一つになって、天からの侵略者に、反撃の、狼煙を上げた。
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